ちっこい人はなんとトレセン学園の理事長と名乗った。
確かに前世で某SNSで見たことがある気がするデザインだ。隣の人……たづなさんというらしい……とセットで見かけたことがある。
それにしてもなんで理事長が?普通のホグワーツならハグリッドポジションの人が来るんじゃ。いや、そもそもホグワーツじゃないか。
そんな逡巡をしながらありきたりなことを聞かれてそれらしきことを返答していると理事長が一気に真剣な顔になる。
「合格ッ!ウィトルムペデス、短い時間だったが君のことは良く分かったつもりだ。受け答えも小学生にしては出来すぎなほどにしっかりしている。肉体的にもトレセン学園で十分やっていけるだろう。」
「ありがとうございます。」
どうやらOKらしい。一般社会人的に問題にならない発言というのを理解している私からすればこの程度余裕である。まあ、だめですと言われても行く場所もないし困るのだが...
「ただ、レースの道はそれだけでやっていけるほど甘くはない。挫折や失敗を経験する者、けがによって栄光から転げ落ちるもの、今君が入るトレセン学園とはそういう場所だ。それでも君はこの道を進むのか?」
すごい迫力だ。
テーブルに両肘をついてこちらを見透かすような眼をしている。
中身が半分大人である私ですら怯むレベルだが、ここは落ち着いて答えなければ。
しかし、考えてもいいフレーズが思い浮かばない。進むのかと言われても進まない訳には行かないし、いや中学入るのにこんな質問するか?
他のトレセン学園に行くってことか?でも家から走って5分だから学区的にも府中一択。それに結局教育内容は変わらないだろうし。
てか圧迫か?圧迫面接なのか?なんとかハラスメントとかに引っかからない?大丈夫?公立は先生の当たりはずれが大きいというけど、もしやハラスメント教員が沢山いたりするのか..............................
「私は……ウマ娘ですから」
1秒にも満たない思索の後にひねり出したのはこの一言だった。正直それしかない。
「そうか、では決まりだな。期待の星が入学してくれることは非常にうれしい。トレセン学園で会える日を楽しみにしておるぞ」
「お待ちしておりますね」
結果は正解だったみたいだ。一瞬不意を突かれたような顔をしていたが、すぐに満面の笑みに変わる。こうして私はトレセン学園に通うことになるのであった。
東京都府中市、多摩川のほとりに佇む中央トレセン学園、そこはなんとエリートウマ娘が入るレース特化学校だった!!!
えっ びっくりだよ。ウマ娘って全員トレセン学園にいくんだと思ってたら全然違うらしい。そういえば同じ小学校のウマ娘の子たちが妙に周りの子と中学校について話してたな。
普通の中学校にいくこともできたというかそれが一般的とは...こちとら家から徒歩30分、ウマ娘の脚で走れば5分の超近場だからあんまりそんな気がしてなかったけど日本一のスポーツ強豪校に入ったようなもんか。
それも推薦ってことは最低限レースにでてそれなりに勝つ必要があるのだろう。理事長にも期待してるぞとか圧掛けられたし。
あまりの衝撃の事実に新しい制服の着心地も入学式での生徒会長シンボリルドルフの堅苦しい挨拶も頭の片隅に追いやられてしまった。入学式が終わってもまだそんなことを考えてぼーっとしていると急に後ろから声を掛けられる。
「ウィトルムペデスさん」
いきなり名前をあてられたことに驚いて振り返るとウェーブのかかった鹿毛のセミロングヘアー、両耳をシンプルな青色のカバーで覆ったウマ娘が赤みを帯びたブラウンの瞳でこちらを見つめてくる。たしか。
「キングヘイローさん?」
そう、彼女とは小学生のときに何度か走った覚えがある。
「覚えていていただき光栄ですわ。ウィトルムペデスさん」
「ウィーって呼んで。みんなそう呼ぶから」
同じ小学校のウマ娘とトレセン学園で会えると思っていたら、彼女たちはみな一般の中学校に行ってしまったらしく入学式で会うことは叶わなかった。今の今まで知らなかったということはその程度のかかわりでしかないわけだが、それでもいざというときに頼る相手がいないというのは心細い。そんな時に出会ったキングヘイローは渡りに船である。
「いえ、それには及ばないわ、ウィトルムペデスさん。私がここに来たのは、宣戦布告のためよ。小学生の時は何度も、何度も負けました。ええ、今はあなたが私よりも強いかもしれません。ですが、トゥインクルシリーズでは決して負けるわけにはいきません。私自身と、私たちの一族のためにも…あなたには勝つ。ガラスの壁を破ってみせる。覚悟しなさい。」
そう言い放つ姿はなかなかに絵になる。と言いたいところだが、どういうわけか彼女の手は小刻みに震え、眼の中には恐怖の色がある。それに宣戦布告というのはどういう事だろう。何か嫌われるようなことをしてしまったのだろう。でも今あったばかりだし小学生のときは会話らしい会話はしていないはず。そんな考えが頭に渦巻いていたせいか、私は一言分かったとだけ返すので精いっぱいだった。それにしてもガラスの壁というのはなんのことなのだろうか。
入学式の翌日、早速初日から授業を怠惰にこなして寮に帰ろうとエントランスを出ると突然声を掛けられた。
「はじめましてウィトルムペデス、私は横島。トレーナーをやっているものだ。今からちょっといいかな。」
トレーナーと名乗ったその人は優しそうな表情で手招きしており、もう片方の手にはペットボトルの炭酸飲料が二本握られている。なんの用かと誘われるままに近くの木陰にあるベンチに腰かけると彼は口を開いた。
「急に声を掛けて驚かせてすまないね。話というのはこの件についてなんだ。」
そういって手渡されたのは一枚の紙。なんとなく眺めると、どうやら推薦入学者のトレーナー契約について書いてあるようだ。
「あまり有名な話ではないから知らなくても無理はないが、推薦で入学したウマ娘には最初からトレーナー候補がつくんだ。学園側から相性のよさそうなトレーナーがあてがわれるという訳だ。もちろん強制じゃないから契約をしなくてもいいし、一般で入ってきている子のように選抜レースのようなレースで他のトレーナーと契約してもいい。」
たしかに、書類には学園側から推薦するということと、細かな注意事項が書かれている。そういう制度があるのは知らなかったが選抜レースなんかに出る必要がないというのはなかなかよさそうだ。そう思って次に推薦するトレーナーの欄をみるとそこには横島トレーナーと記載されている。
「ということは」
「そう、私がそのトレーナー候補っていうわけ。推薦を出す際に君の出ているレースは全てみせてもらったよ。素晴らしい素質だ。間違いなく一級品だし、フォームも中々に綺麗だったよ。」
「はっ、はい」
「レースメイクやペース配分はなれればうまくなる。だけどね問題は 脚 なんだ」
「といいますと」
「ウィトルムペデス、君は速い、いや速すぎるんだ。明らかに肉体や走りに対して速度が出過ぎている。学園側でもレースにトレーニングで脚に負荷がかかっていくと近い将来に間違いなくその脚は壊れるだろうという結論になった。それで脚の保護に詳しい私が選ばれたんだ。こう見えてそちらの方向には自信があるんだ。脚のケアについては全面的に任せて欲しい。」
横島トレーナーからの話は私の頭に衝撃を与えた。ウマ娘に怪我が付き物だというのは聞いていたものの私の脚は思ったよりまずい状態のようだ。今まで検査したことは無かったもののレースを走った日は明らかに脚が疲れていたように思う。意識していなかっただけで相当の疲労がたまっていたのだろう。詳しく聞くとより専門用語を使った分析を教えてくれた。フォームの各モーションでの力のかかり方や骨や筋肉の細かい動きがタブレット一つでここまで鮮やかに分析されているとは驚きだ。
30分ほど話した後、私は彼とトレーナー契約を結ぶことになった。正直トレーナーは優しい人なら誰でもいいと思っていたし、学園からの推薦があるならそれに越したことはない。
「トレーナーとして改めてよろしくお願いするよ。ウィー」
そういって頭を優しく撫でられるのは案外いい気分だった。
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次回は他の人視点を入れるかも。なお、更新は不定期です。
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