短めの日常回です。
光の速さで駆け抜ける衝動は!
何を犠牲にしても叶えたい強さの覚悟!!
拳を前に突き出し、それに応じて客席のサイリウムが光の波になって飛び回る。
怒号と歓声の上から音楽と歌声が広いステージを押しつぶしていく。
時には運だって必要というのなら!!
宿命の旋律も引き寄せてみせよう!!
光が一瞬会場を駆け巡り、再びステージに全ての照明が向けられる。
走れ!今を、まだ終われない!
辿り着きたい場所があるから!!
皐月賞でわちゃわちゃした後、トレーナーさんは毎日のようにウイニングライブの映像を見返している。
正直分からなくはない。音楽も疾走感があるし、歌詞もなんかすごくそれっぽいものが並んでいる。
私も踊っているときは途中からテンションが上がってしまって、後半はすこし危なかった。
もっとも、最近覚えた遊び、客席のサイリウムを瞬きするまで何個数えられるかに意識を映して辛うじて事なきを得た。
ただ、これを発動するとだんだん涙が出てくるので注意だ。コツとしては、色のバリエーションがあると数えやすいので、なんとなくいろんな色がある領域を狙うのが賢いやりかただ。
届かなくても笑われても進め!!
握りしめた悔しさの残像は!!
流れている映像ではカメラが私から離れてキングちゃんの顔を映す。
光の粉が飛び交ってステージを輝かせる。
こうして外から見るとなんとも美しい。内側にいると少々眩しすぎるけど。
恐れないで挑め!!
涙さえも強く胸に抱きしめ!
そこから始まるストーリー
果てしなく続く winning the soul!!
なお、トレーナーさんは曲が終わった後、
「トレーナーというのは担当のウイニングライブを見て勇気を貰うのが至上の喜びなんだ。それもwinning the soulならこれ以上のものは無い。」
みたいなおっさん臭いことを言っていた。
やっぱり、トレーナーさんもこの曲が好きらしい。
また来月踊るので楽しみですねと言ったら、ちょっと反応が鈍くなった。
まあなんにしろ、トレーナーさんと趣味があうのはいいことだ。
メイクデビューとかが比較的、アニメのオープニングみたいな明るくて可愛い感じの曲なのに対して、winning the soulとか今度踊る予定の本能スピードは曲の調子が早くて歌詞もなんだかカッコいい感じがする。
それはいいとして、踊る曲が winning the soul → 本能スピード → winning the soulの順番になるのは止めてほしい。
一旦少し忘れてから思い出すのにちょっと時間がかかる。もう一度ビデオとか見直さないと混ざりそうで恐い。
トレーナーさんは皐月賞が終わった後は色々大変だったみたいだし、お疲れのようだ。
まず、私の銅像をたてるとかいう話が持ち上がり、冗談でガラス像のほうが面白いって言ったらガラス像が出来かけたらしい。
最近学園でやたら豪華な恰好の像を作っている一つ下の学年のウマ娘がいるので、そういうノリかと思ったのだが違うらしい。
それから、取材関係も大変だったみたいだ。テレビも新聞も見なくていいとか言っていたので、なにか恥ずかしいことをやらかしたのだろう。
もとからあんまり見ないのもあるが、ここは武士の情けで見るのはやめておいた。
皐月賞の翌週にレースに勝ったエルちゃんは私と同じくNHKマイルカップに出ることになったようだ。
曰く、ダービーの前に私が倒してあげるデ~スとのことだ。
なお、それに反応したキングちゃんが「私に倒される前に負けるのは許さない」と言いはじめ、それにスぺちゃんとグラスちゃんまで加わってしまった。
まるで、報酬配分システムがクソなゲームで誰がボスに止めを刺すかで揉めるみたいなことになっている。
みんな同じクラスになった弊害がここで出たみたいだ。
5月に入るとすぐに天皇賞の春の方がある。
同室の娘が出走するために京都に行っているお陰で、私はこの部屋を広々と使っている。ただ、朝起こしてくれることがないので太陽が真上に来るまで寝てしまう点は問題だ。
起き抜けにお昼ご飯を食べて日課の昼寝をこなすともう3時を回っていた。
天皇賞・春を見ていないと後から絞められそうなので急いでトレーナー室に向かう。
「・・・は2勝クラスの阿寒湖特別ですが、同じく長距離のダイヤモンドステークスで2着に入っています。ステイヤーとしての能力は非常に高いウマ娘です。続いては10番・・・」
慌ててテレビを付けるとギリギリ出走前、ゲートの手前でファンファーレを待っているところのようだ。
画面に映し出された出走ウマ娘一覧を見ると10番人気と書いてある。絶対あの性格が人気を落としているに違いない。
この間も尻尾に噛みつかれそうになったし、その前はトレーニングに向かわせようとするトレーナーを引きずりながら歩いていた。そのあたりがバレているのだろう。
「さあ、ブライトだ!ブライトだ! メジロ家に春! 2着は9番!・・・」
レースはメジロブライトさんが勝利。いつものふわふわしているブライトさんと同じ人とは思えないような表情で走っていた。
それにしても天皇賞春は長いレースだ。なかなかレースが終わらないなぁと思っていたが、なんと3200mも走るらしい。
普段のレースは1600mとかが多いからその倍、つまり2回分を走っていることになる。
その点、1600mでちょうどいいところにあったNHKマイルカップに感謝である。
それにしても、どうしてレースというのは最低でも1000mは走るように出来ているのだろうか。ヒトミミのレースでは100mくらいの短いレースが行われていたりするんだけどな。
おそらく、お客さんが入っているからあんまり短いとショーとして成立しないんだろう。買ったゲームがボリューム不足だったときの悲しさを味わわせるようなショーは長くは続かないだろう。
そのとき、私は逆のことにも気が付いた。
ウマ娘のレースは長くても4000mとかしか聞いたことがないが、人間の走るレースは40kmとかの距離のものもある。マラソンとかってそのくらいだったはずだ。
つまり、これが持ち込まれたらウマ娘芝40kmみたいなレースが出来てしまう。触らぬ神にたたりなしだ。トレーナーさんに変な質問をするのは止めておこう。
5月も半ばになると、NHKマイルカップの広告が増えてくる。
あちこちの柱に私がデカデカと印刷されたポスターが張られている。
それにしても、良くここまで短時間でポスターが作れるものである。
見ていると私の載っているポスターは二種類ある。
一つ目は勝負服姿で走っている時の私を横から撮ったもので、疾走感が出ていて中々出来が良い。後ろの背景を消しているので、なんだか空中を走っているみたいだ。
問題はもう一つのポスターだ。
これは、おそらくは皐月賞のウイニングライブの映像か何かから取ってきたように思えるのだが、目をキラキラさせてこっちを指さしている私が映っているのだ。
何を考えて顔のドアップをポスターにしようとしたのか分からないが、これは私には少々堪えるポスターだった。
ポスターの中の私がその輝いた目によって私のことを責め立てているような気がするのだ。
耐えかねた私は、良く通る道に張られているポスターの中の私に黒マジックでサングラスを掛けさせることにした。これで、思う存分昼寝が出来る。
そう思っていたのも束の間、心配そうな表情をしたエアグルーヴ先輩に呼び止められた。
なんでも、私の映ったポスターだけに悪戯がされていたらしく、一応私への嫌がらせかもしれないとのことで声を掛けてくれたそうだ。
なお、まずいと思って隠し通そうとした私の試みは一瞬で見破られ、白状した私はこっ酷く叱られることになるのだった。
お気に入り、感想、評価、ここすき等々いただけると励みになります!!
他視点はダービー終わりくらいでまとめて入れる予定にすることを検討する準備を始めることを考えています。