前半はスズカ&スぺトレ視点です。
スズカ&スぺトレ視点
オータムハンディキャップの後、突如として発表されたウィトルムぺデスの毎日王冠は完全に予想外だった。
間違いなく無敗の二冠ウマ娘がしていいローテーションではない。それを言うならオータムハンディキャップもそうだし、もっと言えば皐月賞前に短距離のクリスタルカップに出走したのも予想外に過ぎた。
一応スペからの情報によるとグラスワンダーと同じレースに出たいとのことだが、真の狙いが分からない。巷で最近囁かれているように単に移動を嫌うならばセントライト記念でも良かったはずだ。
それはともかく、本番を天皇賞秋とその先のジャパンカップにして調整している以上、毎日王冠の仕上がりは完璧とは言えないかもしれない。
この状態ではスズカ相手に一息つかせることを許さないような逃げウマ娘、それもウィトルムぺデスが相手となればいつものように余裕を持って勝つのは難しい。
スズカの逃げは後の先と言える。
すなわち、早めに先頭でリードをつくってから息を入れ、そのリードによって相手より後にスパートするという後出しジャンケンが可能になる。
引きつける距離や息の入れ方なんかは全てスズカ側がコントロール出来るので、相手が先行だろうと追い込みだろうとその優位性を覆すのは難しい。これがスズカが最強のウマ娘足りえる秘密だ。
では、これを攻略するならばどうなるか。
逃げだ。
それも、スズカのような大逃げを可能とする加速とスピード、それから末脚を残せるスタミナ、それらを全て兼ね備えた怪物を用意する他ない。
スズカがクラシックで頭角を現した時、そんな怪物がいると思っている人はほとんどいなかっただろう。完成された逃げを崩せるほどの力を持ったウマ娘などそうは出てこないと。
しかし、俺もスズカも知っていた。
スズカと同じことをやりかねないウマ娘のことを。
いや、そもそも逃げて差すスタイルの原型は彼女の走りから着想を得ている。そこからここまでの完成度に上げてくるまでには山のような試行錯誤があったが、原型が可能ならばそれを対策することができても全く不思議ではない。
じゃあ、逆にウィトルムぺデスから見てスズカを倒そうと思えばどうなる?
当然、逃げを潰すとすれば息をつかせたくないはずだ。そして、ウィトルムぺデスは逃げとはいえペース配分は得意な方ではない。スズカほどの相手とやるならばスタミナ配分を考えなくてはならない。ならばスズカのスパートを見て動ける場所、すなわちスズカのすぐ後ろにつける可能性が高い。
じゃあ、スズカがとるべき戦略はなんだ?どう走ってどう仕掛けるべきだ?
4コーナーでの主導権を確保するために何が必要だ?
レースのペースコントロールか。いや、リスクが高すぎる。
複雑な技術の裏付けもなく成立するような甘いものではない。それに、スズカは我慢できないだろう。
可能性があるとすればそれはリードだ。
4コーナーから直線の争い。そこでウィトルムぺデスに先にスパートさせるためのリードが必要だ。
ウィトルムペデスは決してスパートになめらかに入るのが得意なウマ娘ではない。
スパートの予兆を感じてからスズカが加速するまでの時間は十分にあるはずだ。
おそらくは2から3バ身、少し息を入れたスズカならこれで十分だ。
横島トレーナー視点
レース選びは好きにしてはいいと言ったものの、まさか毎日王冠でサイレンススズカと当たるとは。間違いなく天皇賞秋で初対決になると考えていただけにちょっと予想外だ。
こうなれば短期的な戦略を練り直さないといけないだろうが、それはトレーナーとして望むところだ。担当の願いを叶えるためならば何だって出来るのがトレーナーというもの、トレーニングプランも練り直さないとな。
とはいっても、脚の負担を考えれば負荷をかけすぎる訳にもいかない。精々がハードトレーニングというよりはレースへ向けた調整ということになるだろう。
最近はウィーもトレーニングをそこまで嫌がらなくなってきてくれたので、こちらで程よくゲーム性を与えてあげれば調整もなんとかなるだろうか。
それにしても相手はサイレンススズカだ。簡単に逃げを打って良い相手ではない。
安易に前に出たところで、最後に後ろから差す強烈な差し足を持っている。
天性の逃げの才能と一級品の末脚。それらが組み合わさればどれほど恐ろしいかというのは、ある意味身をもって知っているとは思っていた。
しかし、サイレンススズカのそれは個別の能力としてのみではなく、全体をシステムとして機能させる領域にまで達している。つまりは個々の武器の使い所を把握し、最大限有効に使うための状況を自ら作り出して相手に押し付ける。ここまでの一連の流れを完成させたのがサイレンススズカというウマ娘であり、彼女のトレーナーなのだ。
それに、ウィーは逃げだがスタミナ配分を考えたようなペース管理は苦手だ。練習したらできるようになりそうだが、こればっかりはどんなやり方でも相当嫌がりそうだ。
そんな状態で前を走るよりは相手の走りがわかるところ、見てから動けるサイレンススズカの後ろにつけるべきだろう。
以前のようにぴったり後ろに付けて直線抜け出しというのが理想だ。
そして、まだまだ考慮に入れなければならないことはある。
一つはダービーの時に見せたおそらくは領域だろうあの減速。本人曰くスタミナが多少回復しているようだが、他の効果があるのかはわからない。そして何より発動条件が分からない。
一般的には魂に刻み込まれた勝ちパターンと言われているものの発動のしやすさはウマ娘ごとに大きな差があるようだ。ダービーでのみ発動した理由はよく分からない。単純な距離ならば毎日王冠で発動の心配はないが…
そして、もう一つの懸念はグラスワンダーだ。
ウィーはグラスワンダーと過去に2度走っている。1回目がアイビーステークス、2回目が年末の朝日杯。
その両方でウィーは最初に決めていた以上のペースで走っている。ウィー曰く、どこか威圧感を感じて前に行ってしまったそうだ。
今回も以前のように暴走気味にならないといいが。
そういって気を揉みながら迎えた秋のファン大感謝祭。
レースにもあまり関係ないイベントなのでいつものようにトレーナー室で寝ているのかと思ったが、なんと同室のステイゴールドと焼きそばの屋台をやるらしい。
最初こそ意外だと思ったが、今やウィーは押しも押されもせぬスターウマ娘。ファン大感謝祭のパンフレットに書かれていてもおかしくないレベルだ。いくらなんでも寝ているわけには行かないだろう。
それにウィーは実際のところファンとの交流が嫌いなわけではない。実際、レース場やその往復でファンに話しかけられたり手を振られると、困惑しながらも返事をしている。特に、子供には甘い。
そうか、ウィーもついにお祭りごとにも参加するようになったかと感動し、トレーナー仲間の数人と大感謝祭を見て回っていた矢先だった。
目の玉が飛び出るほど驚いた。声が出そうになって思わず口を押さえてしまった。
ウィーが勝負服姿で看板を持って焼きそばの宣伝をしていた。
いや、それはいい。
なんで制服じゃないんだとか色々突っ込みたくなるがそこは置いておこう。
ウィーの肩には「私が最強です」と書かれた襷が掛けられ、額には暴君の文字が書かれた鉢巻が輝いている。そこには全方位に喧嘩を売る気満々のウィーの姿があった。
一瞬何をやっているんだと思ったが、これも彼女のやりたいことだろう。友人と楽しくやっているのを頭ごなしに否定するのも良くない...に違いない。
頼むから、天皇賞秋出走発表周りでとんでもないことをやらかすのだけは止めてほしい。
なお、一緒に回っていたトレーナー仲間の空気が数段重くなったのはご愛敬だ。
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