パドック近くで書いてたら意外と筆が進んだので投稿します。たづなさんありがとう。
慣れた距離、慣れたレース場、慣れた蹄鉄、そういうものを加味してもなんだか物凄く走りやすかった気がする。
誰かの後ろを走っていると大体ペースを調節するのが難しいが、スズカさんの場合はグイグイ引っ張っていってくれる感じなので自然と速度が安定する。
そして、そのまま速いペースを最後の直線でも出し続けていたので、いつもより抜くのが大変だった。流石はシニア級だけあってレースに走り慣れているといった感じだ。
レース中に後ろから見ていたが、走る姿も物凄く綺麗だし、スペちゃんが憧れるのも至極当然だろう。
そんなことを考えてじっとスズカさんの方を見ていると、自然とスズカさんと目が合う。
近づいてきたスズカさんが
「おめでとう。だけど次は負けない。」
と宣言してきた。なんだかバトル漫画みたいですごく格好よかったので私も次も負けないと返してみた。
なんでかしばらく見つめあった後、スズカさんと握手を交わして引き上げる。
そうしたら、泣きそうな顔をしたトレーナーさんに抱きしめられた。いつもながら大袈裟なトレーナーさんである。
インタビューはどよめきこそ起きたが、最近よく起きるのでなれてきた。まあ、今日のは一段と大きかった気がするけど。
ほとんどはトレーナーさんが答えてくれたのだが、時々私に聞きたがる記者みたいなのがいるので厄介だ。いや、私に振られても分かんないよ。
大抵は大した質問じゃないのでテキトーに返しておけばそれっぽく納得してくれるのだが、唯一許せなかったのは同学年を敵扱いしたことである。
同学年に敵はいないんですかとあくまで疑問形でかつ私を気遣う風を装って聞いていたものの、まるで菊花賞にでる子たちに嫌がらせでもされているから天皇賞に出るかのような物言いだ。
話すのは得意なほうではないが流石に黙ってはいられなかったので、トレーナーさんの制止も無視して敵になるような人はいませんとしっかりと否定しておいた。しっかりと言い切って見せると流石におとなしくなった。いやー、私もやる時はやるのだ。
まあ、他の細かいところはトレーナーさんが何やら理屈をこねくり回していた。高尚な言葉遊びが紛れていたのでイマイチ理解するのが難しかったが、大まかには遠征による体調の心配、距離が長いことによる脚への心配、天皇賞で競いたい相手がいるとかそんな感じだろうか。
それにしても、レース選択にいちいちややこしい理屈がいるというのも大変なことである。
そういえば、私のレースとほとんど同じタイミングで京都でやっていたレースではセイちゃんが勝ったみたいだ。ステイ先輩やブライトさん相手に見事な策で逃げ切ったのだとか。
流石はセイちゃんである。ふとした隙にソファが占拠されていたということが何度あったことか。間違いなく警戒に値するウマ娘だ。
いつものようにウイニングライブを終えて寮に帰ろうとすると、遠くの方から良くわからない叫び声みたいなものがかすかに聞こえてくる。そういえば、校舎の側にある穴からは時たまウマ娘の叫び声が聞こえてくるとかいう怪談があったような気がする。
月も無く、星の光も勢いがない宵の口。重い空気があたりに漂う。
気味が悪いので誰もいない寮の部屋に入ってすぐに鍵を掛けたが、あの叫び声が何となく聞いたことのある声に思えるのはなぜだろう。
寝る前にスマホを見ると、キングちゃんやスぺちゃんを始め何人かからLANEが来ていた。
内容はいずれも今日のレースの勝利のお祝いと菊花賞を一緒に走れなくて残念という内容、最後の締めに天皇賞頑張ってねといった感じだ。
本当に私にはもったいないほどのいい友達だ。もちろん、私からもお礼と菊花賞頑張ってねと送っておいた。京都で3000mも走るなんてほんとに偉いと思う。
そういえば、キングちゃんからのメッセージは何度か送信取消されていたけど、なにか用事があったのかな。まあ、その後送られてきてないことを考えると大した用事では無かったのだろうか。
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サイレンススズカ視点
彼女の走りを見るのは何度目になるのだろう。
初めて会った日の模擬レースからスぺちゃんと競ったダービーにいたるまでいろんな彼女の走りを目にしてきた。
だけれども、今日ほど迫力を感じたのは初めてだと思う。
それは天皇賞や宝塚記念で走った数々のウマ娘たち以上に強大に感じてしまうほどに。
ゲートからのスタートダッシュ。
私のスタートは完璧だった。いつも通りの最高の形で決めた。彼女のスタートも同じだったが、私が内枠にいる以上、彼女が外から切り込む前に先手を取ることができるはずだ。
だが、その予測はすぐに覆された。
彼女は直線の途中で前に出ることをやめ、私のすぐ後ろにつけたのだ。逃げウマ娘にとって、先頭でペースを握ることが勝利の絶対条件。
それをあえて捨てたことは正直、意外だった。だが、そんな彼女の意図を考えるよりも、この状況を利用しない手はない。
私は前方を確保したまま、リズムよく走り続けた。ひりつく空気とスタンドの大歓声に包まれた私だけの景色。
ペースは完璧。先頭に立つ心地よさを感じつつ、私は加速し始めた。ここからは、いつものようにリードを広げる時間だ。目標はトレーナーさんが言っていた3バ身。
しかし、ここからが彼女の本当の強さだった。
振り切ろうと前に出ても、逆にペースを落としても全く揺るがない。どんなに揺さぶっても、私のちょうど1バ身後ろにどっしりと構えている。
最終直線でのスパートのためにはなんとしてもここでリードを作らないと。
そんな私の内心を見越してか、3コーナーから4コーナーまで何度も外から一気に追い抜く構えを見せる。
ちょっとした加速、ちょっとした左右の動き。
そんな仕草に完全に後手を打たされてしまう。
慌てて加速して抜かれるのを防ごうとすれば完全に彼女の術中である。
リードを作るためのスタミナを失った上に、彼女はそのまま後ろにつけて離れない。
ほとんど引き離せないまま、そして脚を緩めることもできないままにレースは最終直線に入っていく。
後ろからは他の5人の足音も近づいてくる。だけれども私の意識はただ一つに向いていた。
彼女がスパートをかける直後、いや同じタイミングで仕掛けないと間違いなく置いていかれる。だからこそ、感じ取るのは仕掛けのその予兆。
そして、直線に入ってすぐに訪れたその瞬間、彼女の足音が変わる。
たった一歩で軽やかなステップから地面を抉るかのような重い音に変化し、彼女の纏う雰囲気までが一変する。
慌てて私もスパートに入る。しかし、その判断は遅すぎた。たった三歩目で既に彼女の体は私の真横にまで迫っていた。
スペちゃんから何度も聞いていたはずだった、トレーナーさんからも何度も聞いていた。そして、私自身何度も目にしていた。
しかし、一緒にレースを走って初めて理解する。
スペちゃんがダービーで見た彼女の強烈な末脚が、今私に向かって襲いかかってきていた。
少しの間、喰らいつくものの、道中でまともに息を入れられなかった私には坂で加速するだけのスタミナは残っていない。
ただただ小さくて大きな背中がゆっくりとだけれども着実に遠ざかっていくのを眺めることしかできなかった。
感想、高評価、ここすき等お願いします。
東京競馬場でデカ盛りグルメパークとかいうのをやっていた。スぺちゃんと来たら破産間違いないな。