例のレースをこんなに見るハメになるとは....
後ろに対して大逃げ2人はどうするのか!
おおっと、前の2人に戻ると両者ともに第4コーナー中間付近でペースを一気に落としている!これは駆け引きなのか、それともハイペースがここにきて祟ったのか。場内は悲鳴交じりの大歓声だ。さあ、全く分からなくなってきた。
内外凄まじい駆け引きを繰り広げている天皇賞、最後はどんな決着になるのか。
速度の落ちた前に対して後続がものすごい勢いで差を詰める。内からはファーサイドフェイク、そして外からはステイゴールドが上がってくる。
緑の勝負服、メジロブライトも勝負を仕掛けたか。ロングスパートを開始した。
さあ、あとは府中の長い直線、パワーとプライドのぶつかり合い。
内側、サイレンススズカは少し苦しいか、直線に入ってウィトルムぺデスが先頭に変わる。しかし、サイレンススズカも意地の追走、ウィトルムペデスを差し返す勢い。
後続も次々スパートをかけるがまだ開きがある。おっと、ステイゴールドが抜け出してくる。前に迫るかステイゴールド。その後ろから、内を突いてファーサイドフェイクも上がってくる。エムテイハリケーンは少し苦しい。
残りあと400。粘る粘るサイレンススズカ、ウィトルムペデスはいっぱいか。前との差を縮めて来たのは3番手ファーサイドフェイク。懸命に、懸命にメジロブライトも上がってきた。ピンクの勝負服エムテイハリケーンも末脚を伸ばす。
しかし、ウィトルムペデスが先頭だ。サイレンススズカにリード半バ身。
あと、残り200。外からステイゴールド。なんと、ステイゴールドが物凄い末脚だ。前まではあと4バ身。一気に詰め寄る勢い。ここで決めるのか!
来た来た来たーー!ウィトルムペデスが一気に抜けだした。ここで、ここまでこの脚を残していたのか。
あっという間にサイレンススズカを振り切った。
これは強い、強い。ぐんぐんリードを開いていく。これは決まったか。
サイレンススズカも粘る。3番手ステイゴールドは少し苦しくなった。
ウィトルムペデス、余力をもって今ゴールイン。
勝ったのはウィトルムペデス!恐ろしい走りで秋の盾を手にしました!
2着は接戦、内サイレンススズカか、あるいはステイゴールドか。
ウィトルムペデス、出遅れからの圧巻の走りでレースを支配してみせました!
誰も止められない、誰にも異論は許さない!クラシックの覇者はシニアも含めた全ウマ娘の頂点へ!
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サイレンススズカ視点
気持ちのいいスタートが決まって、2コーナーを回る頃には全く聞こえなくなっていた足音、しかし直線が終わる頃には着実に大きくなってきた。
てっきり毎日王冠でのようにピッタリついてくるか、それ以外なら最終直線で勝負だと思っていたので、ここで迫ってくるのは想定になかった。
けれども、先頭は私の、私だけの物だ。
しかし、彼女の速度はまさしく想定外と言うほかなかった。ラストスパートかと見まごうほどのスピードで3コーナーを回る頃には早くも後ろから横に並びかけてくる。私も一息いれる余裕はないが、彼女はもっとだろう。それだけ、ここを勝負所に選んでいるということ。
だけれど、絶対に先頭は譲らない。
前に出ては追いつかれ、前に出られては追いつく。
それは、一瞬前に出た彼女を三度抜き返そうとした時だった。
突然、視界が遮られる。いつもの私の世界ではない。狭く暗い世界。
走ろうと脚を進めようにも綿に引っかかるような感覚で前に進まない。
怖いかと言ったらそうではない。むしろ、どこか心地よさを感じる。
けれども、優しい手でここに繋がれているような、出ようという気力が徐々に吸い取られていくような。落ちてしまえば二度とレースの世界に戻って来れない。そんな暗くて深い空間。もがいても、脚を回そうとしても手ごたえがない。
息が詰まる。どちらが前かすら分からない。怖い。
一瞬のようにもはたまた永遠のようにも思えたその場所からやっと解放された。
そう安堵した途端、強烈な違和感が全身を駆け巡る。
あの世界に入る前と比べて目に見えてスピードが落ちている。
再度加速しようとするも、いつもより明らかに脚が重い。脚をまわそうにも、いつもなら得意なはずの左コーナーなのに、体のバランスすら不安定。先ほどの世界の影響か、走るイメージに恐怖の影がこびりついてしまった。そんな気分すらしている。
そして、あの世界に入ったのは彼女も同じなようで、やっぱりスピードが落ちている。あれが彼女の領域なのだとしたら、彼女は一体何度あの恐怖と戦っていたのだろう。
どれだけの恐怖に打ち勝って、この場に立っているのだろう。
直線に入るころには少しスピードを取り戻したものの、加速にスタミナを使い果たしてしまった。途中全く息を入れられなかったのだから当然かもしれない、だけどそれは彼女も同じはず。いや、スタートで控えてからの加速ならスタミナが限界に達しているのは彼女のほう。
あと少し、言うことを聞かない脚を無理やり回して先頭を取り戻しに行く。
しかし、全てが残り200mであっさり覆された。
意識する瞬間すらないほどの一瞬の加速。視界の右端にあったはずの彼女の姿は、あっという間に正面に来ていた。
あれだけのハイペースで走ったとは誰も信じられないだろう末脚を、一番近くで見ていることしか出来ない。
私は結局、ステイの追撃をハナ差でしのぐので精一杯だった。
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ウィトルムペデス視点
永遠に続いてほしいと願った幸せな時間は一瞬で過ぎ去り、私の意識は強制的に現実に引き戻される。やっぱり、ダービーの時と同じように領域に入る前よりも少しスピードが落ちているような...
横をみると、私と同じように速度を落としたスズカさんがなんだか苦しそうというかもはや辛そうな顔をして走っている。そんなに辛いならレースを中止してもいいと思うんだけど...
とはいえレース中なので、外からスズカさんを抜いて先頭に立つ。スタンドからの歓声と悲鳴、それから怒号が体の両側を駆け抜けていく。
後ろのウマ娘たちも少し近づいてきているが、まだ抑えていていいんだっけ。後ろから来るならば、一旦近づくまで待って一気に突き放すという作戦だ……ったはずだ。
いくつかこうなったらこうみたいな話があったけど、勝てそうなら多分いいんだと思う。
スズカさんはピッタリついてきているものの、どこか足音に違和感がある。歓声にかき消されているせいかもしれないが、いつものスズカさんから聞こえる気持ちのいいリズムではない。
と考えていたらちょうど残り200mになるかというところで後ろからステイ先輩が近づいてくる。心なしかいつもより顔が凶暴だったし、なにか叫んでいるような幻聴すら感じる。
怖いんでいつもよりもちょっと強めに加速しよう。
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