ジャパンカップで脚が砕けなかったというifルートです。
Ifルート: ジャパンカップ
ジリリリリ
部屋にけたたましい音が鳴り響く。
なんだか長い夢をみている気分だった。
「あれ…………今日って日曜日…………」
うるさいなあと思ったけど、良く考えたら今日は日曜日。そんなに早く起きる必要はなかった。どうやら目覚ましのセットを間違えたみたいだった。
「二度寝しよ」
おやすみなさい…………。
「…………怒られた」
寝ぼけていた私は、今日がジャパンカップというレースの日だったことを忘れていた。そして、隣ではとっくに朝の支度を終えていたステイ先輩が私が堂々と二度寝をしているところを目撃していたのだ。
どうなったかは言うまでもない…………。
ステイ先輩には眠そうだと言われたので、念入りに顔を洗ったけどまだ眠い。
ようやく目が覚めてきたのはステイ先輩に手伝ってもらって勝負服に着替え、レース場に移動してからだった。今日は中山じゃないので近くてありがたい。
パドックの近くでトレーナーさんと合流すると、ちょうど隣にクラスのみんなが来ていた。いつもの全身のチェックをしてもらって為すがままになりながら眺める。
スぺちゃんは最近すこし瘦せたらしく、勝負服が入ったことに安心していた。それをいつもみたいにセイちゃんがからかってキングちゃんが怒っている。その隣ではグラスちゃんがエルちゃんに気合をいれている。相変わらずちょっと怖い。
ステイ先輩はというと、良い子ちゃん号に乗ったスズカさんとエアグルーヴ先輩に捕まっていた。
こういう時間も、あと少しなのかもしれない。
ふと、そんなことを思う。
トレーニングフリーで、軽く400mだけ走って。昼過ぎに集合して、あとは流れ解散みたいならたまにはいいかもしれない、なんてトレーナーさんに撫でられながら考える。
「終わったぞ。問題なしだ」
なぜか懐かしい…………いつもの声だ。
「……うん」
小さく返事をする。少しだけ、まぶたが重い。体の奥が、じんわりと温かい。
「トレーナーさん…………ちょっと眠い」
というと
「そうか」
それだけ言って、手の動きが少しだけゆっくりになる。
気が付けば、私はトレーナーさんの膝の上に座っていた。ここはなかなかいいスポットだ。南の空に低く輝く太陽からの光を受けて、私はしばし惰眠を貪ることにした。
「ウィー、そろそろ起きて」
「おはようございます?」
気が付いたら時間になっていた。トレーナーさんの膝から降りて、パドックへ。
そういえば、今日は海外からいろんなウマ娘がくるんだっけ。と思って見渡すと、何人かのウマ娘が英語を話していた。いや、英語じゃなくて他の言葉かも…………。
まあ、私は英語とかわかんないので何か面白いことを言っていても分かんないけど。なお、エルちゃんは楽しそうに話していた。うーん、なんかかっこいいな。
なんか話しかけられるのが怖いし、出来るだけ距離を取っておこう。
トレーナーさんからの指示はいつも通りの大逃げ。他に大逃げをしそうなウマ娘もいないので自分のペースで走っていいとのこと。
ただ、セーフティリードなるものを意識してとのことだった。初耳だと思うけど、あまりにも当たり前の言葉として使っていたので、私が忘れてるだけなのかもしれない。
風がやさしく耳を撫でる。
そういえば、朝にステイ先輩にも何か言われたような…何だっけ?
ゲートを出て一気に先頭まで加速していく。この間みたいに出遅れたということは無いだろう。とりあえずは前に他のウマ娘の姿は見えない。スズカさんみたいに大逃げウマ娘がいないので足音がドンドン遠ざかる。
とりあえずコースの内側に入りながらゆっくり前に出ていく。あとは、これを一回りすればゴールだ。考えてみればレースのコースというのは単調で、すぐに暇になってしまう。
似たようなことをダービーの時も思ったけど……やっぱり長すぎる。なんというか、レベル上げの遅すぎるタイプのクソゲーみたいに、プレイ時間の水増しに近い。最近はゲームの開発期間が長くなっているので、そうやって時間を稼ぐ必要があるのだろう。
それでも、向かってくる風は気持ちいい。ペースが分からないので時々脚を早めつつ、カーブを過ぎていく。
うーん、やっぱり調子が良いのかいつもより疲れも少ない気がする。それか、スタミナトレーニングのおかげなのかな。
最後のカーブを曲がり終えた私は期待に胸を膨らませていた。前回のレースでも感じたあの安らぎの空間、それがまもなく現れるはずなのだ。
残りは直線だけ、そろそろかな?
あと、400mまだ来ない。そろそろ来ても良いはずだけどな。
まだ来ない。あれっ?レース終わっちゃう…………。
そこで私は気がつく。
ダービーも天皇賞も、あそこに行けたのはちょっと後ろに誰かがいた時だった。ダービーだと、あれが終わった後にスペちゃんが隣に来てびっくりしたし、天皇賞ではスズカさんと一緒だった。
でもそう考えると、毎日王冠ではなんであそこにいけなかったんだろう。G1じゃないとだめなのかな。
そんなことを考えていても、無慈悲にレースは終わりを迎えつつある。
なんて考えていたら、自然とペースが落ちていた。後ろから誰も来てなさそうとはいえ、あんまりチンタラ走るのも怒られそうだ。
私は仕方がなくゴールに飛び込むのだった。
何となく気が乗らないので、ゴールを過ぎてすぐに脚を止める。
レースでできなかったことを、トレーナーさんにしてもらおう。それに、新しいクッションも買ってもらおう。
そんなことを、半ば当然のように考えながら振り返った、その瞬間だった。
視界の端に、全力でこちらへ向かってくる姿が映る。スペちゃんとエルちゃん、それにエアグルーヴ先輩にステイ先輩もだ。
私は反射的に進路を変え、観客席の方へと逃げるように避けた。そういえば、ここゴールだった…………。全然ぶつかるような距離じゃないけど、レース中のウマ娘の迫力を正面から受けるというのはちょっと怖い。
そういえば…………私はそのまま客席の方へ向き直って座り、軽く手を上げてピースを作る。スタンドから歓声が飛ぶ。
前回が1だったから、今回は2。小さく指を確認しながら、うん、と頷く。
これ、有馬記念のときは3にしよう。ちゃんと覚えておかないと、また間違えて1とかやってしまいそうだ。それはそれで面白いかもしれないけど、さすがにちょっと恥ずかしい。
そんなことを考えているうちに、少しだけ気分が軽くなる。そのまま足を投げ出して座っていると、ステイ先輩に声をかけられた。
「足は大丈夫か」
真面目な声音だった。私は少しだけ考えて、ちょうどいいと思った。なんかどこかが疲れている気がしないでもない…………。
いつもトレーナーさんにやるように両手を伸ばすと、ステイ先輩は一瞬も迷わず、私の体をひょいと持ち上げた。
そのまま、お姫様抱っこの形になる。視界が一段高くなり、景色が変わる。
思っていたよりも安定していて、少しだけ面白い。あ、これ楽かも…………。
スペちゃんとエルちゃんが、今度はこちらに駆け寄ってきていた。後ろからはエアグルーヴ先輩も心配そうにこちらを見ている。
「ウィーちゃん!?」
「ケガはありませんか!?」
みんな、真剣な顔だ。
そこまで心配されるとは思っていなかったので、少しだけ首を傾げる。特に脚には問題はないことを伝えると安心してくれたみたいだった。
「楽なので、運んでもらってるだけです」
正直にそう答えた、その直後だった。
ふっと体が軽くなる。
次の瞬間には、地面に降ろされていた。というより、ほとんど投げるように置かれた。
「……え?」
状況を理解するのに一瞬遅れる。顔を上げると、ステイ先輩はもう何事もなかったかのようにそっぽを向いていた。
助けを求めて視線を巡らせると、エアグルーヴ先輩までが額に手を当てて、深いため息をついているのが見えた。
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お久しぶりです。
だいぶ間が空いてしまいましたが、ぼちぼち更新を再開していこうと思います。
ウィーちゃんが脚を粉砕しないルート、要するにIF展開になります。本編とは一部設定や展開に矛盾が出るかもしれませんが、分岐したもう一つの可能性として、気楽に楽しんでいただければ嬉しいです。
不定期更新ですが、お付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いします。