ガラスの脚系TSナマケモノ娘   作:ヤキブタアゴニスト

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Ifルート: ジャパンカップを終えて

ウイニングライブの曲はSpecial Record!。無事に0.5秒くらいレコードを更新してたみたいなので、違和感はない。

 

そういえば、スズカさんが今年の宝塚記念で踊っていたのをスぺちゃんが何回も見てたなぁ。

 

叶えたい未来を追いかけ続ければ、夢はきっと叶う!という素敵な歌だ。

出来れば追いかけなくても夢が叶って欲しいものだけど…………。私もトレーナー室のいらない物を処分しよう…………。

 

私が欲しいのを選ぶから待ってっていってたら、大量のグッズが積みあがっちゃったんだけど…………。ぬいぐるみとタオル以外は開けてすらいないし、なんかいろいろ纏めて家に送っておいてもらおう。

 

まあ、歌詞に出てくるみたいな真剣勝負の栄光とかは、あんまり興味ないんだけど。

対戦ゲームをやらないわけじゃないけど、どっちかというとパーティーゲームみたいなゆるいのが好きだ。

 

真剣勝負…………。そういうの、やったことあるかって聞かれると……ちょっと思い出せないかもしれない。レート戦なんかには手を出しすぎない主義だし…………。そういえば、今度ちょうどいい対戦ゲームがでるんだっけ…………?

 

 

 

 

ウイニングライブとか諸々が終わって寮に帰れば昼間に寝すぎたせいか、ベッドに入ってもあんまり眠くなかった。枕の下をまさぐってLANEを開く。

 

 

レース場で会った人や会わなかった人、沢山の人から通知が来ている。今日のレースについていろいろメッセージをくれている。いつの間にか、パタパタと尻尾がベッドにあたる音がしている……。落ち着かないとな。

 

そうしていると、

 

「あっ、悪ガキトリオだ…………」

 

悪ガキトリオからも

 

『ジャパンカップ優勝おめでとう』

 

という感じのメッセージが来ていた。普段は私からの要求ばかりだけど、レースがあったときは律儀に祝ってくれる。『ありがとう』と返して、そういえばと思い出す。

 

『大戦闘スマッシュファイターズって知ってる?今度出るみたいなんだけど』

 

こういう話が出来る相手は貴重だ。クラスではレースの話ばっかりで、最近はトレーナーさんともこういう話があんまりできていない。

 

でも、悪ガキトリオなら…………そう思っていたのに

 

『なあ、ウィーさんよ。こちとら受験なんだけど』

 

『あー、いろんなゲームのキャラが出て戦うやつだっけ?ウィーって格ゲーみたいなのはあんまりやってなかったよね』

 

『ゲームのやり過ぎでトレーニングをさぼってトレーナーさんを怒らせるなよ』

 

なんというかノリが悪い。私は有馬記念が終わったら時間ができるからいろいろ遊びたいのに…………

 

有馬記念が終わったら暇ができるから大丈夫!!』

 

すぐに返事が来る。

 

有馬記念か、これ勝ったらいよいよG1レースを七勝か。こいつが歴史的名ウマ娘って信じらんねーな』

 

『しばらくレースでないのか? まあ、それもいいと思うぞ。』

 

『来年は3月くらいからか?東京と中山でのレース以外出ないなら、春は大きいレースは少ないのか』

 

「……あれ?」

 

そういえば。

言ってなかったっけ。

 

『えっ、引退するから暇になるんだよ』

 

送ったあとで、少しだけ指が止まる。その間に立て続けにメッセージが送られてきていた。

 

『は?本気か?トレーナーさんと相談したのか』

 

『ウィー、念のため聞くけど、脚を痛めたわけではないんだな?』

 

『引退って、有馬記念でラストランってことか?』

 

「……なんでそんなに驚いてるの」

 

『脚は大丈夫だけど……なんで?』

 

既読が一瞬でつく。

 

 

『おまえ、あのトレーナーさんにべったりだったんじゃ』

 

『今のウィーがトレーナーなしで生きていけるはずがないだろ』

 

『引退してどうしようと考えてたんだ?』

 

「どうするって……」

 

少し考えて、打つ。

 

『そろそろいいかなって思って……それに最近トレーナーさん遊んでくれないし……レースなくなれば……』

 

送る前に、一瞬だけ迷ったけど、そのまま送る。

すぐに返ってくる。

 

『おい、ウィー』

 

『引退したら、トレーナーさんとは一緒にいられないぞ』

 

「……あ」

 

指が止まる。

 

「……そっか」

 

いや、分かってはいた。

 

トレーナーはウマ娘が走るために存在する。走らないウマ娘にトレーナーは必要ない。

マッサージだって、食事だって、もしかしたらゲームだって、それは私が走ってレースで勝つためにやっていることだ。その証拠に、トレーナーさんは私が勝った時に誰よりも喜んでくれる。

 

「デビュー前はよかったなぁ…………」

 

確かにトレーニングはあったけど、具体的なレースに向けてじゃなかった。それに、レースとか取材のせいでトレーナーさんは忙しそうだし、グッズとかいろいろあって忙しい。それに、終わりを考えなくちゃいけないのは嫌だった。

 

そういう悩みを一通り相談したとき、私は思いがけない事実を知った。

引退レースに、特別な条件なんてないらしい。レコード勝利とかいらないらしい。

 

強すぎるウマ娘が、記録を出し尽くして相手がいなくなったから引退する…………そんな話を、私はどこかで勝手に勘違いしていたみたいだった。

実際には、多くのウマ娘がシニアまで走る。だから、そのまえに引退するならそのくらい圧倒的であってほしいということなのかもしれない。

 

 

でもそうなると、いよいよ有馬記念とかそのあとをどうするか。そもそも、走らなくていいならそのほうがいい。だから、極端に言えば私は今日引退してもいい。

 

でもトレーナーさんは、私が有馬記念で引退するつもりだと思っている。

 

それにどうせ引退するなら少しくらい、いいレースで終わりたい。

 

トレーナーさんが、ちゃんと喜んでくれるような。あとで思い出してもらえるような。

そんな終わり方のほうが、いい気がした。

 

『一回ゆっくり話し合ったらどうだ?』

 

『うん、ありがとう』

 

そう返したけれど、私の中ではまだ整理がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レースが終わった次の日、脚の具合を気にかけたトレーナーさんに連れられて、私は医務室へ向かった。スズカさんにセグウェイを貸しているので、トレーナーさんにおんぶしてもらった。

 

白い光の下でいくつかの検査を受ける。触診と、簡単な動きの確認。それから、念のための画像診断とかでいろいろさらにされる。

 

結果としては、異常なし。だけど、

 

「あれだけの激走の後なので、見えない疲労は、確実に積み重なってます。数日間は無理な負荷はかけないように」

 

という淡々としたお医者さんの言葉に、トレーナーさんは静かに頷いた。

 

トレーナー室へ戻る道は、夕方の気配が残っていて少しだけ冷えていた。一定のリズムで鳴る足音、そして揺れるトレーナーさんの背中。

 

そこで私は切り出した。

 

「トレーナーさん…………有馬記念まで、トレーニングを休みたいです」

 

少しだけ間があった。けれど、否定はされなかった。そして、有馬記念に出たいかどうかを聞いて、私が頷いたのを見て答えてくれた。

 

「分かった」

 

短く、あっさりと。ただし、その代わりに条件がつく。

 

「レース前の一週間だけは軽く動かす。コースを半周、それを一日一回。それだけはやろう」

 

「うん」

 

むしろ、それくらいで済むなら十分だった。なんというか、もしかして…………最初から、これを言っていればよかったのかもしれない。

 

 

季節はいよいよ本格的に冬になって、暖房とコタツがないとウマ娘の生存が不可能な領域に達していた。窓の外は早く暗くなるし、空気は乾いていて吸い込むと少しだけ刺すように冷たい。

 

トレーナー室の片づけを一通り終えるころには、指先もじんわり冷えていた。なにしろ、廊下にまでグッズが溢れていたので、扉を開けざるを得ないのだ。

 

レースごとにアクリルスタンドだとか勝利記念フォトブック、記念応援ペンライト、レース映像ブルーレイとかが発売されているのでどれがどれだか分からなくなる。そういうものと、勝負服柄の冬用ブランケットとかコラボしたレトルト食品みたいな欲しいものとを分けるのだけで大変だった。

 

 

私のお気に入りはトレセン特製カップスープで、今年の前半のG1レースを勝ったウマ娘のカードがランダムで入っている。ちなみに、私はスズカさんのレアカード3種をコンプリートしている。

 

あとは、ジャパンカップの直前くらいに作られた覇者カレーが大量に箱につまっていた。天皇賞のときの私の姿がパッケージに使われている私好みの甘口カレーだけど、結構子供に人気があるみたい…………。美味しいけど流石に多すぎるし、今度友達に配ろうかな…………特にスぺちゃんとかスぺちゃんとか。

 

ようやく終わろうかというとき、トレーナーさんが鍋を用意してくれていた。

炬燵において、二人で向かい合った。

 

湯気が上がる。室内の暖かさと、外の冷えとの境界が、やけにくっきりしている。

 

有馬記念終わったら、ゆっくりゲームでもしたいです」

 

ぽつりと言うと、トレーナーさんは箸を止めた。

 

「……そうだな、年が明けてからは大きいレースもないしな」

 

そう話すトレーナーさんはあまりにいつも通り過ぎて、トレーナーさんは私と離れるのが嫌じゃないのかもしれないと思ってしまう。そう思うと、それ以上は聞けなかった。

代わりに、最近流行っている漫画の話をした。

 

去年始まった海賊の物語が、ようやく仲間を揃え始めていて楽しみだとか。狩人になる漫画の試験編が、妙に緊張感があって面白いだとか。

 

どうでもいい話。それでも、不思議と途切れなかった。

 

 





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