「お供達、早速寝るぞ」
閉店時間に近づいた喫茶どんぶら、桃井タロウ以外のお供は突拍子もない一言に困惑気味だ。
「説明をしてくれ、タロウ」
「タロウさんも忙しかったんですか?」
「私はなんとなく分かったけど……夢だよね?」
猿原は理由を問い、桃谷ジロウはマイペースな発言を、同席したはるかはなんとなくそれを理解していた。
「あのヒトツ鬼に攻撃が通らなかったのは、奴はこの世ではなく夢の中に存在している。それならば春風メブキの夢に潜り込みそこで倒す」
「理由は分かりましたけど、どうやってそこに行けばいいんでしょうか?」
「はるか、あの絵をコピーできるか」
「できるけどなんで?」
雉野が別の疑問を提示したら、タロウが用意する物で猿原がそういう事かと理解した。
「そうか、枕絵か!」
「何でしたっけそれ?」
「初夢を見る為に縁起良い物の絵を枕に仕込んで寝る風習だ。それを鬼で行うのはおかしな話だが、試すなら悪くはないだろう」
「枕に入れるだけでいいなら後は帰って寝るだけですね。みほちゃんが心配なので絵をもらったら今日は帰ります」
「いいんですか雉野さん?先に寝ちゃったら一人でヒトツ鬼と戦うかもしれませんよ」
「うっ!タロウさん、寝る時は教えてください」
ジロウの忠告に雉野は苦い顔をしてタロウ達に頼ろうとする。
「いいや、全員で一度に眠ればいい」
───
とある公園、ベンチの一つにて犬塚翼は夜風に黄昏れていた。
「夏美……俺はもう他の奴らと一緒に眠りたくない。俺に巻き込まれて不幸になるからな」
「にゃーん」
「猫か……すまんがお前とも一緒に寝るつもりはない、勝手にどこかに行け」
「じゃあペロペロしていいですか?」
「やめろ……猫が喋った?」
犬塚は焦って振り返るが行動が一呼吸遅かった。ピンク色の細長い物に襲い掛かられて、ベンチには誰もいなくなった。
───
「ここは、夢の中か」
「ふむ……案外すぐに同じ場所に来れる物だな」
「みほちゃんが20人、みほちゃんが……」
「雉野、もう夢だって!」
桃井タロウとお供達が眠るとそこはどこかの学校、とりわけ高校の校舎に見える場所にいた。
「地元にはこんな立派な学校なかったですね」
「あ、ジロウ」
「だが、どうにもおかしい。俺にはまるで造り物に見える」
「……が二人?!」
ジロウは人格が二つある。厳つい表情とドスの効いた声から「闇ジロウ」とか「危ないジロウ」などと呼ばれている。
「驚く事ではない。俺とこいつが同時に眠っただけだ」
「そうですよはるかさん、それよりも敵を処刑しに来たんじゃないんですか?」
「でも相手は小さい女の子だよ?ほら、あそこの窓から見えてる……」
校舎の窓の人影がある部屋にドンブラザーズ御一行は走ってたどり着いた。
「あっ!タロウさんとはるかさんだ!夢にも出てくるなんてすごいね、サキュバスパワーかな?」
「言ったはずだ、縁ができたと。それより、これはなんだ?」
春風メブキはおそらく王苦市の物ではない学校の制服を着て、黒いコートのぬいぐるみを抱えている。教室の学習机には一つに一個の割合で人型のぬいぐるみが置いてある事がはるか達にとって異様に見えた。
「学校生活だよ!私のゲームみたいに制服を着たり、たまに水着や和服に変えたりしてるの!ここだと自由に動いて走れるし、美味しい物も食べられるからとっても楽しいんだ!でも、こうやって話して動いている人は初めて見た!一緒に遊んでくれる?」
机のぬいぐるみは制服を中心に、分かりやすく言えば『ゲームっぽい』衣装をしている。人形遊びや雛祭りにしては偏りが大きい。
「もしかしてあれ……犬塚さん?このぬいぐるみは全部……」
「消えた人達だろうな」
雉野と猿原は犬塚にそっくりなぬいぐるみを見て、メブキに対して厳しい表情を見せる。
「やっぱり処刑しなきゃダメですよね」
「見過ごせる相手では無いな」
続いて二人のジロウが龍虎之戟を取り出し、かたやニコニコと、かたや厳めしい顔でギアと共に構える。
「春風メブキ、あんたは病院でゲーム以外何もできなかったのが不満だったんだろう。だから夢を見ている時間だけでも自由に動いて誰かと遊びたいと願った。その欲望にヒトツ鬼が取り憑いた結果がこれか」
タロウは彼女と病院で話して得た所感を遠慮も躊躇もなく述べる。それを真っ向から聞いたメブキはぬいぐるみを近くの机に置いて、身体から光の粒子を吹き出す。
『逋セ蜷亥恍繧サ繧、繧「』
不気味な文字化けと三つの円が重なったクレストに包まれながら光と共に膨らんで、欲望を具現化した姿、百合園鬼へとその身を変貌させた。
「そうだよタロウさん!苦しくないこの体で、ずっとずっーと一緒に遊ぼう!今ならタロウさんは家が隣の幼馴染で、はるかさんは同じクラスの親友だよ!」
「俺はあんたと幼馴染ではない」
「お生憎様、私もまだ学校に通っているからね!」
『ドン・ブラスター!』
無邪気な誘いを断りながら、出現したドンブラスターを全員が手に取り構える。
『ぃよぉ~ッ!ドン!ドン!ドン!ドンブラコ!』
『ドラ!ドラ!ドラゴン!!ドラ!ドラ!ドラゴン!!』
『タイ!タイ!タイガー!!タイ!タイ!タイガー!!』
「「「「アバターチェンジ!!」」」」
システム音と共に彼らも「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」としてその姿を変えて、人数的に狭い教室の中で臨戦態勢を構えた。
「やっぱり教室天井低いですね」
「たまには二人で行きますよ、危ない僕!」
「言われるまでもない!」
キジブラザーが天井の低さに不満を漏らし、金と銀の戦士は得物をヒトツ鬼に向ける。自分以外の6人全員が戦意を込めて自分を見る事に焦りを感じた百合園鬼は、どこからともなく十字の飾りが付いたピンク色のボールを取り出した。
「えっと……はいこれ!」
「えっちょ……わあぁぁぁぁ!!」
オニシスターに手渡されたそのボールは光りながらどんどん膨らみ、一拍置いて派手に弾け飛ぶ。爆風と共に、彼らは校庭に不恰好な着地をする事となった。
「あはははは、ここは私の夢だから自由だよ!」
割れた窓から飛び出した百合園鬼は空中を滑る様にすーっと飛び回る。その袖に隠れた手には先程のボール、はにわに似た棒状の物体、舌の伸びた白いおもちゃのアヒルなどがこんもりと抱えられていた。
「させない……ケンケーン!」
【キジブラザーはドンブラザーズに爆撃をされる前に飛び出し、背中の翼を広げて宙を舞う。
「そりゃそりゃそりゃ!!」
「あっ……にゃー?!!」
そのままキビ弾丸で狙い撃ちされた百合園鬼は避けるどころか爆弾に弾丸が命中、そこから連鎖式に次々と起爆して空中で儚く散る事となった。】
「あっ!えっと……大事な奥さんだよ!」
「えっ?みほちゃん!」
百合園鬼は大量の爆弾をぎゅっとまとめて、人型に変わったそれをドンブラザーズの頭上より前に落とす。人型、奥さん、その情報の繋がりから落とした物を推理したキジブラザーは急きょ目標を変更。急いでそれを空中で受け止めた。
「あーよかった……、みほちゃん怪我はない?あれ?」
「アノーニィィィ……」
キジブラザーが雉野みほだと思った正体は、大量の爆弾がくくりつけられた女装したアノーニ。ロープをおかしい結び方で爆弾と共に縛られていれば、いくらアノーニでも恐怖のこもった叫びをする。それが膨らみ逃げる間もなく、弾け飛んだ。
「あ、わあああああ!!?」
「雉野!!」
「こんな所にみほさんなんているわけがないじゃないですか」
「ヒトツ鬼になる程だ、仕方ないだろう」
吹き飛ぶ雉野を見てオニシスターは叫び、ドンドラゴクウは無慈悲に切り捨て、サルブラザーは一応のフォローはしておいた。
所変わってその一方、先程の教室にて犬塚翼ぬいぐるみは黒板の方向に向いていた。
『ドン・ブラスター!ドン!ドン!ドン!ドンブラコ!』
そのぬいぐるみの前に現れたドンブラスターがぬいぐるみを無理やりチェンジ、机の上に立ったままイヌブラザーへと変わった。
「……どこだここは?いや、あのヒトツ鬼を片付けろってか!」
何も分からないままやるべき事を把握したイヌブラザーは大きな手裏剣を構え、窓から投げ出す。ヒトツ鬼にあと少しで命中する!その確信は敵がこちらを一瞥もせず空中シャトルループした事でたやすく崩れた。
「ちっ!」
「あ!ワンちゃん!」
「来ていたのか、イヌブラザー」
「ワンちゃんいるの?ペロペロ舐めて!……やっぱりやめた!」
攻撃が外れて舌打ちしたと同時にドンブラザーズが彼に気付き、百合園鬼も犬と戯れようとして何かを見たのか空中で引き返した。
「なんだよアイツ!」
ドンブラスターを連射してもふわりふわりと安全圏に何度も避ける。しかも相手は爆弾を投げて一方的に反撃するから質が悪い。
「夢の中だからってズルすぎますよ!」
「しかもここは奴の領域だ、こちらが空を飛ぶ事もできない……」
「それにしてもこっちを見ないで攻撃全部避けてますよね」
「あの挙動、未来予知でもしているのか」
キジが理不尽に叫ぶ隣で金銀の戦士は冷静に状況を分析して、サルブラザーはその力の正体を悟った。
「それなら簡単だ!見られてもいい未来を見せればいい」
ドンモモタロウは必勝方を語り、おもむろに指笛を吹く。時空を超えてでも黄金の不死鳥は主人の手元に飛んで、ドンブラスターに装着された。
「ぁゴールドアバターチェンジ!!」
『ドンフェスティバルタイム!セイヤ!セイヤ!セイヤセイヤセイヤセイヤセイヤァ!完全無欠の鬼退治!ゴールドンモモタロウ!よっ!天下無双!!』
天下無双の黄金武者、ゴールドンモモタロウが夢の世界でも暴れ出す。手始めにギアをチェンジ、熱い輝きの戦士の力を借り受ける。
『よっ!魔進戦隊!』
「はーはっはっはっ!キラッと参上だ!!」
ゴールドンキラメイレッドがマントをはためかせ、キラキラと辺り一面に光を振りまく。百合園鬼は相手の急な変化に興味を惹かれながらも、その挙動をよく確認する。
【辺りは両目が焼けそうになる程の輝きに包まれていた。何も見えない。眩しい。ただただ眩しすぎる。】
「わっ!急に規制シーンフラッシュ?!」
百合園鬼はまだ起こり得ない輝きに両目を手で塞ぎ、急きょ目隠し飛行を行う事となる。遅れて宝石の輝きが辺りを包み予知が実現する事となった。
「支えてくださいよ、危ない僕!」
「黙っていろ!」
やたらな方向に頭上で飛び回る百合園鬼の方向を観察しながらドンドラゴクウはドントラボルトの肩に手を置く。
「よーし、イチ!」
「ニ!」
「「サン!!」」
目的のヒトツ鬼が自分達の方向へと飛んで来たタイミングを見計らってドンドラゴクウは肩車に乗った。
「捕まえた!」
「にゃー!?」
ちょうど向かった百合園鬼の両肩の持ち手をキャッチ。鍛え抜かれたドンドラゴクウの腕力からはヒトツ鬼といえども春風メブキの力では逃れられない。
「タロウさん!」
「よーし、ひらめキーング!」
ゴールドンキラメイレッドは広げたスケッチブックにペンを走らせ、胸の前に掲げる。それが光ると手にはただの小さな棒きれ、すなわち……。
「なにこれ?」
「耳かきだ。使え、オニシスター」
梵天丸の付いた耳かきをオニシスターに押し付けた。彼女は耳かきと百合園鬼の獣耳に視線を二往復しながら覚悟を決めて歩き出す。
「降りて、ジロウ!」
「はい!」
ドンドラゴクウは百合園鬼を抑えつけたまま肩から降りてオニシスターに近づく。オニシスターは地面に座ってその膝をポンポンと叩き、百合園鬼の頭をそこに誘導した。
「……痛い事はしないで?」
「だーいじょうぶ!」
オニシスターは狐の耳に耳かきを早速突っ込む。カリカリ、カリカリ。構造が違って微妙にやりづらいが、汚れは分かりやすく取れる。
「にゃん、にゃーん……!」
「……よし、全部取れたよ!」
耳かきが終わった百合園鬼は夢の中だが、夢心地で地面に転がり続ける。そんな無防備な状態では逃れる術は無かった。チェンジを戻したゴールドンモモタロウは額の桃と同じ形に指を組み、百合園鬼が気付かないままバリアの中に閉じ込める。
『超フェスティバルタイム!』
「抱腹絶桃・フェスティバル縁弩!!」
『ゴールどんぶらこぉ!ももや!!』
撃ち出された不死鳥はバリアを啄み、生まれたヒビから完全に破壊。普段より低空飛行で寝転がる百合園鬼を貫いた。
「なんか……ムクムクする!にゃーん!!」
百合園鬼は気持ちよく、そして優しく退治されましたとさ。
《蟾ィ螟ァ蛹》
しかしめでたしめでたしにはまだ早い。彼女の欲望は暴走して積み重なり、おおきなおおきな猫へと姿を変えたのだった。
「にゃにゃにゃにゃーん!!」