他人が見る夢   作:9Q

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黒の策略

それは、5年前のドイツで起きた出来事だった。黒い森の木の上で、その人間は眠っていた。森の中を歩いていた男性が、木の下まで見て上を見上げた。彼は木の上にいる人間に向かって、声をかけた。

 

sarah(セァラ)。久しぶりだな」

 

木の上にいた人間が、地面に飛び降りて男性の顔を見る。

 

「……なるほど、貴方が父さんの言っていた組織の人間ですか。私は組織には協力しませんよ。そのことは貴女も、お分かりですよね?」

 

「何のことだか……私はお前の父親だよ。覚えていないのか?」

 

木の上から下りてきた人は何も答えない。その人間は男性の体を引き寄せて、地面に倒した。

 

「本当に貴方が父さんであれば、このくらいの不意打ちには対応できるはずです。対応できないということは、貴方は父さんのフリをする不審者だということになりますね」

 

「As expected(流石だわ)。Apparently it was true that you inherited the name of Mr.sarah(貴方がミスター・セァラの名を継いだというのは、どうやら本当のことだったようね)」

 

木々の影に、複数の人間がいる。彼らはセァラに向けて容赦なく銃を撃った。セァラは平然とした表情で、自分に向かって飛んでくる銃弾の雨を避けた。そして銃を持っている人間に近づいて、次々と昏倒させていった。その横顔に向けて、一発のライフル弾が撃ち込まれる。セァラは気配を察知して銃弾をスレスレのところで避けると、銃を撃った人間の居場所を探して周囲を見回した。その間にも、銃弾は雨あられと浴びせられ続けている。セァラが銃弾を避けようとして動いた方向に、ライフル弾が飛んでくる。セァラは目を細めて、小さな声で呟いた。

 

「風向き、方向、距離から考えて……西ですね」

 

 

瞬歩の動きで距離を詰めて、セァラはライフルを担いだ人物と相対する。その人物は長髪の男だった。彼は截拳道(ジークンドー)の構えを取って、セァラに向かって話しかけた。

 

 

「I'm sorry, but there's a reason why we can't lose(悪いが、こちらにも負けられない理由があるんでね)」

 

 

「Looks like it(そのようですね)。……All together, father and son(全く、親子揃って)……」

 

 

男が目を見開く。

 

 

「By any chance, do you know about me(まさか、俺のことを知っているのか)?」

 

「Yes(ええ)。I have met your father in England(私は、イギリスで貴方のお父様とお会いしたことがありますので)」

 

 

「……Is that so(そうか)。Especially if that's the case, I can't afford to miss it now(それなら尚更、ここで逃すわけにはいかなくなったな)」

 

「Don't worry about it(ご心配なく)。I don't give out information to organizations(私は彼らに情報を渡したりしませんよ)」

 

セァラと男の戦いは数時間に渡って続いた。その中で、男は奇妙なことに気づいた。

 

(傷が増えないな)

 

セァラは男の動きを読んでいる。それは1度も攻撃を当てられていないことからも明らかだ。けれど彼女は、まったく反撃してこない。

 

「Are you sure you're being lenient(まさか、手加減しているのか)?」

 

「No(いいえ)。It's just that my father taught me not to hurt people(人に怪我をさせないのが、父から教わった私の流儀だというだけですよ)。Therefore, it would be a great help if you could pretend to be unconscious.How about that(ですので、気絶したフリでもしてくださると大変助かるのですが、いかがです)?」

 

 

男は呆れたような顔をして、ついで笑い出した。

 

「If that's the case, feel free to let me go along with that strategy(そういうことなら、遠慮なくその作戦に乗らせてもらおうか)」

 

男が目を閉じてセァラに体を預ける。セァラは彼に礼を言って、その体を抱え上げた。そして、先ほどまで居た場所に戻った。

 

「It's amazing that you can beat Rye(ライに勝てるなんて凄いわね)」

 

倒れた黒服を介抱していた女が、男を運んできたセァラを見て笑う。セァラは男を彼女に引き渡して言った。

 

「Just to be clear, it's not that he was weak(断っておきますが、彼が弱かったわけではありません)。Inheriting the name Mr.sarah means gaining the strength to return home alive no matter what kind of opponent you fight(ミスター・セァラの名を受け継ぐということは、どんな相手と戦っても生きて帰れる力をつけるということなのです)」

 

「I know(分かってるわ)。The organization doesn't think they can kill you with this, and I'm just here today to keep you in check(組織もこれで貴方を殺せるとは思っていないし、今日は牽制のつもりで来ただけだから)」

 

 

女はセァラから男の体を引き渡された後に、その耳元で囁いた。

 

 

「If we have a chance, let's meet again.(縁があったら、また会いましょうね)」

 

その場に居た人間以外は知らない、知ることもできない戦いは、こうして終わった。

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