他人が見る夢   作:9Q

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※原作の事件に関するネタバレがあります。ご注意ください。時系列はベルモット編の途中です。

※原作沿いですが展開はかなり変わっています。苦手な方はブラウザバックしてください。





















元太少年の災難

米化町に戻ってきたセァラは、コナンに見咎(みとが)められないように毎日姿を変えながら護衛を続けた。そんなある日のこと。

 

(……殺し屋?)

 

物騒な単語が聞こえてきて、彼女はそちらを見た。そこには少年探偵団の子どもたちがいる。

 

(子供ならではの面白い空想……と、思いたいところですが)

 

彼女はデパートの屋上を見上げた。そして、そこに人がいるのを見て目を細める。

 

(あんなに分かりやすいと、いっそ清々しいですね)

 

上からボルトが落ちてきて、少年探偵団が振り返る。セァラは彼らと目を合わせたまま、上から落ちてきたデパートのネオンを片手で受け止めた。

 

「「……は?」」

 

コナンと灰原が目を丸くする。元太が青い顔で後ずさった。

 

「な、なんだよ! お前か?! オレを狙ってるの!」

 

「何の話です? 私はたまたま通りがかったフリーターですよ」

 

「いや、それは流石に無理があるだろ……」

 

コナンが小声でツッコむ。セァラはしれっとした顔で言った。

 

「いえいえ。少し、武術の心得があるだけですから。それに私は君たちの頭上に落ちてきた物を受け止めたんですよ? 殺す気があるならそのままにしておくと思いませんか?」

 

「あら、仲良くなってから隙を見て殺すつもりだとも取れるけど?」

 

灰原がセァラに冷ややかな眼差しを向ける。セァラは苦笑を浮かべて、持っていたネオンを地面に置いた。

 

「信じていただけないのならそれでも構いませんが、その子が誰かに殺されようとしていたのは確かですよ。デパートの屋上に人影が見えましたから」

 

コナンがネオンの配線を調べる。

 

「確かに、刃物で切った跡があるな。偶然落ちてきたってことはなさそうだ」

 

「それに、標的が小嶋くんっていうのも……いつも小嶋くんがのぞいてたヤイバーのガシャポンがあるから、間違いないみたいね」

 

「だ、だったら犯人を探しましょう! お姉さんは、犯人の顔を見てますよね?」

 

光彦がセァラの方を見る。セァラは首を横に振った。

 

「残念ながら見ていません。相手の正体を確認することより、君たちを無事に帰すことを優先すべきだと思いまして。……先ほど、妙な話をしていたでしょう。殺し屋に狙われているとか……」

 

「でも、ボクたち子供だよ? 子供の話を信じて、屋上に人影を見ただけで動くかなあ。……お姉さんが元太を狙ってる人の仲間じゃないなら、どうしてボクたちの話を信じたの?」

 

「それはまあ……事件現場に何度も居合わせるという少年探偵団の話を、知り合いから聞いていましたから。君たちがそうだと言うのなら、信じますよ」

 

コナンと灰原が不審者を見るような目をした。光彦と歩美は少し嬉しそうにしている。元太は警戒心が多少薄れたようだった。その様子を見て、セァラは確信する。

 

(コナンくんだけではありませんね。灰原哀という女の子も、誰かに狙われる心当たりがあるのでしょう。そして、それはおそらく例の組織……)

 

ふと、思いついて。彼女は歌うように口ずさむ。

 

「That's an army of crows(あちらはカラスの軍団です)。Whether it's a hawk, a kite, or an owl, it's bad to have just one(タカもトンビもフクロウも、1匹だけでは分が悪い)」

 

光彦が首を傾げる。

 

「今の、英語ですよね? どういう意味ですか?」

 

「あ、気にしないでください。ちょっと考え事をしていただけです。……人が集まってきましたし、詳しいことは移動してから聞かせていただきましょうか。大丈夫、怖がることはありません。私、こう見えて結構強いんですよ」

 

セァラは元太と目を合わせて笑った。元太はまだ少し青い顔をしていたが、それでもかなり気が楽になったようだった。その様子を少し遠くから見ながら、コナンが灰原に話しかける。

 

「なあ、今のって……」

 

「オオタカにトンビにフクロウ。どれもカラスの天敵ね」

 

「そうだけど、問題はそこじゃねえ。オメーだって分かってんだろ。カラスの軍団に例えるってことは、相手はもしかしたら……」

 

灰原が口を閉じてセァラを(にら)む。コナンも同時に彼女の方を見た。セァラは2人の視線に気づいたが、あえて何も言わなかった。少年探偵団を連れてハンバーガー店に移動したセァラは、そこで元太の話を聞いた。コナンと灰原も、セァラを警戒しながら情報を聞き出している。

 

(まあ、当たりは付けられましたけど)

 

セァラはコーヒーを飲みながら目を細めた。相手は尾行に慣れていない素人なのだろう。気配も足音も消せていない。

 

(子供に気づかれるほどですから、そんなものだろうとは思っていましたが……拍子抜けです)

 

話を聞く限りではただのひったくり犯だ。捕まえようと思えばいつでもできる。

 

(しかし、コナンくんと哀ちゃんは……英語も分かるんですね。本当に見た目通りの年なのでしょうか)

 

明らかに先ほどよりも警戒している2人を見て、セァラは考え込む。その間に彼らは元太が見たTシャツを売った店を突き止めていた。その店に行って、話を聞いて、コナンが結論にたどり着く。彼は先に少年探偵団に作戦を話して、それからセァラを手招いた。

 

「ひったくり犯のことはボクたちで何とかするよ。だからお姉さんは何もしないで。……それとさ、本当の名前、教えてくれない? ボク、お姉さんのこと何も知らないから……」

 

コナンに耳打ちされたセァラは、穏やかな笑みを浮かべた。そして彼の耳元で(ささや)く。

 

「本名は秘密なんです。そういう決まりですから。ただ、彼らにはMr.sarah(ミスター・セァラ)と呼ばれています。日本では(しょう)沙羅(さら)の方が有名ですね。どちらでも、好きな方で呼んでくださって構いませんよ。どうせどちらも偽名ですから」

 

コナンが怪訝(けげん)そうな顔をする。彼は灰原と共に警察を呼びに行った。その途中、セァラの姿が見えなくなったところで、彼は声をひそめて問いかける。

 

「なあ、オメー知ってるか? ミスター・セァラとかいう名前の奴……」

 

「……知ってるわ。組織に逆らって生きている、数少ない人物の内の1人。殺すことも脅すこともできないから、組織にとっては厄介な相手だったらしいけど……まさか、あの人がそうだって言うんじゃないでしょうね」

 

「本人はそう名乗ってたぜ。まあ、偽名だとかふざけた事を言ってたけど……」

 

「あのね、工藤くん。ミスター・セァラはその筋じゃ有名で、名前を(かた)る犯罪者も多いのよ? 簡単に信じたらバカを見るわよ。あの身のこなしなら本物の可能性もあるけど、私は残念ながら会ったことがないの。そもそも1度会っていたとしても、彼女は変装の名人だから顔を見ただけじゃ確信には至らないわ」

 

「……ウソだろ」

 

コナンが冷や汗を流す。灰原は酷薄(こくはく)な笑みを浮かべて告げた。

 

「本当よ。組織にとっては都合が悪い人間だけど、簡単に殺せる人間じゃない。逆に言えば簡単に殺せた時点で、それは偽物なの。だから組織ではこう言われていたわ。彼女かどうかを見極めたければ、殺すつもりで戦ってみなさいってね」

 

コナンの作戦はうまくいった。ひったくり犯は捕らえられ、セァラはいつの間にか姿を消していた。そしてコナンは、灰原からジンの利き腕について聞かされることとなったのだった。

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