他人が見る夢   作:9Q

16 / 24
※原作の事件に関するネタバレがあります。ご注意ください。時系列はベルモット編の途中です。

※原作沿いですが展開はかなり変わっています。苦手な方はブラウザバックしてください。

















佐藤刑事のお見合い

セァラは恋をしたことがない。ミスター・セァラとして生きる彼女にとって、恋愛は致命的だ。だから意図して避けてきた。それに不満を感じたこともない。

 

(そもそもお父さんとお母さんも、別に恋はしていませんし)

 

結婚しているかどうかも怪しい。大体、彼女が継ぐまでセァラとして生きてきた父親に、まともな戸籍があるとは思えない。それでも2人は夫婦だし、とても仲が良かった。自分たちの子供に、セァラとして生きるかどうかを選ばせてくれた。良き父であり、良き母であった。

 

(……それはありがたかったんですけど、だからこそ分からないんですよね。こういう話は)

 

セァラはため息をついた。彼女の目の前で、コナンたちは佐藤刑事がお見合いするという話を聞いている。

 

(佐藤刑事、ですか。確か、あの新幹線護送事件の時に高木という刑事と一緒にいたはずですが)

 

等と思っていると、その高木刑事のことも話に出てきた。どうやら彼と佐藤という刑事は、そういう仲であるらしい。

 

(ええと……お見合いを止めたい、ということでしょうね、おそらく。……いいんでしょうか、そんなことをして)

 

どうにも話が飲み込めない。恋を原動力にして動いたことがないからだろう。訳が分からないまま、彼女はコナンたちを追って水都楼へと向かった。

 

(……というか、何故かベルモットも関わってきましたし。コナンくんと蘭さんを護衛してほしいという依頼は、彼女からのものです。今ここで何かするということは無いでしょうが、気になるのは確かですね)

 

新出医師の姿をした彼女は、コナンたちと共に鶴の間の隣の部屋に入った。セァラは部屋に入らず、外からこっそりと両方の部屋の様子を見ていた。そこで彼女は初めて、彼らがなぜ見合いのことを気にしているのか分かった気がした。

 

(……どこからどう見ても乗り気じゃありませんね、佐藤刑事は。嫌がる方に無理に結婚を申し込むのは、良いこととは言えません)

 

彼女の両親が愛し合っていたかどうかは分からない。けれど、信頼関係は確かにあった。夫婦とはそうであるべきだと彼女は思っている。白鳥警部の強引さは、恋心に由来するものではあるのだろう。愛されることが幸せだと思う人にとっては、そういう強引さもまた良いものなのかもしれない。ただ、佐藤刑事には響いていない。それでは駄目だと、彼女は思った。なので今回は、佐藤刑事の味方をすることにした。とはいえ別に、やるべきことがあるわけでもない。ただ、佐藤刑事の行動を見守るだけである。

 

(しかし……賭け、ですか。そういうのもアリなんですね)

 

佐藤刑事は白鳥警部から持ちかけられた賭けを受けて、制限時間も付け足した。そういう強さは好きだ。少し面白がりながら、セァラは2人のやり取りを見ていた。それが変わったのは、高木刑事がコンビニ強盗に遭遇したと聞いてからのことである。

 

(……コナンくんは高木刑事を助けたいのでしょうね。私も少し気になりますし……見に行ってみましょうか)

 

水都楼から抜け出して、現場に行く。それだけなら、すぐに()む。そう思って、セァラは走った。俊足の彼女なら、現場に着くまでには1秒もかからない。高木刑事がまだ聞き込みをしているうちに、彼女は容疑者が捕まっているパトカーの側まで来た。容疑者は今のところ、パトカーの中で大人しくしている。

 

(まあ、どの方がコンビニ強盗なのかは分からないんですが)

 

犯人を突き止めるのは、コナンと高木刑事の仕事だ。彼女が本当に警戒しているのは、その後のこと。相手が大人しくしていればいい。けれど、大人しくしていない場合は。

 

(……ああ、やっぱり)

 

コンビニ強盗が逃げ出す。彼女はそれを見逃さなかった。風のように駆け抜けて、取り押さえる。その場にいた刑事たちと容疑者たちが、驚いた様子で彼女を見る。

 

「この方、コンビニ強盗なんですよね? でしたらきちんと捕まえておいてくださいな。よろしくお願いしますね、刑事さん」

 

「はあ……ええと、ご協力ありがとうございます……?」

 

ニコリと笑って、太った刑事に引き渡す。彼は不思議そうな顔をして、拘束された犯人を引き取った。セァラは目を丸くしている高木刑事の方を見て、その手の中にある携帯電話に注目した。

 

「その電話。どなたかと、大切なお話をされていたのでは? どうぞ、お話を続けてくださいな。早くしないと、取り返しのつかないことになりますよ」

 

「あ! そ、そうですよね! ありがとうございます!!」

 

高木刑事はお見合いの話をすぐに思い出した。彼は少し慌てた様子で、電話の向こうにいる人に話しかける。

 

「とにかくすぐに向かいます! だから……待っててください、佐藤さん」

 

その言葉を半分も聞かないうちに、彼女は現場を離れた。来たときと同じように。当然、水都楼に着くのは彼女の方が早い。

 

(まあ、このくらいのことはしても構いませんよね)

 

恋をするというのがどういうことなのか。彼女には、まだ分からない。分からなくても構わないと思っている。彼らを助けた理由も単純。見過ごせないと思ったから。

 

(これは高木刑事が来るか来ないかという賭けでしょう。彼は来るつもりがあったのですから、賭けは佐藤刑事の勝ちです。偶然起こったコンビニ強盗は、賭けとは何の関わりもありません。……それに、すぐに対処できることは分かっていましたし)

 

コナンたちがいる部屋から出て再び戻るまで、さほど時間はかかっていない。ベルモットが妙な動きを見せていたとしても、対応できる自信はあったが……。

 

(何も起こっていないようですね。……良かった)

 

ベルモットは新出医師の皮を被ったままだし、コナンたちは相変わらず隣室の様子を(うかが)っている。じきに高木刑事も来るだろう。大したことがなくて良かったと、彼女は胸をなでおろした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。