5年後。セァラは1人、米花町を歩いていた。今日は朝からサイレンの音が鳴り続けている。
(どこかで何かあったんでしょうか)
通り過ぎるパトカーを見ながら、彼女は物思いに
(そういえば、この近くには警察署があったはずですが……彼らは事件の被害者なんでしょうか?)
彼女は立ち止まって、目の前を通り過ぎていく人々に目をやった。疲れ切った人々は、彼女が見ていることなど気にも止めずに、警察署の中に入っていった。セァラは何とはなしに、警察署に入っていく人々を見ていた。その中に見覚えのある人物がいて、彼女は目を見開いた。
(あれは確か……例の組織の人間でしたね。ベルモットと呼ばれていた……)
セァラはその人物を目で追った。彼はその視線を感じ取って、セァラのいる方向に目を向けた。
「どうかしたんですか?」
車から下りてきた刑事が、立ち止まった彼に問いかける。彼は笑って首を横に振った。
「いえ、何でもありません。これから事情聴取でしたよね。いつ頃終わるか分かりますか?」
「そうですね……日が沈むまでには終わると思いますよ。この後、何か予定でもあるんですか?」
「特に予定はありませんが、
「そうですか? では、こちらに……」
刑事が彼を連れていく。セァラは目を細めた。
(あの人、私がいることに気づいててわざと居場所を話しましたね? ……新出医院というのは、この近くの町医者でしょうか)
彼女はため息をついて、その場から立ち去った。
(組織に深入りするのはあまり良いことではありませんが、背に腹は変えられませんね。その医院の近くで、事情聴取が終わるのを待つとしましょう)
セァラは側の塀を登って屋根に上がり、屋根から屋根へと飛び移った。彼女はそれほど時間をかけずに新出医院を見つけると、屋根から飛び降りて側の繁みに身を隠した。彼女はそのままの状態で、何時間も待ち続けた。中天に昇っていた日が、ゆっくりと傾いていく。世界が赤く染まった頃、彼は自宅に帰ってきた。セァラは彼が目の前を通り過ぎた後に繁みから出て、声をかけた。
「こんにちは。こんなところで、何をしているんですか?」
「……仕事ですよ」
彼は苦笑を浮かべて振り返った。セァラは目を細めて話を続けた。
「その仕事は、昔からやっているものですか?」
「ええ。これ以外に取り柄もありませんしね」
「そうですか。……それで? なぜ私に、この場所のことを教えたんです?」
「……こんなことを、あなたに頼みたくはなかったんですが。あの子は無茶をしすぎているので……」
彼は名刺の裏に電話番号を書いて、セァラに渡した。
「個人的な依頼です。受けていただけるのなら、この番号にご連絡ください」
「……分かりました。前向きに検討しておきますよ」
セァラは言いたいことを呑み込んで名刺を受け取った。彼は深々と頭を下げた。彼女は無言で姿を消して、その少し後に彼も自宅に戻った。人に知られることのない2人の取引は、ここから始まることになったのだった。