ONE PIECE -Bounty Hunter-   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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Episode10 白い町の戦争

ジャンゴの仕事は賞金稼ぎがメインだが、時には傭兵にもなる。

ジャンゴの名声を頼って彼のもとに飛び込んでくる仕事は以前は山程あったが、今は彼自身が現地に赴いて仕事にありつかねばならなかった。

だがそれをジャンゴは悲観していない。

情報収集を怠らなければ、自分好みの仕事だけに注力できるからだ。

それに、今はジャンゴ以上にやり手の情報屋が、彼の専属として存在している。

 

「…本当にフレバンスへ向かうの?」

 

その凄腕の専属情報屋、ニコ・ロビンは渋い顔をしてパートナーを見ていた。

 

「ああ。あそこは、緊張が最高潮にまで高まっている。近々全面戦争になるだろう」

 

稼ぎ時だとバウンティ・ハンターは言う。

しかしロビンは全面的に賛成とは言えなかった。

確かに稼げるだろうが、危険が大き過ぎると思えたからだ。

 

「ウォッカ王国とかの方が、安全に稼げるはずよ。フレバンスには重度の公害が付きまとっている。その公害を巡って、色々と面倒な状況になっているのが白い王国……オススメはしない」

 

「その面倒な状況は、政府と天竜人達の関心が無くなり監視の目が無くなった事で起きた。俺もお前もフレバンスでなら動きやすいし、フレバンスは孤立しているが、富だけは蓄えている。滅び去る前に、毟れるだけ毟る」

 

パートナーのその言葉に、ロビンは「やはり…」という顔をした。

ジャンゴは圧倒的劣勢なフレバンスに与するつもりなのだ。稼げる…という言葉を言い訳にして、自ら劣勢の戦火に飛び込もうとしている。

まだ長い付き合いとは言えないが、ロビンは、ジャンゴ・フェットが抱える厄介な性質に気づき始めていた。

自分の命を危険に晒して、そのギリギリの境界を楽しもうという性質。

勝つために万端準備整えて、相手を思い通りに搦手にハメて勝つのを好む一方で、それを食い破られる事さえ楽しむ性質。

戦うことが生き甲斐である、伝説に謳われる〝マンダロリアン〟そのものの性質。

 

(…ジャンゴを支えて、なんとか彼を生き延びさせる)

 

そういう事も、ロビンの生き甲斐の一つになりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや〝白い王国〟フレバンスは、絞れるだけ絞り尽くしたと判断した世界政府も見捨てた国家だ。

事前に、ジャンゴとロビンが調べた限りでも、やはりサイファーポールの陰すら見当たらなかった。思う存分大暴れできそうだとジャンゴはほくそ笑む。

ジャンゴとて、自分がひっそりと活動している…と噂されているのは把握していたが、そもそも彼は拠点を定めぬようにしただけで隠れているつもりはない。

フラフラと根無し草をしているのも、レイリーとシャクヤクや、あの二人の近親者に迷惑をかけぬための処置でしかなく、レイリーとシャクヤクが危険に巻き込まれて本当に命が危うくなる…などとは微塵も思っていなかった。

今でもあの二人のロートルは強い。あの二人がつるんでいる限りは、あの地でバスターコールが発動しても夫妻は生き残れるだろう。

だから、ジャンゴ・フェットがスレーヴIを我が家として海を彷徨っているのは、万が一、億が一の保険でしかない。

賞金首の換金において、仲介業者を利用しているのは、政府の息のかかった連中から齎される〝面倒事〟を減らす為で、これも万が一の予防処置に過ぎない。

せっせと自らの手で大物海賊達を海軍に連行していたのは、自分の名を売るためだったが、それももう目的は果たした。

今や自分以上の賞金稼ぎはいないと世間に知らしめた。

この世界に、自分が生きたという足跡を…マンダロリアンは実在したという真実を刻み込んだ。

今では、ジャンゴがフルアーマー姿であり、かつ謎の多い人物であるのをいいことに、偽物の出現が後を絶たない程には、人々の記憶に焼き付いていた。

なので、どこにでも駆けつけてくれて、海軍との手続きも全て代行してくれる仲介業者の利用は、今のジャンゴにはとても便利だ。

 

今の流浪生活の理由はその程度でしかなく、ジャンゴは怯えて隠れ住むような男ではなかった。だから、ミホークとの決闘でも分かるように、彼は必要とあらば存分に暴れる。

己のマンダロリアンアーマーを見せつけるように、自分の生き様を人々の目に刻み付けるように、彼は何一つ悪びれる事なく表舞台で戦うのだ。

たとえ自らの首に賞金をかけられようとも、きっとそれは変わらないだろう。

 

 

 

だから、フレバンスの人々は呆気にとられた。

偽物がまた現れたのか、とすら思った。

四面楚歌の、もはや滅亡の二文字が目前に迫ったこの国に、新世界随一のバウンティ・ハンターが傭兵として…味方としてやってきたなど誰も信じられなかった。

 

「邪魔するぜ」

 

暗い顔だらけのフレバンス国軍の幹部達の前に、すっかり有名になったT字バイザーのフルアーマー姿の男がやってきた。

逃げ出した国王一家達ですら全ては持ち出しきれなかった、フレバンスの莫大な富。

どれだけ金を積もうとも、もはやフレバンスに雇われてくれる傭兵などどこにもいなかった。周囲を敵に囲まれ、国内には最上級に危険な感染病が蔓延していると思われている国なのだ。ここ数ヶ月で、この国を来訪した者はジャンゴ・フェットとその相棒の二人だけだ。

使い道の無かったそれを、今ここで使うべきかと軍幹部達も逡巡する。

この際、偽物でもいい。

藁にもすがる思いだった。

 

ジャンゴが提示した金額は、〝3000億ベリー〟。

残った国庫すら毟り取ってしまう、まさに法外な値段だった。

ふざけるなと軍幹部の誰かが叫んだ。

 

「全てを失いつつある私達から尻の毛まで抜くつもりか!ありえぬ!」

 

しかしジャンゴは、

 

「どうせ滅びる国だ。この金で、フレバンスの人々を一人でも逃がせれば…その血と意思を残せれば…それがお前達の勝利ではないのか?」

 

そう言った。

そうだ。

もはや、フレバンスという国には生き残る手立てはない。

感染病を振りまく国だと疑われ、追い詰められて狂って鉛弾を撒き散らす国だと疑われて、もうフレバンスは国としては終わっていた。

しかし、ここでフレバンス人が全滅しては、それこそ自分達は犬死にだ。

 

「俺は傭兵だ…人を騙し、殺しもするが、払われた金には義理を立てる。お前達が死蔵するその金で…お前達を裏切って逃げ出した国王一族の置き土産で…一人でも多くのフレバンス人を国外に逃がす機会をお前達は掴む。双方に利があると思わないか?」

 

ジャンゴは、常と変わらぬ平淡さで、しかしその内に確かな力強さを含む声色で断言した。

これでこの眼前の男がジャンゴの偽物でしかない詐欺師だったら、逆にその詐欺師の胆力を褒め称えよう…。そう軍幹部達が思うぐらいの、堂々たる戦士の姿だった。

フレバンス国軍幹部達は、ついに決断した。

一人の男に国家予算を注ぎ込む事にしたのだ。

それは、追い詰められた軍幹部達の狂気の決断だったのかもしれない。

しかし、少なくともこの賞金稼ぎは、不治の疫病渦巻くと評判のこの国にやってきてくれたのだ。

不気味な沈黙が長く続いた。

それは5分か、10分か、もっと長いかもしれないし、もっと短かったかもしれない。

不意に幹部の一人が口を開く。

 

「残った金など、どうせ周辺諸国に略奪されるだけだ」

 

それが口火を切ったようで、幹部達は次々に同意しだす。

 

「そうだな…どうせ皆殺しだ。国庫を保管していても…使うべき相手も…国民も皆死ぬ」

 

「なら、一傭兵に国家の全ての金を毟り取られようとも構わん」

 

幹部勢のリーダーが、一歩、ジャンゴへと歩み寄って、そして深々と頭を下げた。

 

「ジャンゴ・フェット…もう我が軍は…この国は終わる。その中で、我々に出来る事など自暴自棄になって敵に突撃するくらいだったが…君にこの状況が僅かでも打開できるというなら……我々の全てを利用して………〝世界〟に…!〝政府〟に!!我々の意地を見せたいんだ!!頼む!!その手伝いをしてくれ!!何でもやる!何でもくれてやる!金も!!我々の命も!!」

 

「…了解した。クライアントの希望は…最大限尊重する」

 

ジャンゴにしても、全てに絶望していたが故に、恥も外聞もなく一傭兵に全てを託し、涙と鼻水で顔面を汚しながら土下座までした軍幹部達の覚悟に()()()()()()ものがあったらしい。

金にがめつい訳では無い。ジャンゴが無茶な仕事に際して大金を要求するのは、それだけ準備に金が掛かるという事だったし、何よりも相手の本気の度合いを図り、そして相手の自分に対する誠意を見たいが為でもあった。

フレバンスに残された軍幹部と政治家達は、残された国家予算をジャンゴに惜しみなく与える決意をしてみせた。つまりは、ジャンゴに最大限の誠意を見せた。少なくともジャンゴはそう受け取った。

ジャンゴ・フェットは、誠意には誠意で応える…そういう男だ。

 

国境の全てを封鎖され、フレバンスと周辺諸国との状況を鑑みれば、全面戦争まで一ヶ月程度。

フレバンスの滅亡と、全国民の死はすぐそこまで来ていた。足音高らかに、死神は目前で笑っている。

「よし」とジャンゴは言い、そして短い期間だがフレバンス国軍の訓練を申し出た事に、軍幹部達はまた驚いた。

だが今回の決断は早かった。軍幹部は即座に認め、ジャンゴ・フェットを総軍の教導官としての役に任じる。

半ば破れかぶれではあったのかもしれない。だが、もしこの男が偽物の詐欺師ならば、こんなボロを出すような申し出はしないだろうという思惑もあったが、もはや彼らはジャンゴ・フェットに託すしかなかった。

 

「時間が惜しい。一週間で、お前達を使い物にしてやる」

 

ジャンゴは決然と言い放った。

その訓練で見た光景は、軍幹部も一兵卒も、誰一人ジャンゴ・フェットが偽物だと言い出す奴を消し去る程に凄まじいものだった。

全てが実践的で、全てが効率的で、そして激しく、苛烈だった。

だが激しい一方で、ジャンゴは兵士一人の離脱者も脱落者も出さない。

もとより、逃げ場などない死兵と化していた者達だったが、ジャンゴの訓練と訓示は彼らを本物の兵士に変えていく。

 

「お前達は何のために今を生きている!後世に意志を伝えるためだ!お前達は最後の砦だ!お前達は死ぬが、その死が、一人でも多くのフレバンス人の一縷の光に繋がる!死んだ家族の復讐の為に死ね!明日に託す為の、逃げ延びる同胞の為に死ね!世界に貴様らの意地を見せつけて死ね!世界に、フレバンスの魂を刻み込め!」

 

ジャンゴの言葉に、フレバンス国軍は狂ったように吠えて応えた。

 

「フェット教官!教官殿!やってやります!」

 

「そうだ!俺達は死んでやる!明日のために!」

 

「世界に、俺達を刻み込んでやる!」

 

「世界に、政府に見捨てられて、死んでいった家族の為に!」

 

「まだ生きている、あいつらの為に!」

 

ジャンゴは彼らを煽り立てて先導した。奮い立たせた。己と愛する人々の全滅という結末しか見えなかった未来に、一点の光が灯っていた。

一ヶ月という猶予の中で、ジャンゴは装備にも改良を加えさせていく。

未だ世界で主流だった単発式マスケット銃に、今できる最大限の改良を提案し、そして高い金属加工技術を持つフレバンスは一丸となってそれに応えた。

国民達も、残された政治家や軍人達の、絶望以外を宿した不退転の表情と、強い心が宿る演説を聞き何とか心の炎に薪を焚べる。

国家総動員で、フレバンスはジャンゴの要求した武具を整えた。

6連発式のリボルバーマスケット。

そして、総教導官ジャンゴ・フェットの鎧を模した、総珀鉛製のフルアーマーセット。

フレバンス国軍の殆どが、ジャンゴ・フェットを真似たT字バイザー型の兜を被る姿は、ジャンゴをして感慨深いものを抱かせる。

 

「武具の質は比べ物にならない。ソルジャーの練度も。…しかし、魂だけは本物の戦士達だ」

 

それはまるで、マンダロア戦士団の再来のような威容だった。

ジャンゴの心にも熱い闘志が漲るのを、彼自身感じていた。

 

そして、とうとうフレバンスと周辺諸国との全面戦争が開始された。

 

ジャンゴは兵らを鼓舞し自らも戦場を駆けて、そして上空からはロビンが操船するスレーヴIが容赦なく攻撃した。

全ての国軍と国民を、比較的包囲の薄い方角に集結させ、そしてその地を血路で開く。

単純明快な捨て身の戦法だった。

 

「フレバンス・アーミー!突撃(Attack)!怯むな!行け(Go)行け(Go)行け(Go)!」

 

「おれ達は、あのジャンゴ・フェットの教え子だ!ウオオオオオ!」

 

「フェット隊長に続け!!」

 

「フレバンスの為に!おれ達の珀鉛鎧の姿を…!目に刻んで死んでいけ!!」

 

まさに雨のような銃弾。

嵐のような砲撃。

見聞色で予測しようとも逃げられぬ程の密度の弾幕。

しかしジャンゴは、ベスカーアーマーと高レベルの武装色で、皆を守る盾のように先頭を突っ切った。

そして、負けじと嵐のような攻撃を展開して包囲網に穴を開けていく。

ジャンゴを先頭に、フレバンス軍が狂ったように突撃していき、そしてその後を、やはり理性を捨てたかのような国民達が、老いも若きも男も女も血眼になって走る。

 

()()()()!11時方向にサイズミック・チャージ!」

 

通信でジャンゴが叫べば、ロビンは要望通りに敵密集地に広域爆破カプセルを投下。

 

――BWANGGGGGGGG!!!!

 

周囲数kmが、美しい青白い光に粉砕され、敵陣地も敵兵も粉々になっていった。

 

「空を自在に飛んでやがる!!」

 

「な、なんなんだあれは!一発で、味方の大隊と陣地が消し飛んだ!」

 

「空飛ぶ、棺桶かありャ!?へんてこな形しやがって!」

 

「くそ!こっちの銃なんざ一発も当たらねェ!」

 

「鉄のバケモンだ…!!」

 

敵兵は恐怖に染まるが、それでも算を乱して逃げ出すような事はなかった。

 

「退くな!!踏みとどまれ!!」

 

「包囲を破られるわけにはいかない!!」

 

「感染者を逃がすな!」

 

「殺せ!ここで殺さなくては、我らの国に疫病が流れ込むぞ!!」

 

だが敵も必死だった。

敵達は、フレバンス人全てが感染病を患っていると信じていた。

敵兵にも家族がいて、そして家族を守るために必死だった。

しかしジャンゴにはそんな事は関係なかった。

 

「大佐!」

 

「は!」

 

ジャンゴは、フレバンス国に生まれついた歴戦の将軍のように振る舞い、そしてフレバンス軍の誰もがそれを受け入れて従っていた。

 

C隊(チャーリー)を率いて、森林地帯を攻撃!燃やして火の防壁にしろ!奴らを国民に近づけるな!」

 

「了解!」

 

A隊(アルファ)B隊(ブラボー)D隊(デルタ)は前進!」

 

「はい!」

 

E隊(エコー)からL隊(リマ)はここで遅れた国民を援護しろ!」

 

「お任せください!」

 

矢継ぎ早に命令を出しつつ、ジャンゴは単身、ジェットパックで戦場を縦横無尽に飛び回る。

そして、どこもかしこも味方が劣勢だが、特に食い破られてはいけない箇所の補強に目まぐるしく動き回り、そして隙あらば敵の弱い箇所に神出鬼没で現れては散々に食い荒らした。

 

「フェット隊長!後方で信号弾!」

 

「色は!」

 

「赤色二発!W隊(ウィスキー)全滅です!」

 

「よくやった…!」

 

フレバンス包囲網の一点に全軍と全国民を集中させた為に、当然後方からは他国が流れ込んでくる。

それを、一隊また一隊と、全滅必至の殿部隊を置くことで多方面の敵軍を遅延させていた。

残る殿部隊は十部隊。

ジャンゴは叫んだ。

 

「進め!!もうじき包囲網は綻ぶ!!一人でもフレバンス人を逃がせば、俺達の勝ちだ!!世界にお前達の名を刻め!!」

 

もはや戦場の熱気と狂気は、軍人だけでなくフレバンス国民の子供一人一人にまで伝搬する。

誰もが戦場の熱にあてられて突き進む。

 

「ロザッタ!サイズミック・チャージ!目標前方陣地!」

 

『サイズミック・チャージは虎の子よ。あと2発しかない』

 

「構わない。撃て!」

 

ロビンが通信機越しに、淡々と「オーケー」と応えた瞬間、スレーヴIの背部からカプセル状の爆弾が投げ捨てられた。

敵兵全てを恐怖させた、あの青白い閃光が再び瞬く。

 

「わ、わあああ!!!?またあれだ!!」

 

「どでかい鉄の蝿め!!!化け物め!!!」

 

「逃げろーーー!!!」

 

「逃げるってどこへ!!?」

 

「あ、あああ!?」

 

 

――BWANGGGGGGGG!!!!

 

 

特徴的な音と共に、敵包囲網の一角が再び消し飛び、直後に空飛ぶ巨大な棺桶だか蝿だかの無機質な怪物は、赤い光弾を狂ったように吐き出してジャンゴ達が突き進む道を切り開いた。

サイズミック・チャージによって陣に大穴が空き、そしてそれを埋めようと集まった兵士達を赤いブラスターキャノンが掻き分けていく。まるでモーゼの海割りだ。

大穴を穿たれ、割られ、掻き分けられ、開けた道を白銀の戦士に率いられた珀鉛の戦士達が一気呵成に突撃した。フレバンス国民達すら、雄叫びを上げてあとに続く。

連合軍は混乱に陥った。

 

「だ、だめだ…!止められない!」

 

「ひ、ひーーーー!!ジャンゴ・フェットだ!!」

 

「どいつもこいつも、ジャンゴ・フェットみたいな格好しやがって!!」

 

「もうだめだ!!包囲網が破られる!!」

 

「嘘だろ!?フレバンス一国に、連合国の包囲網が!!!?」

 

「うわああああ!!!?」

 

「誰か止めろ!止めてくれーー!!」

 

「この先にはおれ達の家族がいるんだ!!!おれ達の国が!!!!」

 

「ちくしょう!ちくしょおおお!!!」

 

大量の死者を出しつつも、フレバンスの人々の勢いは鈍らない。

全軍が死兵と化した、フルフェイスの珀鉛鎧に身を固めた戦士団は、ジャンゴ・フェットを先頭にとうとう包囲網を食い破ったのだ。

その日、世界がそれを目撃した。

珀鉛を産出するしか能のない、小さな国土の小さな国の意地を。

世界の目に、政府の目に、白い町の白い兵隊達の悪鬼の如き姿を確かに刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

最終的には、殆どのフレバンス人が死んだものの、確かに彼らの意地は結実していた。

フレバンス国軍、損耗率99%。

フレバンス国民、生存者数100名弱。

 

包囲網が破られ、それだけの数のフレバンスの残党達は外国中に一気に散る事になる。

それによる大混乱を起こしたのは周辺諸国だ。

凶悪な感染病と固く信じていたのだから、周辺諸国の更に外苑の周辺諸国が恐慌したのは当たり前だった。

勘違いの負の連鎖。

感染の疑惑の連鎖。

感染者の根絶戦争は、周辺諸国の遍く広がっていく。

大きな島に存在していた、フレバンスと周囲の国々は、島全土を巻き込んだ大戦争へと瞬く間に発展した。

 

そんな争いが数年続き、島外の外国達までが戦争に介入し、戦争は泥沼の地獄の模様を呈していた。

泥沼戦争が終わるのは、様々な国に逃げ散ったフレバンスの残党の一部が、医療大国ドラムに辿り着く日を待たねばならなかった。

賢王として名高いドラム国王は、医療大国の自負によって、王子ワポルの反対を押し切って感染者たるフレバンス人の亡命を受け入れていたのだ。

そして、自慢の医療団イッシー20(と、密かにDr.くれは)の名に賭けて、ドラム王国は珀鉛病を徹底的に研究し、そして根治は出来ないまでも抑え込みに見事成功する。

それをドラム国王が世界に向けて発信した事で、世界は鈍い反応ながらも少しずつ変わった。

 

「医療大国ドラムの名において宣言する!珀鉛病は感染病ではない!この病は、鉱毒が蓄積する事によって起きる公害である!呼吸によって接種した珀鉛の粉が、肝臓に徐々に溜まっていき―――」

 

ドラムの発表は世界経済新聞にも大きく取り上げられ、発表と異なる見解を示していた政府は懐疑の目を向けられる事になったが、政府の対応も素早かった。

 

「嘘の報告を世界政府にあげ、全国民と政府を騙したフレバンス王一族は、虚偽と裏切りの罪で一族郎党死刑となった。幾重にも重なった不運と不幸だったが、これから政府は被害者の救済措置に注力し――」

 

などという対応で、実に手慣れたトカゲの尻尾切りを行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレバンスからドラム国王に移住できた兄妹がいた。

兄は、妹よりも優れた気力と体力で、余命10年とくれはに告げられた時間を使って、せめて妹だけでも珀鉛病を根治させる手段を探す決意を固めていた。

 

「待ちなァ、ロー!逃がしゃしないよ!」

 

「う、うわ~~~~ッ!ば、ばあさんには感謝してる!…でも、おれはラミを絶対に治さなきゃいけねェんだ!!」

 

やたらと洒落た服で雪山に佇む老女が、防寒服を着込んだ少年を追いかけ回していたが、次の瞬間には少年の頭目掛けて包丁を数本投擲していた。

 

「ぎゃああ!?」

 

「ばあさんはよしな!あたしはまだピチピチの120代だよ!」

 

「う、うっせーー!!充分妖怪ババアだろ!」

 

「まだ言うか、クソガキ!戻ってきな!アンタもラミも、一旦預かったからには、ここで死ぬか全快するかだよ!」

 

「おれは、おれは…ラミを治す方法を見つけてみせる!そして、いつか珀鉛の戦士団みたいな、白銀の戦士様みたいな立派な戦士になる!!時代は海の戦士ソラじゃねェ!空の戦士ジャンゴだ!」

 

「寝言言ってんじゃないよ!ここでアンタが出てったら、残された妹はハッピーになれるのかい!」

 

雪山で元気に追いかけっ子をしながら、老婆と少年はどこまでも駆ける。

少年は確実に雪山を下山するルートへと突き進んでいた。

 

「…!だからばあさんに任せるんだ!おれの、おれのたった一人の大事な妹だから!!ばあさんには安心して預けれるんだ!!いいかクソババア!ラミに何かあったら化けて出てやるからな!死んだって幽霊になって出てやる!」

 

「誰がクソババアだクソガキ!」

 

「ぎゃあああああーーー!!じゃ、じゃあなばあさん!!元気でなーー!!うわあああああ!!!!???」

 

「……チッ。逃げられたか……」

 

転がり落ちるようにして、少年は遥か下方へ下山していく。果たしてこの方法を下山と呼ぶかどうかは人によるだろうが。

 

「…ふん、行っといで!次に会う時は…治療費としてアンタの財産半分貰うからね!しっかり用意しとくんだよ!!」

 

そして、落下していく少年に老婆は声援を送り見送る。これが、果たして声援と呼べる類のものかどうかは、これもまた人によるだろう。

老婆…ドクトリーヌくれはは、少年トラファルガー・ローに待ち受ける過酷な運命を知っているかのように、いつまでも少年の背を見送る。

 

「D・ワーテルロー……マンダロリアンが繋いだDの意志か。全くいつまでたっても楽しませてくれるね」

 

笑顔と共に漏れ出たくれはの呟きは、雪吹雪の中に静かに掻き消えていった。

 

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