ONE PIECE -Bounty Hunter-   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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Episode12 bad feeling

ジャンゴ・フェットの偽物は定期的に出没する。

人前に出る時はいつもフルフェイスの兜にアーマー一式を着込む為、ジャンゴの素顔やプライベートは謎が多くその神秘性を強めていたし、ジャンゴ本人もそれらを自分というブランドを高める演出にしていた節があったが、とにかくジャンゴとはそういう存在の為に見た目だけは真似しやすい。

殆どの者は、噂に聞くジャンゴの鎧の特徴を浅く真似ただけのジャンク品でしかなく、その殆どは詐欺紛いを繰り返した挙げ句に勝手に死んでいく。

以前はこうした偽物は、定期的にジャンゴ本人が間引いていたが、昨今は敢えて放置していた…どころか、ヘルメットを脱ぎ素性を隠して接触したり、民間経由で資金を提供し割の良い楽な仕事を斡旋したりなどで支援し多数の偽物を活躍させていた。

そのせいか、世間でのジャンゴの評判も目撃情報も錯綜しており、しかも偽物の中にはなかなかのやり手も混ざっていたりして一層世間を混乱させた。

政府も例外ではなく、多発する偽物達のせいでジャンゴ・フェット追跡の秘密任務に大いに支障をきたしだす。

時に賞金稼ぎとして、時に海賊に雇われた用心棒として、時に紛争地域の王国の傭兵として、フェットの名を持つバウンティ・ハンターは同時多発的に各地に出没し収集がつかぬ程だ。

最近では、革命軍に所属するフェットまでが出てきて、政府はその事実確認に常にてんてこ舞いとなっていた...。

 

 

 

 

 

「ジャンゴ!おれが突っ込む!援護頼む!」

 

了解(ラジャー)―――…走れ、バーソロミュー!」

 

無数の光弾が、ジャンゴの両手から一瞬で撃ち出されて、瞬く間に大城塞の防壁でマスケット銃を構える兵士らを撃ち殺す。

大城塞に立てこもる王党派と、反乱した市民軍の戦いは今日で三日目。

そして、増援としてジャンゴ・フェットと、彼が率いる小隊が到着した日でもあり、王党派の壊滅が約束された日でもあった。

バーソロミュー・くまは、ニキュニキュの実の力と怪力で王党派に大いにダメージを与えたが、革命軍の予想よりも大城塞は堅固であり、また王党派には多数の能力者がいたからバーソロミュー・くまも少々攻めあぐねていた。

もっとも、それはくまの優しい性格が仇になっていたからだ。

彼は市民に被害が出るのを最小限に食い止めたがって、しかも被害が出る度に自分の能力で被害者からダメージを排出させていた。

だが、くまがそういう消極的な戦術を市民軍にとらせていたのは、バルディゴからの連絡で「応援にジャンゴを向かわせる」と聞いていからでもある。

そしてくまの予測通り、ジャンゴと彼が鍛えた部下達が到着した瞬間に、一気に戦局は傾いた。

巨体を活かし、真正面から突撃するバーソロミュー・くまを、制空権をとったフェット小隊が上空から援護し、大城塞の砲兵達を空から多数虐殺した。

 

「リンドバーグは小隊を率い右側を片付けろ」

 

「了解!隊長はどうするんです?」

 

「おれはバーソロミューと突っ込む」

 

「あいあいさー!ご武運を!」

 

若きネコのミンク族、リンドバーグはジャンゴの装備にインスピレーションを受けて次々と新発明をしており、フェット小隊が装備する武装も大半がリンドバーグの手による。

当然ながら、リンドバーグも他の小隊メンバーも、その戦い方はジャンゴ・フェットからの薫陶を活かしたもので、ジャンゴの指示を受けたリンドバーグ達は、ジェットパックを吹かしてあっという間に飛び去った。

その様を、城塞の中庭を制圧し終えたバーソロミュー・くまが、感心して眺めている。

 

「この短期間で、よくもあれだけ鍛えたものだ。全員別人かと思うほどに強くなった……さすがはジャンゴ・フェットだ。噂なんて当てにならないと思っていたが、考えを改めたほうが良さそうだ」

 

「どんな噂だ?」

 

自分に対する噂など、良いも悪いもウソも真も…思い当たる節が在りすぎて、皆目検討もつかないとジャンゴは笑った。

フレバンスの一件だ、とくまは言う。

 

「あの一件が、ドラゴンの気を引いた。ジャンゴ・フェットは…色々な意味でタブーを恐れず、しかも筋を通す男だ…と」

 

「過大評価だな」

 

ジャンゴは嘯いたが、今度はくまが薄っすら笑いながら返した。

 

「過小評価だったとおれは思っているよ」

 

くまの笑顔に対し、鉄仮面で覆い尽くされた顔のジャンゴも恐らくは笑んで返してくれたのが、くまには雰囲気で分かった。

そして次の瞬間に、二人は鉄の大城門を破壊して城内になだれ込んだ。

瞬間、視界を埋め尽くさんばかりの鉛玉が、両者目掛け飛んでくる。

くまはそれらを肉球で弾いていき、気力でより硬化させた頑丈そのものの巨体で受け止めて、そしてジャンゴはそんなデカブツ(くま)を重戦車のように利用し、巧みにブラスターで反撃した。

10秒に満たないその攻防で、城内大広間にいた兵士達は物言わぬ躯と化す。

勢いそのままに、玉座の間にまで突き進めば、そこにはもう王の姿は無く、最後の幾らか残った親衛隊らしき兵達のなけなしの反撃があっただけだった。

 

「…逃げられたか?」

 

最後の親衛隊を倒したくまの呟きに、ジャンゴは「いや――」と短く返した。

ジャンゴの気配察知能力…極めて優れた見聞色と、そしてバイザーの生体反応感知が、哀れな王族の姿をつぶさに浮かび上がらせる。

 

「玉座を殴り飛ばしてみろ、バーソロミュー」

 

くまはのっしのっしと近づくと、勢いよくぶん殴る。

破壊され吹き飛んだ玉座の下は空洞だった。

そこには、この国の権力の頂点であり、富貴を貪っていた王侯貴族とは思えぬ無様な姿でうずくまって隠れる王族達が身を隠していた。

 

「ひ、ひいいいいいい!!?た、た、た…助けて、くれぇぇぇ…!」

 

「きゃああああ!わ、わらわ達にこんなことをしてぇぇ、た、ただで済むと思っているのぉぉ!?下賤な民の分際でぇぇぇ!!」

 

「ぎゃあああ!ち、父上ぇぇぇ!ここならバレないって言ったじゃないですか、父上ぇぇぇ!!」

 

王権の象徴であり、誰もが奪いたがり掠め取りたがっても、壊そうとは思わないのだ。

そういう判断の元、そのロイヤルファミリーはそこに身を潜めていたわけだが、バーソロミュー・くまとジャンゴ・フェットの二人がここに来てしまっては、どこに隠れようが何の意味もない事だった。

 

「民衆の怒りに晒された権力者など…哀れなものだ」

 

くまは、心底憐れむように言葉を吐いた。

 

「後の決着は…その怒れる民たちがするだろう。こいつらを煮るなり焼くなり、な」

 

何の感慨深さも感じさせぬ、ジャンゴの冷厳な声の背後では、猛る民衆達の怒号と足音が、まるで形を持った怒りそのものの波と化して押し寄せるようだった。

城が揺れる程の地響きが、確実に玉座に近づいて、王族達の震えは刻一刻と増していき、彼らの顔色は刻一刻と青くなって表情は恐怖に染まる。

この地での革命軍の仕事は終わったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャンゴは理想に燃える革命戦士などではない。

彼は利害の一致から革命軍に協力しているに過ぎない。

だが、義理堅い一面を持つジャンゴ・フェットは、一度任された仕事は全うする男だ。たとえ報酬が割に合わなくとも、それを承知で引き受けたのなら常にベストを尽くす…そういう男だ。

だから、ジャンゴは理想に燃える者が多い革命軍内でも、着実に、そして急速に存在感を大きくさせていった。

それに、ジャンゴ自身はリアリストではあるが、現実的なラインを見極め、それぞれが常に最良を考え実行し努力を怠らない理想家達の事は気に入りだしていた。

彼らの、理想に向かう歩みを止めぬその姿。それは遠い昔…自分達マンダロリアンを改革しようとした養父の幻影を、ジャンゴの脳裏にちらつかせる。

特にジャンゴが気に掛けるのは、何かと組む事の多くなったバーソロミュー・くまだった。

今ではドラゴン共々、ともに酒を酌み交わす事も多い。

当初は、〝友人はいらない。協力者さえいればいい〟という信条のもと活動していたジャンゴだが、どうもレイリーの影響か最近は友人のような親しさを持つ者が増えた。それに元々ジャンゴは、裏切り・騙しあいが渦巻くバウンティハンター稼業の戒めとしてその信条を抱いているのであって、生来の気性としては友を大切にし義理人情を尊ぶ男なのだ。

 

「今日の戦いも突撃がワンテンポ早かった…バーソロミュー、お前は死にたがりか?」

 

ジャンゴが苦言を呈すると、くまはメガネの奥の優しい瞳を、やはり優しそうに弧にした。

 

「おれは他人の何倍も丈夫だからな。それに、殆どの攻撃は肉球で弾いている」

 

「自分に攻撃を集中させたがっているのは明白だ。そんな戦い方は、自分の寿命を削る」

 

「…それで、横暴な王や貴族に虐げられている人達の盾になれるなら、別に構わないさ」

 

「ジニーも承知の上か?」

 

ジニーという単語に、くまは柔和な表情を強張らせた。

 

「…それは」

 

何か言おうとして、しかしくまは言葉に詰まる。

 

「自分の身を犠牲にし過ぎる事も、そして彼女の想いを受け入れぬ事についても…お前は、誰よりもお前のことを考えてくれている彼女の意見を何も受け入れない。ジニーの歳を考えてやれ。あいつは…女盛りの全部を投げ売ってお前を待っているんじゃないのか?」

 

ジャンゴは、自分の発言を「らしくない」と分かってはいるし、友人に指摘している幾つかの点はジャンゴ自身にも当てはまる欠点でもあるという自覚はった。ジャンゴも、今までの事を振り返れば何度もレイリーやシャクヤク、サウロにドール、そして現在進行系でロビンに様々な忠言を受けつつも是正しなかった部分は多くある。

それに、ドールやロビンに向けられている感情についても、とっくに理解はしていていたが、彼女らと世帯を持ち身を固め、妻子の為に安穏とした生活を追い求めるというのは、未だに受け入れる境地にはなれていない。

だが、それはそれとして友人にはよりよい人生の為にそういった欠点は克服して貰いたいと思うのが人情という奴で、それもやはり長く接し続けたレイリーとシャクヤクのお節介気質が感染ったのかもしれないと思ったし、それに何よりこの図体デカい同僚は人が良すぎる。

さすがのジャンゴも、この善性の具現化とでも言うべき男を放っておけなくなっていた。根っからのアウトローである自分と違い、この友人は幸せになっていいだけの権利を有している、とジャンゴは考えているのだった。

それに、そんな愚直で優しすぎる男をいつまで一途に待ち続けて、他の男に目移りせずに傍らに寄り添い続けるジニーも、ジャンゴは称賛すべき人間だと思っていたからこその言葉だった。

この二人は、このまま放っておけば間違いなく他人の幸せの為に自分を擦り減らして、他人の幸福の為の礎となって、自分達は報われずに果ててしまうのではないかと、そういう危惧を抱いた。

 

「だが…」

 

それでも、くまは戸惑うように何も無い地面を見つめるだけだ。

 

「バッカニアの血が、不幸を呼び寄せると思っているのか?」

 

「っ」

 

ズバリ確信を突かれた。

くまは、一部の友人には自分の出自を語っている。

それにジャンゴ・フェットはマンダロリアンの生き残りという噂はくまも聞いた事があったから、ある程度の交流を深めた時に、くまはジャンゴに聞いてみた事があった。

ジャンゴは、別段どうということもない、という風に、まるで井戸端会議の雑談のような気軽さで、あっさりと自分が古代マンダロリアンの直接の残党だと認めたのだ。

ジャンゴは自分がマンダロリアンの生き残りである事に対して、複数の感情を同時に抱き付き合っているのだった。

〝現代では、世界政府の敵として残党狩りを実行し尽くされて、古代種である事は厄介である〟

〝敗残しても尚、自種族のイデオロギーを堅持し、敵に膝を屈せず迎合しない誇り高さ〟

〝厄介であり、矜持であり、だが自分の自由意志を完全に犠牲にする程に重い価値を設定しないバランス感覚〟

それらの感情の並列処理をこなし、ジャンゴはマンダロリアンである事実と柔軟にうまく付き合っていた。

だから彼は賞金稼ぎなどをして、現代社会にも適応できていた。

これが、誇り高いだけのマンダロリアンの生き残りであったら、時代に適応できず、今や絶対的存在となった世界政府に真正面から楯突いて死んでいただろう。

敵意を抱きつつも、それを上手く押し殺して、時には政府からの仕事さえ請け負って、趣味とも言える闘争を愉しみ、時には美しい女を抱き、旨い酒、飯に舌鼓を打ち、だが復讐心も忘れきらずにチャンスがあれば世界政府の喉元に食らいついてやる気概。

器用さと不器用さと、繊細さと豪胆さと、優しさと凶暴性を同時に内包している。人とは誰もがそういう二面性を持っているものだ。

だが、くまは違った。

彼は、余りにも純粋で優しい。

自分の血が背負う宿業に生真面目に向き合い、周囲の人々への思いやりが度を越していた。

それらは全て美徳だったが、ジャンゴからすれば「堅く、そして真面目過ぎる」と映る。

くまが前半生で味わった苦難を思えば、くまが最愛の女を抱かぬという判断に至るのも理解出来るが、それでもジャンゴはくまはもっと良い意味で無責任になるべきだと思った。

 

「お前は、バッカニアである事を背負い過ぎだ。それに、ジニーと結ばれるという事がジニーを守る事に繋がるわけもない。お前がやっている事は()()()()()だ」

 

ジャンゴは、ことさら無駄である事を強調した。

普通なら、それは喧嘩を売っているとしか思えぬ行為だが、どこまでも優しいくまは少しも気分を害したようには見えないし、実際彼は怒っていない。それどころか、同じように歴史の影に消え去った古代種族であるジャンゴからそう言われる事は、くまの心には割合響きやすいのだ。

ジャンゴも彼の優しさを理解した上で、それでも敢えて強い言葉を使って忠告をしていた。それぐらいせねば、この友人は〝ジニーから離れるのが彼女の幸せに繋がる〟という考えを変えられないだろう。

 

「それに、よく考えろバーソロミュー。お前にくっついて革命軍に入った時点で、もはやジニーは世界政府と天竜人の完全なる敵対者だ」

 

「それは…そうだ。的を射ている」

 

「バッカニアの子を身籠っていようが、いまいが、ジニーは既に軍隊長にまでなって、その名もそこそこ世界に売れてしまった。…もう一度言うぞ。お前のやっている事は、無駄だ…バーソロミュー」

 

それにジニーの頑固っぷりはお前が一番分かっているだろう?と、ジャンゴはそうも言った。

確かに、一度言い出したらジニーは梃子でも動かない女だというのは、誰よりもくま自身が知っていた。

きっと、くまがこのまま彼女を妻にせねば、彼女は老いて死ぬまでずっと独り身を貫く。

くまは黙ったままに考え込んだ。

ジャンゴは思った。もう一押しか、と。

 

「最後にもう一つ…お節介をしてやる。俺は革命軍ともまた違った情報網を持っているのは、お前も知っているな?」

 

「ああ」

 

「さっきも言ったが、ジニーは革命軍隊長として名と容姿が売れてしまった。彼女の美しさに目をつけた天竜人が…彼女を狙っているようだ。彼女が、普通の他の男のモノになるならお前も納得出来るだろうが…その相手が天竜人となると、ジニーに待っている結末は幸福か?絶望か?」

 

「っ!」

 

「後悔は先にはやって来ない。後から、過去の己の判断を呪っても遅いぞ、バーソロミュー」

 

「ジ、ジニーが…天竜人に……―――っ」

 

くまは巨体を一瞬戦慄かせて、そして顔を青褪めて立ち尽くした。

最愛の人の余りにも恐ろしい未来が、結末が容易に想像できてしまい、くまは何も言えないままに歩き去っていくジャンゴの背を見送った。

ジャンゴの言葉は、今まで頑なだったくまとジニーの関係に、確かに一石を投じる事になる。

 

 

 

 

数日後、ジャンゴとくまは共に大型船舶に乗り、次なる目的地を目指して部下や大量の武器弾薬と共に海を進んでいた。

甲板から周囲の様子を探っていたジャンゴだが、その隣へ巨体の影がぬっとやって来た。

ジャンゴはちらりとその巨漢の顔を見ると、いつもよりも柔和な温度を薄くして、意を決したような強い表情をしていた。

 

「ありがとう、ジャンゴ。おれは…決めたよ」

 

「そうか」

 

ジャンゴは短くそう言っただけだった。

くまもジャンゴも、必要とあらば多く喋るが、普段は口数の多いタイプではない。そういう点もジャンゴとくまは似ていた。

二人は暫く無言で潮風に吹かれ南原水平線を眺めていたが、やがてくまが珍しい表情でニヤッと微笑んだ。

 

「それで、ジャンゴは決めないのか?」

 

「…何をだ」

 

「ロビンだよ。分かっているんだろ?」

 

どうやら、過日のジャンゴからの()()()に対するちょっとした意趣返しのようだった。

 

「彼女も、ジニーに負けず劣らず頑固で一途だ」

 

「いや、ジニーには負ける」

 

ジャンゴが即座に否定したのには、くまも少し吹き出して笑ってしまった。

 

「おれは臆病者だから、バッカニアの血の事でジニーの期待から逃げていたが…お前は違う。なんでロビンの想いに応えてやらないんだ?」

 

「俺の場合は、血だの種族だのの問題ではないからな。…問題は、俺の人格面だ」

 

「義理堅くて、最高の男さ。ジャンゴ・フェットは。人格はおれが保証するよ」

 

一切の淀みない澄んだ瞳で、面と向かってそういう事を言ってくる友人に、さすがにジャンゴも照れ臭そうな表情をしている筈だ。もっとも、くまからはヘルメットのせいでその顔は伺えないのだが。

 

「ジャンゴ・フェットに期待を裏切られた事は一度もない」

 

「それがビジネスだ。契約は裏切らないのが俺の流儀だ」

 

「契約と言っても、革命軍の仕事の報酬なんて賞金稼ぎ時代に比べたらスズメの涙だろうに。…君らしい、不器用な優しさだ」

 

「俺に優しさなどない。…確かに金目的じゃない事は認めよう。俺は、革命軍に属していれば殺し合いが向こうからやってくるから所属しているだけさ。マンダロリアンは、いつだって血に飢えている」

 

「なるほど。おれとは少し違う所で…古代種の血を恐れているんだな」

 

「恐れている?俺が?…ハッ、馬鹿な」

 

「そうだろう?自分の中に根付いたマンダロリアンの価値観…破壊と殺しの文化を継承して、拭い去れないと思っているんだろう?」

 

ジャンゴは言い返さず、くまの言葉を黙って聞いた。

 

「おれに言ってくれたじゃないか、ジャンゴ。自分の血を恐れるなと。それはつまり、血に染み付いた価値観も全部受け入れて生きる事なんじゃないのか?」

 

ジャンゴはくまの言葉を聞きながら、ただ静かに海原の果てを見つめ続けた。

 

「マンダロリアンが破壊を求める悪魔だっていいじゃないか。それを承知で…君の横に立ち続けて、生涯、人生を共にしたいと願っている人がいるのだから」

 

バッカニアである事を承知で、結ばれれば授かるかもしれない子供共々天竜人に狩られるかもしれぬ事を承知で、それでも一緒に立ちたいと願っているジニーがいるのだと、君はこの前それに気づかせてくれたんだ。くまは自分達の一族が信じる太陽の神様のような眩い笑顔でそう言った。

 

「…それに、おれだけだと不安というか…。だから、ジャンゴも巻き込まれてくれよ」

 

自分も告白するからお前もしろ、という、まるで少年同士の友人が青春の恋に突っ走るかのような青臭い事まで言ってのけるくまに、ジャンゴは溜息と共に笑みが漏れる。

やはりバーソロミュー・くまという男は、他者を優しい気持ちにさせるモノを持っている。

だからこそジャンゴも、彼にだけは人並みに幸せを享受して欲しいと願った。

骨の髄まで戦いと殺し合いにのめり込んでいる自分とは違って、彼は素晴らしい男だと確信していた。

 

「その図体と歳で、よくもそんな純情なセリフを吐けるものだ」

 

「し、仕方ないだろう…」

 

くまは今年で33歳。

ジャンゴの年齢は不明だが、おそらく同年代だろう雰囲気はあった。

戦線を共にする機会も多く、どちらも古代種族というせいもあったが、歳も近しいから二人はこうも真っ当な友人関係を築けていたのかもしれない。

 

「…まぁ、考えておこう」

 

くまに発破をかけた報いがジャンゴに迫ってきたらしいが、事はそう簡単でも単純でもない。

ジャンゴは、ドールという女の事を忘れたわけではない。

彼女の想いを知りつつも、こちらで簡単に、且つ勝手に決着を着けるのはドールに対する礼と義理を欠く。

それに正直に言えば、ジャンゴはどちらの美女への想いにも応えれる資格など自分には無いと決めつけていた。

一晩二晩の男女の睦言というなら相手にもなるが、ジャンゴはやはり家庭を築いてその大黒柱に納まるというのは想像も出来ない事だった。

くまはジニーと幸せになって、そして争い事とは無縁の地で静かに暮らすべきだ。くまに対してはそう思えるというのに、ジャンゴは完全に自分と自分を想ってくれる女の事は軽く見ていた。

〝こんな俺を愛する女なんていない。ドールやロビンの想いは、人生経験の少ない年若い少女が罹るいわば()()()のようなものだ。いずれ風化し忘れ去る〟。そう決めつけていた。

 

(俺には()()しかない…これしかな。バーソロミューのように、穏やかな暮らしが似合う男じゃないのさ)

 

腰の左右のホルスターに預けてある白銀の銃を抜くと、ジャンゴは愛銃たるウェスター34ブラスター・ピストルを指先でそっと撫でる。

ジャンゴの魂の奥底にまで、血と硝煙と、ブラスターの熱線が肉を焼き尽くす臭いが染み付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、とある王国。

そこの王権打倒に手を貸すために、革命軍の東軍部隊が派遣されていた。

率いるは、革命軍一の美人とも謳われる東軍軍隊長ジニー。

そしてその補佐をする副隊長は、テンガロンハットを目深く被った美人、ニコ・ロビン。

東軍にはこの二枚の大花が咲き誇っており、革命軍の中でも屈指の人気を誇る隊となっていた。

ロビンは、元々人との距離を詰めるタイプではなく、誰に対しても事務的にある程度の対応はしていたが、心を許していたのはジャンゴだけだ。

しかし、革命軍には大小差はあれど誰もが世界政府や天竜人に凄惨な目にあった事がある。

それもあり、1年も在籍していれば自然と打ち解けてきて、その中でも、彼女の直接の上司として配属されたジニーの存在は大きい。

口は悪いが心根はパートナーのくまのように優しく、そして兎に角へこたれずに快活で、一緒にいると男女問わず元気を貰える…そういう女性だった。だからジニーの人気は革命軍全体を見ても抜群で、東軍に至っては彼女の親衛隊のような熱烈なファン達すらいた。

今では、ロビンも彼女の事を姉のように慕っていた。

 

「ジニーさん、嬉しそう」

 

鼻歌交じりに小さなチキンを頬張って、手早く改造マスケット銃に弾を込めているジニーを見てロビンが言う。

ジニーは花開くような笑顔でロビンに向き直る。

 

「あれ…?顔に出た?――だって明日はさ…くまちーの部隊と合流だろ!?嬉しすぎて♡」

 

隊長の満面の笑みを見た部下達が、口々に囃し立て、そして羨んだ。

 

「いいな~~くま軍隊長」

 

「みんなの憧れに愛されて」

 

ヒューヒューという野次さえ飛ぶ。

 

「は!?ウチに憧れてんの!?キモ!!ガキ共が!」

 

ジニーは笑顔ながら飛び切りの罵声を部下達に浴びせかけるが、それでも部下達は皆笑顔で微塵も険悪ムードにはならない。

寧ろ、

 

「うわ、出た!♡」

 

「口悪っ♡」

 

などと言って喜んでいる素振りさえあった。

それは東軍の日常風景だった。

今では慣れた一連のやり取りと、そして余りにも素直にくまへの愛情を意思表示するジニーに、ロビンは釣られるように微笑んだ後に溜息をつく。

 

「隊長が羨ましい」

 

呟いたロビンに、部下達は今度は彼女の方に囃し立てるように話題を振った。

 

「今度は副隊長だ!」

 

「こっちはこっちで、フェット軍隊長を恋い慕っても口に出さない偲ぶ恋…溜息色っぽ~い!♡」

 

「鳴かぬ蛍が身を焦がす…秘められた情熱ーッ!」

 

「くま軍隊長もフェット軍隊長も、革命軍の美女トップ2に愛されて幸せ者過ぎる~!」

 

馴染み始めているし、ここの者達に愛着も抱き始めているロビンだが、こうもストレートに恋だのを囃し立てられるのは、クールな彼女を持ってしても気恥ずかしい。

姉貴分のジニーなどは「くまちーが大好きだけど、それがなにか?」と顔に書いて歩いているような神経の図太さを持っているが、ロビンはやはりまだ慣れない。

 

「黙って。茶化さないで。ニューカマーの仲間入りをさせてあげましょうか?」

 

だからこういう辛辣な照れ隠しも出る。

それにまだロビンはまだ16歳の年若く多感な年頃だ。後年の、何事にも動じない冷徹面はまだ取得しきれていない。

 

「うひ~!」

 

「怖っ♡」

 

「物騒ーッ!♡」

 

しかし、ここにいるのはジニーに色々な意味で鍛えられた東軍だ。

ロビンの威嚇などなんのその、股間を守るように隠して本気で震えつつ何故か喜んで黄色い歓声を上げるという猛者揃いであった。

 

 

戦場であることを思わず忘れてしまいそうになるくらいの穏やかな時間。

信頼できる仲間達。

頼れる姉貴分。

そして、離れた戦場にいるとはいえ、確かな想い人の存在。

全てが、オハラの悲劇で味わった痛みを和らげてくれた。

今、ここにある全てがロビンは好きだった。

 

しかし、何事も永遠などない。

太陽が沈み、夜の静寂が忍び寄るように。

栄華を誇った強大な王国が滅び去り、歴史の闇に葬られたように。

どんな不幸にも絶望にも終わりがきて、そして希望が輝くように。

どんな幸福にも終わりがやってくる。

 

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