ONE PIECE -Bounty Hunter- 作:ハンマーしゃぶしゃぶ
またぞろ新たな強豪海賊が七武海入りをするぞ、と世界経済新聞が騒ぎ立てていた頃。
最近、立て続けに大物海賊や大型ルーキーの賞金首が狩られていた。
やったのは、どれこれも同じ賞金稼ぎだ。
特徴的な銀と青の装甲服に身を包み、背負う機械から炎を吹き上げながら空を自在に飛び回るその賞金稼ぎは、すぐに人々に覚えられ、そして民衆からは称賛され賞金首達からは恐れられた。
彼の名はジャンゴ・フェット。
古代に滅んだ伝説的種族〝マンダロリアン〟の生き残りだった。
その種族は、バッカニアやルナーリアと同じように〝政府〟によって歴史の闇に葬られたのだが、彼らの一部伝説と文化…つまりは非常に獰猛な戦士集団であり、『血に飢え、殺し合いに魅せられた悪鬼のような種族』という伝説は後世に伝わっていた。
海賊や傭兵、各国の兵士達に、分かりやすい戦士文化であるマンダロリアン伝説はウケが良く、伝説にあやかる風習が浸透し残った。
ややマニアックな部類で、メジャーで大衆受けするおとぎ話ではなかったが、マンダロリアン伝説を聞きかじり武名にあやかって、全身鎧の二丁拳銃スタイルだとかを真似する〝熱心なフォロワー〟さえ時偶現れる程だった。その殆どは、ただのコスプレ野郎で実力はまるでマンダロリアン伝説に伴っていなかったが。
だが、ジャンゴが本物のマンダロリアンなのか、それとも偶に現れるマンダロアのフォロワーなのか…そんな事は世間の大多数の人々にとってはどうでもよい事だった。
多くの人にとって重要なのは、大海賊時代という時代の中で、海軍にも世界政府にも手に余る猛者達がひしめく海賊達を、金さえ払えば狩ってくれる強者が出てきたという事だ。
正直に言うと、賞金稼ぎという者たちは当てにならないのが現状だった。
殆どの賞金稼ぎは、数百万ベリー級の小粒な犯罪者を相手にし、日々の生計を立てていて、数千万とか、ましてや億超えの大犯罪者・大海賊を狩れる力量は無い。そういうレベルの者達が大半を占める。
大海賊を狩れるレベルの戦士は、ほとんどが海賊か、或いは海軍に所属するのが、現代の大海賊時代という奴だった。
実力者は海賊になってしまった方が甘い蜜をすすれるし、海賊にならぬのなら海軍に所属して出世してしまえば、充分な給料や様々なバックアップがある。大勢力である政府が味方であるのも心強い。
市民の味方であるその海軍であるが、大将級ともなれば四皇とも張り合えるし、市民が礼金など出さずとも ――加盟国市民ならば既に天上金という血税を支払っているのだが―― 無償で出動もしてもくれる。
だが、海軍は政府のコントロール下にあり、政治的事情で時に犯罪者は見逃されたり等、海軍が動かぬ事例も多かった。
そんな中、賞金稼ぎは違う。
情報をタレこめば、犯罪者の首にかかった金目当てにやってきて、確実に戦ってくれる。
問題があるとすれば、町に被害が及んだ際のアフターケアなどがなく、そして大物相手には尻込みする点だったが、ジャンゴ・フェットの出現は少なくとも後者の問題を解決した。
彼は、一度ターゲットに定めた賞金首を必ず追跡し、捕縛し、または殺した。
彼は愛船スレーヴIで自在に海中を移動し、背負うジェットパックは、領域を問わず全空での高速飛行を可能とする。
種族で知的生命体を差別する価値観もなく、必要とあらば金払いの良いジャンゴ・フェットは、魚人島も自由に通過できる男だ。つまり、彼は海中と空中とを自在に移動して、この世界のどこにでも依頼とハンティングの為に訪れる。
ジャンゴ・フェットだけが、カームベルトもレッドラインも超えて、全ての海に賞金を求めて現れてくれる民衆の味方だった。
ジャンゴは安っぽい正義感などで動くヒーローなどではない。彼は金と、そして自身の戦闘者としての名誉と、少しの友情を重視したし、義侠心というやつも持ち合わせている。民衆の味方であるのは結果論に過ぎないが、その結果が民衆にとっては何より大事だ。
「あ、あぁ、やめろ!やめてくれ!それを奪われたら…もう冬を越せねぇ!これ以上は、もう無理だ!」
「げははは!知るかよ!おれたちは海賊だぜ!?それにここらは天上金も収めていねぇ非加盟国!貴様らには人権はねェのさ!」
「ひっひっひっ!そうそう!それによォ…冬越えの心配なんざ、もうテメェはしないでいいんだぜェ!?だってもう…死ぬからなァ!!」
「う、うわァーーーー!!!た、助けてェーー!!」
「わーん!お母さーーん!!」
「きゃーー娘を放して!」
村が襲われていた。
それはありふれた光景でしかなかった。
天上金を収めねば人権は認められず、天竜人に虐げられる。
しかし、たとえ天上金を払って貧乏暮らしをしつつも健気に生きても、運悪く海賊に襲われれば何もかもが破滅だ。
この村は、天上金を収める事が出来なかった時点で破滅が約束されていたはずだった。
だが、天上金を収めるよりも安く、希望を紡ぐ方法が幾らかある。
それは傭兵を雇うことだ。
決して安くはないが、しかし天上金のことを思えば格安と言えた。
普通なら、賞金稼ぎなどを傭兵として雇うのは、依頼をするのからして簡単ではない。
賞金稼ぎは常に世界中を放浪しているし、彼らをまとめあげるようなギルドも存在しないから、クライアントは自力で傭兵を探し出して交渉する必要がある。
著名な組織や国、紛争状態が長い地域などには、賞金稼ぎ達は自ら訪れて傭兵としての活動をしてくれるから雇い入れるのは容易だが、そうでない田舎の辺境は、賞金稼ぎとコンタクトをとるのはなかなか難しい。
そういう場合、大抵は比較的近場で大きめの町の酒場などに募集要項だとか依頼書のポスターを貼っつけて、それを流れの賞金稼ぎ等に見てもらう方法がとられた。もう殆ど、運任せのギャンブルと同じだった。
しかも、大枚をはたいて雇ったところで、世の多くの賞金稼ぎ・傭兵よりも海賊のほうが強い…というパターンは定番で、分の悪いギャンブルだったのだ。
いくら天上金より安く済んでも、傭兵が返り討ちにあってしまうなら、やはり殆どの市民は大人しく天上金を絞り出す方を選んだ。
それらの問題点を一挙に解決してくれる者がいる。
やはりというか、ジャンゴ・フェットだった。
ジャンゴ・フェットは、四つの海、グランドライン問わず神出鬼没であり、辺鄙な田舎の場末の酒場にすらフラッと現れては依頼を物色した。
「派手にやっているな、
「っ!?うお!?だ、誰だ!!!」
空気を裂く高音が響いたと同時に、海賊の振り上げたカットラスが赤い光に溶断された。
怒りとともに振り返った海賊だが、乱入してきた者の姿を見てすぐに顔を青ざめさせた。
「…!!?ぎ、銀色の全身鎧…二丁拳銃…!ま、まさか…っ!!!!」
「ジャ、ジャンゴ・フェットだーーー!!!」
「ジャンゴ!?本物か!?マンダロア伝説のファンボーイじゃねェのか!」
「だ、だが、あの青と銀のヘルメット…!世経の写真で見たことがあるぞ!本当にジャンゴ・フェットだ!!」
海賊達が震え上がり、村人達は歓喜に包まれる。
「あ、あんな鎧、誰だって真似できらァ!本物のジャンゴ・フェットが、こんなチンケな村に来るわきゃねェ!奴はグランドラインを狩り場にする賞金稼ぎだぞ!?」
「そうだぜ!偽物に決まってる!!しゃらくせえ、てめェらやっちまえ!!」
海賊達は己を鼓舞し、幾らかの覇気を漲らせてジャンゴへと襲いかかった。
そこそこの実力を備えている海賊達であるらしかったが、その程度ではマンダロリアンとして鍛え上げられた古の戦士の技には敵わない。
――BRAZAAM!!
特徴的な銃撃音が、瞬きよりも早く寒々しい村の空に響き渡る。
まさに常人の目では捉えることも難しい程の早撃ちだった。
全力で駆け寄り襲ってくる海賊の脳天に、心臓に、首に、悪漢達が走るよりも速く正確無比の光弾が放たれていく。
「光る銃弾…!あ、あの早撃ち!!」
「こ、こいつ…本物、なのか…!!?」
「間違いねェ…ほ、本物のジャンゴ・フェットだ!!」
「せ、船長、どうしやすか!!」
船長と呼ばれた、一際体躯の立派な体毛の濃い男が、「うぬ」と唸る。
「あのジャンゴ・フェットだっていうなら…ここでおれが殺りゃあよ…ぐははは!おれに箔が付くってもんよォ!」
冷や汗を垂らしながらも、船長は猛然と突っ込む。
「さすが船長ォ!!そ、そうだ、おれ達の船長なら…!!」
「船長は7000万の懸賞金の実力者…!見聞色の覇気だって使えるんだ!」
きっとおれ達の船長は、見事な見聞色でバウンティハンターの銃弾なんて避けきってしまう。
以前にも、敵の刃を余裕綽々で無手のまま避けるという離れ業を、船員達にパフォーマンスしてくれた船長だ。
懸賞金こそまだ7000万ベリーだが、その実力は億のクラスであり、すぐにでも億の大台に乗る未来の大物海賊だと船員達は信じていた。この船長自身もそう信じていた。
「死ねェェェジャンゴぉ!!!」
――BRAZAAM!BRAZAAM!BRAZAAM!
船長の見聞色による先読み。
それは確かに未来を教えてくれたが、ジャンゴはさらにその上を行く。
船長が避けた先に打たれたブラスターは、3発ともが船長の急所を貫き、その海賊は物言わぬ骸に成り果てる。
決着はあっさりとついたのだった。
その後は、いつも通りの見慣れた光景となる。
頭目を失った海賊団は、野犬の群れと同じ。
特に、頭目をあっさりと殺した男が目の前にいるなら、もはや海賊団は村人からさえ逃げ回る臆病者に成り下がった。
「悪いが一人も逃しはしない。そういう依頼なんでな」
一人一人撃ち殺していってもいいが、それが面倒に思えたバウンティハンターはヘルメットの照準アンテナを引き下ろすと、散り散りに逃げていく海賊達をマルチロックし補足する。
腕の
鳥が囀るような音を立てて飛んでいく様から〝ホイッスリング・バード〟と命名されたこの武器は、豆粒のようなサイズの一発一発が人を充分に殺す炸裂力を有している。
数秒後には、20数人いた海賊達はけたたましい音を立てながら殺人小鳥に啄まれ肉塊へと変じた。
凄惨な殺戮現場となったが、それでもつい数分前まで村人は全員が犯され殺される寸前だったのだ。このグロテスクな事件現場は、むしろ村人に歓呼で迎えられていた。小さな子供さえも肉片を踏みにじりながら、涙を流して喜んだ。これが大海賊時代の素直な姿というやつだ。
「あ、ありがとうございます」
村長だか長老だかに見える村の老人が、よろよろと歩いてきて頭を下げた。
手には、900万ベリーが詰まったカバンを抱えていた。
詰まっていた札束は、どれもこれも薄い血や汚れが付着してシワだらけで、まさに血と汗の結晶というやつだろう。
自分という賞金稼ぎを雇うために、血汗の滲む金を掻き集めたに違いない。受け取らないという選択肢は、ジャンゴにとってかえって不義理でしかなかった。
「確かに」
ジャンゴはそれを悪びれる事なく、当たり前の報酬としてしっかりと受け取ると、いつものように賞金首の死体をファイバーコードで簀巻き状にして担ぐ。
ジェットパックが火を吹いた。
空へ舞い上がるバウンティハンターを、村人達は見惚れながら歓声でもって見送る。
900万ベリーは、貧困の村人にとっては死活問題の金額となる。
しかし、ジャンゴ・フェット程の戦士を雇う金額となると、それは破格過ぎる値段設定と言える。
ジャンゴは決してヒーローではない。寧ろ彼はそんな陳腐な存在を嫌う。
しかし、少しの慈悲を迂遠に滲ませる…そういう不器用なやり方をする男でもあるのも事実だった。