ONE PIECE -Bounty Hunter-   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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Episode3 八宝水軍

東西南北、4つの海と、グランドラインとを数えて、この星の5つの大海において最も優れた賞金稼ぎは誰かと聞かれれば、誰もがこう答える。

それはジャンゴ・フェットだ、と。

しかし、その陰の功労者がシルバーズ・レイリーとシャクヤクなのは、誰よりもジャンゴが理解していた。

 

特徴的なボディアーマーに身を包んだ、謎多きバウンティハンターは、今では世界随一の賞金稼ぎとして名を馳せていたが、幾ばくかの年月を遡った頃…レイリーと出会った時のジャンゴは、大怪我を負って暗黒街の裏路地に倒れていた。

そこを偶然レイリーに助けられた。

出会った時、ジャンゴはまだ若い戦士に過ぎず、とある事情により世間の事情にも疎かったし、肉体も不調で、それ故に不覚をとったらしかった。

海賊王の死を切っ掛けに一線を退いたとはいえ、まだ全盛期の領域にいた〝冥王〟と出会えたのは幸運だったろう。無事にそこから連れ出され、シャクヤクの酒場に運び込まれたのだ。ジャンゴとレイリー、そしてシャクヤクとの付き合いはそこから始まる。

 

まるで「死に損なった」と顔に書いてあるかのような若きジャンゴを、レイリーとシャクヤクは放っておけなかったのか、二人の元大海賊は彼の仕事の斡旋のような事をし始めた。この二人にとっては、その程度の手伝いなど軽いものだったし、ジャンゴの正体にも多少興味があったのだろう。

鍛え上げられた鋼のような肉体に無数に在る傷跡は、ジャンゴが既に歴戦である事を雄弁に語る。

なによりレイリー達が気になったのは、彼の肉体に描かれた瘢痕文身だ。

まるで古代のルナーリア、バッカニア、或いは巨人族か。それらの文化圏全ての特徴を混ぜ込んだような、オリエンタルで神秘的なタトゥーが彼の首筋から二の腕にまで刻まれていて、特に目を引くのは悪魔のような怪物の髑髏の紋様だ。

 

「それは…ミソソー?まさか君は…」

 

レイリーだからこそ知っていた秘された歴史の知識。

歴史の闇に消えた古代種族の一。マンダロリアン。その名は、伝説上の悪魔のような戦士達として多くの血生臭さい神話を残し、戦うこと、殺すことを生業とする者に些かマイナーではあるが受け入れられている。

だが、古代の戦闘民族が実在し、彼らが信奉していた怪物〝ミソソー〟の名を知るのは、海賊王の元クルーと、知が集まるオハラの学者か、或いは天上に住まう神気取りの老人達ぐらいだろう。

もっとも、知っているとはいえレイリーもただその単語を()()()というだけだ。マンダロリアンの詳細等は、世間一般以上の情報はほとんど無く、冥王でさえも深くは知らない。

 

「俺の正体を詮索しても、あんた達に幸福は訪れないだろう。やめておいた方が良い」

 

「伊達に年取ってないわよ。私達だって修羅場をくぐってきたんだから、そんな事気にしてないでジャンゴちゃんはゆっくり休みなさい」

 

伝説の中からひょっこりと顔を出してきた、ぶっきらぼうな若き戦士を、シャクヤクは年の功と母性とで受け止めてやった。

レイリーもシャクヤクも、重いモノを抱えているであろうマンダロアの戦士を、それ以上は詮索せずに静かに受け入れた。

そこから、年月をかけて交流を重ねれば、ジャンゴとて命の恩人でもある彼らに幾らかの心は開くのは当然だった。

今では、年の内半分程はレイリーとシャクヤクの酒場を拠点にするぐらいに、ジャンゴは彼らに信頼を寄せている。ジャンゴは決して口にはしないだろうが、第二の父母とさえ思える程だった。

 

「ジャンゴちゃんも家庭を持ちなさいよ」

 

「妻がいると丁度いい具合に手綱を握ってくれるぞ、ジャンゴ君。かくいう私も、シャクヤクに手綱を握られていないと、地に足が着かない性分でね。君は私タイプだからな…素晴らしい女に妻になってもらい、そんな女に自分の子を生んでもらえば、少しはジャンゴ君も落ち着けるんじゃないか?」

 

「あら、レイリー。子供欲しいの?今からでも生んであげましょうか?」

 

「んん?ああ…いや、今のはジャンゴ君の事で…ごほん。とにかく、まぁオススメはしておく」

 

「…考えておく」

 

このように、ジャンゴの身を案じて故か、非常に家庭臭い事を言ってきたりもする仲となっていた。

そういう恩義と友誼があるから、ジャンゴはこの二人が斡旋する〝依頼〟への選定基準は大分甘い。

ほぼ赤字、よくてトントンの、まるでただの人助けのような格安の仕事も、レイリーの頼みなら引き受けた。

以前に引き受けた、貧しい村の救済のような仕事も恩人経由のものだ。

 

そんなジャンゴだが、今や売れっ子であるこのバウンティハンターに舞い込む仕事は、シャクヤク経由のものだけではない。

時には大国から、名指しの仕事も舞い込んだ。

彼は仕事が無い時はもっぱら賞金首を狙って動くが、時にはそういう大手の仕事として戦争に赴く事もある。

今回のジャンゴの仕事は、ずばり戦争への参加だった。

即ち、傭兵としてのビジネスだった。

場所は、西の海・花ノ国。

精強な水軍を保持する花ノ国への攻撃を、周辺諸国が闇ブローカーを通じて傭兵に依頼を出し、そしてそれをジャンゴは受諾した。

接敵の初手、ジャンゴはスレーヴIによる海戦を仕掛ける。

と言っても、それは洋上で対等に戦うものではない。

潜水能力を有するスレーヴIによる、海中からの一方的かつ圧倒的な虐殺からそれは始まった。

 

「敵はどこだ!どこから攻撃されている!!」

 

「船が…次々に突然爆発する!能力者か!?」

 

「う、うわあああ!!!?」

 

ベガパンクの戦闘艇のような、超ハイテクの火器管制装置が、花ノ国の帆船らを無慈悲にロックする。

 

「七面鳥撃ちだな」

 

ジャンゴが小さく呟いた。

ジャンゴは、いつもの無骨なT字バイザーメットを脱ぎ、ヘッドセット姿で、不敵にニヤリと笑う表情が剥き出しだ。

冷徹な目で、次なるターゲットをサイトの中央に捉え、トリガーを引く。

ジャンゴの指先一つで、海中でも全く威力が減衰しないブラスターが、敵の船を船底から引き裂き、燃やす。

また一隻、爆破炎上して洋上のゴミとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おお…なんたる事だ。これでは花ノ国の海軍は…!」

 

花ノ国の将軍は、惨憺たる自軍の有様に生気を失っていく。

西の海でも、その海軍力を誇っていた強国であった花ノ国だが、今回の海戦で負った正規海軍の被害は尋常一様ではない。

この損失から立て直すだけの労力、年月、費用。そのどれもが、まさに国が傾くレベルのものを求められる。

当面は、私掠船軍団である海のギャング達に全面的に依存せねばならないであろう惨状だ。

 

「しょ、将軍!い、勢いに乗った敵が突っ込んできます!」

 

伝令が狼狽しながら言えば、将軍は吠えるように部下達を叱咤した。

 

「まだ本隊は健在だ!我らの底意地を見せつけてやれ!それに、もうじき応援が来る!それまで踏ん張るのだ!応援は、あの英雄ガープとすらやり合って来た八宝水軍だ!それまでの辛抱だ!!」

 

「お、おお!あの八宝水軍が!」

 

「そうだ!海軍本部の、あのガープとすら渡り合った八宝水軍なら!」

 

「花ノ国の誇り…!八宝水軍が来てくれるぞ!!」

 

「や、やってやる!!」

 

私掠船軍団である八宝水軍は、花ノ国の正規軍よりも花ノ国民達に広く知れ渡る英雄達。

それが既に増援として駆けつけてくれているなら…と、花ノ国の兵達は壊滅的だった士気を踏ん張らせて、これまでで最も大規模な敵国の突撃を迎え撃つ。

敵味方の船がぶつかり合う程に入り乱れ、接舷し、突撃兵が湾曲刀片手に乱入する。

そしてこれが花ノ国にとっては功を奏する形になる。

海中からの激しい攻撃が止まったのだ。

 

「…こうも敵味方が近くで入り乱れては、スレーヴIで仕掛けると味方も吹き飛ぶか」

 

一人、船内のコクピットで呟いたジャンゴは、手早くマンダロリアンのブラストヘルメットを装着すると、特徴的なT字バイザーのカメラアイが鈍く光る。

ジャンゴは、敵との戦闘を楽しむ事もあるが、それを主眼とする戦士ではない。

ジャンゴは敵を的確に追い込むハンターとしての気質が強かった。

特に戦場では、卑怯というのはただの褒め言葉でしかなく、彼は容赦なく不意打ちや闇討ちもする。戦士である以前に、ソルジャーであった。

浮上し、ハッチを開放した一瞬にジャンゴはジェットパックで飛び出した。

風を裂きながら、猛烈な炎を吹いて銀色の狩人が空を飛ぶ。飛びながら、一方的な攻撃で敵を蹂躙した。

 

「っ!空から敵が!!」

 

「なんだ、あいつは…!悪魔の実の能力者!?」

 

「う…ま、まさか…!あ、あの銀色の鎧…!」

 

花ノ国の兵達がざわめきだし、そして敵国の兵達は猛る歓声でもって彼を出迎えた。

 

「ジャンゴ・フェット!」

 

「ジャンゴ・フェットだ!!」

 

「最強のバウンティハンター…ジャンゴ・フェット!!」

 

「や、奴は、本物のマンダロリアンって噂だぜ…!」

 

「そんなわけがあるか!マンダロリアンなんて、所詮は伝説だ!クラバウターマンとかと同じ与太話だ!!」

 

花ノ国の間に動揺が広がり、そしてジャンゴ・フェットの強さは噂以上だった。

ブラスターの二丁拳銃が連射され、そして一発一発が的確に花ノ国の兵の命を奪う。

近づくことすら出来ず、ジャンゴ相手にはただ一方的に撃ち殺される。

まさに、伝説から抜け出てきたマンダロリアンのようだった。ジャンゴの前では兵達は的でしかない。

盛り返しかけた士気が、もはや取り返しのつかぬ程に綻びだす。

その時だった。

 

「そこまでやい!!」

 

覇気漲る、実に野性的な体躯を誇る武芸者然とした男が、甲板に乱入する。

ジャンゴは、即座に着地と同時にそいつの頭目掛けて、挨拶代わりのブラスターを見舞った。

 

「うお!?て、てめェいきなり撃つとは!!名乗りぐらいさせんか!!」

 

「これから死ぬやつの名前に興味はない」

 

ブラスターがまた火を吹いた。

薙刀を持ったそいつは、凄まじい速さで得物を薙いで光弾を弾いてみせ、それを見たジャンゴは警戒心を一段高める。

 

「はっ!せっかちな野郎だやい!おれの名は、八宝水軍次期棟梁、ロースゥ!おれが来たからには、花ノ国の同胞達よ!任せろやい!!」

 

その気風の良さに当てられて、花ノ国の将兵の顔に精気が戻る。

 

「八宝水軍の次期棟梁、ロースゥだ!」

 

「伝説のドン・チンジャオの後継者!」

 

「八宝水軍が来てくれたぞ!!」

 

「ロースゥ殿なら、あのジャンゴ・フェットにも負けぬぞ!」

 

その場にいるだけで、兵達の心を鼓舞する厳しい猩々のような男は、ジャンゴを目の前にしても些かの覇気の揺らぎもない。

大した将器だと、ジャンゴも内心で称賛するが、彼の瞳はどこまでも非情に敵を見据えた。

 

――BRAZAAM!BRAZAAM!

 

頭、心臓を狙う連射。

 

「おりゃあ!!」

 

覇気漲る薙刀の高速の武技が、ブラスターを弾く。

 

――BRAZAAM!BRAZAAM!BRAZAAM!

 

ジャンゴの連射速度が上がる。

頭、胸、股間。常人には殆、同一音にすら聞こえる早撃ち。

 

「やはりブラスターを弾けるレベルか。かなり強い。…だが」

 

誰に聞かせるでもなく、ジャンゴは小声で敵を褒め称えた。しかし、「だが…」とさらに言葉を続けた。

 

「ブラスターを弾かれるのは、べつに初めてじゃない。俺に光弾を弾き返して、初めて一人前だ」

 

八宝水軍次期棟梁を目の前にしながら、ジャンゴは彼に重ねて別の戦士達の姿を朧気に見る。

かつて、遠い昔にマンダロリア戦士団を壊滅させた、恐るべき騎士団の姿を。

ジャンゴの二丁拳銃が、より激しく薙刀を振るう戦士へと襲いかかった。

 

「っ!ぐ、おりゃりゃ!!」

 

ドン・チンジャオの息子であり、次期棟梁として申し分ないと太鼓判を押されたロースゥ。そんな達人の頬を冷や汗が伝う。

 

(なんという武器…!なんという腕前!)

 

ジャンゴは一言も発さぬままに、次々にトリガーを引いた。

ロースゥの見聞色の先読みを上回る速度であり、そして先読みした所で捌ききれぬ絶妙の位置にジャンゴの光弾は飛んできていた。

 

(全てが、おれの急所を的確に狙っていやがる!しかも、この光る弾…!お、おれの薙刀が、溶け始めている!!)

 

武装色で完全に覆い尽くしている、彼自慢の業物が、すでに傷みだしていた。

武器の威力も恐ろしいが、眼前のガンマンの覇気も凄まじいのは明白。

これ以上受けに回ったら死ぬ。

確信したロースゥが跳ねた。

出し惜しみをしている場合ではなかった。

 

「しゃああああッッ!!!!錐龍錐釘ッ!!!!」

 

全力の跳躍からの、彼の最強の秘奥義を初手から放つ。伝説的大海賊ドン・チンジャオからも、いつでも棟梁の座を譲れると太鼓判を押された大技だ。

ジャンゴの光弾を全て叩き伏せながら、渾身の一撃が目にも止まらぬ速さでジャンゴへ迫った。

甲板が瞬時に崩壊し、大型船舶が一刀両断されて急速に沈んでいく。なお余りある衝撃が、海面を遥か彼方まで縦に割っていった。それ程の威力だった。

だが、それすら見越していたのか、ジャンゴはバックステップをしつつ背のジェットパックを起動。僅かに体をひねって衝撃波も避けつつ、ジェットパックの加速に()()()()()()を上乗せし空へするりと逃れていた。

そして逃れつつ、ジャンゴの右腕から猛火が吹き上がった。

 

「うお!?」

 

ロースゥは薙刀を高速回転させ、迫る炎を巻き取っていく。

 

――BRAZAAM!BRAZAAM!BRAZAAM!

 

そして、次の瞬間にはまたジャンゴの弾幕が始まった。

 

(あの一瞬の隙に、またこれだけの距離をとられた!?なんちゅう速さだ…月歩も恐ろしい練度だが、あの背中の機械が更に加速力を与えている!)

 

だが、その速さをジャンゴは使いこなしていたし、崩壊しゆく船の残骸に、重心が全くブレること着地し機械のように正確な射撃を繰り返した。

スタイルもスキルも違えども、相手もまた凄まじき達人。

それがロースゥには分かった。

 

――バキィィン…!

 

鋭い金属音が空に吸い込まれる。

攻撃を受け続けたロースゥの薙刀が、彼の予想よりも早く砕けた。

 

「バカな…!?おれの覇気なら、もうちょいは―――っ!!て、てめェ、もしや…おれの得物の一点を狙って―――」

 

得物を失ったその一瞬。僅かな間、ロースゥの注意が逸れた。

 

「――っ!」

 

ロースゥの右目と喉を、光弾が貫いた。

 

「あ…がッ…!おや、じ…す、まねェ……………サ、イ…ブー……――」

 

もう一発、ブラスターがロースゥの顔面を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

その日、花ノ国の海軍は決定的な敗北を喫した。

西の海にその名を轟かせていた八宝水軍も、有力な跡継ぎを無くしてその勇名を地に堕とす。

花ノ国と八宝水軍がその傷から立ち直るには、長い月日を必要とする事となる。

そして、賞金稼ぎジャンゴ・フェットの畏怖と名声は大海に遍く広まった。

 

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