ONE PIECE -Bounty Hunter-   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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Episode5.5 テゾーロとステラ

サウロとドールとの友誼を深めたものの、ジャンゴの仕事はひとまずは終わった。

約束の期間は過ぎ去り、3000万ベリーを手に彼は船を去った。

去り際、

 

「海軍に入りたくなったら連絡くれ!元気でな!」

 

「…次会ったら、その時は私が勝つからな。腕を鈍らせるんじゃないわよ」

 

とサウロとドールは別れを惜しんでいた。

 

「次のワシらの任務は、違法な歴史探査船の調査っちゅー事だからな。お前さんを雇うまでもねェで。いくら何でも、お前さんをそんなにしょちゅう雇ってたらワシが素寒貧になっちまうで~~!デレシシシ!」

 

サウロは、身を精一杯屈めて、ジャンゴの小さな手を指で摘んでしっかりと握手をして、朗らかに笑ってジャンゴを見送る。

ドールもまだ何かを言いたげだったが、結局「鈍るな」以外の事は言わず、黙ったままジャンゴをずっと見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サウロ達と別れ、ジャンゴはオートで自分を追跡させていたスレーヴIに乗り込むと、海流を全く無視して帰路につく。

一直線に脇目も振らず帰っても良かったが、補給物資が少々心許ないのを思い出して、ジャンゴはグランドラインのとある島へ立ち寄った。

大きな島で人口も多い。賑やかな繁華街も備えた都市も栄えていた。だが、ここは些か闇深い土地柄で、シャボンディには及ばぬものの奴隷売買に武器の闇市、違法薬物の出店が軒を連ねるような場所だった。

一見して洒落た大通りに見えるが、一等地にでかでかとヒューマンショップの看板を掲げた奴隷販売店が構えているなどの異常性が染みた街だ。

ジャンゴも偶に仕事で訪れる事があった。

そういう裏社会の者達には、ちょっとした有名所なのだ。

 

(相変わらずだ)

 

ジャンゴがこの街を訪れるのはほぼ一年振りだった。

スーツに身を包んだギャングがタバコを吹かして闊歩し、若者達が群れてギラついた目を通行人に向ける。

通行人達も、ただの旅行者など圧倒的に少ない。

皆、何かしらの武器を携えて、鋭い目つきで練り歩く連中ばかりだった。

そういう街のはずだったが、今日は何故かいつもよりも人通りが少ない。

少な過ぎた。

 

ジャンゴは、もしや…と思った。

こういう時は、ジャンゴの経験上、関わってはいけない招かざる客が出現している事が殆どで、少しばかり歩けば案の定だった。

派手に輝くヒューマンショップの看板の下。

買ったばかりの奴隷を鎖で引き、下卑た笑い声を静かになった大通りに響かせる珍客がいた。天竜人だった。

いつ見ても不快な連中だった。

記憶障害を負っているはずのジャンゴだが、彼らを見ると900年前の癖でついつい反射的に殺しそうになってしまう。

 

――そうさ、奴らは甘かった。最初から、こいつらなど皆殺しにしておけば良かったんだ。

 

(…奴ら……?)

 

一瞬、僅かに記憶のモヤの向こうで何かを呟いた自分がいた。

だが、その記憶を意識してもっと思い出そうとした瞬間には、ジャンゴの記憶にはまた深い霧がかかってしまった。

頭の奥が、ズキンズキンと疼いた。

しかし頭痛に浸っている時間などジャンゴには無かった。

ヒューマンショップの真ん前で、大声で喚く男がいたからだ。

 

「やめてくれ!!その人は、彼女は、おれが買ったんだ!!」

 

彼は無謀にも天竜人に食って掛かっていた。

 

「ほほほほほ…金があれば何でも買える。何でも出来るえ。…この女は、わしが買ったんだえ」

 

「先に購入したのは、おれのはずだ!!」

 

金髪の女の鎖を引く天竜人に、凄まじい形相でスーツの若者が迫った。

その瞬間、若者は護衛の者達に脚を銃で撃たれて、倒れた所を何度も何度も暴行されていた。

 

「この御方は、お前の三倍の値でこの奴隷を買ったんだ。お前のような下々民の出る幕じゃない」

 

護衛の黒服が、若者を脚で踏みながらそう言った。

若者は、血の涙でも流しそうな、そういう顔だった。

それは忌々しき光景だった。

かつてマンダロリアンが滅びた時、ジャンゴは奴隷に堕とされた事があった。

ジャンゴは決して諦めず、最後には己の力で脱出してみせたが、この若者の必死の形相はかつての自分と何かが重なった。

鎖に繋がれた金髪の女と、足蹴にされた男は、互いに涙を流して言葉を交わして、そして男に対しても天竜人は「良いこと思いつたえ~」と笑いながら言って、その若者をあっさりと奴隷に堕とした。

ものの数秒で、ほんの遊び心で、下衆な嗜虐心で、あっさりと人の尊い何かが破壊された。

ジャンゴの眼の前で死よりも辛い悲劇という奴が起きていた。

別段、珍しいことでもない。ありふれた光景でしかない。

しかし、それら全てが苛立たしいものだった。

 

「ほっほっほっ~!」

 

天竜人が、たった今奴隷に堕とされた男を思いけると、彼はゴロゴロと転がってジャンゴの足元にまで転がってきた。

スパイクシューズの足先に、コツンとあたって男は止まり、そして血反吐を吐きながら咳き込む。

 

「…あ~~~?お前、なんだえ?どういう事だえ…?なぜ、頭を下げておらんえ。なぜ、跪いておらんえ…?」

 

ジャンゴに気づいた天竜人が、怒りから顔にだんだんと血を集め、声を震わせながらそう言った。

真性のバカの相手はただ疲れるだけだ。上っ面だけでも跪いてみせてもいいが、さてどうするか、とジャンゴが考えていると天竜人の護衛が何かに気づいたようにハッとした。

主たる天竜人に何事かを耳打ちする。

 

「ほ~~~?お前、ジャンゴ・フェットというのかえ?随分と有名な賞金稼ぎらしいな。ほほォ…そうかえ、そうかえ。そんなに有名なのかえ」

 

護衛はジャンゴ・フェットを知っていたらしい。

天竜人がニタついた。高名なレア奴隷は、仲間達にも自慢できる。

 

「ならお前もわしのコレクションに加えてやるえ~!ほほほほ!いや~お前は運がいいえ!たまたまわしと下界で会えて、お前などに一生縁のない栄光ある神の天上世界へ行けるんだえ!ほほほほ!」

 

こういう展開になったか、とジャンゴは深い息を吐く。

だが、その後が速かった。見聞色とブラストヘルメットのセンサーで周囲の様子を観察。

人々は、この降って湧いた災害に巻き込まれぬよう、誰もが目をそらし、窓を下ろし、戸を閉ざしている。

周囲の生命体は、実に都合の良い事に殆ど誰も見ていない。

目撃者全てをまやかすのは可能な状況だった。

 

「…」

 

ジャンゴ・フェットは、沈黙しながら一瞬の殺気を漲らせた。

その瞬間に、凄まじい閃光が辺りを包んだ。

ジャンゴのフラッシュグレネードが、凄まじい速さで起動されていた。

「ぎゃッ!!」という短い声の後、やがて閃光は消え失せると、その場は嘘のような静寂に包まれる。

 

「…え?」

 

その場には、金髪の女と、その女を必死に助けようとしていた男だけが残されていた。

二人を買おうとしていた天竜人も、護衛達も、そして天竜人にいちゃもんを付けられていた、あのフルフェイスの鎧に身を包んだ賞金稼ぎもいなくなっていた。

何が起きたのか、その場の誰も分からなかった。

強烈な光が瞬いた直後に、幻のように彼らは掻き消えてしまったのだ。

 

「ステ、ラ…ステラ…!」

 

「テゾーロ…!」

 

しかし、二人の眼の前にいるお互いの温もりだけは確かだった。

二人は駆け寄って抱き合い、そして唇を寄せ合った。

それは信じられぬ奇跡だった。そうとした言いようがなかった。

 

「何が…起きたのかしら」

 

「分からない。分からないが…あの人は、俺達の救世主様だ。それだけは…確かだよ」

 

「神様の遣いだったりしてね。ふふふ」

 

「あんな(いかめ)しい鎧姿の?…ハハハ。でも、天竜人よりよっぽど…本当に、地上に現れた神様だった」

 

テゾーロとステラは、無骨なアーマーに身を包んだ賞金稼ぎの姿と名を生涯忘れなかった。

 

 

 

 

 

 

ジャンゴ・フェットがした事は実にシンプルだった。

閃光で皆の目を眩ました後、体術の素早さに物を言わせて天竜人と護衛を拉致しただけだ。ジャンゴの身体能力は、トラップに嵌めたとはいえダグラス・バレットに勝利できる程だ。目にも止まらぬ速さで、数人を担いで移動するなど朝飯前だ。

しかも、セイバーダートの神経毒をたっぷりと注入するオマケ付きだった。

900年前の医学解剖技術でも検出不可能なこの神経毒は、暗殺に何より最適だった。

その後は、彼らの死体を彼らの船まで届けて、船内の者全員をあの世に送り、海中からスレーヴIで曳航し、然るべき海域で破壊した。それだけだ。

 

 

その日、一人の天竜人が()()()()にあったと世界経済新聞が報道した。

天竜人も、護衛達も、船ごと行方不明となった。

船の残骸も、彼らの遺体も、とうとう何も発見されなかったという事だった。

 

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