ONE PIECE -Bounty Hunter-   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

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Episode7 流浪

ジャンゴ・フェットは行方を眩ました。

シャクヤクの酒場にさえ顔を見せなくなり、レイリーとシャクヤクでさえジャンゴの足取りを掴めなかった。

レイリーとシャクヤクの二人がそういう状況なのだから、ジャンゴ・フェットにコンタクトを取るのは非常に困難となっていた。

しかしジャンゴが活動を縮小しているのかと言われれば答えはNOだった。依然として名の通った大物海賊は、定期的に狩られている。

だがこれらの賞金首は、とても実力ある大物犯罪者を狩れるような猛者に見えぬ者が換金に訪れているようで、恐らくはその者達は換金請負人だった。

近年ではそういう手合が急増し、人々はそれこそがジャンゴ・フェットのハンティングの証拠だと言い合った。

彼が、一体何故自分で賞金首の受け渡しに行かぬようになったのかは、誰も理由は知らない。

そういった仲介業者をよく利用するのは、大体が〝賞金稼ぎ自身がお尋ね者〟というパターンであるが、ジャンゴ・フェットは危険な男として衆目一致するところではあったが、少なくともお尋ね者ではない。

しかし時折、海軍基地まで遠いだとか、手続きが面倒臭いとかの理由で仲介業者を利用するケースもあるので、世間の多くの人々はそちらのパターンか…と勝手に納得していた。もともと謎が多い賞金稼ぎとして有名になっている男であるから、誰もジャンゴの行動に疑問を抱かないのだった。

 

億に近い、或いは億の大台を突破したような大物が、通常では考えられぬ速度で逮捕、或いは殺害されており、そしてその者達は全員がやはり換金請負人によって海軍に引き渡されている。

その事実が、レイリーとシャクヤクに多少の安心を与えてくれる。一応は、ジャンゴ・フェットは元気にしているという証拠なのだから。

レイリーは申し訳無さそうに、内縁の妻に内心を吐露する事があった。

 

「ジャンゴは、天竜人殺しをした。その後の動きを見るに…どうやら奴らも証拠は掴めていないようだが……それでも、万が一にも危険が及ばぬように、私達から離れているのだろう。ほとぼりが冷めるまでは、帰って来るつもりはないだろうな」

 

依頼主はこちらだというのにね、と溜息を漏らすほどに落ち込んでいた。

珍しいものを見たと、シャクヤクも優しく微笑んで落ち込む夫を受け止めたが、そんな彼女もジャンゴには申し訳無さでいっぱいだった。

もとを辿れば、彼女が同族の少女達を救って欲しいと思ったからだ。

三姉妹はもとより、レイリーもシャクヤクも、ジャンゴには大きな借りが出来た。ジャンゴは、「アンタ達への恩返しだ」とこの仕事を引き受けてくれたが、これでは恩を返され過ぎてこちらの負債だとシャクヤクも思う。

それに、申し訳ないと同時に、レイリーとシャクヤクはジャンゴが心配だった。

彼は、強さも、揺らぐこと無き強靭な精神も申し分ない。既にレイリーに近しい強さを持っているのは、ダグラス・バレットを捕縛した事でも証明している。

しかしジャンゴ・フェットには、ある種の危うさがあった。

死に急いでいるかのような危うさだ。

どうもジャンゴ・フェットには、己の命をさっさと滅んだ同胞達のもとに運ぼうとする節が見受けられた。そういう風に、レイリーとシャクヤクには映った。

自分達との出会いからして、無茶をして大怪我を負っていたからだ。既に〝凄腕〟といわれるだけの領域に到達していて、現代科学とは比較にならぬ古代兵装に身を包むジャンゴ・フェットに、一体誰が、どれだけの勢力が大怪我を負わせたのかは定かではない。

そんな死に急ぐ彼だったが、レイリーとシャクヤクと出会い、二人が老婆心を発揮して飲んだり語ったり、共に美味い料理に舌鼓を打ったりしているうち、ジャンゴ・フェットは徐々に無謀な振る舞いを控えるようになっていったのだ。

しかし自分達と触れ合わぬ内に、またぞろジャンゴ・フェットの〝敢えて命を危険に晒して楽しむ〟無謀っぷりが顔を出すのでは、とレイリーは心配だった。

そんな心配をしていると、

 

「…のう、シャッキー。ジャンゴ殿は、まだ帰ってこないのか?」

 

少女が尋ねた。

少女らがもう二度と、再び人攫いにしてやられぬようにと、レイリーとシャクヤクの家に居候させつつ鍛える事になった三姉妹。その長女だった。

長女…ボア・ハンコックは、恩人にまともに礼も言っていなかった。

ただガタガタと震えて、ジャンゴ・フェットに連れられるがままで、気づけば彼に抱きかかえられて、彼の空飛ぶ舟に押し込まれていた。

無骨な鋼鉄で囲まれた船内を見て、あの忌々しき白亜の地下牢獄から抜け出せたのを実感して、途轍もない安心感から三姉妹は身を寄せて眠りこけてしまった。あんなに熟睡したのは、いつ以来だろう。

ボア三姉妹は、あの無機質で、機能美の塊のような無骨さが好きになっていた。

豪奢でけばけばしい美しさに覆われながらも、中身は醜悪を極めたあの宮殿とは真逆だ。

目覚めた時、彼女達はもうこのシャクヤクの酒場に担ぎ込まれていて、身を清められて装いも小綺麗にされて温かなベッドで寝かされていた。しかも。しかもだ。背に刻まれた奴隷の刻印(天駆ける竜の蹄)が消えていた。

一体どんな魔術を使ったのだと、起きがけから三姉妹は驚天動地の大騒ぎだった。

騒ぎに慌てて駆けつけてきたシャクヤクとレイリーは、元気な様子の三姉妹にホッと胸をなでおろした。

女主人曰く、「ジャンゴちゃんがやったのよ。なんでも〝レーザーで削ってから、スレーヴIの小型バクタタンクにつけておけば傷跡一つ残さず焼き印なんて消せる〟んですって。もっと分かりやすく説明して欲しいわよね。バクタタンクって何よって感じ」という事らしかった。

 

三姉妹は泣いた。

魂にさえ刻まれたと思った奴隷の印が、身からも心からも消えていく。

これほどの恩を、一体どのようにして返せばいいのか分からない。それ程の感情が三姉妹を支配していた。

しかし、大恩人であるあの無骨な戦士の姿はどこにもなかった。ついでに言うと、共に救助された大柄な魚人の姿も目覚めたらいなくなっていた。後で聞いたことだが、彼は大柄故か体力があり先に目覚めたとの事で、故郷の仲間の元に一旦顔を出しに帰ったという。

 

「彼は、大忙しの超人気バウンティ・ハンターだからね。今頃、また大仕事でもしてるんじゃないかしら」

 

シャクヤクは、いつもそう言って誤魔化すしかない。

いつかここへ顔を出す事もあるだろう、というレイリーの言葉を信じて、そしていつか現れる無骨な賞金稼ぎの恩に報いる為、今日も今日とてハンコック達は修行に、そして酒場の看板少女に励む。

天竜人に、男に酷い目に合わされたハンコックだが、自分が汚されきる前に、壊れる前に〝男〟に救けられた事で、彼女の心はそれ程荒んでいない。

まだまだ年相応な無垢な表情が戻ってきていて、シャクヤクは幼い三姉妹を見て微笑む。

 

「ジャンゴちゃんの側にいたいなら、もっと強くならないとね」

 

「当たり前じゃ!」

 

「その意気です、姉さま!」

 

「私も姉さまに負けません!」

 

己を強く見せたいのか、言葉遣いまで大人びたもの ――彼女曰く、高貴で雅な女性のそれ―― に変えたハンコック。

彼女の瞳には、青い縁取りに銀に輝く、美しいまでに洗練された鎧姿のガンマンが今も焼き付いている。

もちろん、妹達にも。

彼女達は強くなるだろう。

レイリーもシャクヤクもそう思っていた。

シャッキー's ぼったくりBARには、新たに増えた美しい3人の看板娘を目当てに、鼻の下を伸ばした男どもが…いや、女さえもわんさとやってくるようになった。

男どもからは勿論、女からさえも「キャーかわいい!」という歓声が飛び交うのだから、ハンコックの美貌は既に凄まじい。

勿論、マスコット的な愛くるしさと妖艶さを兼ね備える次女サンダーソニアにも、そして長女似のスラリとした美少女の三女マリーゴールドにも固定ファンは多い。

そうして誰も彼もがぼったくられるのだ。

シャッキー's ぼったくりBARは今日も繁盛していた。

 

「ちわー。シャッキーさーん、いる?」

 

「あら、ドールちゃん」

 

「ぬ。ドール」

 

そして、この酒場に増えた更なる日常風景がこれだ。

海兵のドールは相変わらずの頻度でこの酒場に顔を出していた。当然、ハンコックを中心に三姉妹と剣呑な空気を醸し出すようになった。剣呑といっても、じゃれあうような空気も幾分は纏っているのだが。

 

サウロに連れられ、ジャンゴ・フェットに出会ってから早くも4年が経っていた。

その間にドールも、すっかりと女性として本格的に美しくなっていた。

既に絶世の美少女となりつつあるハンコックをして、「年齢差で今は負けているだけじゃ。わらわが成長した時…そうよ、その時がわらわの勝利する時」と、暗にドールの容姿を認める程だ。

そんな彼女も、色々な事を体験し、尊敬する上官であるサウロを〝とある事件〟で失ってからは意気消沈していたが、その時もこの酒場に入り浸って、そしてジャンゴとは〝赤の他人〟とは言えぬ程度の仲にはなっていた。

それに、純粋にこの酒場を気に入っていた。

 

「また昼間っから酒場通いか。呆れた海兵もいたものじゃ」

 

「まだいたんだ。いつまで居候してんのさ」

 

「ちゃんと働いておるわ。そなたこそ、月一以上の頻度で来おって。海軍がそんなに暇な職業とは知らなかったのう」

 

「アンタさァ……有給って知ってる?あ。知らないか。アンタ田舎育ちっぽいし」

 

「わらわが田舎育ちなら、そなたはドブ川辺りで育ったか。どおりで臭そうじゃと思ったわ」

 

「ねー、シャッキーさん。今日はジャンゴはいる?」

 

「わらわを無視するとはいい度胸じゃ。今日はいつもの倍、ぼったくってくれるわ」

 

「上等だっての。こっちは中佐に昇進したんだ。財布には余裕あんのよ」

 

「ニュ~~?おー、ハンコックとドール、今日もやってんなァ」

 

「レイリーさん、シャクヤクさん。またお邪魔させてもらうよ……――この騒ぎを見ると、やはりジャンゴさんはまだ帰ってないのか…。一体、いつになったらちゃんとした礼が言えるのか」

 

ジャンゴによって救われた魚人、フィッシャー・タイガーも、このようにはっちゃんを伴ってこの酒場をよく訪れるようになっていたのは言うまでもない。

 

「あら、はっちゃん。タイのお頭さん。いらっしゃい」

 

中々に騒々しく、レイリーもシャクヤクもこの煩さが堪らなく好きなようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~とある島国・スラム街~~

 

彼らが出会ったのは幾つかの偶然が重なった結果だった。

切っ掛けは、剣豪として名を馳せてきている〝鷹の目〟のミホークが、ジャンゴ・フェットのハンティングに乱入した事だった。

いつものように、目立たず秘密裏に2億ベリーの賞金首を捕獲したジャンゴだったが、その直後にふらりと現れた剣士がジャンゴに鋭い視線をぶつけてきた。

 

「ジャンゴ・フェットだな」

 

「…鷹の目のミホーク、か」

 

お互い初対面だったが、互いに名が売れた強者だ。

幾らでも名と姿を知る切っ掛けはあったろう。

 

「その若さで、早くも世界最強の剣士と謳われている男に名を知られているとはな。光栄だ」

 

「知っていて当然だ。お前も、世界最強のガンマンと称えられている男なのだから」

 

ミホークは、背負う十字架からゆっくりと剣を抜いた。

美しいまでに澄み切った黒い、片刃の大刀。ミホークの愛刀〝黒刀・夜〟が、月明かりに照らされて妖しく輝く。

ジャンゴもまた、ホルスターの愛銃〝ウェスター34ブラスター・ピストル〟に、いつでも指をかけられる距離で掌を開いた。

 

「俺とお前が戦う理由は無いはずだが」

 

「銃と剣…極まったそれらがぶつかる時…どちらが強いか。ただそれを知りたい」

 

「くだらん理由だ」

 

真実、実にくだらない理由ではあったが、男ならば一定の理解を示す理由ではある。

くだらん、と断じつつもジャンゴはヘルメットの中でほくそ笑み、そしてミホークも鷹のような瞳を見開いて、薄く笑ってジャンゴを見つめる。

ジャンゴとミホークの視線が真正面から交差する。

二人の覇気がぶつかり、その余波がスラムの夜空の空気を震わせた。瞬間、ボロボロの看板が、余波の威力に耐えきれずにくずけて落ちた。

それが始まりの合図となる。

ミホークが風を置き去りにして走った。

ジャンゴは、雷よりも早く銃を抜いた。

 

――BRAZAAM!

 

数知れぬ銃弾を斬り落としてきたミホークですら聞いたことも見たことも無い銃声、銃弾。

熱を持った光そのものとでもいうべき銃弾を、ミホークは黒刀で斬った。

堪らぬ感触、感覚。

ミホークの笑みが深くなる。

 

――BRAZAAM!BRAZAAM!BRAZAAM!

 

しかし一刀のもと光弾を斬り伏せたと同時に、既にミホークの眼前にまで光が迫っていた。

 

(…速い!)

 

切り払われるのを了承済みに、とっくにジャンゴはミホークの動きを予見しての予測射撃をしている。

ミホークの黒刀が光の速度に迫る速さで動いた。

光弾は斬られ、霧散する。

間髪入れず、ミホークはまたも駆けた。先程よりももっと速く。もっと鋭く。

しかしジャンゴの早撃ちも、それに食らいついた。

お互いの動きを見聞色で見合って、相殺し、もはや見聞色を持たぬ者同士の戦いかのように動体視力に頼る、ある意味で原始的な戦いとなり始める。

ある一戦を超えた強者同士が到達するのは、純粋はフィジカルと経験の殺し合いだ。

ミホークが百歩の距離から黒刀を振るい、衝撃波がその先のジャンゴまで到達する。だが、ジャンゴはそれを躱しながら小型ミサイル(ホイッスリング・バード)を放つ。

迫るミサイル達の全てを、ミホークは美しい剣捌きで撃ち堕としていく。

ミホークが一気に跳躍し、ジャンゴの懐に潜り込んだ。

ようやくここまで来れた、とミホークが獰猛に笑むと、ジャンゴは些かの動揺もなく彼を出迎える。

迫る黒刀を、ジャンゴの腕が受け止めた。

 

「…!我が黒刀を受けるとは」

 

マンダロリアン・アーマーの腕甲から発生した光のシールドが、黒刀・夜の威力に悲鳴を上げながら主を守る。

破壊不能金属と称するベスカーの鎧に身を包んだジャンゴだが、無防備にミホークの剣技を受けるつもりはなかった。

当たり前だが、技術があればベスカーを加工する事は出来る。だからこそ、マンダロリアンの装備の数々は造られた。

であるならば、世界最強の剣士の持つ技術と強化された剣とが合わされば、一欠片の油断も慢心も許されない。それをジャンゴは知っていた。

逆の腕を素早く差し出し、ジャンゴは火炎放射の返礼をすれば、ミホークは身を翻して飛んだ。

ミホークのマントが燃え上がり、瞬く間に炭の塵芥となった。

直後、ジャンゴの早撃ちがまたも炸裂した。

空中で身を立て直しながら、ミホークも光弾の全てを弾いていく。

 

「もはや、見切った」

 

さすがは世界最強の剣士だった。

ブラスターの特徴を理解し、迫る光弾にそっと黒刀を這わせ()()()掬うようにして弾道を捻じ曲げていくと、そっくりそのままジャンゴへと光弾を返したのだ。

 

「…!」

 

ジャンゴは驚いてみせたものの、まるで慣れきったように即座に対応してみせた。

ジェットブーストでダッシュし、横っ飛びに避けながらウィップコードで反撃。ミホークの剣持つ腕を絡め取る。

 

「っ」

 

今度はミホークが驚愕する番だった。

自分が行った〝弾返し〟を、どうやらジャンゴは既に経験した事があるというのが、今の反応で分かったからだ。そして、その一瞬の驚愕を突かれて、こうして腕に高強度のワイヤーを巻き付けられた。

 

「さすがは、最強のバウンティ・ハンターだ…!―――っ!?ぐ、ぅ!!」

 

そして、ジャンゴはブーストを全開にし飛んだ。

強靭なウィップコードで、ミホークを空へと連れたって振り回す。

 

――FWWOOM!

 

ジェットパックがけたたましい呼吸音を吐き出して、夜空に炎のマニューバを描きだす。己の脚で生じさせた高速ならともかく、自分のコントロール化にない亜音速下で、しかもランダムに縦横に振り回される衝撃にミホークの表情が微かに、だが確実に歪んだ。

空を振り回され、きつく締め上げてくるウィップコードの圧力も加わり、ミホークの黒刀を握る手が悲鳴を上げた。

 

「ぬぅぅぅ!ッ!!」

 

ミホークは、首にかけた装飾品のような、十字架の小刀を取り出すと、それを投げナイフとしてジャンゴのジェットパック目掛けて思い切り投げつける。

持ち主の意思に応え、覇気を吸って瞬時に刀身が黒く染め上がったナイフが、ジェットパックの噴出孔の片方を抉り飛ばした。

 

「く…!?」

 

ジェットパックが燃え上がり、煙を拭いた。急速に水平コントロールを失ったジャンゴは、錐揉み回転しながらスラムの瓦礫に突っ込んだが、それでも受け身をとってダメージを半減させる。

ミホークも同様で、高速で瓦礫に墜落したものの、身に纏う武装硬化と受け身の技術でダメージを散らす。

だが、ミホークは己の口元に、伝う液体の感覚を得た。

出血だ。

今まで、ミホークは圧倒的な才能と練磨によってほぼ無傷で、命を懸けた戦いに勝利してきたが、このような形で手傷を負うとは少々予想外だった。

全身をアーマーで固めたジャンゴに対し、ミホークの体は、少なくとも表面的にはダメージを負っていたのだ。

瓦礫から立ち上がった両者は、再び静かに対峙する。

ミホークの口元から、僅かに血が滴っていた。

 

「鍛錬以外でおれに血を流させたのは、お前で二人目だ」

 

「随分ヌルい殺し合いしかしてこなったようだな、スワッシュバックラー」

 

「フッ…それだけ、我ら意外が脆弱ということだ」

 

二人はニヤリと笑って、剣と銃を構えた。

 

 

 

 

 

そのような闘いを、二人は夜が明けて太陽が高くなるまで続けていた。再び夜が来て、再び日が昇り、また月が顔を出して、そして空はまた白む。

三日三晩続いた激闘に、ジャンゴもミホークも互いに体力を消耗し、気力を擦り減らし、最強の大業物・夜の刃さえも微かに摩耗し始めて、ジャンゴ・フェットの全身武器庫というべき武装類も次々に弾薬を失っていく。

二人は肩で息をし、それでもお互いを睨んでいた。

だが、もうその目には敵意と闘志以上に、相手への敬意が宿り大きくなっていた。

 

「さすがだ、ジャンゴ・フェット。銃と小細工で、このおれと互角に戦う男がいるとは…世界は広いものだ」

 

「その言葉、そのまま返すぜ…ミホーク。お前は強い。真正面からでは殺しきれん」

 

戦場に小細工を弄し、様々なトラップを張り巡らせて、ようやく打倒できる相手であるとジャンゴには思えた。

それはかつて、伝説の海賊ダグラス・バレットに仕掛けた戦法で、ジャンゴにとってこの若き剣士はバレット級の強敵と認めたという事だった。

そしてそれはミホークも同じだ。

剣と剣の勝負で、自分と互角の勝負を散々に演じてきた赤髪の海賊。その姿が、ジャンゴに重なる。

まるで闘法は違うが、総合的な強さは赤髪級であると認識する。

 

二人のテンションと、そして疲労はピークを迎えつつあったその時だった。

 

 

 

 

 

 

そう大きくはないこの島の沿岸部から、大きな爆発音が轟いた。

それも一度や二度ではない。

連続して轟音は響き、二人の目にも立ち上がる煙と炎が薄っすらと見えた。

二人にとっては聞き慣れた音と言えた。

 

「…艦砲射撃か」

 

「海軍が何かと戦っている。それもかなりの数のようだ」

 

銃をホルスターに、刀を鞘に戻した二人は、興が削がれたという雰囲気をありありと醸し出しながら、高まっていた闘志を同時に吐き出すように溜息を吐く。

勝負は水入りとなった。

 

「さらばだ、賞金稼ぎ。次に会う時こそ、決着をつけよう」

 

「お前の首にかかっている懸賞金は、労力の割に合わない」

 

だからもう会いたくないと、そうジャンゴは暗に言っていたが、ミホークはそうでないらしい。

再会を勝手に約束して、そして疲れた体を引きずって独り去っていくのを見送り、ジャンゴもまた疲れた体に鞭打って歩き出す。

本音を言うなら、ミホークに共闘を持ちかけて共に脱出を図りたかったが、そこまで馴れ合いたくないという気持ちもある。単純に言えば〝男のプライド〟という奴だろう。共闘を言い出した奴の負けだ、というちっぽけな意識が働いていた。そして、恐らくだがミホークも同じように考えている。そういう雰囲気は感じた。

それに独りでも包囲の突破と脱出は不可能ではない。

 

(消耗しすぎた)

 

武装の幾つかはミホークに破壊され、そして幾つかは弾切れ(エンプティ)だ。

ジェットパックも破壊された。

体力も気力も絞り粕という有り様では、普段は歯牙にも掛けない雑兵達の包囲網も辛いだろう。

だが、ミホークは強者を求める余りに〝海兵狩り〟という異名まで得ていて、それ故懸賞金をかけられたお尋ね者だが、ジャンゴは違う。

アウトローであり、暗黒街に出入りする者ではあるが、お尋ね者にならぬよう計算づくで立ち回るジャンゴ・フェットは、陰で天竜人殺害という重罪を犯していても未だに賞金首ではないのだ。

だから、海軍だけの包囲網なら無辜の民として難なく突破できるだろう。

問題は、海軍と相対している勢力だ。

 

ジャンゴは小高い廃屋に上り、そこからレンジファインダー・アンテナを下ろして、望遠カメラで戦う者達を偵察した。

普段ならば、見聞色も合わせて余裕で何もかもを見通せるが、今はバイノキュラー・ビュープレートが頼みの綱だ。

 

「海軍の大型軍艦が一。小型艦が八。指揮するは、海軍少将ブルーグラス…相手は―――」

 

掲げる海賊旗には見覚えがあった。

西の海の五大ファミリーと繋がりを持つ、違法薬物の密輸で成り上がった海賊達だ。

ジャンゴの記憶通りなら、凄まじい速度で成り上がっているマフィア、カポネ・ベッジの息がかかっている連中であるはずだ。

 

(…記憶通りだったか。まさか陸の〝ギャング〟ベッジ本人がいるとは)

 

裏社会において、西の海を越えて、四つの大海とグランドラインにさえ響く鉄砲玉として活躍が今目の前で繰り広げられていた。

南の海の最新モデル、3バレルフリントロックピストルを両手に海兵を血祭りにあげていた。

話題のカポ・レジームがわざわざ遠い海にまでやってきて海兵とドンパチやっているとは、余程大きな取引があるのだろう。

だが、ジャンゴが気になったのはカポネ・ベッジではない。

戦場と化した沿岸部を、縫うようにひた走る黒い影が幾つも見えた。

 

「CP9……こんな島に何の用だ」

 

政府直属の諜報機関・サイファーポール。

あの身のこなしと黒服姿は、その精鋭達の姿に相違なかった。

ジャンゴの脳裏に浮かぶ可能性。それは、立て続けに行われた天竜人暗殺の露呈。

神を気取る外道の殺害は、緻密な作戦というわけではなかった。

どちらかと言えば偶発的であり、発作的なものだった。

幾らでも粗はあったろうとジャンゴ本人さえも認めるクオリティではあった。

しかし、ジャンゴ・フェットを天竜人殺害の犯人と確信しているなら、賞金首にでもすればいい話だ。

天竜人が殺されたという前例が出来てしまうのが恐ろしいのなら、ダミーストーリーなぞ幾らでもでっち上げて偽の罪を作り出せば良い。そんなものは世界政府の得意分野だ。

だがそれをしていないという事は、あのCP9達はジャンゴ以外を目的に動いているという事だろう。

 

(だが…奴らの目的が何であれ、厄介なことになってきた。海軍と海賊だけなら、事は単純だったが…)

 

スレーヴIをコムリンクで呼び出し空から攻撃させる事もできない。ヘルメットに内蔵されたコムリンクも、ミホークとの激しい戦いの中で損傷している。

CP達の目的がはっきりしない今、事は隠密が望ましい。

しかし、少将ブルーグラス、〝ギャング〟カポネ・ベッジ、そしてサイファーポール達の目を盗んで逃げるのも、そして勿論戦うのも今の状態では危険だった。

潜伏してやり過ごすか。

一瞬、ジャンゴはそう考えたが、サイファーポールの動きを観察しているとそれも難しそうだ。

彼らは、何かを探して陸地の奥へ奥へと入り込んでくる。

つまりはここ。ミホークとジャンゴの激闘で廃墟とかしたスラム区側であり、現在ジャンゴが潜むエリアだった。

 

「イヤな予感がするぜ」

 

溜息をつきながら、ジャンゴは今の自分に残された武器を確認した。

残る武器は、振動刃。

そして、手に馴染むウェスター34。

残カートリッジは二つ。ウェスター34の速射能力と、ジャンゴの早撃ちのスキルが合わされば、十秒とかからず撃ち尽くしてしまうだけの残弾数。

それだけだった。

 

爆発音が近くなった。

海軍と海賊、そして海賊船に乗船していたであろう陸のマフィア達の戦いも、戦場を徐々に島内へと移動させているらしかった。

爆発が、一つ。二つ。

それに混じり、足音も近づく。

耳を澄ませても、気を研ぎすませても、正確な数は分からない。

屋上から飛び降り、廃墟の屋内へと身を滑り込ませ、壁を背にしてブラスターを構えた。

銃を構える腕さえ重い。音を消して歩かせる脚が重たかった。全身に重さが纏わりつく。

コンディションは劣悪だったが、それでもジャンゴ・フェットは戦う心を失わない。既にマンダロリアンとしての道を失っていたとしても、それでも彼の魂の奥底には〝父〟から受け継いだ真のマンダロリアンの在り方が刻み込まれていた。

 

――カツン

 

ジャンゴが潜む壁のすぐ横で、小さな足音の直後に小石が跳ねた。

先手必勝。

ジャンゴは身を出し、音の主にブラスターを突きつけた。

指が引き金にかかる。

 

「――あっ!?」

 

少女が恐怖に顔を引きつらせて、小さな悲鳴を上げて尻もちをついた。

ジャンゴの指が止まった。

 

「何者だ」

 

「っ!二輪咲(ドス・フルー)――…っ、ぅ…!」

 

黒髪の女だ。少女と女の中間にいる、そういう年頃の女。

身のこなしはなかなか見事だが、明らかにサイファーポールではない。

その女が、両手を交差させて何やらを念じた瞬間、ジャンゴのアーマーに腕のようなモノが生えかけて、そして枯れ花のように萎びて散る。

女は脱力し、怯えたようにジャンゴを見上げた。

 

「力、が……なぜ…」

 

「能力者…それも接触発動型だったようだな。…俺のアーマーは、ベスカーで出来ている。触れれば、能力者は力を封じられる」

 

脱力したその隙に、ジャンゴが女を踏んだ。

足裏は磁力を持つゴムグリップだが、ジャンゴの磁気ブーツのつま先にはやはりベスカー製の伸縮ニードルと薄い鉄板が仕込まれている。そこが能力者に触れていれば、それだけで能力者は封じられてしまうのだった。

 

「う……ベス、カー……?聞いたことが…」

 

「並の方法では傷をつけることすら不可能な超金属。マンダロリアン鋼、デュラスティール、そしてシーストーンとの合金。…今は、シーストーンというより海楼石と呼んだほうが聞こえが良いか」

 

「…っ、海楼石の鎧!」

 

海楼石を金属に混ぜ込み、複雑な形に鋳造する技術なんてワノ国にもあるはずが無い。女はそう言った。

かなり物を良く知っている博識な女だった。ジャンゴは内心で彼女を称えた。

 

「俺ならば出来る。そもそも、ワノ国に石と金属を鋳る術を教えたのは、俺達の一族だ」

 

「なんですって…?あなたは…一体何者なの?」

 

お喋りはここまでだ、とジャンゴは会話を打ち切り、そして迫りくる多数の足音に注意を傾けたがる。

 

「サイファーポール共のターゲットは、お前のようだな…()()()()()()

 

「…!!」

 

少女の顔がさらに恐怖に引きつる。

直後、ずっと向こうの瓦礫の陰から黒服が飛び出し、そして少女とジャンゴを見て懐へと手を突っ込んだ。

電伝虫での連絡。

見て取ったジャンゴは瞬時に黒服を撃ち抜いた。

電伝虫ごと、男の胸を光弾が貫いた。

 

「連絡されたら厄介だ。…立て。少しは戦えるのだろう?」

 

「っ……なんで……なんで、ニコ・ロビンと知っていて……私を助けたの?あなたは賞金稼ぎの、ジャンゴ・フェットなのでしょう?」

 

「利害の一致だ。俺は、サイファーポールに見つかりたくない。…誰にでも〝事情〟という奴があるのさ」

 

ジャンゴもロビンも互いを知っていた。それもそうだろう。

8歳にして7900万ベリーという、破格の初頭手配額。それをバウンティ・ハンターであるジャンゴが忘れるはずもないし、自分の首にかけられた懸賞金を散々狙われたであろう少女が、凄腕のバウンティ・ハンターをチェックしていない筈はない。

ここ数年、ジャンゴの見た目は全く変わっていないが、子供…それも女となると加齢による変化は大きい。実際、ロビンは手配書よりも大分成長していたが、見覚えのある黒髪の少女の面影が色濃くある眼前の女を、ジャンゴは一目でロビンと見抜いた。

もちろん、この状況も理解の手助けをしてくれた。

〝悪魔の子〟ニコ・ロビンならば、確かにサイファーポールに執拗に狙われもする。

この状況を鑑みるに、ニコ・ロビンはあの海賊団に潜んでいたに違いなかった。

そして、薬物取引の現場を海軍に見つかり、その流れでロビン発見の報がサイファーポールに齎された…という事かもしれないが、今はことのありましだとか真相は二の次だ。

今はとにかく…ジャンゴにとって、とんでもなく運の悪い眼の前の展開を打開する必要があった。

だが、この程度の苦境は、ジャンゴの不確かな記憶の向こう側にも存在していた。そう、ジャンゴは確信していた。

 

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