竜胆さんの日々   作:どういうこったあ!

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超人(笑)とおいなりさん。そんな日々。

 スマホの通知に気付きテレビをつけると『七神リン連邦生徒会長代理を解任――後任は不知火カヤ室長』の文字が目に入った。

画面の先ではカヤが白々しくもリンを解任させた経緯を話している。

 

カヤの演説が終わり、テレビを消したタイミングで先生からのモモトークがきた。

カヤのところに行くから帰りが遅れる、みたいな内容。

 

いよいよカルバノグ二章。とは言え、特にすることがあるわけでもないので、俺はいつも通り書類を片付けるだけなのだけれど。

 

―――

――

 

 日も暮れ、暗くなってなってきた連坊生徒会長室。本来の持ち主である連邦生徒会長は失踪、連邦生徒会長代理であるリンもいない今、その席に座っているのは不知火カヤという少女だった。

 

「……これは?」

 

カヤからスッと書類が差し出される。

これまでの話の流れからして、シャーレの業務体系に関することだろう。

 

「シャーレの行政手続きの改善案です。

「主に先生の業務負担の軽減を目的とし――いくつかの業務においては、先生の権限が強化される内容となっています」

 

そう説明され、サインを求められる。

 

「ここにサインしたら……何が変わるの?」

 

見るまでもなくサインする気はないけれど。

 

「特に何も。変わるものはありませんよ。

「先生はやりたいことを続ければいいのです。今まで通り、ね」

 

うっそだあ、と思わず口に出すところだった。危ない。にしても何も変わらないはないだろう、何も変わらないは。だったら提案する必要もないんだし。

 

その後も色々と活動について語られたけれど、まとめると『今後のシャーレのすべての活動を、連邦生徒会の名で行え』。そうすれば、今まで通りの活動をしていいし、支援はいくらでもする。

そして、私の責任を連邦生徒会が負う。という内容だった。

 

「提案してくれるのはとても嬉しいけど、遠慮しておくね

「大人は自分の言動に責任をもってこそだから」

 

「…………はい?」

 

こうなることは想定していなかったのか、カヤは意味がわからないという風に呟いた。

上に立つ者として、些か想定が甘くない……?

 

余程、驚いたらしく、改めてこちらの利益について説明してくれるが、こちらの意思は変わらない。

 

「たしかに魅力的だけど……。

「でも、大人が責任逃れをする姿を見せてしまったら……先生として、みんなの模範になれないから。

「それに今はテレスもいるから、仕事はかなり楽になってるしね」

 

なんならテレスの方が書類仕事をこなしてない? テレスが来てから各学園の自治区での活動が増えて、割とその報告書で一日が終わっている気が……。

それにお昼ご飯も作ってもらってるしなあ。テレスには助けてもらってばかりだ。……あれ? 私ってもしかしてダメな大人?

 

「はあ……。まったく、聞き分けの悪い大人ですねぇ」

 

本人は聞こえないように言ったつもりなのだろうけど、がっつり聞こえている。

言ってくれるじゃないの、こんにゃろう。けど、聞き分けが悪いのは本当だからいいや。昨日もユウカに怒られちゃったし。

 

「……わかりました。でしたら、この件についてはしばらく保留としましょう」

 

明日からの新しい体制を見れば気が変わるかもしれないと言われて帰されたけれど、不安が勝つよ……。

連邦生徒会の新体制による混乱&シャーレへの当てつけで、明日から仕事が増えるやつでしょこれ。

うう……ごめんよ、テレス……。

 

◇◇◇

 

 「あばばばばばばばばばば」

 

「ごめんテレス、本っ当にごめん……!」

 

仕事が! 次から次へと湧いてくるっ! 殺してやるぞ、陸八魔アル……!

どうせこの後、痛い目を見るんだからカヤは許してあげ……るわけねえだろ! いい加減にしろ!!!れ!!

そんなわけで頼んだぞ、ミノリ。レッドウィンター仕込みのデモを見せてやれ。

 

昨日のデモ見てたけど面白すぎるでしょ、あれ。

連邦生徒会長を更迭できたな! よしっ、次の連邦生徒会長代理にデモしよう!

そ う は な ら ん や ろ。

それに『見ろ、邪悪な権力の犬が本性を表したぞ』と『そんなくだらない脅し、レッドウィンターじゃ挨拶にもならないぞ』が現実で見れたの嬉しすぎる。ミノリ最高。

 

それはそれとして、仕事多すぎな。

いや、ここは逆転の発想だ。仕事を増やすっていう当てつけだけで済んだと考えよう。俺を人質にされなかっただけ良かったんだ。

 

……んなわけあるかあああああッ!!!??! 仕事多すぎだわ! アホじゃねえの!? いやアホだった! あいつ超人(笑)だった!

 

「私もRABBIT小隊のテントの片付け終わったらすぐ行くから……!」

 

「お気になさらずってやつです……! これが私の仕事なので……!」

 

先生はああ言っているが、夜まで帰って来ないのを俺は知っている。

なんでって? カ◯トをフォローしているから。(一回言ってみたかった)

……ふう。現実逃避おしまい。真面目に仕事します。

最低でもFOX EATSまでに一段落をつける……! 俺はニコのおいなりさんを食うぞ、J◯J◯おおおおッ!!!

 

―――

――

 

 「お腹すいた……」

 

テレスに仕事を任せておいて言うセリフではないのはわかってる。

わかってるんだけど……お昼はドーナツしか食べてないし、エンジェル24でお弁当を買おうとしたんだけど仕入れが出来なかったらしく買えなかったし……。

 

「あ、さっきお弁当を頼んでおいたのでそろそろくるはずですよ」

 

「本当っ!?」

 

この忙しさだと、テレスが作ってくれるのはもちろん、出前も頼めてないんじゃないかと思ってたのに……!

テレス、好き……。そして本当にごめんなさい。私はダメな大人です。

 

「よっぽど、お腹空いてたんですね……」

 

「それがねー?」

 

と、今日の出来事を話そうとしたとき、シャーレのインターホンが鳴った。

 

「”FOX EATS”でーす。お弁当頼まれましたよね?」

 

「はいっ!」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

どうやらテレスが言っていたお弁当が来たらしい。

そう思って、自分でも驚くくらいの元気な返事をしたのだが、なんだか返事が芳しくない。

テレスが頼んだから、声が違ってびっくりしてるのかな?

 

「すみません、なんでもないです。

「それではお届けにあがるので、ドアを開けていただけますか?」

 

ドアを開けると、数分もしないうちに配達員さんが来た。

 

「あれ? 君たちは、あの時の……?」

 

けれど、そこに姿を現したのは配達員ではなく、空き家で会ったFOX小隊の面々だった。ユキノは……いないみたいだけど。

 

「こんばんは、先生。また会えて嬉しいです。それと初めまして、テレスさん」

 

ニコとオトギは好意的だけど、クルミはどこか煮えきらない感じだ。嫌われるようなことはしてない……はず。

 

「初めまして〜」

 

「お二人は、お夕飯もう食べました?」

 

出前ってFOX小隊であってるの? という視線をテレスに送ると、あってますよと頷かれたので「食べてないから、FOX EATSに出前を頼んだんだけど……」と答えると、「???」みたいな顔をされた。テレスー?

 

「私たちは今回の行政命令の影響で先生たちがお夕飯を食べられてないんじゃないかなって来たんですけど……」

 

「影響も何も、言いなりにならないから意地悪してるだけじゃない。

「小学生じゃあるまいし……こんなことするなんて、ほんとバカみたい」

 

「まあでも、敵の野営中に兵糧を断つのは戦略の一つだよ。

「いくら強い意思を持っていたとしても、お腹を空かせてしまっては戦えないからね」

 

「別に先生たちはシャーレで野営をしているわけじゃないと思うよ……」

 

下のコンビニで買えなくても、他のところで買えばいいんだしと付け足し、「ええと、とりあえず。私たちFOX EATS……いえ、FOX小隊が簡単なお食事を用意してきました」と言った。

 

「いなり寿司だ!」

 

いつの間にかこちらまで歩いてきていたテレスが、ニコから差し出された袋を覗き込んで言った。あ、忘れるところだった。出前の件、あとで聞かなきゃ。

 

「お好きなんですか? 以前、先生にお渡ししたときと同じレシピで作ってきました。たくさんあるので、好きなだけ召し上がってください」

 

「まぁ、私たちが持ってきた食べ物を口にするのは気が引けると思うけど――」

 

「「美味しっ!!!」」

 

「……ふつーに食べてるよ?」

 

「え……? マジ……? ヤバ……警戒心とかないの……?」

 

「あの、大丈夫ですか……?」

 

「味もいい感じに染みてて、ご飯もほどよい固さで最高だよ!」

 

「それにこのおいなりさん、恐らく煮汁も手作りですよね……」

 

「いえ、そういう意味ではなくて……」

「私たちが言うのも違うかもしれませんが……毒が入っているかもとか、疑ったりしないのですか?」

 

「「……え? このおいなりさんに毒入ってるの(んですか)?」」

 

「いえ、入ってませんが……」

 

「「びっくりしたあ」」

 

「息ぴったりね、あなたたち」

 

彼女たちからするとかなり変な人に見えたらしく、敵対関係にあるやつの飯を食うなよ……みたいな事を言われた。

 

「言われてるよ、テレス」

 

「先に手を付けたの先生じゃないですか……」

 

「私はFOX小隊の敵じゃないからね。……ただの先生だよ」

 

「うーん……」

 

人を信じることの危うさは理解しているつもりだ。それでも人を疑って失うものより、信じて得るものの方が多いと私は信じている。

カヤにも子供染みているって言われたけれど、私は子供たちが子供らしく生きれるようにしたいだけだ。

 

それが大人の責任だから。

 

明日の大人になる子供たちを導くのが、先生としての役割だから。

 

――みたいな話をして、FOX小隊は帰っていった。帰り際にミヤコたちRABBIT小隊の居場所を言い残して。

 

止めてほしいのだろう。きっと。

けれど、彼女たちは彼女たちの責任を――正義を背負っているからやめることはできない。

 

……ならば、私にできることは。

 

「……テレス」

 

「大丈夫ですよ。留守は任せてください」

 

まだそこまで長い付き合いでもないのに、テレスは私がなにをしようとしているのかがわかっているらしい。

 

情けない大人だ。結局、子ウサギ公園から帰ってきた後、書類はほとんど進められなかった。それでいて、またテレスに任せようとしている。

 

「そのために、私はここにいるんです。

「だから先生は気にせず、RABBIT小隊のところに行ってあげてください」

 

その甘えをテレスが許してくれるから、私は今日もここにいる。

その思いに、信頼に。答えなきゃね。

 

「……ありがとう。

「じゃあ……、いってきます」

 

「はい。いってらっしゃい、先生」

 

◇◇◇

 

 まあ、本編先生が失敗するわけもなく。

無事にカルバノグの兎編 二章、これにて閉幕!

今回は一章と違って、ほとんどゲーム内と変わらない結末だ。

一章のときは謎にカンナが役職を剥奪されてたからな……。あとから知って割と驚いちゃった。何事もなく最終編に進んだからよかったものの、なにかあったらどうしようかと。

 

その点、今回の相違点と言えば、RABBIT小隊からFOX小隊へ送る初プレゼントがコンビニ弁当からRABBIT小隊の手作りおいなりさんになったくらいだ。

カンナが矯正局の看守と知り合いだったらしく、本来は厳しい(というか矯正局の規定上、差し入れ自体が厳しい。手作りであればなおさらだ)手作りのものの差し入れも特例として認めてくれた。

 

差し入れのために割と頑張って煮汁の研究をしたので、おいなりさんは自信作に仕上がっている。作っている最中のRABBIT小隊メンバーも楽しそうで良かった。

 

……あれ? 意外とカンナの役職剥奪と同じくらいのことをしていた気がするぞ?

……頼んだ先生。なにかあっても大人パワーでなんとかしてくれ。

 

とまあ、そんなこんなでカルバノグ二章が終わりましたよーっと。

次は百鬼夜行か。いつになるのかはわからないけど、俺が向こうに行くことはないだろうし別にかな。

なのでしばらくはこのカヤのせいで出来た大量の仕事を片付けますかね……。

煮汁を作ってたせいで割と寝不足なんですけど……。許さんぞ、陸八魔アル……!

 

待って? 俺ってアル……というか便利屋とまだ会ってなくね?




 テレスの一人称がシャーレでも「私」なのは、いつコタマに盗聴されているか分からないためです。先生と二人きりであれば、一人称は「俺」になります。

そして先生はFOX EATSの件をテレスに聞くのを完璧に忘れました。
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