竜胆さんの日々 作:どういうこったあ!
「うわ、すっごい行列」
カルバノグ二章、お疲れ様でしたの意味も込めてフブキにドーナツを持っていこうとしたのだが、めちゃくちゃ混んでいる。いくらチェーン店とは言えど、開店直後にここまで混んでいるのは珍しい。なにかあるのだろうか。
……よし。今度にしよう。
面倒臭くなって家に帰ろうとしたのだが、行列の中に見覚えのある顔が。
「ヒフミさん、アズサさん。どうも」
「あっ、テレスさん! こんにちは〜」
話を聞いてみると、モモフレンズコラボが行われているらしかった。
どうりで二人がいるわけだと納得――いや、混みすぎだろ。え、モモフレンズってこんな人気だったの?
別にモモフレアンチとかではないよ? けど、ゲーム内での反応的に一定のニッチな層に刺さってる感じだと思うじゃん。
「コラボしている店舗がここしかないので、かなり混んでるんですよね……。うう、このままじゃまた遅刻してしまいます……」
エデン条約のときに補習授業部に入れられ、退学の危機というかなりマズい目に遭っているはずなのだが反省の色がない。それでいいのか阿慈谷ヒフミ。普通を自称する者としてどうなんだ阿慈谷ヒフミ。俺はどうかと思うぞ阿慈谷ヒフミ。
「テレス。出来ればこのことは先生には伝えないでほしいんだけど……」
「それは構いませんけど、あまり学校をサボりすぎて、また退学の危機に晒されないようにしてくださいね?」
「あ、あはは……。善処します……」
「頑張る」
「そこは嘘でも頷いてほしかった……」
―――
――
コラボ店舗がさっきのところだけらしいので、他の店舗なら空いてるだろうってことでデパートに来た。
あ、今日のお仕事はお休みです。カルバノグ二章で書類仕事を任せちゃったお詫びらしい。大変じゃなかったと言ったら嘘になるけど、それが俺の役割だからと最初は断っていたのだが、結局は押し切られてしまった。
ちなみに今日のシャーレ当番はイロハ。まあまあな書類の量だったけど大丈夫かな……。
まだ平日のお昼前ということもあって、ドーナツ屋の客足はそこまで多くなかった。
そんなわけで無事ドーナツも買えたので、ヴァルキューレにと思ったのだけれど、またも見覚えのあるトリニティ生が。
電子機器コーナーをウロウロと彷徨っているその様子はさながら、ドラ◯エの『さま◯うよろい』のよう。『みんなの騎士』だし、我ながら割と良い例えな気がする。……いや、そんなことないわ。
「あ! テレスさん! おはようございますっ!!」
そんなわけで? 宇沢レイサです。今日も元気があって大変よろしい。けどお店の中だから、もうちょっと声量を落としましょうね〜。
トリニティの自警団との話し合い的なのがシャーレであったはずだから、それ関連で来ているんだろう。なのでレイサはサボタージュしているわけではない。あの二人と違って……なんて言ったら嫌な奴か。
「なにか迷っている様子でしたけど、お手伝いできることあります?」
「えっと、そのっ。実は友達への誕生日プレゼントで迷っていまして……。よろしければ、テレスさんの意見も聞いてもいいですかっ!」
少し迷ったみたいだったけれど、ゆっくりと悩みを吐き出してくれた。……けど、力になれない気がするぞ?
「何をあげたら喜んでくれるのか分からないといいますか……。これがいいかなーっていうのはあるんですけど、それは私が思っただけで友達が同じように思ってくれるとは限らないし……」
「自分がいいなって思ったもので良いんじゃないかな……って、思い……ますよ?」
歯切れが悪いのは許してほしい。色々と事情があるのだ。俺にも。
「レイサさんは、自分の好きなものを相手にも知ってほしいと思ったことはありませんか?」
「あり……ます、ね」
「じゃあ、友達の好きなものを知りたいなって思ったことはありますか?」
「あります……。というか、現在進行系ですね……」
「そうしたらきっと、レイサさんと同じような気持ちを持っていると思いますよ。多くの人たちは自分の好きな人が好きなものを知りたいと思ってますから」
「テレスさんも、ですか?」
「もちろん。
「レイサさんは自分の好きなものを相手に知ってもらえて嬉しい。お友達さんはレイサさんの好きなものを知れて嬉しい。そうしたらWIN-WINです。
「そんな感じでどう、です……か?」
「う〜ん……。そんな感じでいいんでしょうか」
「私はそう思いますけど、あとはレイサさん次第です。
「それに、そこまで気を張らなくても良いと思うんです。私は友人に誕生日プレゼントを渡していませんでしたし」
「????」
驚きと訝しみが混じったような目で見られた。可愛いな、おい。
「誕生日プレゼントって結構、重いじゃないですか。友達なのに相手にそういうことを強いて、場合によってはストレスになるのが私と友達は嫌だったんですよね」
あいつの場合は、うちにあまりお金がないからってのもあったんだろうけど。ホント良い友達をもったなあ……。
「まあ時々、お返しはいらないって言って、プレゼントをあげたり、もらったりはしてたんですけどね」
とまあ、これがさっきから歯切れが悪い理由。
友達だって突き詰めてしまえば、ただの他人だ。自分のことすらわからないっていうのに、相手の欲しいものなんてウジウジと考えたってわかるはずがない。
そんなに相手のこと知りたいなら本人に直接聞けって話だ。
「極端ですけど、私みたいな例もあります。
「レイサさんが感じているソレが辛いのものなのか、嬉しいものなのかは私にはわかりません。ですがどちらにせよ、もうちょっと気楽にしてみても良いと思いますよ。
「周りに合わせすぎる必要はないんです。私のことは信じられないかもしれませんけど、友達さんのことは信じてあげてください。
「レイサさんの友達なら、きっと大丈夫ですよ」
「あはは……。この前、先生にも同じようなことを言われました……。
「そう、ですね。少し、張り切りすぎちゃったかもしれません。
「いえ、先生にもテレスさんにも言われたんですからきっとそうです!
「ありがとうございます、テレスさん! お陰で楽になりました!」
そう言ってレイサはいつものような笑顔で、プレゼントを選びに商品棚へと戻っていった。
―――
――
そんな感じのこともあったので、フブキのいる交番に着いたときにはお昼時だった。
フブキはとういうと、カンナがマスタードーナツの限定セットを買う約束をしたのに買ってくれる気配がなくて若干、ご立腹だった。けど忙しいのもわかるので、忙しいうちは許すそう。
そんな世間話をしながら、お昼休憩に入っていたフブキとキリノと一緒にドーナツを食べた。ドーナツを食べるのは久々だったけど、美味しかった。たまに無性に食べたくなるんだよなあ。
「そっちの箱も頂戴〜」
「ダメです。これは先生とうちの分ですから」
「ちぇ。ま、買ってきてくれただけで儲けものってもんだよね。ありがと、テレス。お陰で午後からも頑張れそう」
まさかフブキの口から頑張るなんて言葉を聞くとは思ってなかったので、驚いてキリノを見ると、同じように「フ、フブキが、頑……張る……??」と呟いていた。
そしてその隙に、俺が手に持っていたドーナツを奪われる。
「え、あっ!」
「油断大敵。このドーナツは私がもらうね〜」
警察が窃盗するなよ……。
◇◇◇
「そういえば今日、サオリに会った。向こうは私に気づいていないみたいだったけど」
夕食の席で今日あったことをお互いに話していると、シロコの口から思わぬ話題が飛んできた。二次創作とかだとよく見た概念だけれど、どうやら本当にあったらしい。
ちなみに今日のメニューはグラタン。
「元気そうだった?」
「うん。でも、騙されやすいのがセリカみたいでちょっと心配」
「ああ……」
そこはゲーム内と変わらず、相変わらずらしい。
先生のケアにも限界はあるし、今後はシロコもサオリのことを見守ることになるのだろう。
なんとなくそんな感じがする。
「どうかした?」
「なんでもないよ、大丈夫」
「今日もヘルメット団の拠点に一人で乗り込まされそうになってた」
ああ、メモロビのやつか。
「大丈夫だった……んだよね?」
「ん、先回りして頭数を減らしておいた」
「流石ぁ……。でも無理はしないでね」
シロコがアシストしたってことは、ゲーム内よりかは重症じゃないのかな? ゲーム内でもシロコが介入していた可能性はあるしなんとも言えないか。あんまり怪我してないと良いけど。
「うん。大丈夫」
にしてもサオリに対する好感度が思ったよりも高くて驚いた。
セリカに似てるっていうのもあるんだろうけれど、シロコ自身が大人に騙されて……っていうのもあるんだろう。
「見かけたときで良いから、これからもサオリのこと気にかけれくれると嬉しい」
「もともと、そのつもり。任せて」
戦えない俺が直接、サオリの助けになれることは少ないだろうけど、これからはシロコが助けになってくれるはずだ。
「もし、会う約束とかあったら教えて。サオリのお弁当も作るよ」
「ん、わかった」