竜胆さんの日々 作:どういうこったあ!
「はい、シャーレです」
いつものようにシャーレで仕事をこなしていると、電話が鳴った。
「シャーレの先生であってるかな?」
快活で姉御肌。そんなイメージを抱かせるような声だった。
後ろからは微かに何かを切る音や、食器がぶつかる音がしている。
「そうですが……どちら様でしょうか?」
「あたしは朱城ルミ。玄武商会で会長をやってるんだ。
「今日は、あたしたち玄武商会からシャーレに依頼があってね。
「それで先生を玄武商会に招待したいんだけど、都合は大丈夫?」
道理で食器の音が……。と納得しつつ、タブレットで今日の予定を確認する。
幸い、ここ一週間は特に大事な用件はなく、直近であればいつでも大丈夫そうだった。
「もちろん、いつでも大丈夫だよ」
「それじゃあ、あたしは準備してるから、山海経の玄武商会まで、部員の子も連れて二人で来てもらえるかな。
「迎えに行けない分、最高の『おもてなし』を約束するよ。楽しみにしててね」
電話を切ると、ちょうどテレスが自動ドアをくぐりって出勤してくる。
「おはようございます〜って、あれ、電話です?」
「あ、うん。玄武商会のルミって子からだったんだけど――」
「ヒュッ」
玄武商会という単語を聞いた瞬間、途端にテレスの顔色が悪くなる。
「だ、大丈夫? 二人で来てねって言われたんだけど……」
「あ、あはは……。骨は拾ってくださいね……」
「!?」
骨って、なにがあったの……? まさか依頼ってテレスのことだったりする……?
そんな不安を抱えながら、どこか怯えた様子のテレスと山海経へと向かった。
◇◇◇
「学園外の方ですよね?」
山海経に到着し玄武商会の建物が並ぶ通りに入ると、赤色の中華服に身を包んだ玄武商会のメンバーに声をかけられる。
今は学園外の人だけど、昔は学園内だった人ですよー。
「今日はルミさんのお店にお呼ばれしてるので、湯豆腐はまた今度で!」
「あっ! 誰かと思ったらテレスじゃん! おひさ〜!」
「あはは、お久しぶりです……」
「急に消えたからビックリしたんだぞ〜?」
「その節は大変ご迷惑をおかけしまして……!」
「ま、なんにせよ元気そうで良かったよ。楽しんでな」
「はいっ」
「そっか、元々は山海経にいたって言ってたもんね」
「ちなみに玄武商会の所属だよ、そこの家出少女は。急に辞められて、いつの間にかシャーレに所属してるんだから、困ったものだよ。ねえ? テレス?」
どこからか現れたルミにガッチリと肩を組まれる。もう助からないゾ。
「ほんッッッとうに、すみませんでしたッ!!!!!!」
「あとでゆ〜っくりお話しようね」
え、笑顔が!! 笑顔が怖いよ!!! まじで死ぬかもしれない……。
骨は拾ってくださいねが洒落になってないんですが。
「お、お手柔らかにお願いします……」
そのままルミに連れられてルミの店に向かった。
―――
――
「それでは改めまして。ようこそ、玄武商会へ! そして、テレス」
「は、はいっ」
ルミに目を向けられ思わず背筋が伸びる。
しばらく見つめ合い、もう限界というところで、フッっとルミの表情が柔らかくなる。
「……おかえり」
キヴォトスに来たばかりで右も左もわからなかった俺の面倒を見てくれた。
恩人なんて言葉じゃ足りないくらいで、本来なら一生をかけて返していくべきなのに俺の身勝手な理由で離れて、その後の連絡もあまりせず。
我ながら恩知らずにも程がある所業に反省しつつ、何を言われるんだと怯えていた俺の耳に飛び込んできたのはそんな暖かいセリフだった。
「……はい、ただいまです」
顔合わせを済ませた後は、佛跳牆・全家福など、様々な料理での「おもてなし」を受けた。先生はわからないのだろうけど、俺はこれらの料理にどれだけの手間がかかっているのかが察せてしまうので、震えながら食べていた。まっっっじで死ぬほど美味かった。
料理を運んでくるのがレイジョだったので、レイジョにも軽く挨拶をした。
先生がレイジョのことをレイちゃん呼びしていて笑ってしまった。そういえばそんな呼び方してたね。
「おもてなし」が一段落すると、シャーレが呼ばれた原因でもある、「萬年参」密売疑惑の話も出た。
そしてその流れで玄龍門――キサキのところへ。
「シャーレの先生は人望が厚く、目的のためであれば手段を選ばぬ、権謀術数に長けた策士だと聞き及んでおる」
「どこで聞いたのソレっ!?」
「案ずるでない。妾の見立てでは、其方はそのような類ではなかろうて。
「寧ろ――人の良さが祟って、振り回されている姿が目に浮かぶからな。そこの者のように」
おっと流れ弾? にしても相変わらず、玄武商会と玄龍門の仲が悪い。
玄龍門としては事の顛末なんてどちらに転んでも良いはずなのに、それがわかってない子が多い気がするなあ……。
キサキとルミの仲は悪くないのに、組織だとこうなってしまうのが辛いところだね。
似たような感じで、リンとアオイもそんな感じなんだろう。
良くも悪くも公私の区別がはっきりしている。
「――玄武商会よ、聞くがよい。其方の容疑が晴れぬ限り、監視を解くことはできぬ。
「とはいえ、今すぐ反証を示せというのも理不尽じゃろうて。そこで、しばし猶予を与えよう。
「期日までに妾が納得する証拠が見つかれば、改めて審議の場所を設けるとしようかの。
「じゃが、努々忘れるでないぞ。もしも、状況が悪化するのであれば、玄武商会の取り潰しも致し方ないからの。
「以上を、玄龍門の門主――竜華キサキの裁決とする」
こっちには先生もいるし、妥当なところに落ち着いたって感じかな。けどこれでもキサキが頑張ってくれている方なのがなあ……。
ま、なんにせよ俺は犯人を知ってるけど、軽くサポートするくらいで大丈夫かな。
とか思っていた時期が僕にもありました。
玄龍門のお話がわからん子たちめ。応接間から出た瞬間、襲ってきやがって。もっちと仲良くしようぜ〜?
「ヘイローなしにあんまバカスカ銃を撃たないでもらえますかねっ! っと」
何気に先生の指揮の元で戦うのは初めてなんだけど、すっげえ戦いやすいなこれ。
銃で撃たれたら一発アウトだから、空間把握には気をつけてるけど、先生からの指揮とレイジョの立ち回りのお陰で格段に避けやすい。
「テレス、後ろに三人」
先生からの通信が入る。ありがてえ。
さてさて、どんどん行きましょうか?
飛んでくる弾は倒れてる玄龍門の子を盾にして防ぎつつ、リロードの隙にダッシュで近づく。
鳩尾に飛び膝蹴り入れて、横にいる子には散弾銃ブッパ。飛び膝で倒れた子の腹にも一発入れておく。
「くっ!」
残ったやつが撃ってくるけど、散弾銃で怯んだ横の子の腕を引っ張って盾にする。
「お前、さっきから戦法がエグいな!」
うるさいやい! こちとら手段選べるほど強くねえんだよ!
ムカついたので、スネに蹴り入れて怯んだところに散弾銃のプレゼント。喜べよ。
最後に仕上げでストックで顎に一撃お見舞いしておく。
「おーしまいっ」
「これで大体、片付いたね。三人ともお疲れ様」
「そ、そんな馬鹿な……」
馬鹿は君たちだって言ってやりたい気持ちもあったけど我慢した俺、偉いぞ。
門主たるキサキの命があったのにどうして独断で動くのか……。
なんて思ってたらレイジョが言ってくれた。
そしたら「誰が犯罪者の言葉に耳を傾けるか!」だってさ。うーん、この。
「それじゃあ、萬年参に詳しい人を当たろうか」
―――
――
「うるさいと思ったら、玄武商会に先生? テレスは……どっちサイドなのだ?」
ルミの言う、萬年参に詳しい人とはサヤのことだった。
そんなわけで錬丹術研究会に来ております。
ここにはドーピング薬(なにかあったとき用に持ってはいるけれど、幸いにもまだ使う機会は訪れていない。最終編で使いかけたけど)の作製などで何度か入っているけれど、相変わらず独特の匂いがする。
換気はしているはずだし、なんの匂いなのか……。
「サヤにお願いがあってね」
「ぼく様、なんだか嫌な予感がするのだ。玄武商会が一緒ということは……つまり……。
「先生には申し訳ないけど、帰ってほしいのだ……。玄武商会と玄龍門の争いなんて、ぜ〜ったいに巻き込まれたくなのだ!」
「まあまあ、そんなことを言わずにさ。
「おっと! チーズ南煎丸子をかけた焼き刀削麺が、こんなところに……」
あ、これチーズの匂いだ。道理で、さっき嗅いだ匂いだと思った。
そんでサヤはメチャクチャ料理に釣られてるし。目にハートまで浮かべちゃって……。
「それで聞きたいのが萬年参についてなんだけど……」
「『萬年参』? なんであんな扱いにくい植物について知りたいのだ?」
「そんなに扱いづらいの?」
曰く、湿潤で冷涼な場所じゃないと根付かないため、植生地が崑崙山の山頂付近しかない上に、収穫まで少なくとも六年はかかるそう。
さらには十年は待たないと十分な効能が期待できず、環境の変化にも敏感なため、百個の種を蒔いたとしても、まともに収穫できるのは十本にも満たない。
ついでに舌が痺れるほどの苦みがあるそうで……。
いくらなんでも扱いにくすぎるだろとツッコミを入れたい生態をしている。
それでも作られているのは、危険で複雑な工程を繰り返すことで、短期的に集中力が大きく高まる成分を取り出すことができるから。他にも筋力増強とかの効果もある。
なんで知っているのかというと、ドーピング薬の作製のときに似たような話をされたからだ。実を言うと、俺のドーピング薬にもこの成分に似せたものが入っていたりする。
レイジョが効能を聞いて食いついてるけど、ルミに「ダメだからね」とたしなめられている。
「ズルして強くなったら、カンフーじゃないよね?」
「そ、そうでした……! 『利は天より来た来たらず、地より出ず』ですね……!」
なんか……ごめんなさい。心が居た堪れなくなってきたな……。
「流石です、会長! やはり私と一緒に――」
「やらないよ。そういうのはテレスとやってね」
「えっ」
なんか今日、流れ弾が多くない?
俺だって嫌だよ?
―――
――
萬年参の唯一の栽培場所が崑崙山なので、取り敢えずそこに来てみたのだが。
「犯人は犯行現場に現れると相場が決まっている」なんて言いがかりを付けられて玄龍門に襲われた。こちらとしては戦う気はないので面倒くさいことこの上ない。
相も変わらず、ヘイローないのにバカスカ撃ってきやがって……。無傷で勝てたから許すけども。
食らったら? 倍返し。……なーんて。
「くっ……! 失敗を認めなければ前に進むことはできない。成長のためには必要なこと。しかし、受けた屈辱はそのままだ……私たちは破壊されるために創られたというのか!?」
まーた、どっかの映画のセリフ言ってるよ。
「また訳のわからないことを」
「ちょっと何言ってるのかわからないかな」
散々な言われようである。ちょっと可哀想になって……くるかなあ?
「そんなっ!?」
玄龍門は錬丹術研究会と一緒に崑崙山に現れることを期待していたみたいだけど、この場に来たからと言って犯人だと決めつけるのは些か勝手が過ぎる。
お陰でレイジョがキレて玄龍門に喧嘩を売り始めたし。どーどー。
「うーん。玄武商会と玄龍門はお互いに目を光らせていて、どちらかが密輸した可能性は低いよね。そうしたら……どちらの目も届かない組織があるとか?」
「何を言っているんだ、先生は。そんな組織が山海経にある訳がないだろう。つまり疑わしきは玄武商会という訳だな」
「あー、あるにはありません? どちらの目も届かない組織」
「おっ、奇遇だね、テレス。あたしも一つ心当たりがあるんだ。もし本当にそこだったら、山海経もいよいよってところなんだけど……」
「じゃあ、同じっぽいですね。せーので言いましょうか」
「「梅花園」」
―――
――
梅花園で園児たちの「おつかい」として玄武商会の段ボールを山海経の外に運んでいたという証言も取れたので、玄武商会・玄龍門どちらも揃えての罠を張ることになった。
俺は先生の警護で、犯人が現れるのを先生と少し離れたところで見守っている。
けど、このあとルミとキサキが来そうだし、ちょっとだけ離席するかな。
なにを話すのかまでは覚えていないけど、先生にしか話せないような話で、それが二人に取って大事だというのはわかる。俺は気遣いのできる人間なのだ。
その間、俺はレイジョと話すとしますかね。
けど、その前に二人に言わなきゃいけないことがある。
「ルミさん、レイジョさん」
「おや、先生のところにいたはずでは?」
「なにか問題でもあったの?」
「空気読みってやつです」
怪訝な顔をされるが、気にしない。
「二人に、ごめんなさいとありがとうを言いたくて。
「まず、身寄りのない放浪者であった私を拾ってくれて。育ててくれて、本当にありがとうございます。ルミさんとレイジョさんがいなかったら、きっと死んじゃってたと思います。
「なのに、勝手にいなくなったりしてごめんなさい。それにシャーレに所属した後も、なんかと理由をつけて会うのを先延ばしにしてしまって……」
「私もレイジョも玄武商会のみんなも、怒ってなんかいないよ。
「ただ、テレスが私たちを頼ってくれなかったのは寂しかったかな。
「私たちには頼ってくれなかったのに、まだ出会って月日の浅いであろう先生には頼ってるんだから、余計にね。
「テレス、私たちは――」
「頼りないなんてこと、ないです。絶対に。断言します。
「私が皆さんに頼れなかったのは、怖かったからなんです。
「私の故郷の話、しましたよね。私はきっと、もう故郷の人たちには会えません。
「山海経で幸せになって、故郷のことを忘れてしまうのが怖かったんです。
「けど、その気持ちにも踏ん切りがつきました」
玄武商会をやめるときに言ってもらった「いつでも帰っておいで。テレスの居場所はここにあるから」って言葉が、どれほど嬉しかったことか。
「私はキヴォトスで生きて、死にます。
「だから、えっと……」
「大丈夫、全部を言葉にする必要はないよ。これからは頼ってくれればいいんだから。
「ね、レイジョ?」
「会長の言う通りです。これからは沢山頼って、迷惑をかけてください。
「本音を言えば、あなたを変えた人が羨ましいとか色々ありますが……。
「取り敢えず、今はそれだけでいいです」
「はいっ、いっぱい頼ります。
「改めて。ありがとうございました! ごめんなさい! そしてただいまです!」
「「おかえり(なさい)、テレス」」
―――
――
梅花園の子供たちを利用したブローカーへ。小っ恥ずかしさをこめて散弾のお届け物でございまーーーす!!!! ひゃっはー!!
無事、ブローカーが罠にかかってくれたので、ぼこしタイムじゃい!! おらおらどけどけ!!!
気恥ずかしさがヤバいのでハイになってるよ! あんま気を抜いてると撃たれそうになるけどおおおおっ!? あっぶね。頭すれすれを弾丸が掠めていったんだけど。
撃ったの誰? お前? よし、お前だな。散弾のお返しやるよ。
「なんか弾の尽くを躱す奴がいる!! キモっ!!」
は? ぶっ殺。
「や、やめろおおお!! こっちくるなあああ!!!」
散弾三発、それぞれ上中下段野三段にやるよ。ついでに鳩尾にストック、どーん。
「ぐはッ」
よし、次――って、あれ。いつの間にか戦闘が終わってる。むう……。
「よしっ。これで一件落着かな。
「サヤ、聞いておきたいことがあるんだっけ?」
「あ、そうだったのだ。お前たちは誰の指示で動いているのだ?」
「しっ、知らない! 本当だ! 何も知らないっ!」
「忠告ですけど、この人は錬丹術研究会の会員ですから、自白剤の一つや二つすぐに用意されて強制的に吐かされることになりますよ?」
「いや、そんなことしないのだ……。
「お前たちの後ろにいるのは『五塵の獼猴』――申谷カイだろう?」
助け舟を出したつもりだったのに「ええ……」みたいな目で見られたんですけど。なぜ。
◇ ◇ ◇
朝です。身動きが取れません。
なんでだと思う〜? 金縛りじゃないんだな、これが。
正解はレイジョの抱き枕にされてるからでした〜! どんどんパフパフ。
じゃねーよ。
昨日、萬年参のブローカーを逮捕したあと、D.U.に帰ろうと思ったんですけど、キサキが宴を開くって言い出したので、その準備で泊まりになった訳ですよ。
そのお陰でルミの試作品の試食がなくなって密かに喜んでいたのは、俺とレイジョだけの秘密である。
適当なホテル取ろうと思ったのだけれど、玄武商会の寮みたいなところに泊まれって言われたので、ルミと俺とレイジョで川の字になって寝ることになった。
そんで気が付いたら抱き枕ってワケ。いやホントなんで?
ルミは起きてるのに面白がって助けてくれないしさあ!
レイジョは良い匂いするし!!
「ルミさん、そろそろ見てないで助けてくれません……? もう四時ですよ……?」
「ん〜、やだ。」
ルミは頭撫でてくるし!! うおー、やめろーー!!
食材の仕込みをさせろー!! 今日は餃子を作りたい気分なんだー!!!