竜胆さんの日々   作:どういうこったあ!

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氷室セナとプロテインバー。そんな日々。

 「お、お腹すいた……」

 

時刻は午前一時すぎ。おおよそ学生が出歩く時間ではないのにも関わらず、テレスは覚束ない足取りでコンビニへと向かっていた。

 

この日、先生がRABBIT小隊と共に消えたエビの調査に向かったので、テレスと当番の生徒で書類を片付けていた。平時ならさほど苦労しなかったはずだったのだが、季節は夏。

夏の魔力は恐ろしく、羽目を外してしまう者は少なくない。それはテレスの元いた世界でも、この学園都市キヴォトスでもあまり変わらないようだった。

 

当番の生徒も帰ったあともテレスの残業は続き、気付けばこんな時間である。

同居人である少女はテレスの帰りが遅いことに怒っているだろうか。

先ほど送った「今から帰るね」のメッセージにも既読がついているし、ひょっとしたらテレスが家に着いたときでも、起きているなんてこともあるかもしれない。

 

いつもならそれほど遠くに感じないシャーレから自宅までが、今のテレスには永遠に感じられた。自宅どころか中間地点であるコンビニに着くかどうかどうかすら怪しく思える。

 

瞼がダンベルのように重たかった。そんな調子にも関わらず信号が変わるのを待っていた者の末路は一つであろう。立ち寝である。

 

―――

――

 

「……さい、起きてください」

 

「んあっ」

 

はえっ。寝てた? 道路脇に停まっている救護車のランプが眩しい。

 

「起きましたか。こんな所で寝ていて風邪を引いてしまいますよ」

 

「あ、セナさん……。どうも……」

 

「? どこかでお会いしましたか?」

 

かつて治療した死体……負傷者の中にこんな少女はいただろうかと、セナは首をかしげる。

一方のテレスはというと、今のセナの発言で完全に目を覚ました。

 

「あっ、えっと、ゲヘナの! ゲヘナの救急医学部の部長さんですよね! 以前、お写真を拝見したことがあって!」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

あっぶねえ。なんとかフォローできたな……。にしても、セナもこんな時間まで仕事なのか。やっぱり医療従事者は大変なんだなあ。

 

「それはそうと、お疲れなのはわかりますが、こんな所で寝ていては何が起きるかわかりませんよ」

 

「あはは、すみません……」

 

「そのネクタイ、連邦生徒会のものですよね? 失礼ですが所属を伺っても?」

 

「一応、シャーレ……だと思います」

 

なぜだかわからないがトリニティの救護の人がよぎったせいで、労働環境改善を求めて救護ォッ!! するかと身構えてしまった俺を許してほしい。疲れてんだ。

 

「ああ、道理で……。

「大方、あなたも働きすぎる節があるにも関わらず、仕事を背負おうとしたのでしょう?」

 

よくおわかりで……。流石は救急医学部の部長。

あなた「も」ってのは、先生のこと言ってるんだろうなあ……。気を付けまーす。

 

「あまり引き止めても迷惑でしたね。すみません」

 

「いえいえ、そんな事ないですよ。むしろセナさんと話せて嬉しいです」

 

「……そういうところまで似ているのですね」

 

そりゃあ、元先生ですから。生徒のことは大好きですとも。

 

「目的地が近いのであれば指定の場所までお送りすることもできますが、如何なさいますか?」

 

「お気遣いありがとうございます。でも、今のでバッチリ目が覚めましたし、家も近いので歩いて帰ろうと思います」

 

「了解しました。それでは、お気をつけて」

 

「はい、セナさんもお勤めご苦労さまです。部活は大変だと思いますが、しっかりと休みは取ってくださいね」

 

「説得力に満ちている発言ですね」

 

「はい、ホント気を付けま――」

 

グーっと、お腹の音が盛大に鳴る。

 

「……よろしければ、プロテインバーを召し上がりますか?」

 

「すみません、ください……!」

 

「こちらをどうぞ」と、プロテインバーを手渡される。

 

俺がお礼を言うと、そのままセナは救護車に乗り込んで、どこかへと去ってしまった。

 

なんか、良い出会いだったな。

夜中に電柱の下、少女二人……みたいな。

 

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと帰ろ」

 

セナからもらったプロテインバーにかぶりつく。

 

「うめえ……」

 

◇◇◇

 

「おかえり。お風呂にする? ご飯にする? それとも……」

 

「わあ、一度は見たことのあるシチュエーション。取り敢えずシャワー浴びて、ご飯食べたら寝るかな」

 

起きているのは予想していたので驚かない……でも若干シロコ、深夜テンション入ってない?

そしてなんでシロコはちょっと残念そうなの……。

 

「わかった。ご飯の準備しておくね」

 

「……あのシロコさん?」

 

「どうかした?」

 

「どうしてお風呂場までついてくるのでしょうか」

 

お腹もすいたので、パパっとシャワーを済ませようと思ったのだが、ご飯の準備をすると言ったシロコがドラ◯エさながらについてくる。

この狭い通路じゃ宇沢ステップも使えないので、俺に対抗手段はない。

 

「ダメ?」

 

「そんな上目遣いで言ってもダメです」

 

というか俺より高身長なんだし、その態勢、辛くない?

あ、でも可愛いは我慢だって誰かが言ってたな。なるほど、確かに可愛い。それはそれとして無理はしないでね……。冬にミニスカの子とか見ると心配になる。

 

「むう……」

 

「それでも更衣室からは出ていかないのね」

 

―――

――

 

 「ごちそうさまでした」と、隣で眠っているシロコを起こさないよう小声で呟く。

 

どうやらシロコも疲れていたらしく、シャワーから戻るとすでに目がうつらうつらしていたのだが、ご飯を食べている途中で完全に寝落ちてしまった。無理をさせていたみたいで申し訳ない。

 

シロコのことを考えると起こさずに寝室まで運びたいのだが、俺とシロコでは体格差が割とあるためあまり現実的ではない。

となると起こすか、リビングで一緒に寝るかなのだが……。

 

そんなことを考えながら洗い物をしていると、食器の音が響いたのか、むくっとシロコが起き上がった。キョロキョロと周りを見渡して、やがて俺を見つけると安心したような表情を浮かべた。

 

「いなくなったかと思った」

 

まだ完全に目が覚めているというわけではないらしく、寝ぼけ眼のトロンとした表情を浮かべている。その表情に少しの寂しさを滲ませながら。

 

「いなくなってないよ。俺はここにちゃんといる」

 

洗い物を止めて、抱きついてきたシロコの手を俺の頬にあてがうと、夢じゃないか確認するように、シロコの手が優しい手つきで俺の頬を撫でた。

 

「でもこの前は帰ってこなかったし、今日だって帰りが遅かった」

 

やけに距離が近かったのには、そんな理由があったらしい。

思い返してみれば、確かにシロコと一緒に暮らし始めてから別々になったのは、この前の山海経が初めてだ。それまでも帰りが遅いというのは何回かあったけれど。

 

「だから今日は抱き枕になって」

 

「うん、いいよ」

 

でも歯磨きまだだから、抱きついてこられると少しだけ困るんだ。

別に嬉しくない訳ではないのだけれど、もうちょっとだけ待ってほしい。

 

翌日、顔を真っ赤にしたシロコから「ごめん……」と謝られた。

恩を返すどころか、甘える形になって申し訳なかったらしいけど、正直、頼られる方が嬉しいよねって。




 テレスの服装について。

テレスは連邦生徒会所属ですが、普段は白か水色のシャツに紺色のスボンという服装をしています。
一応、連邦生徒会の制服的なものも持ってはいますが、着るのは正式なときだけみたいです。

それでも、連邦生徒会支給のネクタイ(学年に応じた数の星柄の入った青いネクタイ)は普段使いしている模様。
青シャツには合わないので、白シャツのときだけですが。
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