竜胆さんの日々   作:どういうこったあ!

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どこにでもいるような高校生とお団子。そんな日々。

 伊藤ユウキはどこにでもいるような、至って普通の高校生だ。特別な力なんて持ち合わせていない。名前が変わっただけで、竜胆テレスも同じだ。

物語の起承転結を知っているくらいで、特別な力なんてない。

 

だから俺は、それが少女たちを成長させるのだと自分に言い聞かせて、彼女たちの苦難を見ていることしかできない。

大きな苦難を味わせることでしか、俺は彼女たちをハッピーエンドに導けない。しかも、その大部分を担うのは先生だ。俺はいてもいなくても変わらない。

 

俺の言葉じゃ、誰にも届かないのだ。彼女たちがより良い未来を迎えるための、別の道を示すことができない。

 

俺は、先生にはなれない。

 

もし物語の起承転結を先生に伝えていたら、彼女たちは今よりもずっと少ない痛みで、より良い結末を迎えることができたのだろうか。

 

例えば、百花繚乱での出来事。

 

必要なのは、

 

勘解由小路ユカリが、拒絶され、気持ちを無下にされて傷つこうとも、それが「普通」のことだと気付くこと。

桐生キキョウが、御稜ナグサに自身の思いの丈を吐き出すこと。

不破レンゲが、終わった話だと投げ出さないこと。

御稜ナグサが、自身の嘘をみんなに伝えて。受け入れて。そして仲間を守るために立ち上がること。

 

そうやって、四人が仲直りをして、百花繚乱に戻りたいという目的に向かって進み始めること。

大きな痛みを伴いながらも、これらが揃うことで初めて彼女たちはより良い未来に向かっていける。

 

ゲーム内では、箭吹シュロが起こした騒動と先生によって、これらが達成された。

道筋を変えて同じ結末に導くなんて、俺にはできそうにない。

未来を変えて、背負っていく強さが俺にはないのだ。

 

言い訳だってわかってる。俺が弱いだけだってわかってる。

それでも、怖いのだ。

アヤメは手の届く範囲にいて、助けられたかもしれないのに。

 

俺は未来を変える恐怖から逃げて。逃げて、逃げて、逃げた先の袋小路で、少女たちが傷つくのを見ているだけの傍観者だ。

もし何らかの理由で越えられたはずの苦難が越えられなかったり、努力がきちんと報われなかったりしたら、死力を尽くしてハッピーエンドに向かわせるのだと自分に言い聞かせて。

 

この先、俺の知らない物語が始まったとき、ヘイローも、特別な力も。心の強さもない俺に何ができるのだろうか。

今でさえ毒にも薬にもならないことをしているんだ。きっと、なにもできない。

俺はいてもいなくても変わらないし、それは俺の知らない物語が始まったところで変わらないのだろう。

 

けれど。

 

たとえ全てが徒労に終わったとしても、それは今日最善を尽くさない理由にならないことを俺は知っている。

だから迷わない。逃げ続けた先の袋小路で自分にできることを全力でやってやる。

 

少しでも、少女たちが未来で笑えるように。

 

 ……なーんて言い訳をツラツラと並べ立てたところで、百花繚乱一章の見守りですわよ。

 

先生に燈籠祭においでって言われて来ているので、シャーレの仕事はなし。けど、ゆっくりお祭りを楽しめるわけじゃないってことは知っているので、お団子だけ買って食べた。んまかったぜ。

 

閑話休題。

 

先生たちの話。

今のところは順調で、特に記憶からズレてる箇所もない。

そんなわけで、先生とユカリたちがシュロと戦っている舞台から少し離れた場所。

そこで俺はこの戦いの結末を見届けようとしている。

 

たぶんこのまま、シュロが負けて終わる。結局、今回も特にやることはなかったということで。

今回やったことと言えば、お祭り運営委員会をちょこっと移動させて、戦闘に巻き込まれないようにしたくらいだ。

やることが特にないっていうのは良いことなのだけれど、どうしても心理的にはね……。

 

百花繚乱一章で俺の知るメインストーリーも終わり。(イベントストーリーはもうちょっと知ってるけど、誤差だ誤差)

ここからは、俺の知らない物語。うん、ようやく楽になった感があるな。

 

……いや、やっぱりないかも。

今までは結末を知ってたから、これはして大丈夫って感じだったけど、これからは何が地雷になるかわかんないし。

けど、普通はそうなんだよな。みんなそうやって生きてる。

それに先生もいる。まあ、なんとかなるだろう。

 

セイアもこんな気持ちなのかなあ……。って、待って? もしかしてこっちならセイアの声を聞けるのでは?

うっわ、マジか。なんで今まで気付かなかったんだ。

 

セイアに会う機会は滅多にないだろうし、なんかビデオとかないかな。たしか聴聞会で喋ってたし。

えー、どんな声なんだろう。ワクワクが止まらねえぜ。

 

とか言ってたら、シュロちゃん負けたね。

自分の怪談を少女たちの成長の物語にされてんの可哀想。同情はしないけど。

 

◇◇◇

 

 「そういえばさ、自転車ってもう乗らないの?」

 

「うーん……」

 

「あれ、あんまり乗り気じゃない?」

 

てっきり、良い返事がもらえると思っていたので、あまり芳しくない反応に少し面を食らう。

 

百鬼夜行からの帰路。

駅まで迎えに来てくれていたシロコと住宅街を歩いている。

他に出歩いている影もなく、ときどき自動車がヘッドライトを眩しく照らしながら走っているくらいだ。

 

「特別な理由があるわけじゃないんだけど、ただ、しばらく乗ってなかったから。

「それに昔ほどは走れない。ペダルを踏んでも、昔みたいに戻れないと気付いちゃったら……」

 

「俺が隣にいるよ」

 

「……え?」

 

「たとえ昔みたいに戻れなかったとしても、俺が一緒に走るよ。だから独りじゃない」

 

「……ある日、目が覚めたら夢だったって、いなくなったりしない?」

 

「いなくなったりしないよ。そりゃあ、いつかは死んじゃうかもしれないけど」

 

スッと、横を歩いているシロコと手を繋ぐ。

突然のことだったから戸惑ったみたいだったけれど、少しだけ力を込めて握ると、シロコも握り返してくれる。

 

「そこは嘘でも言い切ってほしかった……けど、テレスらしいね。

「でも……そっか。一緒に走ってくれるなら、また乗ってみようかな。

「色々と壁はあるかもしれないけど、テレスと一緒ならできる気がする。それに先生もいてくれる」

 

「きっと大丈夫。なんとかなるよ。なんて、不確定なことしか言えないけど……。

「取り敢えず、週末に自転車、一緒に見に行かない?」

 

「うん。行く」




 「ある日、目が覚めたらユメみたいに、消えていなくなったりしない?」

追記:誤字報告ありがとうございます。
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