竜胆さんの日々   作:どういうこったあ!

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グルグル混ざって、グニャってなって。

 中段を狙った右蹴りを腕で受ける。

続けて放たれた上段突きを腕で巻き取り、こめかみを狙って肘鉄――

 

「残念」

 

しようとしたんだけど、足払いに見事に引っかかってスッテンコロリンスットントン。畜生。

 

 はいはいどーもー。TSロボ憑依転生者の竜胆テレスちゃんですよー。

只今レイジョと稽古中。エデン条約まで後一週間だってのに相も変わらずボコボコでごぜえますよ。受け身を失敗した上に疲れてるので立ち上がる気力もねぇ。

 

「ボコボコにされないとスイッチが入らない癖、治して下さい」

 

「平和主義者なものでして……」

 

「実戦でそんなこと言ってたらホントに死んでしまうかもしれないんですから、模擬戦でもしっかりやって下さい。スイッチが入ればそれなりなんですから……」

 

それなりて。けどまあ、少し前まで一般人だったやつがキヴォトス人とそれなりに戦えてるってことは、前の世界での八年間の空手は無駄じゃなかったのだろう。

レイジョ曰く、俺はどうしようもなくなって初めてやる気が出るらしい。それじゃ遅いと毎回どやされる。銃で人を撃つも人を殴るのも蹴るのものまだまだ躊躇が盛り盛りでーす。

 

「分かってますよう」

 

「自分から積極的に責めることは少ないですが受け流しは上手いので、そこから攻撃に転じることが出来れば完璧です。今回は見事に失敗しましたが」

 

「褒めてから落とさないで下さい。落としてから褒めて下さい」

 

 呆れた目でこちらを見ながら伸ばしてきたレイジョの手をとって立ち上がる。下からだと色々と見えそうで困るんすケド……。

 大体、戦ってる最中も結構際どいし……。そんな格好してるくせに足技を多用しないで欲しい。切実に。見ちゃうから。

 

「まあ、今日のところはこれくらいで良いでしょう。ほら、会長のところに戻りますよ」

 

―――

――

 

 「ただいま戻りました〜」

 

「おかえり二人とも。シャワー浴びておいで。それが終わったら新しい試作品の味見お願いね!」

 

「「えっ」」

 

料理で有名になっただけあって、ルミ含め玄武商会の料理は絶品だ。

けどそれが試作品となるとわけが違うわけで……。すごくオブラートに包むと失敗は成功の母……みたいな。

連日、試作品の味見をさせられ続けていたので、しばらく経ってもレイジョはシャワーに籠もったままだった。カンフー精神ェ……。

 

◇◇◇

 

 ただいま三〇〇mくらい離れたビルの屋上からエデン条約調印式を覗き見中の竜胆テレスです。

警備の風紀委員会や正義実現委員会に見つからないかドキドキしております。

仮面つけてるし、もし見つかっても竜胆テレスだとバレる確率は低い……はず。

 

そのために結構なお金を払ってこの仮面を買ったんだし。

ブラックマーケットに流れてた一品で、ボイスチェンジャー、ヘイローの偽造、Bluetoothスピーカー、電子決済機能、etcと盛り沢山。一体どこのミレニアムのマイスターが作ったんだろうね?(すっとぼけ)

 

欲を言えばアツコのつけてるような防具としての仮面も欲しいけど、あれオーパーツだしなあ……。

ていうかそもそも、学園に所属してないからどこのデータにも俺の個人情報なんてない気がするけど。

 

 ここで一旦おさらいしておこう。脳内シュミレーションってやつだ。

このあと調印式が始まったら、会場にミサイルが飛んでくる。

ミサイルを発射したのはアリウススクワッドっていう四人組の部隊。

目的はユスティナ聖徒会を手に入れること。

 

けど、ユスティナ聖徒会云々は後で良い。

大事なのはミサイル着弾後にサオリ(アリウススクワッドのリーダー)に狙われるのが先生かヒナということ。

 

先生かつ撃たれたのが腹部なら恐らくハッピーなルートの先生で、それ以外ならバットなルート。

そして、もし狙われたのがヒナなら俺がここからサオリを撃ってどうにかヒナが殺されるのを防ぐ。

狙撃の腕は……まあ、うん。努力はした。

 

ちなみに先生が頭を撃たれたのならお手上げ。

とっととアリスとケイを死ぬ気で救いにGo To ミレニアムします。

ベアおば? 今の俺が行ったところで死ぬのがオチです。無理。任せた先生。

 

よし。シュミレーションは大体できた。

 

あとは待つだけだ。

 

……あ、そういえば素は俺口調ですからね? 前回の私口調はミスリードなだけだから。

まだそこまでTSに染まりきってはいない。

 

とかくだらないこと言ってたらミサイル来たし。

 

 ――あれ? 着弾したわりには音が……あ、ノイキャンかこれ。流石ミレニアムのマイスター。

いや、どんだけ音デカかったんだよ……。

なーんて。茶化してないと緊張と責任で死にそう。はっはー。マジで頼むぜ先生?

 

さて、土煙も晴れてきたし……。

 

 砂煙が晴れた先に現れたのは何度もスチルで見た、ボロボロのヒナだった。

 

血まみれだ。頭から血が出て、フラフラしてる。服もボロボロ。

 

視界が歪む。コーヒにミルクを入れて混ぜたときみたいにグルグルグルグルグルグル。

腹の中がグチャグチャグニャグニャ。

混ざって。混ざって。混ざって混ざって混ざって混ざって。

 

キヴォトスに来てしばらく経って、戦闘なんて見慣れたと思っていた。

そう思っていたし、実際に慣れてはいるんだろう。

けど、目の前に広がっている光景は、日常の延長線上にある喧嘩なんかじゃない。

人がたくさん傷ついて。血が流れて。死の匂いがする。

ゲームの中じゃない。現実なんだ。

怖い。人が死ぬのはもう嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い怖い――。

 

手が震えて、狙撃銃がこぼれ落ちた。

歴史を感じさせる街並みはどこもかしこも燃えていた。崩れていた。

目を閉じた。何も見えない。

怒号と悲鳴が聞こえる。仮面を外して耳を塞いだ。何も聞こえない。

血と火薬の匂いがする。息を止めた。何も匂わない。

死の気配と恐怖が残った。

 

「ゔぅゔうう――」

 

逃げたい。見たくない。聞きたくない。なにも感じたくない。

 

落ち着け。落ち着け。

冷静になれ。平常心。

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

息が出来ない。

酸素を吸え。

 

「ふーッ、ふーッ――!」

 

血と火薬の匂いで吐きそうになるのを必死に我慢する。

 

―――

――

 

 どのくらいそうしていたのかはわからない。

けど、虚ろっていた意識が一際大きな爆発音で現実に引き戻された。

飛行船が墜落したらしい。

 

「……飛行船。マコト。万魔殿。風紀委員。ヒナ」

 

そうだ。ヒナ。ヒナの無事を確認しなくちゃ。

再びスコープを覗く。

人が倒れている。血まみれ。

どうでもいいだろ、そんなこと。今はヒナだ。考えるな。

 

「違う。違う、いない……いないいないいない、ヒナじゃない」

 

逃げ出してしまいたい気持ちを泣きそうになりながら抑え込んでスコープを覗く。

けれど一度、見失ってしまったヒナの姿は見当たらなかった。

ユスティナ聖徒会まで出てきた。時間がない。

 

「ここじゃない、君じゃない、ああくそ、どこに――」

 

いた。さっきよりも見たときよりもさらに傷が増えている。先生も一緒だ。

 

二人がユスティナ聖徒会に囲まれる。

 

落ち着いて追え。

 

ヒナがユスティナ聖徒会を撃った。

 

ユスティナ聖徒会が消えた。

 

二人がアリウススクワッドと遭遇した。

 

ヒナは倒れてない。

 

先生とサオリがなにか話している。

 

サオリの銃口が先生に向けられる。

 

銃弾が先生の腹部を貫いた。

 

セナが二人を救出した。

 

――それで限界だった。

 

「ゔぅゔううゔぉ゙え゙ッ゙」

 

大丈夫。ヒナは死んでない。セナが来たんだ。きっと二人とも助かる。

大丈夫。きっとあれは本編先生だ。

 

「はーッ、はーッ、は――ゔぉ゙え゙ッ゙」




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