竜胆さんの日々 作:どういうこったあ!
扉をノックしてみるも返事がない。
勝手に入っても良いかな?
「失礼しまーす……」
荘厳な造りの扉を開けると本特有の香りがした。奥の方に明かりが見える。
大方、作業でもしているのだろう。
薄暗い部屋の中を進んでいくと、予想通りアメリカーノを片手に羽ペンを走らせているウイがいた。
「……うへあっ!?」
近づいていくと、ウイもこちらに気が付いたようでビクっと肩を震わせた。あと、奇声も。可愛いね。
「あ、どうも」
「なっ、なななっ! だ、誰ですか!? まさか泥棒!? この子たちは渡しませんよ!?」
初対面じゃこうなりますよね〜……。
なんとかして心を開いてもらえると良いんだけど。
「こんにちは。私は竜胆テレスと言います。今日は少し、ウイさんのお知恵をお借りしたくて」
「み、見たところトリニティの生徒ではないようですが……?」
「シャーレ――というより、連邦生徒会ですかね? の所属です」
「シャーレの……。ではあなたが先生の言っていた生徒さんですか」
シャーレという単語を出すと、いくらか警戒心が緩んだ気がした。先生パワーつおい。先生を通してアポ取っておいて正解だったな……。
「えっと、既にご存知かとは思いますが、私は古関ウイ……この古書館の管理をしている、図書委員会の委員長、です……。
「先ほど知恵を借りたいとおっしゃっていましたが、どのようなご要件で……?」
「アリウス自治区にあった古聖堂のステンドグラスってご覧になられてます?」
「ええ、一応は……」
「あのステンドグラスに描かれているものと不吉な光とか、不可解な観念といった記述。それに関する子たちがいれば、読ませていただきたいな、と」
「子たち……。あ、えっと、不吉な光とやらはわかりませんが、アリウスが信仰していたものにならいくつか心当たりの子たちがいるので持ってきますね……。
「ただ、私も写真で見ただけですので、あのステンドグラスがいつ作られたものなのかまではわかりかねます……。
「ですので、あれに描かれているものがあの子たちと合致するかは……」
最低でもあの悪趣味な自画像は舞台装置がアリウスの生徒会長になってから作られたものだろうし、そこまでの収穫は期待していない。
多分、色彩も舞台装置が作ったんじゃないかな〜って思うけど、確認は大事だしね。
やらないよりまし。そんな感じだ。
「いえいえ、お気になさらず」
「えーっと……不吉な光についても一応、探してはみますが、あまり期待はなさらないで下さいね……?」
「了解です」
ま、そうだよなあ。
先生ってあんまり生徒に色彩とかゲマトリアに触れさせようとしないから、こうやって少しでも知識を得ようと古書館まで来たわけだけれど、先生がやらせたがらないことをやらせるのはあんまり良くなかったかもしれない……。なにか収穫があったら教えてくれるだろうし。
……次からは気をつけよ。先生を信用しよう。
アリスのお姉ちゃんも言ってた。先生はなにもかもをハッピーエンドにする存在だって。
最終編を経て、その能力が減衰してるとかはない……はず。
◇◇◇
「テレスさん、匿って下さい!」
「今度は何やらしたんですか……」
「机の下、失礼しますね!」
シャーレで書類を片付けていた昼下がり。
やけに焦った様子のコユキが机の下に逃げ込んできた。
他にも机あるじゃん……。
ミレニアムに行ってていない先生の机とかさ。
ていうか、勝手に入るなよ。
「ははーん? ユウカさんからモモトーク来たんですけど――」
「絶っっ対に、言わないで下さいね!!」
コユキが机の下から顔を覗かせながら叫ぶ。
なんでも、ユウカのあることないことをミレニアム中の電子機器に流したらしい。おまけにユウカと先生のモモトークも。ちょっと……いや、かなり見たい。
「え〜? どうし――」
あっ、こいつスマホ盗りやがった!
「にははははっ! 油断しましたね、テレスさん! このままユウカ先輩にシャーレにはいないって嘘を教えてやりますよ! 私にかかればこんなパスワード……パス、ワード……」
テレスからスマホを盗り、モモトークを開いたコユキだったが突然、固まってしまう。
「え、急にどうしたんですか」
急にスマホ見て固まられるとびっくりするんですけど。
特に見られて困るようなもの調べてないよね? 不安になってきた。
「えっ、いや、その……。ネナベ同棲シチュエーションでモモトークしてるのはちょっと予想外かなって……。テレスさんってこういうことするんですね……。に、にはは……」
ネナベ? 同棲? ……あっ。
「いやいやいや、違いますよっ?!」
なにかものスゴい誤解をされている気がする!
「見〜つ〜け〜た〜わ〜よ〜???」
「あっ」
ユウカに引き渡す前に誤解を解こうと思ったのだが、良い言い訳が全く思いつかなかったので、大人しく引き渡した。
コユキも黙っててくれそうだったし。……黙っててくれるよね?
◇◇◇
「テレス、これ」
夕飯を食べ終わって、二人でのんびりしてるとシロコが仮面を差し出してきた。
「あれっ!? これ俺が売ったやつじゃん」
俺がこっちに来たときに買ったエンジニア部製の仮面。
D.U.に引っ越す時の資金の足しにするために売っていたのだが、買い戻してくれたらしい。
「たまたまブラックマーケットで見つけたから」
「結構な値段じゃなかった……?」
「ちょうどそのときの手持ちで買えたから大丈夫」
シロコはこう言っているけれど、ここ最近やけに帰りが遅かったし、きっとこの仮面を取り戻すためにかなり頑張ってくれたに違いない。
「うわー、嬉しい。ありがとう」
「ん、いつものお礼。気にしなくていい」
「多分、明日明後日の夕飯は豪華になると思う」
シロコの好きなもの満漢全席を作ろう。
取り敢えず明日はシロコの好きなものを作りつつ、満漢全席の仕込みだな。腕が鳴るぜ……!
「ふふっ、楽しみにしておく」
「あ、そう言えばシロコってピアス開けるとき痛かった?」
「そんなに痛くはなかったけど……急にどうしたの?」
「んーちょっと開けようかなーって」
「ふふっ、おそろいにする?」
は? なにこの可愛い生き物。
「開けます。おそろいします」
「……冗談だったんだけど」
「駄目です、言質とりました」
シロコは右耳だけにつけてるし、俺は左耳だけとかにしようかな。
誤字報告ありがとうごさいます。