竜胆さんの日々 作:どういうこったあ!
煌々と差す太陽の光。日差しを反射して光輝く青い海。素足では火傷してしまいそうな程熱せられた、白く美しい砂浜。……なんてことはなく。
「雨、降ってきたね」
生憎と俺達の頭上を覆うのは、暗く鬱屈とした曇天だった。というか海ですらない。つい最近、オープンしたばかりのウォーターパーク――エーギルだ。
エーギルって確か、海で亡くなった人(もしかしたら人じゃなくて戦士かも。うろ覚えなのは御愛嬌ということで)をもてなす神様じゃなかったっけ。勝手に殺さないでもらいたい。
多分、もてなすって方がメインの意味合いなのだろうけれど。
エーギルには、この前シャーレの仕事で来たのだけれど、そのときの報酬としてチケットをもらったのでシロコと来てみた次第。
浮き輪にプカプカと浮かびながら「どうしようかなー」と考えている内に、周りのお客さんたちは続々と屋内へと移動していく。
「屋内で遊ぶ?」
「温水プールがいい。体が冷えるのを気にせずに雨を浴びられるチャンス」
「浴びたいの……?」
「非日常って感じがして楽しい」
「あー、ちょっとわかるかも」
「ん、行こ」
さっきよりも少し雨脚の強まってきた雨に打たれながら、ペチペチと温水プールまで移動する。
シロコの言う通り、水着で雨に打たれていると、なんとなくアブノーマルな感じがしてテンションが上がってくる。夏っ! って感じの海じゃなくて、案外、こういうのも悪くないかもしれない。
道中、屋台も見かけたけれど、生憎の雨模様で客足は遠のいている様子。中には店じまいをしているところもあって、早めのお昼ご飯にして正解だった。焼きそばが美味しゅうございました。
こういうところで食べるご飯はお祭りの屋台に似たメニューが多いので、お祭り気分も味わえて結構、好きだったりする。
「ん、ちょうどいい」
温水プールに入ると、熱くもないけれど温くもない、心地良い温度が身体を包んだ。
前の世界で温度管理が杜撰な温水プール(人を不快にさせる絶妙なぬるさだった)に当たった経験も相まって、予約しているヒーリングスパへの期待が高まる。
行列ができるくらい人気らしいので、もともと期待していなかったわけではないのだけれど。チラッと覗き見したときも混んでたし。
ちなみに、このスパもお仕事の報酬だったりする。
仕事の一環で、たこ焼き屋の配属になったのだけれど、その日は猛暑だったのにも関わらず大盛況。運営側が予測していた売上の三倍を叩き出してやったぜ。
その特別報酬として中々、予約の取りづらいスパのチケットをくれたみたい。棚ぼたですな。
って、そんなことは置いといて。
「雨すごくない……?」
「ん、豪雨」
ポツリポツリと降り出した雨は、いつの間にかシロコの声を聞き取るのがやっとという程の大雨に変わっていた。
天気予報じゃ晴れだったから、ゲリラ豪雨ですぐに止むのだろうけれど。
降り注ぐ大粒の雨もそうだけれど、プールの水面で撥ねる雨粒が顔にかかって思ったよりも顔への被害が大きい。濡れるわ濡れるわ。
けれどそれ以上に、雨の中、クルクルと舞うシロコがやけに綺麗だった。
どうやら俺が思っていたよりもテンションが上がっているらしい。その顔には笑みが滲んでいる。
「テレス、一緒に泳ご」
差し出されたシロコの手を取って、ぎこちない動きで一緒にクルクル回る。
シロコの手に連れられて、水中を裂くようにクルクルと。
それがなんだか可笑しくて、笑い出してしまう。
「あははっ、これ何してるの!?」
「踊ってる!」
声を張り上げながら、雨が降り止むまで二人で踊り続けた。
―――
――
普通であれば風邪をひいてくしゃみをしているところなのだろうけれど、そこは温水プール。全くそんなことはなかった。
ちょうど雨が止んだタイミングでスパの時間も近づいてきたので、今はスパで疲れを癒やしている。
スパは個室で、水面に花びらやロウソクが浮いていて綺麗。きっと夜だとライトアップされていて、もっと綺麗なのだろう。ちょっと失敗。
けれど夜に来たら、ただでさえ多いカップルがもっと増えるんだろうなあ……。入るときも、周りがカップルばかりでちょっと気まずかった。割と真剣に個室で良かったと思う。
「あ゙ー、癒やされる〜」
温水プールにいたとはいえ、雨にあたって体が冷えていたらしく、期待していた以上にスパは気持ち良かった。
「テレス、おじさんみたい」
「おじさんはホシノさんでしょ」
「ふふっ、そうだね。けど、ホシノ先輩もテレスと同じような反応してたから、テレスもおじさん」
「まだお兄さんですぅー」
「おねにいさん」
「それはどっちなの……?」
「テレスみたいな人のこと」
「じゃあ、おねにいさんは男だ」
「いや、テレスは女の子」
「違うよっ!?」
「口答えしない」と、手で作った水鉄砲から飛んできた水をモロに食らってしまう。
酷い言論統制を見たというか、被害にあったというか。
「……やったな?」
「かかってくるといい。遊んであげる」
「なにおう!?」
ドヤ顔をしながら、クイックイッと手で煽ってくるシロコに対抗して、手で水鉄砲を作って撃ってみるが、俺の手から放たれた水はあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。
俺とシロコの間に気まずい沈黙が流れる。
「ん、下手くそ」
「返す言葉もありません……」
シロコに狙いをつけるときのコツを教わりながら、時間いっぱいスパを楽しんだ。