竜胆さんの日々 作:どういうこったあ!
カイザーコーポレーション。アビドス生徒会の債権者の”一つ”である会社。
元々カイザーが抱えていたアビドスへの借金の約45%は債権として、ネフティスに買い占められた。それも元値の四倍という額で。
よって現在、カイザーがアビドスに対して持っている権利は、アビドスの借金の約55%と広大な砂漠の土地のみだ。
セイント・ネフティス。アビドス生徒会の債権を買い占めた会社。
けれど、買い占めはネフティスのみで行われたわけではなく、私募ファンドも買収資金の一部を負担している。
現在、債権を購入したことにより、砂漠横断鉄道の運営権を所有。梔子ユメによって交わされた契約があるため、鉄道の全権利を保有することはできていない。
そして、ノノミの家が運営している会社でもある。
ハイランダー鉄道学園。鉄道の管理とそれに関する教育に特化した学校。
キヴォトスの学校では珍しく自治区を持たず、路線が自治区となっている。
ネフティスと協力関係にあるため、実際の砂漠横断鉄道の運営はハイランダーが行っている。
あとなんか、複線ドリフトを決める緑髪の双子と、眼帯したお姉さんがいるらしい。
私募ファンド。少数の投資家から資金を募り、アビドスの債権の買収資金の一部を負担したグループ。
債権はネフティスのみで購入したわけではないため、こちらもネフティスと同様の権利を持っている。
梔子ユメがした契約。
アビドス生徒会が鉄道における関連施設の使用権をネフティスから買い入れる契約。支払いがまだされておらず、契約が保留となっている。契約が不履行となるまでの猶予期限は二日後まで。
この契約が交わされた日に梔子ユメは失踪した。
カイザーが債券を発行した理由とユメ先輩が契約を交わした理由は共に不明。
ハイランダーの目的は特になし。ネフティスからの指示に従っているだけっぽい。
ネフティス、私募ファンドの目的は恐らく、列車砲シェマタの入手。
列車砲シェマタ。
かつてのアビドス生徒会とネフティスが共同で進めていた「非対称戦力兵器」であり、ゲヘナの先代生徒会長「雷帝」の遺産。
一トン以上の爆弾を五〇〇km先まで飛ばせる超射程を持つ。
その巨体により稼働は叶わなかったのだが、最近になって再現性が高いというシュミレーションが出た。
ネフティスと私募ファンドは、ユメ先輩の契約がある内は列車砲に手出しができない。
よって、あの手この手で対策委員会が契約の続行を総会で宣言するのを防ぐはず……っていうのが、先生と徹夜して集めた情報。
多分、これがアビドス三章なんだろうなあ……。頭がコンガラガッチャですよ。
雷帝の遺産なんて明らかな厄ネタ出てきたし。
ユメ先輩の死因は不明だけれど、ネフティスが関与してるのか?
あと不謹慎なのはわかっているのだけれど、ハイランダーの生徒には会いたい。面白すぎるでしょ。
「お疲れ様、テレス」
「あんまりお役に立てず、申し訳ないです……」
「そんなことないよ。テレスのお陰で少し仮眠も取れたし。
「きっと一人だったら休む暇なんてなかったと思う」
「なら良かったです」
「それじゃあ、そろそろ行ってく」
そう言って先生が席を立った瞬間、シャーレの執務室に爆音が響き渡った。
「なんッーーーー」
だあ!? 爆発っ!?
煙で視界が遮られる中、爆風で飛んできたのであろうナニカが俺の後頭部を打った。
「ぐっ――テレスッ!!」
先生にも爆風で飛んできたものが当たったらしく、うめき声をあげている。
アロプラバリアは!? と思ったけれど、多分バリアの一部こっちにも回したんだろ。じゃなきゃ、最初の爆風でシャーレから外に放り出されてる。
けど、そのせいでバリアの強度が落ちて先生に……!
あー、くそ。まっずい、意識が……。
朦朧としてきた意識の中、腰につけたサイドポケットから気付け薬を取り出して嗅ぎ、意識をなんとか繋ぎ止める。
後頭部に触れると手に血がべったりと付着していたので、止血剤を腕に打ち込んでおく。
「先、生ッ! 無事ですかッ!」
「私は大丈――げほッ! ごほッ! だか……ら……」
はあッ!? 倒れた!? なんで……ああ、クソ! ガスを吸ったのか!!
いや待てよ? じゃあ、なんで俺は無事――仮面か! おいおい、シロコとマイスター様々どころの話じゃねーぞ。
混乱でとっ散らかった思考がまとまらないでいると、近くでまた爆発が起こる。しかし、不思議と飛来物は先生を避けていた。
良かった、バリアは復活したみたいだ。今のうちに下の階まで避難しなければ。
けれど、今の俺では先生を安全なところまでは運べないので、ドーピング薬も腕に打ち込む。
「先生! テレスさん! 無事ですかーー!」
ドーピングのお陰でだいぶ軽く感じる先生を背負いながら階段を下っていると、下からソラの声が聞こえてきたので、全力で叫び返す。
「負傷者二名!! 救急車!!」
「えっ、あっ、はいっ!! 了解です!!」
希望も見えてきたので、死ぬ気で残りの階段を下る。
なんとかエンジェル24まで辿り着くと、ドーピングの効果も切れ始めたらしく、倦怠感と痛みが体を襲ってくる。痛み止め打つの忘れてた……。
「ソラ……さん。私、落ちるので、あとよろしくお願いします……」
ホントにさあ……。これでバットエンドになったらどうするんだよ。俺のせいじゃねえか。
ジクジクと心を刺す恐怖に苛まれながら、俺の意識は薄れていく。
「…レスさんっ!? ……ス……ん!!」
そうして意識が暗転した。
◇◇◇
知らない天井。消毒液の匂い。瞬きをする。
「病院……」
「テレスっ!」
目元を赤く腫らしたシロコの切迫した声で、夢うつつだった意識が現実へと向かう。
徐々にはっきりとしてきた意識の中で、何があったのかを思い出す。
「先生……」
「先生は無事。二時間くらい前、アビドスに向かった」
体を起こすと痛むかと思ったが、痛みはなかった……けど、シロコの抱きしめが強くてちょっと苦しい。
「そっか。なら良かった。シロコも心配かけてごめん」
「無事でよかった」
「寝ていた時間は四時間程度ですのでご安心を」
感傷に浸る間もなく、シロコの隣に座った仮面をつけた知らない人に話しかけられる。
「えーっと……、どちら様で?」
「あなたが言うところの黒門ネイです」と言って、声の主が仮面を外すと、そこにはアリスに似た顔立ちの少女が現れた。
「は?」
「バックアップくらいはしているということで」
「いやいやいやいや」
待ってほしい。寝起きだと言うのに些か情報量が多すぎる。
「時間もないでしょうし、手短にいきますね。
「元来、異世界からの来訪者がこちらの世界に来る際は、ヘイローを得るものなのです。
「しかし、あなたは魂だけの状態でこちらに来たので、魂だけがヘイローに適応した状態になっていました。
「肉体はオーパーツとはいえ、神秘に耐えられるほどの強度はありません。
「故に、あなたの肉体は少しづつヘイローを持てるように少しずつ変質していたのですが、そこに少し手を加えました。
「このままだと、その辺のチンピラ以下の肉体と神秘量でしたからね。
「流石は私が見込んだ弱く矮小な存在です。
「さて、肉体の仕様についてですが、簡単に言えば、他人から神秘を受け取り、それを使ってヘイローを発現させます。
「少し専門的な言い方をすると、タリスマンや護符、お守りのような感じですね。
「もっと言うのであれば『テレズマ』です。
「さて、ご質問は?」
「全部だよ、あほんだら」
「無いですね。あ、名前つけてくれたみたいでありがとうございます。きっと大層、悩んで悩んで悩んだ末に付けてくれたんですよね?」
先生やシロコに身の上話をするためにその場ででっちあげた名前です。ごめんなさい……。
――じゃなくて。
「おい、こら待ちやがれ。帰るな」
「最近、熱心なストーカーができてしまって、逃げるのが大変なんですよね〜」とボヤキながら、ネイは手をひらひらと振って病室から出ていった。
「はあああああああ???」
もう、なんっっっっにも話が入ってこなかった。
なんで腹黒姉ちゃん生きてんの? ヘイロー生やしたって何?
「テレスが寝てる間に説明は聞いたから、あとで教えてあげる」
「あっ、うん」
じゃあ、俺に説明するパート必要でしたか? なにあの女。
「取り敢えず、今の状況を教える。
「ネフティスがノノミを人質に取って、アビドス生徒会が非認可の組織だったって認めさせようとしてる」
シェマタ確保のための人質だろうな。
非認可の組織だとアビドスが認めれば契約はなかったことになり、砂漠横断鉄道の全権利はネフティスと私募ファンドのもとになる。
「それでノノミを取り戻すために、ホシノ先輩が一人で総会に向かった。
「総会までの道中にはマーケットガードとかの警備隊がずらり」
はい? ホシノは何してるん? 一人で行ったの? また?
「それを止めるために対策委員会がアビドス生徒会と合併して、アヤネが生徒会長になった。ホシノ先輩は書紀に降格。
「シャーレ立会いの元、公正な選挙によって決められたから、正当性は保証されてる」
「ははっ、よく考えるわ……」
空席だった生徒会長の座を選挙で決めて、ホシノから総会での発言権を奪う。先生の案だろうなあ……。
「それで今は、総会に向かったホシノ先輩をみんなで追いかけてる」
「シロコ、今の俺ってヘイロー出てる?」
「出てるよ。ネイが言うには、今日中に消えることはないって」
「了解。ホシノとの追いかけっこに参加してくる」
俺にできることはシャーレの仕事続行か、アビドスに協力かの二択。
俺のせいで先生のアビドスへの介入が遅くなっただろうから、焼け石に水だとしてもホシノとの合流を早める。
たとえ全てが徒労に終わったとしても、それは今日最善を尽くさない理由にならない。
迷うな。自分にできることを全力でやれ。
それに終わってみなければ結末なんてわからない。足掻け。最後の最後まで。
「私も行くよ」
「いいの?」
「うん。今回は特別。テレスと先生に怪我させたやつをぶっ飛ばす」
「ははっ、いい――」
待て。あの爆発はなんで起こった? 誰が起こした?
Whyはきっと単純だ。先生がアビドスへ介入するのを防ぐため。
もしかしたら私怨の可能性もあるけれど、流石にタイミングが良すぎる気がする。私怨を利用した線はありえるかもしれないけれど。
Howはどうだろう。まず偶然ってことはないはずだ。明らかに人為的なもの。
けれど、徹夜であの場にいた俺達に気付かれずに細工なんてできるのか?
別日だとしても、簡単に侵入したり細工したりできるほど、シャーレのセキュリティは緩くない。一部の生徒がおかしいだけだ。よって侵入の線も薄い。
じゃあ、どうやって?
はっきり言って思いつかない。であるのならばきっと、超常的な力が働いている。
フランシス、デカグラマトン、シュロ、無名の司祭、新たな敵。ぱっと思いつくのはこのくらい。
デカグラマトン、シュロはアビドスに絡む理由がなさすぎるから除外。
司祭はあり得るだろうけれど、司祭が黒幕だった場合、ネイが何も言ってこないなんてことはないはずなので除外。
となると、一番可能性が高いのはフランシスか、新たな敵。
そいつらの目的を考えたときに、だ。
本当に狙いはシェマタなのか? オーパーツならわかる。なぜならば再現不可能であるから。
けれどシェマタは現代で作られた兵器だ。頑張れば似たようなものは作れるだろう。特にゲマトリアなんかは。
じゃあ、本当の狙いは?
「テレス?」
話の途中で考え込んでしまったものだから、シロコに心配されてしまった。
「ごめん、なんでもない。急いで準備しなくちゃね」
急ごう。嫌な予感がする。
ネイちゃんの解説コーナー
テレスの勘違い編
別に銃弾一つで死ぬような体ではないんですよね、あの体。今のキヴォトスにおけるオートマタ程度の強度はありますよ。テレスさんは一度も撃たれたことがないので気付かなかったみたいですけど。
テレスの怪我編
ピアスと仮面には魔除けの意味合いがある上、あのピアスにはアヌビスの加護もついていたので、テレスさんの怪我はあの程度で済んでいます。元々の肉体強度もありますが。