竜胆さんの日々   作:どういうこったあ!

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砂狼シロコと竜胆テレス。そんな日々。

 「ゲマトリア」

 

「ひっ、ヒィィイイイッ!? 死の神が、どうしてここに……!?」

 

髪を掻き毟り蹲っている地下生活者の背後に突如としてシロコが現れ、銃口を向ける。

地下生活者を見下ろす目は冷たく、静かな怒りに満ちている。

 

「ゲマトリアは全員倒したはずだけど、まだ残ってたんだ」

 

「この光は……もしや、小生を追跡してきたのか?

「あの者たちは、何を……? この世界に、なんて存在を呼び寄せたのだ……!」

 

この期に及んで他責思考を行う、目の前の者に怒りを通り越して呆れすら覚える。

 

「死の秘密を求めているなら、私が手伝うよ」

 

「ヒッ、ヒィイイイッ――!?」

 

かと言って、こちらが武力を振りかざそうとするとこの怯え様。

先生から聞いた大人になりきれなかった青二才という評価に合得する。

 

「自分で体験すれば、すぐに分かるはず」

 

「い、イヤだ、やめてくれッッ! それだけは……!」

 

テレスを、先生を、アビドスのみんなを、殺そうとしたくせにそんなセリフを吐くのかと思うと、無窮の殺意が腹の底から湧き上がる。……けれど。

 

「殺しはしない。今日のところは、見逃す」

 

ここに来る前、テレスに言われたことを思い出す。

『殺しちゃダメだよ。俺はシロコに人殺しになってほしくない。いざってときは俺も一緒に背負うから』

故に、人であれば鼻に位置する一際大きな時計を撃ち抜くのみで見逃す。

赦しはしない。ただ、見逃すだけだ。

 

「だから、早く消えろ。お前の地下へ――そして二度と戻ってくるな。

「ただし……努々、忘れるな。アビドスにいる……『死の神』の存在を。

「次、地下から出てきたら……分かるよね?」

 

そう言い残し、地上へと戻る。彼女の帰るべき場所へと。

 

―――

――

 

 

 「おかえり。大丈夫だった?」「お疲れ様、シロコ」

 

地上に戻ると、自分の帰りを待っていたテレスと先生に労われる。

 

「うん。これでもう戻ってこないはず。

「先生、少しだけプラナと話してもいい?」

 

「もちろん」と、シッテムの箱が手渡され、意識が箱の中へと吸い込まれる。

次に目を開けると夜空に覆われた教室に立っており、プラナがこちらへと歩み寄ってくる。

 

「久しぶり」

 

「お久しぶりです、シロコ」

 

戦闘後からか顔色が優れているというわけではなく、少し心配になる。

が、崩れた教室の壁からこちらのA.R.O.N.Aが不安げな表情で覗いているのを発見し、プラナも上手くやれているようで安堵する。

 

「プラナ、これ」

 

ポケットから黒焦げたカードを取り出し、プラナに手渡す。

 

「シロコ。これは貴方が……」

 

「私にはもう必要のないものだから」

 

「……わかりました」

 

十数秒の逡巡の末、プラナはシロコからカードを受け取り、ぎゅっ、と壊れないよう。それでいて痛いくらいにカードを胸元で握りしめる。

プラナの目尻には涙が浮かんでいたが、それがこぼれ落ちないよう必死に堪えている。

 

「プラナ。元気でね」

 

要件も済み、あまり長居しても迷惑だろうと思ったシロコが早々に別れを切り出すと、プラナもそれを察してくれる。

 

「はい。シロコ、あなたもお元気で」

 

シッテムの箱とのリンクが切れ、現実へと意識が引き戻される。

「じゃあね、先生」と、シロコがシッテムの箱を愛おしそうに撫でる。

 

「……ありがとう、先生。私たちはこれで」

 

「うん、助かったよ。ありがとう」

 

―――

――

 

 「手放しちゃって良いの?」

 

テレスが見下ろす先には、シロコの世界線でのアビドスのみんなの遺品が砂に埋められ、弔われている。

 

「先輩にも似たようなことを言われた」と、ホシノの精神世界でのことを思い出す。

 

 『――もう、十分。

『過去は過去として――そのままでいい』

 

『シロコ、ちゃん……?』

 

『これからを……セリカやアヤネのように彼女を知らない生徒が増えていく未来を、大切に。

『彼女を知らない子たちも、今、笑顔でいられることは、悪いことじゃない。

『だから……。死にとらわれるんじゃなくて、思い出を未来に連れていこう。

『生徒会長がどんなひとだったのかは、先輩が一番よく知っているのでしょう?

『だから、その手を、離してあげて』

 

『……ありがとう。

『君のこと、よく知らないけど……わかるんだ。

『同じ過ちを繰り返してほしくないんだよね。シロコちゃんは優しいから。

『……それに。

『――君も、手放せて無いんでしょ?

『……みんなが使ってた武器を。今の、まだ持ってるよね?』

 

『私は……』

 

『それを捨てられる?

『段々と記憶が薄れていくなか、思い出まで手放せる?』

 

『……できるよ。

『私たちは“罪“から……“悲しみ“から、“苦しみ“から、抜け出せる。

『それは死んだ人を生き返らせるのと同じくらい、難しいと思う。

『でも、不可能じゃない。

『私たちは恵まれている。手を、差し伸べてくれる人がいる』

 

私にとってのテレスや先生のように、先輩にも手を差し伸べてくれる人はいる。

先生、ノノミ、セリカ、アヤネ、テレス、風紀委員長。先輩のために戦ってくれてる人たちはこんなにもいる。

私たちは弱いから、一人じゃ前を向くことさえできないかもしれない。でも、私たちには手を差し伸べてくれる人たちがいる。

その手を取ることができれば、きっと。

 

『だから、私はできるって信じてる』

 

 「私はもう、大丈夫だから。あんまりみんなに心配もかけていられない」

 

「……そっか」

 

「大丈夫」と言うものの、シロコの声色には寂しさが滲んでいる。

しかし、これがシロコなりのケジメの付け方なのだろうとテレスは口を出さず、静かに手を合わせるだけだ。

 

「帰ろう、テレス」

 

テレスが黙祷を終えて立ち上がろうとすると、シロコから手が差し出される。

 

「うん」

 

その手を取らない理由もなく。

 

少しづつかもしれない、その歩みは普通の人よりもずっと遅いかもしれない。

それでも、一歩づつ。確かに砂狼シロコは前に進んでいる。

竜胆テレスには、そのことがとても嬉しい。

 

◇◇◇

 

 「みなさーん、ご飯ですよー!」

 

シャーレのガラスを貼り直している生徒や、ガス管を直している生徒など、様々な生徒の元を回りながら、用意したおにぎりと豚汁を配っていく。

 

「すまない、助かる」

 

「いえいえ、これくらいは労働の対価として払わなきゃですよ」

 

デモされたらたまったもんじゃないので……というのは心の内にしまっておく。

シャーレでデモでも起こされようものなら白目を剥いて卒倒する自信がある。

 

シャーレがいち早く復旧しないと困る人が多いっていうのは大いに理解できるのだけれど、復旧のスピードを求めた結果、レッドウィンターの工務部に依頼したのはどうかと思うぞ、連邦生徒会。

お陰で心労が絶えないんですケド……。

 

シャーレの電子機器も軒並み修理に出しているため、このさいだからセキュリティも一新しようということで、後日チーちゃんが来るのだけれど、工務部のせいでチーちゃんへの安心感がすごい。なんかもう……すっごいの(語彙力)。

 

とまあ、そんな感じで爆破されたシャーレの復建中。

 

 シャーレの爆破含め、アビドスでの騒動の黒幕は地下生活者っていうゲマトリアのせい(精神干渉的なことで色々と裏で糸を引いていたみたいだ)だったらしく、シロコがお灸を据えに行っていた。

なんか地下生活者絶対殺すマンみたいになってたから「殺しちゃ駄目だよ?」とは言っておいたけど、地下生活者くん生きてるかな……。

 

流石にその日はもう夜遅かったのでアビドスで一泊して、プレ先時空でのアビドスの遺品を埋葬したりなんだりをしつつD.U.へと戻ってきた。

 

それと今はルームシェアを辞めて別々に暮らしている。

久しぶりにアビドスを訪れて、アビドスで暮らしたいって思ったらしい。

恩返しって建前があったりと、色々と心理的な障害はあったみたいだけれど、シロコがやりたいことを見つけて、それができていることがとても嬉しい。

 

シェマタはマコトとヒナが処理した。

先生から聞いた限りだと、マコトとヒナが喧嘩もせず真剣な顔で処理を行っていたらしい。

どんだけ「雷帝の遺産」やべーんだよ。いや、やばかったけども。

 

私募ファンドの投資家たちは一から商売を再会、カイザープレジデントはこの一件以降ずっと病院に籠もったままらしい。また悪事を働かなければ良いのだけれど。

ネフティスは再びアビドスへと投資を開始。一部で砂漠横断鉄道が動くようになるそうで、アビドスのみんなが喜んでいた。

あ、そうそう。アビドスの生徒会長にはホシノが就任した。少しずつ前を向けているようでなによりだ。

 

スオウは、あの雷(セトの憤怒というらしい)との戦闘後、列車を見に行ったけれど姿を消していた。

ノゾミとヒカリは相変わらずだ。スオウを逃がしたことについても、あまり反省はしていなかった。そこは反省しろよとも思ったが、もしかしたら同じハイランダーのよしみで逃がした……なんてこともあるのかもしれない。

 

先生は連日、アビドスでの報告書やらに追われている。それにプラスして生徒からのお願いなども聞いているので、少し前まで病院にいましたよね、あなた? となっている。

先生にそう伝えたら、どの口がいうねんみたいな顔をされた。

俺は先生ほど忙しくないから……。

 

「テレスさん、こちらもお願いします」

 

「はーい」

 

かく言う俺も先生が報告書に追われている分、回ってくる仕事が増えている。

それ自体は割といつものことなので問題ないのだけれど、ここ最近はシャーレ復建も相まって仕事の量が馬鹿になっていない。

まあ、カルバノグ二章ほどじゃないけれど。

 

 「あ、こっちもお願いします」

 

「了解です、そこに積んでおいてもらえると助かります」

 

なんか書類の山が二つくらい視界の端で立った気がするけれど、まだカルバノグ二章ほどじゃないから動じない……そう、動じない……。

 

「追加です〜」

 

「ま、まだ……!」

 

書類の山が3つになったけれど、まだ大丈夫……落ち着け、竜胆テレス。お前は強い子だ。

 

「すみません、まだありました〜」

 

「わ、わあ……」

 

あれ、おかしい。目から汗が……。

 

「こちら追加です〜」

 

「」

 

◇◇◇

 

 「た、ただいま……」

 

習慣というのは中々抜けないらしく、同居人がいなくなってしばらくが経った今でも家に帰るときには、つい言ってしまう。

生活必需品や消耗品はアビドスへ持っていっていたけれど、二人用のソファなどはそのままなので、ふとした瞬間に寂しさを感じることが増えた。

 

返してくれる人もいないのに「ただいま」って言うのもなんか虚しいし、やめようかな……と思いながらリビングへの扉を開けると、扉の裏にいたらしい誰かに首の後ろに手を回され、ソファへと押し倒された。

 

「帰ってきてるなら言ってよ……」

 

ちょっと……いや、かなり怖かったけれど、手の形や匂いですぐにシロコとわかったので特に抵抗もしない。

 

「ん、サプライズ」

 

「おかえり。元気だった?」と、シロコの頭を撫でると、シロコも撫でやすいよう体を預けてくれる。

 

「元気だよ。今日は自転車が完成したから」

 

「あっ、駐輪場にあった黒いやつ?」

 

「正解」

 

見慣れない自転車あるなあ……とは思ったんだよ。まさかシロコのだとは露も思わなかったけれど。

ホントに自転車って自作できるんだなあ……と関心するしかない。

 

「思ったよりも早かったね」

 

「頑張った。今度、一緒に走りに行こう」

 

「もちろん。アビドスで困ってることはない?」

 

「大丈夫。廃品を売ったりして、ちゃんと生活できてるよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「テレスがいないと、ちょっと寂しい」

 

「そう言ってくれるのは物凄く嬉しいのだけれど、どさくさに紛れて匂い嗅がないで?」

 

汗臭いでしょうに……。

 

「やだ、止めない」

 

「そんなに寂しかったの?」

 

「寂しかった。けど、テレスはそんな事なかった?」

 

「いや寂しかったですケド……」

 

「ん、襲う」

 

「ダメだよっ!? その……お風呂入って、ご飯食べ終わったあとなら……いいからさ?

「それまでは我慢してしてくれると嬉しいなー……みたいな……」

 

「無理、襲う」

 

「あっ、ちょっ! やめっ、……ッひうっ?!♡♡」

 

……このあとしっかりメチャクチャにされた。

体力が尽きたら、二回戦するためにヘイロー生やすのは酷いと思うんだ。




 テレスはネイの体だからと律儀に一人遊びすらしていませんでしたが、ネイが別の体で生き返ったので解禁。
さあドキドキの一人遊び……! というところだったのですが、それよりも先にシロコに襲われました。そのため初めては見られながらする羽目に。……なーんて。

 そんなわけで、これにて本編はおしまいです。(素晴らしい文脈)

 拙い作品ですが、ここまでのお付き合い本当にありがとうございました。
お気に入り登録、感想、ここすきなど、本当に嬉しいです。
ルーキーランキングにも載せていただいて、皆様には感謝してもしきれません。
画面を眺めてはニヤニヤしています。

皆様の反応がなければ、ここまで書き続けることは出来なかったと思います。本当にありがとうございます。
誤字報告もありがとうございます。ガバが多い作者ですので助かりました。

 あと二話ほど、感想への返信として書いていたssまとめと、プレイヤーから見た竜胆テレスの掲示板を投稿予定ですので、よろしければそちらも見てやってください。

 皆様、ほんッッッとうにありがとうございました! かしこ!


◇◇◇

 キヴォトス某所。午後九時ちょうど。
喪服のような黒いスーツを身に纏った異形の男と、仮面をかぶった少女が向き合って座っている。

「クックック……まさかあなたの方から協力の申し出があるとは思いませんでしたよ」

「対価は人造ヘイローの発現方法。それが知りたいのなら、ゲマトリアあるいはゲマトリア所属の個人の有する無名の司祭への対抗策を全て私に提供し、私の活動資金を工面して下さい」

コーヒーを片手にのんびりとした口調の黒スーツとは反対に、少女は時間が勿体ないとでもいうように言葉を捲し立てる。

「ふむ……あなたが人造ヘイローの発現方法を知っているという証拠は?」

「名もなき王女の失敗作である竜胆テレスの体にヘイローが一時的とは言え発現したこと……などというのは如何でしょう?」

「……良いでしょう。しかし、全ての対価をすぐにとはいきません」

「心配せずとも、情報はちゃんと小出しにしていきますよ」

「クックック……そうですか。
「では今後とも長いお付き合いをよろしくお願いいたしますね」

「はい、できる限り短い付き合いで済むことを願っています」

ここで記録は途切れている。
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