竜胆さんの日々   作:どういうこったあ!

7 / 30
■■ユウキと名もなき彼女。あるいは、竜胆テレスと黒門ネイ。

 俺が五歳のとき、妹が生まれた。名前はカナエ。

カナエは生まれつき病弱で、その人生のほとんどを病院で過ごした。

 

心のどこかではできやしないって分かっていたはずなのに、それでも病室の中で「あれしたい」「これしたい」と語るのが好きな強い子だった。

 

両親はあまりゲームとかは買い与えてくれなかったから、必然的に俺とカナエは本の世界にのめり込んでいった。

もしかしたら、絵とか音楽とかの道もあったのかもしれないけれど、俺たちは本を選んだ。

カナエが本の中で読んだ物事を俺が実際に見てきて、カナエに話す。それが俺たちの日常だった。

 

そんなある日、カナエに大きな病気が見つかった。

余命宣告までされて、助かることはないんだと嫌でもわからされた。

 

けれどカナエは「あれしたい」「これしたい」を語ることをやめなかった。

人生の多くを本に捧げてきただけあって賢い子だった。それになにより強い子だった。

だから尊厳死について必死に考えて。自分なりに答えを出して。それを俺たちに悟られないようにしていた。

 

もちろんバレないわけがないんだけど、そこは本人の意思を尊重するということで、それとなく本人に確認を取るだけに留めた。

どうせ短い命なんだから、わがままの一つでも聞いてやれば良かったんじゃないかって今でもずっと思っている。

 

 けれど、そういう話をするとカナエは決まって

「心配かけさせたくないし。

「声に出したらきっと抑えが効かなくなるし。

「どうせ叶えられずに死んじゃうし。

「未練だけが残ったところで良いことなんてないし。

「いい加減しつこいし。

「私なりに必死に考えた結果だし。

「でも、気持ちは嬉しいからさ――」と長い長い前置きをしてから、ささやかなお願いだとか、ワガママだとかを言ってくれた。本当にできた妹だった。

 

俺の進学とカナエの入院が重なり家の中では笑顔の減っていた両親も、カナエの前では昔みたいに笑っていたくらいだ。

 

 それは俺にはできないことだったから、カナエがいなくなったあとは早かった。

 

両親は離婚し、俺は父について行った。

始めこそ気丈に振る舞っていた父も、祖母が亡くなった(祖父は俺が生まれる前に亡くなっている)ことで限界を迎えてしまった。

 

朝起きて仕事に行き、家に帰ってきて寝る。死んだ目でロボットのようにそんな生活を送る。俺はそんな父を見ていることしかできなかった。

誰かに相談したところでどうにかなることでもなかったけれど、俺の家の事情も知っていて良くしてくれていた友人がよく愚痴を聞いてくれた。

 

高校に入学してから少し経った頃。

スマホをバイト以外で使っていないことをどこからか知ったそいつに、せっかくだからと勧められたのが俺とブルーアーカイブとの出会いだった。

 

高校に入ってからというもの暇さえあればバイトと勉強ばかりしていた毎日だったから、久々に読んだ物語は俺の心を大きく動かした。

どうせ大学には行かないんだからと、勉強をするのをやめてバイトと学校以外の時間はブルアカに捧げるようになった。

 

早く続きが読みたくて仕方がなかったから、エデン条約のヒエロニムス戦ではかなりの歯がゆさを覚えつつも、それまでのストーリーの何度も読み返していた。許さんぞ、陸八魔アル……!

 

そんなこんなで過ごしていたら軽トラに轢かれて。

 

お姉ちゃんを託されて。

 

今度こそは救おうって決意して。

 

◇◇◇

 

 「まずは、二人を救ってくれてありがとうございます」

 

「……誰?」

 

夢の中に出てきていた電車の中で目の前に誰かが座ってたら、状況的に考えてアリスのお姉ちゃんだと思うじゃん? 顔が全然違うねん。黒髪に緑がかった目だし。

 

「アリスとケイのお姉ちゃん。出来損ない。AH-6S。名もなき弱き生物。そんな感じです。まあ、そんなことはどうだって良いでしょう? なにか聞きたいこととかあります?」

 

「なにもかも?」

 

「ふふっ。まあそうでしょうね。では、まずは始まりのお話をしましょうか。

「今からずっと昔。ここにキヴォトスができる前のお話です。

 

「この地には神々が存在していました。そして、名もなき無力で矮小な生物も。

 

「名もなき彼らは力を持ちません。故に彼らは力を求めました。

「そして彼らは名もなき神々を信仰することで、その力の一端を得ることに成功しました。

「けれど借り物の力では到底、神々には敵いませんでした。

 

「そこで彼らは新たに神々を作り出すことへと計画を移しました。

「一人の少女を王女として信仰し、神々へと至らしめんとする計画。

「それが名もなき神々の王女――アリスの始まりです。

 

「最初に王女に選ばれた少女は、その身に余る信仰を注がれ死んでしまいました。

「次に選ばれた少女は、その身を機械へと変貌させましたが、それでも信仰を受けるには足りませんでした。

 

「そうして少女たちが死んでいき、六番目の王女候補になる頃には用意した体に脳を移し変えるようになりました。

 

「なので私はアリスに似ていないんです。原初の彼女はきっと似ていたのでしょうが。

「いわゆる、類感呪術みたいなものです。話が逸れましたね。

 

「で、六番目の少女も死んだわけなのですが、そこで彼らはある考えに至りました。

 

「機械の体には十分な強度があった。

 

「それでも私が死んでしまったのは心が弱かったからだと。

 

「であるならば心などいらない、と。

 

「空っぽな彼女を王女と呼ぼう、と。

 

「そうしてアリスが作られたというわけです。

 

「さて、ここからは私のお話です。

 

「死んでしまった一番目から六番目の少女たちですが、その身に捧げられた信仰は魂に宿ったままだったんです。

 

「なにを思ってなのかはわかりませんが、最初の彼女は二番目の少女に力を託しました。

「二番目の彼女も、三番目彼女へと。

「だから私も七番目の彼女へと力を託そうとしていたんです。

 

「けれど、七番目の彼女は完成してしまった。

「どうにか司祭共に復讐しようとAL-1Sを破壊しようと思ったのですが、所詮まがい物の私ではどうすることもできませんでした。

「それになにより、それは本質的には司祭共となにも変わりませんから。

 

「なので私はもらった力を使って、観測者として現世に留まることを選びました。

「留まった先で見えた世界は、司祭共の思い描いた理想そのものでした。新たなサンクトゥムが建立し、すべての神秘はアーカイブ化された。

「最悪ですよ。

 

「そんな折です。連邦生徒会長がやり直しを図りました。

 

「そこで私はアリスを王女でなくすことで司祭の計画を壊すことにしました。

「アリスではなく、王女と司祭の計画を破壊する。

 

「それが私の復讐。

 

「そんなわけで、アリスを勇者にしてくれるような人をこの世界に招きました。

「それがあなたというわけです。

 

「わざわざ外から人を招いた理由ですか?

 

「――証明したかったんです。

「誰かを守ろうとする気持ちが、誰かを傷つけようとする気持ちに負けるはずがないって。

「それに、弱く矮小な存在でも神々に対抗しうるんだって。

 

「要するに、司祭の全否定です。

 

「だから、ただアリスを守ろうとする貴方に託したんです。

 

「結果は大成功。最高の気分です。

「きっと私じゃ、こうはなりませんでした。

 

「ああ、勘違いを避けるために言っておきますが、私があなたを殺したわけではありませんよ?

 

「私はたまたまそこにいた、

 

「妹に対して執着を持った魂をアリスを意識せざるを得ない形でこちらに招いて、

 

「アリスを守りたくなるような言い回しでお願いをしたに過ぎません。

 

「あとは精々、アリスを守りたくなるように、夢のとある部分だけが記憶に残るように細工した程度です。

 

「ですから、連邦生徒会長も外から人を呼ぶというのは想定外だったんです。

「彼女も私と同じような選択をするとは思いませんでしたね。

 

「先生……ですか。なにもかもをハッピーエンドに上書きしてしまうあの存在がいるのなら、私とあなたのしたことに意味はあったんでしょうかね? なーんて。

 

 「――ふぅ。こんなところでしょうか? なにか質問あります?」

 

情報量が多い。

えーっと? 要するにどういうことだ?

 

「ないですね。じゃ、私はアリスの代償を背負って消えるので」

 

「はあ!?」

 

嘘でしょ!?

 

「あ、司祭のこと殴ってくれてありがとうございました! 超爽快でしたよ! それでは!」

 

いやいやいや、待て待て待てッ!? マジで!? マジの本気で消える気なの!?

 

「ちょ、まっ――」

 

◇◇◇

 

 気付けばそこはウトナピシュティムの本船の医務室。

 

「あ、先生! ユウキが目を覚ましました!」

 

はあああああああああああ????????




 これにて前日譚はおしまいになります。

 タグづけしている割には曇らせが少なくて申し訳ございませんでした。今後の曇らせはほぼないと思います。
テレスが大怪我を負って盛大に曇るルミやレイジョ、ヘイローが偽物だと知らずテレスを殺してしまうイオリなどを期待していた皆様には大変申し訳無いです。

 仮にですが、イオリがテレスに致命傷を負わせてたとしたら、テレスは自死する気がします。「イオリに人殺しなんて背負わせない」なんて具合に。彼は子供ですが、確かに先生でもありましたから。
目の前で自分が致命傷を負わせ、自分で頭を撃ち抜くところを見たイオリはどんな顔を浮かべるのでしょうか。二度と銃を握れなくなるかもしれませんし、先生を誤って撃ってしまう悪夢にうなされ……なーんて。

 加えてですが、ガールズラブ要素がほぼ皆無だったことをここにお詫び申し上げます。
テレスがカンナに襲われる展開や、テレスに激重感情を向けるルミとレイジョなどを期待されていた方には申し訳ありません。
一応ヒロインは考えていたんですけどね……。
恐らく今後もガールズラブ要素はあまりないと思います。

 ほぼ釣りな気がしてきました。()

 拙い作品ですが、ここまでのお付き合い本当にありがとうございます。
お気に入り登録、感想などすごくすごく嬉しいです。生徒を見たテレスの如くニヤニヤしています。
誤字報告もありがとうございます。ガバが多い作者ですので助かります。

 本編ですが、八月中には更新する(と思う)ので見捨てずにいただければ幸いです。

 あと、アリスは無名の司祭が崇拝した「オーパーツ」ですが、古の民が残した遺産とも語られているので、必ずしも無名の司祭が造ったわけというではないかもしれません。作者はそうしたと言うだけです。

追記:曇らせタグを解除しました。釣りとなってしまい、誠に申し訳ございませんでした。以後、再発防止に努めていきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。