黙らんし喋る   作:ヒヨコスキー

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幕間


プロローグ(10)(終)

 

 

 

 

 

「――そうですか、報告ありがとうございます。

 失敗ということですから報酬の方は支払えませんが、前金は契約通りにそのまま受領いただければ。

 ……え? 返す? 既に誤入金の手続きを済ませてこっちの口座に戻せる状態!? なんで!? ちょっ――」

 

 ブツン。

 

「えー……切られちゃったんですけど。ポケットマネーだったのでありがたくはあるんですが、“アウトローの流儀だから”って……なんなんですかね一体」

 

 夕暮れ時。

 あるビルの一室で、一人の少女がオレンジ色の街並みを見下ろしていた。

 一面がガラス張りの壁の下には、良くも悪くもいつも通りに喧騒と銃声に塗れた放課後の景色が広がっている。

 遠くに立ち上る火事の煙を目にして、「これまた仕事増えそうだな……」と、定時後にやってくるであろう書類の束を想像してしかめっ面になりながら少女は扉の方に視線をやった。

 夕日が作る影の中。閉じた扉に背を預け、目を閉じている協力者が唇を開いた。

 

「彼女達は失敗したんですか?」

「えぇ、まぁ――いや、どうなんでしょうね? この場合。

 失敗したと言うべきなのか、上手くいったと言うべきなのか」

「?」

 

 淹れたてのコーヒーにガムシロップを投入し、スプーンでそれをかき混ぜながら少女は続ける。

 

「そもそも彼女達便利屋なんちゃらは失敗することを前提に送り出したので、失敗が期待値だったんですよ。だから無事に帰って来ると思っていませんでしたし、成功報酬なんてハナから用意していない。

 暁のホルス、宵のアヌビス(・・・・・・)ネフティスの尾(・・・・・・・)を相手に市井の雑兵が無事に帰って来られるわけがないですから。

 ――ま、そうは言いつつ無事に帰って来てしまった訳なので、陽動役のヘルメット団と同列に扱うのは失礼ですかね!」

「つまり使い潰そうとした、と」

 

「怒らないでくださいよ……どうせゲヘナで指名手配中の犯罪者じゃないですか」

「それを私的に金銭で釣って利用している時点で、我々も裁かれる立場にあるでしょう」

「それはその通りですね。失敬。あ、あなたもコーヒーいります?」

「……仕事中ですので」

「そですか」

 

 少女は手に持った協力者用の空のマグカップを所在なさげに空中でもてあました後、それを机の端に置いた。

 椅子に深く腰かけると、リクライニング機能付きの背もたれにゆっくりと体重を預けながらコーヒーに口をつける。

 天井からつり下がるぶら下がるシーリングファンが静かに回転している。

 

「……だから彼女達に今しがた電話をかけて、それが繋がった時点で失敗したと思いました。ただ、報告を聞いて考えがひっくり返りました。大成功も大成功ですよ」

「良く分かりませんが、結局あなたは彼女達に何をさせたかったんですか。

 以前聞いた際は、今は(・・)教えられない、とおっしゃっていましたよね」

「んー、もう話せない理由もないことですし全部話しちゃいますけど。

 ――結論から言うと、ある“もの”をアビドス高校に置くことが目的でした」

 

 ぴくり、と協力者の頭頂部から生える一対の狐耳が動く。

 

「……盗聴器でも仕掛けさせたんですか?」

「まさか、今更盗聴器(その)程度で得られる情報なんて要りませんよ。

 とはいえ、“もの”の扱いはちと厄介でして」

「厄介?」

「あぁ、爆弾みたいにデリケートであるとかそういう話じゃないです。 

 ――“もの”が何であれ、“それを置いてきてほしい”と頼むのは簡単です。でも露骨にそうすると「敵はなぜこれを置いて行ったんだ?」と相手に疑問を与えてしまうじゃないですか。

 嫌だったんですよ、それが原因で作戦が破綻するの」

 

「敵を騙すには味方から――ということですか」

「えぇ。ですから色々裏で動いてもらっていたあなた方にも教えられなかったわけです。

 そしてその目的をカモフラージュするために、便利屋には適当に“アビドス高校から不正会計の証拠である会計帳簿を盗んで来て欲しい”、という別の目的を与えた訳ですね。そんなんやってるかどうかも知りませんけど。

 ――あとは便利屋が失敗してアビドスに捕縛されれば、自動的に便利屋が持ってる“もの”がアビドスに押収されるという寸法です」

 

「……すみません。それで結局、その“もの”とは?」

「まぁまぁ、最後まで話を聞いて下さいよ。ちょっと今浮かれてるんです。発散しておきたい」

「はぁ……?」

 

 なんだかボルテージが徐々に上がっていくようにやたらと饒舌になっていく少女に対して、協力者は若干引き気味に頷いた。

 

「話を戻しますが、この“別の目的”は二重のカモフラージュ効果がありましてね。我ながらよく思いついたものですよ。

 ――例えばですが、あなたが道端でガラの悪いスケバンにバッグを奪われたとします」

「素人にそのような不覚をとられることはありません」

「あの、例え話です」

「……すみません」

 

 しゅん、と気落ちしたように協力者の狐耳が横に倒れた。

 

「えぇと、話を戻しますね。

 そのバッグを取り返したけど犯人には逃げられた、という時。あなたはどうしますか?」

「犯人を追う……のもそうですが、まずはバッグの中身を改めるでしょうね。

 ――あぁ、そういう」

 

 自分自身の発言をきっかけに気付いた協力者は、得心がいったように目を少し見開き、顎に手を当てた。

 

増えたことに(・・・・・・)ぱっとは気付けないですね」

「そういうことです。奪われることに目が行っている時、人は“物がなくなっていないか?”の確認に意識が向きます。

 逆にバッグの中のものがさりげなく増えていたり、あるいはすり替えられていたりしても、その場ですぐそれに気づくこと出来る人間はほとんどいないでしょう。私も多分すぐには気づけないと思います」

 

 椅子の背もたれにかけた上着を羽織り、出立の準備を始めながら少女は言葉を続ける。

 

「“帳簿を盗まれる”――これを阻止したアビドスに今、“もの”が増えたという意識はほぼないでしょう。

 ……そろそろ出ましょう、会議に遅刻してしまう」

 

 階段を降り、ビルの裏口から外へ出た二人は、下校する生徒達の中に紛れていく。

 

「別ルートで雇ったヘルメット団もカモフラージュですか?」

「“アビドスを襲えばバックが美味い”とデマを吹き込んだだけですよ。

 ――ヘルメット団は陽動で、本命は便利屋。そういう風に思ってくれればありがたかったので。

 こういうのはいかに本命っぽいかを演出するのも大事な要素ですから……ま、足が付かないようにするのはだいぶ骨が折れましたがね!」

「――便利屋に“もの”を持たせてアビドスへ送り込み、アビドスに捕えさせてそれを押収させる……。

 それが目的だったことは理解できました。ですが、結局“もの”は何だったんですか?

 そもそも、“もの”はいつ便利屋へ?」

「うーん……ユキノ(・・・)、ちょっと察しが悪くないですか?」

「そ、そうですか?」

「えぇ、だってあなたが便利屋に届けたやつですよ?

 残りのヒントは、アビドスが便利屋を捕縛したら、絶対に押収しておかないといけないもの――ってとこです」

「――、まさか」

 

 気付いて足を止めた協力者――七度ユキノを置いて数歩先を行く連邦生徒会:防衛室長の不知火カヤ(・・・・・)は、おもむろに先ほど便利屋68との通話で使用していたスマートフォンを取り出した。

 その中からSIMカードを抜き――指先で真っ二つに折り、スマホともども道端のゴミ箱へ投げ入れる。

 ユキノを振り返る。

 何も変わらず、カヤは笑んでいる。

 

「――連絡用の端末として与えた、連邦生徒会長の私物(・・・・・・・・・)であるスマートフォン。

 あれをアビドス高校が所有している状況が、私の望むところです。

 ……何でも戦闘時のゴタゴタでアビドスに落として来てしまったんだと。とんだラッキーですよ。こうなればアビドスがあれを手放す未来は考えられない」

 

 

     ※

 

 

 雑踏の中、カヤはビルを見上げる。

 先ほどまで自分がいた部屋を視界に捉えながら肩を落とす。

 

「あのセーフハウスはもう使えませんね。あとで燃やしておくか……。

 あぁ、仕事が増えるのは嫌ですねぇ――」

 

 

 

 

 





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 〇不知火カヤ

 章ボス。
 諸事情により正史と異なり防衛室長になる以前に連邦生徒会長の傍付きのような業務に付いていた。
 その経験から“シッテムの箱”の性能をある程度把握しており、特に追いやすいネット上に痕跡を残さないため、FOX小隊経由でアナログに便利屋68に依頼を出している。

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