黙らんし喋る 作:ヒヨコスキー
ノノミ:メンション⇒ユメ、ホシノ
先輩方、今砂漠横断鉄道に乗っていますか?
たしか朝の最終便をお二方はいつも使われていますよね
ユメ :乗ってるよ! 今日もヒカリちゃんとノゾミちゃんは安全運転でのりごこちサイコー!
添付:《乗る前にヒカリ・ノゾミ・ユメで撮った写真。三人全員変顔。
奥の方に呆れ顔のホシノが映っている》
ノノミ:この人って乗ってますか?
添付:《“シャーレの先生”の画像》
ホシノ:あ、今日来る人だっけ
なんで探してるの?
ノノミ:急ぎの要件なので説明は後でさせてください
とりあえずいるかいないかだけ確認していただけますか?
――数分経過。
ホシノ:真ん中からユメ先輩と手分けして探してみた
後ろ半分には見当たらなかったよ
ヘイローもないし目立つ見た目だから見落とすこともないと思う
ユメ :私もホシノちゃんと同じで見つからなかった 乗ってないのかな?
でもヒカリちゃんとノゾミちゃんに確認したらホームの防犯カメラにアクセスしてくれた!
そしたらちょっと前に駅のホームにいたみたい 画像送るね
添付:《防犯カメラの映像をスマホで撮影した写真。
録画時刻と、鮮明ではないが先生と思われる人物がホームにいる》
ノノミ:わかりましたありがとうござあまさ
ノノミ⇒オフライン
ホシノ:ノノミちゃーん?
ユメ :どうしたのかな
※
「個別で送っても返事なし、か……うー、気になる。なにかあったのかなぁ」
むーん、と既読の付かないノノミとの個別チャットを開いたモモトークの画面とにらめっこをしながらユメは唇を尖らせる。
そんなユメとは対照的に、スマホを早々にスリープモードにしてポケットに仕舞ったホシノは足を組みながら諭すように言った。
「どのみちあと五分もしないうちに終点ですし、学校で会った時に聞きましょう。
何か問題があったとしてもノノミちゃんなら大丈夫ですよ」
「うん……先生って今日学校に来る予定の人だよね。
あ――もしかして電車乗り過ごしちゃったのかな!? 多分まだ学校に来てないんだよ! これ最終便だしお昼にならないと次の便ないし、まさか怒って帰っちゃったとか……!?」
「どうどう……理由はともかく、その理由なら当の先生から連絡が来ますよ。時間を改めるとか日程を変えたいとかなんとか。少なくとも怒ったりはしないでしょうし、怒っているのならそれは筋違いです」
わたわたと手をせわしなく動かしながら慌てるユメをホシノは制しながら、一つの可能性に思い至った。
「――あぁなるほど、そのセンがあるからノノミちゃんは慌ててたのか。それにしても今私達に出来ることはないかなぁ……飛び降りるわけにもいかないし。なんにせよ着いてから……」
「……?」
「ほーらユメ先輩、防砂提ですよー」
「わーでっかーい」
「扱いやすくてかわいいなぁ」
「わー……あれ、何か言った? ホシノちゃん」
「いいえー」
車窓の外には砂に埋もれたゴーストタウンが広がっている。
そしてそれよりも一つ向こう側、砂漠とゴーストタウンの境界線に、ずっと向こう側まで巨大な岩壁――防砂提が見えていた。
窓にぺたりと片手を置いて、じっとユメはそれを見つめる。静かに息を吐くと、ガラスが曇る。
そんなユメに、ホシノは優しいまなざしを向けていた。
「……なんかいつも他人事っていうか、自分があれを作ったなんて未だに信じられないな」
「作ったというか引きずり出したというか。
どのみち信じられないってところは変わりありませんけど」
“――ここにある岩盤、私なら引きずり出せると思う。
これを使って、砂漠から来る砂を止められないかな”
ホシノは頬杖を突きながら言った。
「最初聞いた時は耳を疑いましたけど――信じるって、もう疑わないって決めてますからね、私は。
だから――あれ、ユメ先輩?」
「……いやその、あの一件でカイザーといろいろあったのを思い出しちゃって……」
胸の前で両手の人差し指を合わせたり離したりしているユメのアホ毛がしおしおと萎んでいく。
「うぅ、思い出したらおなかが……ストレスで痩せちゃう……!」
ぐびぐびとコーラを飲みながらユメは言った。
だからダイエットしたいのかそうじゃないのかはっきりしろよとホシノは思いつつ、
「うへ、
――色々ありましたけど、公的には“あれは自然現象だった”――が結論です。連邦生徒会の決定ですからカイザーにも今更どうしようもない。そしてその嘘の責任は私達がしっかりと取っていく。そう決めたじゃないですか」
「うん。でもカイザーには酷いことをしちゃったし……」
「酷いことをされてもいましたから、それはおあいこでしょう。
――結局あいつらは戦いの後にアビドスから
「残ったのは借金だけ……それも今は普通に返済できてるしね」
「はい、セリカちゃんとアヤネちゃんが卒業するころまでには完済してるでしょうね。
――カイザーは、やろうと思えば私達に制裁もできるでしょう。そもそも莫大な資本と各業界へのパイプを持つ会社ですから。たとえばカイザーローンの利率を弄って借金を返せない額に膨らませる、とか……」
「ひぃん……」
「でもそれをしていない。してこない。……そうする価値が無い。
無数にあるプランの一つだったってことじゃないですか。
あいつらは対して気にもしていないんですよ、ここでの失敗なんか」
「……“古代兵器”、かぁ」
「色々やった末に掘り出した目的の物があれだけ
アビドス砂漠での
カイザーから一切の干渉がなくなったことを不審に思ったホシノは、半身+右腕が不随のユメをシロコ・ノノミに任せて砂漠に飛び出した。
そして見つけたのは完全に放棄された様子のいくつかのカイザー基地跡地と、その内、採掘作業が行われていたと思しき基地にあった巨大な鉄の船のようなものだった。
素人目にも分かるオーバーテクノロジーの塊は、ホシノの脳裏に砂漠での戦いでカイザー:プレジデントが零していた“古代兵器”の四文字を過らせた。
……ただしその船は、真正面から砲撃でも受けたように中心から船体の半ばに至るまで巨大な穴が開いており、とてもではないがまともに動かせるようには見えなかった。
そんな推定“古代兵器”は、ホシノの手によって採掘現場の入口を爆破して砂の中に姿を消し、それきり噂話すら聞いたことはない。
「あとさ、それはそれとして、まだ……その、言われてるじゃない」
「あぁ、アレですか? “超人”――」
ん、まで口にしたところでユメの様子がおかしくなった。
「うぅ~~やめてよホシノちゃんそれほんとに恥ずかしいんだからね!?」
「うわわわわわわわ、い、いいじゃないですか――
ガクガクガク! とホシノの頭が前後に揺れる。
ユメはホシノの方を掴んで前後にがくがくと揺さぶりながら涙目で続ける。
「だから恥ずかしいの! あの人と肩を並べてるみたいな言い方……わ、私なんかがそんな風に扱われるべきじゃないんだってばー!」
「う、うへへへへ謙遜しすぎですって――あいたぁ!?」
「ご、ごめんホシノちゃん大丈夫!?」
「し、舌思いっきり噛み……」
「どどどどうしよう、舐めれば治るかな!?」
「!? ひょろしくお願いしみゃす!!」
「!?」
べーっと舌を出しながらぐるぐるお目目のユメに迫るホシノ。
「……しかし、だからってその変装はどうなんですか?」
あわあわしながら舌を触れ合わせようとしてきたユメと、ざわざわし始めた他の乗客たちの視線に気づいて流石に恥ずかしいわ、と冷静さを取り戻したホシノは、ユメに冗談ですよ(冗談ではない)と言って座り直した。
それから少し。ホシノは血の味がする舌を口の中で弄びながらようやくユメの服装に言及した。
緑の長髪を自分とおそろいのポニーテールに結び、ハンチング帽にぐるぐる眼鏡。
そして極め付けにヒゲをつけている。
コッテコテの変装だった。
「……昨日までヒゲはつけてませんでしたよね。何故?」
「いやその、この間バレたから……」
「逆に目立ちますよ」
なんというか、ユメは基本的に視野が狭い。
一つの物事を解決するのに注力してしまい、その結果として別の問題を引き起こしてしまう――という事が多々あった。
たとえば最近で言えば“資料バラバラ事件”である。
急いで資料を運んでほしいと言われたユメが一度に一気に運べば早い! と思って本当に一度に全部持ち上げて運ぼうとした結果、段ボールで前が見えなくなり転んで資料をすべてぶちまけ、アヤネにしこたま叱られながら涙目でぶちまけられてしっちゃかめっちゃかになった資料のまとめ直しをする羽目になった――というものだ。
こういうやらかしについてはしょっちゅうで、今回もその典型例だった。
目立たないための変装が、顔形を隠すことに注力した結果、逆に人目を引くものになっている。
ある意味愛おしいが、ホシノはこれに関しては少し承服しかねていた。
「先輩はかわいいんですから、顔はあんまり隠さないでくださいよ」
「……へ?」
「え? あ……うへ、あれ、聞こえてました……」
「……うん」
シートの上で指先が触れ合う。
テープの粘着力が落ちて来たのか、ヒゲがぽろりと足元に落ちた。
「……」
「……」
瓶底メガネ越しに二人の視線が絡まる。
ボックス席に甘酸っぱい雰囲気が漂い、それを他の乗客たちは固唾をのんで見守っていた。
紅潮した二人の顔がゆっくりと近付いていき、
「あー、超人だ!」
「「ウワーッ!?」」
甘酸っぱい雰囲気が霧散する。
あーっ! と他の乗客たちが一斉に天を仰いだ。
その後、ユメが先生を探していたときに「あのヒゲ付けてる人多分ユメさんじゃね?」と気付いて逆にユメを探していたらしい公立アビドス第一中学校の生徒達と一緒に自撮りを撮り、きゃっきゃしているうちに電車は終点:アビドス街区へと辿り着いていた。
ホシノはギギギ、と内心でハンカチを噛みながら、ユメに向かって「高校受かれる様に頑張りまーす!」とぶんぶん手を振る中学生たちを丁重に見送った。
「あのスカーフの色……あの子達、一年生だよね。
こんな風になっても、入って来てくれる子もいるんだね」
「ギ……わ、私達の活動がきっちりと成果を出せている証拠ですね。
――砂漠横断鉄道の再開発と縮小運行による良質なインフラ確保。防砂提付近に設置した大量のソーラーパネルで電力を賄うので、コストはほぼ維持管理のみ……。
くわえてゴーストタウンの一部を改修して戦術対抗戦アクティビティとして解放してからは、各学園から訓練のために来てくれる人による消費もぐんと増えました」
「元々住んでた人に許可を取りに行くのはすごい大変だったけど、やってよかったって思えるなぁ」
「裏でそんなことやってたって聞いた時は本当に驚きましたけどね。建物の権利も含めて土地を買い戻した私達に帰属しているんですから、そこまでする必要は……まぁ、そうしたい気持ちは分かりますけど」
「うん。仮に今自分の物でなかったとしても、昔住んでた場所が誰かの手でめちゃくちゃにされちゃうのって、良くないと思うから。
――心の問題を軽く見たら、私達はきっとここまで来れなかったと思うんだよね」
「……」
「……。な、なんちゃって。恥ずかしい……」
「ふふ、もっと自信持ってくださいよ、ユメ先輩」
真っ赤になった顔を押さえるユメの肩を叩いたホシノは、ふと周囲を見回してあることに気付く。
「というか今日はゲヘナ生が多いですね」
「えーと、訓練設備に風紀委員名義で予約が入ってたはず。いつもの訓練かなぁ」
「うへ~、お得意様すぎて助かりますね」
「――そうね、いつも助かっているわ。市街地での戦いを模擬出来る場所は少ないもの」
カツン、と二人の背後から靴音がした。
その聞き覚えのある声に振り返る。
紫がかったふわふわの銀髪。その隙間から一対の巨大な角が生えている。
バサリと調子を確かめるように羽を一度羽ばたかせ、風紀委員長――空崎ヒナは微笑んだ。
「こんにちは、ユメさん。それから……小鳥遊ホシノも」
「うへ~。何で私だけいっつもフルネームなのさ、ヒナちゃん」
↓は防砂提に関するアビドス及びカイザーの当時の動きです
プレジデントが酷い目に遭います。
読み飛ばしても可
〇tips
ホシノ一年の頃の三学期、アビドス生徒会は防砂提の設立に向かって動いていた。
結局のところ、アビドスの借金が膨れ上がった原因は砂漠化による被害である。そこを根治しなければ、いくら借金を完済出来たとしても結局は当面の問題を先送りにしているに過ぎない。
故に防砂提――その元となる岩盤は、かつての生徒会が地下資源が無いかを調査した際に発見されたもの――が必要だったわけだが、ここで一つ大きな問題があった。
カイザーに自治区のほとんどを押さえられていることだ。
要するに勝手に人の土地にそんなもんを立てれば、それこそ責任問題になるという訳である。
それを解決するためにユメ・ホシノは、最初で最後の嘘を吐くことにした。
“あれは自然現象によって起こったものである”。
この主張は最終的に公的に認められたが、その嘘に対して当時のカイザーの主張は、“あれはアビドス生徒会会長:梔子ユメが何らかの方法で作り上げたものであり、これは立派な侵犯行為である”、であった。
とはいえこれはスタンスの話。
内実は「アビドスを潰す都合の良い口実が出来た」という程度にしか考えていなかった。
SNS上に流れている映像がディープフェイクかどうかも当時は十分に考証されていなかったし、何より人間が独力でそんなことは出来ない、とプレジデントはごく当たり前の思考を働かせた。
不思議なことに、ここではお互いに主張と理解が逆転した状態になった。
そしてキヴォトスにおいて主張がぶつかり合った際には諍いが起こるのが常である。
結果として四月、こちら側の主張を認めれば開放する、という形でカイザーによって人質にとられたシロコ(ん。メインヒロインとしての面目躍如)を救うため、桜舞う季節にアビドス砂漠での戦いが勃発した。
ユメ・ホシノの二名と、カイザーPMC総出の決戦である。
この戦いの成立にはゲマトリア:黒服も一枚噛んでいた。ホシノに対しては言わずもがな、当時未知数であったユメのスペックを測るためだ。周囲からの介入=変数を極力排するため、彼の手によってこの戦いは可能な限り秘匿され、この戦いの存在を他の学園が知ったのは相当後のことになった。
そしてこの戦いが起こる事こそが、ユメ・ホシノの狙いだった。
この戦いで二人は負ける事を前提にしていた。
カイザーPMCに負ける程度の人間が、あんな巨大なものを一人で作れるわけがない。より強い裏付けとしてその事実が必要だった。
カイザーはアビドス側の主張を抑えようとして、その実二人の術中にはまっていた。
そして防砂提をユメが地面から引きずり出す前に、ユメとホシノは入学と同時に有無を言わさず多数決でアビドス高校生徒会長となったシロコによって退学になっている。
アビドスに所属しない人間の暴挙である――という体裁が欲しかったことと、単純に嘘を吐いた責任を取るためだ。
ユメのスタンスは正史と変わらない。“間違った方法を一度取れば、次に同じように困難に立ち向かわなければいけなくなった時、また同じように間違った方法を取ってしまうかもしれない”。
カイザーのやり口は非道で暴力的、かつ人の足元をみるようなものだが、それでも売買契約上、防砂提のある土地はカイザーのもの。そこに自分達の利のために侵犯行為を働いて、あまつさえそれは自分達とは無関係だと嘘を吐いた訳だから筋が通らない。
故にアビドスにはもういられないと彼女はアビドスを去る決意をし、共犯者としてホシノもそれに続いた。
ただし戦いのあと、退学書類を受け取らず差し止めていたシロコ・ノノミの二名によって“ん、無断の欠席は許さない”、“嘘を吐いて逃げることは責任を取る事ではありませんよ☆ 借金も残ってますし☆”――と学校に戻ることになる。
ちなみに戦いの方はあっけなく終わっている。
ユメがあんまりにも強過ぎたのだ。
本人を含め、全員が“超人”ユメとしての能力を侮っていた。
わざと負ければそこをつつかれる危険があることをユメ・ホシノは理解しており、そのため全力で戦う必要があった。その上で普通に戦力差で敗北する公算だったわけだが――シロコを救出して戦場に出たホシノが見たのは、カイザーPMCと拮抗するどころか蹂躙しているユメの姿だった。
腕を振るうだけで戦車が数十両なぎ倒される。
ゴリアテを軽い蹴りで空の彼方まで吹き飛ばす。
四方八方からガトリングで撃たれてもびくともせず前進し続ける。
迫撃砲の弾を素手で受け止めて投げ返してくる。
砂に腕を突っ込んでちゃぶ台を返すみたいに砂の大津波を起こす。
通りすがりのビナーの尻尾を掴んでジャイアントスイング。
etc。
なんとかシロコを救出したホシノはギャグマンガかよ、と真顔で突っ込みながら半笑いでショットガンの銃口を地面に下ろした。
結局のところ、カイザーPMCは単騎・ほぼずっと棒立ちのユメに擦り傷一つ負わせることが出来ずに壊滅・撤退した。ついでにビナー君は二度とアビドス砂漠の奥地から出て来なくなった。
極めつけにプレジデントが戦いが終わった日の夜、
くわえてその時の記録は一切、まるで外部からハッキングを受けたように残っておらず、プレジデントが独断で行ったことなのでプレジデントしか証人がおらず、大体訴える上で古代兵器でアビドスを攻撃しようとしたことが明るみに出るので訴えようにも訴えられない。
多大な損害。
折角掘り当てた古代兵器は全壊。
プレジデントの心は折れ、彼は二度とアビドスに関わらないと固く誓いそのままアビドスから撤退した。
かわいそう。
でも今まで強者として力と言う理不尽を振りかざして弱者を食い物にしてきた人間が、ただ弱者に回っただけなのである意味因果応報、諸行無常。
ユメの両足と右腕が半年ほど動かなくなるのはこの戦いの後である。
ちなみにプレジデントが古代兵器を起動した日の翌日、ユメはすこし寝不足がちで、同日ノノミが深夜にユメのような人物を街中で目撃していたが、当人はそれを覚えていなかったのでノノミは見間違いだったのかな~そっくりさんっているんだ~、とか思った。
「――わざわざハッキングして動かしてまで破壊の口実を作ったんだし、ちょっとくらいいいですよね。あぁ、久々のイチゴミルクおいしー……」