黙らんし喋る   作:ヒヨコスキー

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全体的にだいぶいろいろとお直ししました


プロローグ(7)

 

 

 

 

 

 その爆音はもちろんアビドスの面々と先生がいる保健室にも届いていた。

 

“――何今の音!?”

 

 ベッドの上でひっくり返った状態のまま叫んだ先生は、キーン、と尾を引く耳の奥の残響が収まるのを待たずに跳ね起きた――そして、まるで無造作に撒いたように窓のあちこちに張り付いた土によって、外の様子がロクに見えなくなっていることに気づく。

 

“これは……!?”

 

 爆音が聞こえたのは間違いなく外――校庭のある方だ。とにかく外の様子を確認すべく、先生はシッテムの箱を掴んで窓際へ駆け寄った。

 ガラリと土まみれの窓を開ける――爆発音の源は、わざわざ探すこともなくすぐに視界に飛び込んで来た。

 校庭でキュラキュラ、という駆動音を立てている、その巨大な兵器が。

 

“戦車……!?”

「ウチで採用してるのと同じ型式じゃない!? 誰が乗ってんのよ! ――というか花壇が吹っ飛ばされてるー!?」

 

 おそらく先ほどの砲撃(・・)をもろに食らったのだろう。保険室の傍にある花壇が、囲っているブロックごと大きくえぐれ、半壊しているのを見てセリカ(設備担当のため花壇の世話は彼女がやっていた)が叫んだ。窓に張り付いた黒い土は、砲弾の直撃によって飛散した花壇の土だったのだ。

 あああ、とほろほろ涙を流すセリカを宥めるノノミの傍ら、シロコは顎に手を当てながらこう言った。

 

「ん、格納庫のものは朝見た時点でなくなったりはしてなかったから――」

「――外部から持ち込まれたものってことですね、シロコ先輩」

「なるほどね~。……で、あいつらどこの誰?」

 

 ホシノが鋭い視線を向けている戦車の周りには、ヘルメットをかぶった一団がいた。その中の一人が、無造作に持ったライフルの銃身で肩をトントンと叩いたあと、その銃身を七人がいる保健室の方へと向ける。

 

 戦車の砲塔が、ゆっくりとこちらに向いた。

 ぞわり、と鳥肌が立った。

 

“え――”

「ちょっとどいて下さい、先生」

 

 トン、と。

 砲塔から球が射出されるよりも先に、先生の脇をすり抜け、窓枠を蹴ってホシノは外へ飛び出していた。

 

 それから再び轟音が響き渡る。

 花壇への第一射を経て修正された狙いは正しく、砲弾はまっすぐに先生らのもとへ飛来していた。

 あわててシッテムの箱を構える先生だが、それよりもホシノの方が早い。

 ホシノが空中で展開を終えた盾に砲弾は激突し、

 

逸れろ(・・・)

 

 ――刹那、先生は確かにホシノの声を聞いた。

 ギャリギャリ! と斜めに傾けた盾の表面を砲弾が滑り、弾道が上側に逸れる。そのまま砲弾は校舎の壁面に着弾し、めり込んだ弾丸の周りの外壁は黒く煤け、ざらついた外壁の破片がぽろぽろと落ちた。

 着地しながらホシノは振り返り、言う。

 

「――ごめんごめん、空中だとあんまり制御効かないのと、市街の方に流す訳にも行かなかったから校舎の壁に当てちゃった。皆大丈夫?」

「ん、私たちは大丈夫だけど、セリカのメンタルが……」

 

 シロコは若干気まずそうな顔で四つん這いのまま肩を震わせているセリカを指さした。

 彼女はゆらりと立ち上がり、爪を強く手のひらに食い込ませながらその拳を胸の前に持ち上げる。

 気迫でツインテールが上に持ち上がっていくのを、その場にいる全員が幻視していた。

 

「~~~~全ッ然大丈夫じゃないけどもファインプレーねホシノ先輩ッ!!」

「うへ~うちの設備担当がキレるのを我慢している! ごめん!!」

「別に先輩方に非はないから仕方ない仕方ない仕方ないあいつら絶対とっちめる……はい切り替え終わり! その代わり徹底的にやっちゃって! ホシノ先輩!」

“確かに、砲弾を逸らせるなら戦車は怖くない……! 接近して戦車そのものか操縦者をなんとかするだけだ!”

 

 バッ! と期待に満ちたまなざしをホシノへ向ける二人だったが、

 

「あ、私は別用で離脱するから……(トコトコ)」

「“えええええなんで!?”」(セリカ&先生)

 

 すごすごと戦車に背を向けたまま保健室の方へ戻ってくるホシノを見てセリカと先生は大きくずっこけた。だいぶ息が合うなぁこの二人、とノノミは思った。

 

 ……ちなみにここまでのやりとりの間にホシノは一回盾ではたいて砲弾を地面に叩き落としたりしていたのだが、ほとんどハエ叩きみたいなノリでやっていたのであんまり誰も印象に残っていなかった。

 実際はスゴ技どころか超人技だし、キヴォトスにおいても銃弾ならともかく砲弾でやれることではないのだが。

 

「じゃあ交代だね、ホシノちゃん! ――あうっ!」

「ちょっ」

 

 そして窓枠を勢いよく乗り越えようとしたところ、つま先をひっかけてそのまま顔面から地面に突っ込むユメであった。

 しかも割れた花壇のブロックに顔面から激突する始末である。

 

「大丈夫ですかユメ先輩(バァーン!)(ガキーン!)」

 

 砲弾を弾きながらホシノはユメの下へ駆け寄った。

 

「らいじょうぶらいじょうぶ」

「いや鼻血鼻血! いったんガーゼ詰めますよ」

「すぐ引っ込むといいな~。それよりほら、盾!」

「え? あぁ、はい。……そういえばすみませんユメ先輩、盾勝手に借りちゃいました」

「ううん、私じゃ絶対間に合わなかったからだいじょ(バァーン!)(ガキーン!)」

 

 とっさにユメから奪った盾で砲弾を地面に叩き落とすホシノ。

 ……改めて盾を返してから、ホシノはじっとりとした視線を何もわかっていなさそうな同居人へ向けた。

 

「あの…………盾で砲弾止めるだけでいいですからね? この盾使う分には(・・・・・・・・)いきなり足動かなくなっても安全ですし」

「うわぁ、すっごく余計な無茶しそうって思われてるのがわかるよぉ……」

「いやそういう実績しかないので……」

「あ、そういえば別用って?」

「――(ボソッ)」

「――なるほどね。じゃあお願い」

 

 そんなやり取りを終えた後、ドン! と再びの砲撃音がした。

 ――その数秒前。

 

「あれ、そういえばユメ先輩が戦うのって初めて見るかも……というか行かせてよかったのこれ。急に麻痺で動けなくなったりしたら……」

「そうだよね。それに銃の反動を抑えられる握力がないから銃を握れない、って本人から聞いたような……」

“え……?”

「あぁ、大丈夫大丈夫」

 

 あよっこいせ、と足を持ち上げて大股で窓枠を乗り越え、保健室の中に戻ってきたホシノは、心配がる一年生たちと先生に向かってこう告げた。

 

「ユメ先輩の盾は調月リオ謹製(・・・・・・)の盾でね。ユメ先輩のチョーカーを介して四肢の麻痺を検知すると盾から直接電気信号流してオートで肉体に最適な姿勢をとらせるようになってるの。負担が大きいから普段使いはできないけど、少なくとも事故ることはないし、それに――」

 

 それ抜きで、盾の使い方私より上手いから。

 ――そのホシノの宣言通り、音が違った。

 

 

     ※

 

 

 盾の完全な正中線で受け止めきられた砲弾は、回転も前進する勢いも完全に受け止めきられて、そのまま地面にゴトリと落下した。

 ユメの背中を見ている一年生たちと先生は、当然それを直接見ていたわけではない。しかし、目の前の光景がいわゆる神業に類するべきものであることは感覚で理解していた。

 ぽかん、と口を開けている三人に、ホシノはボディアーマーを身に着けて戦闘準備を進めながら語る。

 

「――ユメ先輩、いろいろあって麻痺から復活してから盾術の練習だけずっとやっててさ。そのお陰で盾の扱いは普通に私より上手なんだよね。入院中も左腕は麻痺してなかったから、暇なときは盾いじったり、構え方の練習したり」

“麻痺……じゃあ一から左の構え方を覚え直したのか。利き腕じゃない方で……すごいね”

「あ、ユメ先輩は最初っから左でした」

“あれ、でも盾って基本利き腕で持つものなんじゃ?”

「……えっと、そこは怪我の功名というかなんというか……」

 

 ホシノは少しバツの悪い顔で頬を掻いた後、ボディーアーマーの胸元部分にあるホルスターに拳銃を入れながらこう言った。

 

「……そういうの教えてくれる人がいなかったので、ユメ先輩ってもともと左で盾持ってたんですよね。だから覚えはすごく早かったです」

 

 

     ※

 

 

「……というか何か変な空気だけど、何? あとなんで先生は私から目をそらしてるんですか?」

 

 シロコは笑いをこらえており、セリカは赤面したまま俯いている。ノノミはなんか真顔のままかたかた震えている。

 そしてホシノの言葉通り、先生はホシノと目を合わせてくれない。先ほど話していた時もそれはずっとだった。

 唯一気まずそうな顔はしていたが話は出来そうだったアヤネに尋ねると、このような言葉が返ってきた。

 

「ホシノ先輩、その……」

「んえ、どうしたのさアヤネちゃん」

「す、スカート……!」

「へ? あ、土で汚れてたりする? というか冷静に考えてみれば土足で保健室に入るべきじゃなかっ――」

「ああもう普通に言いますね!? さっき窓枠またいだ時にパンツ丸見えでした!」

「え? いやそんなの気にすることじゃ――あああああああ!?」

 

 そういえば成人男性がいた! と今気づいたと言わんばかりにホシノの顔が真っ赤に染まっていく。

 

「というか女性同士でもある程度恥じらってください! あと今の完全におじさんの動きでしたからね!」

 

 アヤネの悲痛な叫びが響く。

 ホシノは今更スカートの裾を両手で抑えながら、涙目で先生を見た。

 

「みみみ見ました!?」

“見てない! 白と桃色の縞パンなんて見えてない!”

「だいぶしっかり記憶に留めてるじゃないですか!? さっさと忘れてください!!」

“いや、その……難しい!”

「難しいってなんですか!?」

「こんにちは~☆」

“えっ、ノノミ、なに……”

 

 にゅっ、と唐突に二人の間にノノミが割って入る。

 彼女の手には一本の耳かき棒が握られている。

 

「確かにホシノ先輩はとっても魅力的ですよね~、わかります~☆

 ――でもホシノ先輩の隣はユメさんだと有史以来決まっています」

“えっなんで急に早口……”

「もしも忘れることが出来なかったら言ってください、私の耳かきで記憶を消します。鼓膜の奥の奥までこう……ずっぽり行って」

“死ぬよ!?”

「大丈夫ですよ、少し三途の川が見える程度です☆」

“それを死んでるって言う!”

「ん、ノノミはたまに怖くなるほどホシユメ過激派だから……」

“ホシユメ過激派って何!?”

 

 ギギギ、と真顔に笑みだけ張り付けたようなノノミがブリキが立てるような音とともにシロコの方をゆっくりと振り向いた。

 ……人が地雷を踏み抜いたことを理解するのは、踏み抜いた瞬間以外にあり得ないのだ。

 

「シロコちゃん。ホシユメじゃなくてユメホシですからね。。。☆」

「……ん、しまった、私まで巻き込まれた」

 

 耳かき棒が二本に増える。

 

 

 

 

「……なんかもうめんど……じゃなくてやることがあるから私もう行くね、あとセリカちゃんアヤネちゃんよろしくー」

「この状況後輩に丸投げしていくの!?」

 

 ぎゃあぎゃあと騒がしい保健室の扉を後ろ手に閉め、それからホシノはゆっくりと目を開けた。

 

「……さて、私は私の仕事をしようか」

 

 

 

     ※

 

 

 

「えーん、キャッキャウフフしてないで誰か褒めてよ~……」

 

 一方その頃、我らが生徒会長は外で五発は砲弾を受け止めていた。

 砲撃の音で正確に何を言っているのかを聞き取ることが難しい彼女は保健室内でみんなが自分をハブってはしゃいでいるというアクロバティックな勘違いをして涙目になっていたが、保健室の中で繰り広げられている地獄(キャッキャウフフ)については、蚊帳の外の方が明らかに幸せだった。

 

「ちょっと腕しびれてきた……でも、なんだろうなぁ」

 

 砲弾を撃ってくる以外に動きのないヘルメットの集団を盾越しに見つめながら、ユメは首を傾げる。

 

「――目的が分からないなぁ。やっぱりホシノちゃんの言う通り陽動(・・)なのかなぁ。予想が当たらないといいんだけど……」

 

 

 

 

 

 






・黒見セリカ

 一年前から目まぐるしい速度で復興を始めたアビドス生徒会の力になりたく、入学したらいきなり生徒会の設備担当を任されていた。設備とはいうがアビドス自治区全域の施設の管理を実質一手に引き受けているためかなり激務。よくヘルメットをかぶって建設現場の立ち合いをしており、たまに交じって基礎作りに勤しんでいる。現場のアイドルで、市民からの好感度が非常に高い。
 原作からワーカホリックなきらいがあったため本作ではこのような設定となった。
 冬は生徒会室の一角に用意された炬燵でよく寝ている。
 戦闘力は先輩方に比べれば劣るが、ガッツで勝る。趣味で紫関でバイトしている花の土方系JK。
 設備担当のイメージは現場猫から。ヨシ!


・奥空アヤネ

 一年前から目まぐるしい速度で復興を始めたアビドス生徒会の力になりたく、入学したらいきなり生徒会の書記を任されていた。かなり実直な性格で計算も早いため、よく会計(シロコ)の手伝いをしている。代わりにドローン工学についてシロコから教えてもらっている。支援物資を運搬する赤いドローンはその知識を使って自力で作成したもの。
 セリカと異なり直接戦闘が不得手のため、戦闘シーンにおいては後方支援に徹する。
 かなりのちゃらんぽらんと問題児の寄せ集めみたいな生徒会唯一の良心であり、一度怒らせると鬼のように怖いことを皆認識している。次期生徒会長と目されているが、本人の気質もありあまり乗り気ではない。

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