黙らんし喋る   作:ヒヨコスキー

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プロローグ(9)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やいお前ら! よくも……いや本当によくもやってくれやがったな……痛いよちくしょう……」

 

 爆発炎上する戦車のキューポラからほうほうのていで脱出したヘルメットの集団のリーダーらしき少女は、地べたに這いつくばり、ぜぇぜぇと息を荒げながらそう言った。

 ヘルメットは焦げ、バイザーがあちこちひび割れている。

 シロコは光学迷彩を解除したドローンを自らの傍らでホバリングさせながら言った。

 

「ん、ちょっと気の毒になってきた……」

「いやお前がやったんだろうが!」

 

 主犯に対して鋭い突っ込みが入る。

 

 

     ※

 

 

 現在ホシノを除いたアビドス生達と先生は、“カタカタヘルメット団”を名乗った少女ら――爆発のせいで全身ズタボロ、満身創痍――と、グラウンドの中央辺りで少し距離を空けて向かい合っていた。

 ちなみに今まさに開戦間近といったピリピリした雰囲気を漂わせているヘルメット団に対してアビドス側はもう勝負ついてるんじゃないかな……という楽勝ムードである。とはいえそれもそのはず、戦車の周りにたむろしていたヘルメット団はすでに半数以上ヘルメットを破壊されたことで羞恥心が爆発し、戦意を喪失し逃げていったからだ。

 

 ちなみに「恥ずかしい!」「顔見ないで!」「こんなところにいられるか!」「私たちは帰らせてもらう!」とありがちなセリフを吐いてその場を後にした彼女達は、シロコお手製の警備ドローン達にしっかり捕縛されている。駐在のヴァルキューレ生達の手によってD.U.にある留置場への送還手続きが始まるのも時間の問題だろう。

 

 ヘルメット団のリーダーらしき少女が頭をヘルメット越しに両手でガシガシと搔きながら言う。

 

「もういい、こっちがずっと煽ってるのに全然反応しないし、お前達が噂通り随分マイペースというか、ゴーイングマイウェイなのは身にしみて分かったよ……」

「照れますね☆」

「褒めてねぇわ!」

「親分、巻き込まれてる巻き込まれてる!」

「完全に相手のペースっすよ!」

「っは、そうだそうだ……あ、アタシは冷静に話し合いができる女……」

「冷静に話し合いをしようってヤツは校舎に戦車砲撃ち込まないのよ」

「だーっなんなんださっきから茶々ばっかり入れやがって!」

 

“えぇと、それで……君たちは一体、どうしてこんなことを?”

「え? ……あ、シャーレの先生? なんでアビドスに……まぁいいや。ヘイローがないって言っても、そっちにつくっていうなら容赦はしないからな。

 ――よし、それじゃあこっちの要求を述べさせてもらう!」

 

 仁王立ちしたリーダーはアビドス生に向けて指を突き出しながら“要求”を高らかに述べた。

 

「この校舎ごとお前らのもん全部アタシらに寄越せ! それで命は助けてやる!」

 

 ノノミはガトリングを掃射した。

 

「うわったったったったっ!?」

「むむむむ無言で撃って来たーっ!」

 

 足元に殺到するガトリングの弾を高速で足を上げ下げしてタップダンスを踊るように回避しようとする(できていない)ヘルメット団のメンバー達を見ながらユメはノノミに訊ねる。

 

「の、ノノミちゃん。まだ喋って……」

「? “ヘルメット団”を名乗る時点で欠片も期待も出来ませんでしたが、先ほどの発言からして交渉の余地がないのは明らかでは? それにテロリズムに屈してはいけませんよ、ユメ先輩☆」

“テロリズム……まぁ確かに、ノノミの言う通りではあるね”

「はい。アビドス校舎を掌握……乗っ取ることは実質この自治区の全権を掌握するに等しいです。そして暴力によって政治的目的を達成しようとする方々、それはもうテロリストに相違ありません♧」

「なんにせよぶっ飛ばすことに変わりはないけどね。――はいみんな。一応予備弾薬いるでしょ。このラックに予備のマガジン全部入ってるから、適当に持ってって」

「ん、セリカはいつも手際がいいね。ありがとう」

「べべべ別に褒めてもなんも出ないんだからね……!」

 

 顔を赤らめながらセリカはシロコにマガジンを手渡す。

「銃弾が出てきた……」とシロコは零した。

 

“……え、いや、え? ほんとにこのラックどこから出てきたの?”

 

 ユメを除いたアビドス生が当たり前のようにどこからともなく現れた壁掛けラックから予備弾薬を持っていくのを目にして、先生は思わずと言った様子でそんな言葉を口にする。

 実際、先生視点からすると少し目を離した隙にいきなり近くに現れたようにしか見えなかった。

 セリカは何を言っているか分からない、といった風に首を傾げたのち、ややあってから、得心がいったように「あぁ」と零す。

 

「そうよね。確かに説明がないと分かんないわよね」

“これも光学迷彩?”

「いえ、もっと大掛かりというか……それにしても私達、すっかり慣れちゃいましたね」

「ん。でも私たちも初見は先生と同じリアクションだったから」

「静かだよねぇ」

「ですね☆ ――まぁ、先生もいずれわかりますよ☆」

“……???”

 

 ほんわかうふふと目線を交わしながら微笑むアビドス生達に先生は首を傾げるしかない。

 その一方。ガトリング弾が当たって赤く腫れた足をさすりながらヘルメット団のリーダーはそんなアビドス生らを睨みつけていた。

 

「こ、こいつら私達のことはもはやいない存在だと思ってるだろ……余裕ぶっこきやがって……!

 でもなぁ、そのツラが恐怖に今から歪むのさ。――お前ら、出番だぞ!」

 

 リーダーが拳銃を頭上に掲げて発砲する。それが合図だった――グラウンドの四方からガサガサと人影が現れ、グラウンドに向かってぞろぞろと集まってくる。

 そしてヘルメットを被って武装した彼女たちの出で立ちは、明らかにヘルメット団の一員とわかるものだった。

 

「これは……」

「へへへ、私たちはただ戦車砲を撃ってたわけじゃないんだ。

 砲撃でお前達の注意を引いている間に散会して、戦車に対処しようとグラウンドにのこのこやってきたお前らを囲んで袋叩きにするのが作戦だったのさ!

 ……まぁ、お前たちは砲撃につられたとかじゃなくて、どっちかというと火事の野次馬みたいな感じでトコトコこっちに寄ってきたわけなんだが……」

「だ、だって火事とかに発展したら困るんだもん……」

 

 実際戦車の爆発は植木の近くで起こったため、延焼して火事になる可能性も大いにあった。

 

「ともかく! さっき帰った奴らを除いてもこっちは総勢百余名だ、たかが六人ぽっちでどうにか出来ると思うなよ!」

 

 ゲラゲラゲラ、と笑いながら徐々に包囲網を狭めてくるヘルメット団。

 そんな中、アヤネが一歩前に進み出る。

 ぴんと背筋を伸ばし、串でも中に通っているんじゃないかと思うくらい綺麗に手を伸ばして挙手の姿勢をとりながら彼女は言った。

 

「――はい、“カタカタヘルメット団”の団長さん。アビドス生徒会書記の奥空アヤネと申します。

 一つお伺いしたいことがあるのですが、質問よろしいでしょうか?」

「お、なんだ? もしかして今更降参する気になったか? それなら大人しく――」

「いえ、この程度で私達をどうこうできると思っているのでしたら、それは単純に情報収集が不足していると思います」

「ムキー! なんだそれは質問じゃないじゃないか! 煽ってるのか!」

「客観的事実を述べたつもりですが……あ、質問は別にあります。

 今百余名とおっしゃっていましたが、明らかに人数が足りないように見えるのですが……?」

「ははは! 何だそれ、こっちを混乱でもさせる気か?

 生憎そんなんで私たちの鋼の結束力は……ん? 待て。マジで少なくね?」

 

 器用というかどうやっているのか分からないが、ヘルメットの上に汗をかきながらリーダーはいちにーさんよん、とこの場にいる団員の人員を指折数えてみる。

 結論として、百人に満たないどころか五十人いるかも怪しかった。

 

「」

 

 呆然とするリーダーに、そういえば、といった調子で団員のうち何人かが挙手してこのようなことを口々に言った。

 

「隊長。そういえばうちのダチ腹痛で何人かさっき帰りました。

 食中毒っすかね? の割にはピンピンしてるようでしたけど」

「親分、そういえばあいつら今日建設現場でバイトだったらしいんすわ。というかアタシもバイトあるんで、この辺で!」

「班長、そういえばミラクル5000の転売の方が楽に儲かりそうなんで一緒にそっち行きません? というかみんなそっちに行っちゃいましたよ」

 

「」

 

 ……もはやアビドス側もだんだんいたたまれなくなってきていた。

 というか呼び方が統一されていない時点でもうなぁ、と先生は空を仰ぐ。

 

 そんな中、アヤネは黒い笑みを浮かべながら口に手を当てた。

 プークスクスと花壇を壊された恨みを晴らさんばかりに嘲りながら。

 

「鋼の結束力、ですか(笑)」

「あああああああああああああああ!!」

 

 リーダーは膝から頽れた。

 

 

     ※

 

 

 四つん這いのまま動かないカタカタヘルメット団のリーダーを取り巻き達が励ましている、そんな光景が目の前で展開されている。

 

 ……なんだか気の抜けるような光景だが、ユメらアビドス生と先生は今だ彼女達ヘルメット団に包囲されたままの状況にある。

 つまり一秒後、逆上したヘルメット団に一気に襲われるかもしれないということ。

 用意に想像出来得る未来に対して、額に汗をにじませながら先生はスーツの懐に手を入れるとそこから大きめのタブレット端末――“シッテムの箱”を取り出しながらアビドス生らに問うた。

 

“みんな――もしも私のことを少しでも信じてくれるなら、この場だけでいい。指揮権を私にくれないかな”

 

“結局は皆の力に頼ってしまうことになるから、不甲斐ないし、いきなり現れた人間が何を言っているんだって思うだろうけれど――”

 

“「先生」として、私に責任を負わせてほしいんだ”

 

 先生の表情と所作は、その言葉が間違いなく真実で、本音だとユメ達に直感させる。

 先生は続ける。

 

“私は、君達だけじゃなくて彼女達(ヘルメット団の子達)の先生でもある……襲われている側の君達からすれば何をって感じだろうけど、彼女達が道を誤ったのであれば、それを正すのは先生としての私がやるべき事で、それが私のやりたい事でもあるんだ”

 

“君達生徒に必要なのは意味のある教えであって、意味のない痛みじゃないからね”

 

「……で、どーする? 私もアヤネちゃんも異論ないから先輩達に判断は委ねるけど」

 

 先生の言葉を受けたセリカはアヤネと軽くアイコンタクトを交わし、それからシロコらに目を向けた。

 

「ん、私達も異論はない……いいよね? ノノミ」

「はい――サンクトゥムタワーの一件を治めた先生であれば、十分にこの場の指揮を任せていいと思います♠

 それに先生が絡めば、この戦いは生徒同士の小競り合いではなく連邦生徒会の管理下による不良生徒の撃退に意味が変わりますから」

「……?」

「弾薬費とかの予算が下りるかもってことです☆」

「ん、それは激アツ……!!」

 

“はは……”

 

 そして最後にアビドスの代表であるユメへと皆の視線が注がれる。

 

「え? あー、うーんとね……」

 

 それからユメは少し腕を組んで考え込むような素振りを見せた後、ややあってこのように述べた。

 

「申し出はとってもありがたいけど、先生は休んでていいよ」

 

“……え?”

 

 一歩、二歩、三歩。

 鼻と鼻とが触れ合うくらいの距離まで先生に近づいたユメがおもむろにぴとり、と先生の額に自分の額を当てる。

 

「――」

「うわぁノノミ先輩が真顔で唇めっちゃ噛んで血ぃ出してる!」

「止血止血! あと暴れないように抑えて!」

 

 ……騒ぎ出した外野はさておき。

 

「……うん。ちょっと熱も出てそうだね。やっぱり休んでた方がいいと思う」

“いや、でも――”

 

 がくん、と。

 その言葉を否定しようとした先生の視界が縦にブレる。

 

 ……気づけば先生はその場で片膝をついていた。

 立ち上がろうとする先生をその場に留め、目線の高さを合わせながらユメは言う。

 

「立ってるのも結構つらいんでしょ? 冷や汗すごいよ」

“――え、ほんとだ……”

 

 言われて先生は自分の首元を触る。

 べったりと先生の手のひらに付着した冷や汗にユメは苦笑交じりに続ける。

 

「仕方ないよ、さっきまで脱水症状で倒れてたんだから……あれ、すっごく辛いよねぇ」

 

 どこか懐かしむ(・・・・)ようにユメは呟いてから、

 

「セナちゃんは回復したって言ってたけど、その前に“しばらくは絶対安静”とも言ってた。容体が悪化しないとも限らないからって。

 ……ごめんね、先生」

“ユメが謝ることじゃ――”

「ううん。だってこの状況は先生が原因じゃない以上アビドスの問題で――先生は巻き込まれた被害者だもん。それはアビドスの生徒会長の私が謝るべきことだと思う。大人としての責任と、それとはまた別の話でしょ?」

“……”

 

 えへへ、とユメは眉尻を下げ、頭を掻きながら零す。

 

「あのね? 先生が来るって昨日ノノミちゃんから聞いた時、折角だからアビドスのいいところをいっぱい見てもらいたいって思ったんだ。

 それなのにこんなことになっちゃって……ねぇ、先生。アビドスのこと、嫌いになった?」

“……、ううん。嫌いになんかならないよ”

 

 事前の調査で、様々な問題が存在している土地であることは先生も知っている。

 そして、そんな土地で頑張っている大事な自分の生徒達のことも。

 

「――よかったぁ」

 

 先生の言葉を聞いて、ユメはへにゃりと笑う。

 ノノミはぽつりと呟いた。

 

「……今の、ホシノ先輩に見せたかったですね」

「ん」

 

 ユメは盾を支えにしながら立ち上がり、膝やスカートについた砂を手で払い落すとぱちんと顔を挟み込むように両手で叩く。

 

 ――がちゃり。銃器を改めて構えたヘルメット団と、ついに戦闘が始まろうとしている。

 先生はよろよろと立ち上がりながらユメの背を見た。

 その背中はどこか大きく見えた。

 

「ねぇ先生。あなたのことは、私達がしっかり守るよ」

“……”

「だから、アビドスのいいところの代わりに――私達のかっこいいところ、しっかり見ててくれたらうれしいな」

 

 そう言って、大人っぽい笑みで少女は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「……ユメさん、たまにすっごいお姉さんっぽいですよね」
「ん、まぁユメってもう二十歳だし。大人の割には子供っぽいとも言える」
“はた――えっ二十代!?”

 驚きでユメを二度見する先生。
 そしてそれを近くで聞いていたヘルメット団のリーダーはこう言った。

「え? なんだよおばさんじゃん。ウケる」
「ミ゜」

 グサーッ!
 ユメは戦闘不能になった。

“ゆ、ユメーッ!?”

 その場に倒れこんでアルマジロのように丸くなった背中を見ながら、本当に大丈夫だろうかと先生は思った。
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