ダンジョン配信者「これは拙者が転生する前の話でござる……」「おーまずいね」 作:もちごはぼたん
酒場の中、木の壁で仕切られた空間の中で2人の人間が個室のテーブルを挟んで向かい合っている。
1人はセーヴ、もう1人はヨミチ。
酒場には少し料金が高くなる代わりに個室を用意できる仕組みがあった。
封鎖された空間と、酒場の中の喧騒で話が漏れにくい事から、この国では密談に使われる事も少なくなかった。
その少し高い料金は、今回はギルドの支部長が払うように話をつけていたらしく、今回、彼を少しばかり憎たらしく思っていたセーヴは、心の中で小さくガッツポーズを取った。
お互いに水と水が出た状態で、話を切り出したのはヨミチだった。
「して、配信とは何かを教えてほしいでござる」
「あなた知らないでこの仕事受けたの!?」
「『詳しく事は経験者であるパートナーから聞くといい』、とあのギルド職員は申していたぞ」
セーヴは一番高いメニューを食べる為にメニュー表を手に取った。
敵の財布は破壊できた方が戦いが有利になる。
「えー……そうだね……まず配信って魔術を、今の時代の魔王が作って流行らせたの。魔術の刻まれた陣を使って周りの風景を他の場所に映せる魔術の事ね」
セーヴはメニュー表で顔を隠しながら、ついでのような声色でヨミチに配信について───魔王について語り始めた。
「ほう、軍隊の偵察、指示、どちらにも使える魔術を開発したのでござるか」
「……いや、娯楽用に作ったのよ、開発、一般への発表自体も魔王が魔王になる前にやった」
そう言ってセーヴは懐から魔導書──コンパクトなメモ帳サイズのもの──を取り出した。
パラパラと中を開くと、大量の魔術がびっしりと書かれており、指でページをなぞれば、対応した魔術が発動するものだった。
セーヴはあるページで指を止め、魔術によって魔導書の数cm上で投影された映像をヨミチに見せた。
「ほら」
「……ほう?これが……配信でござるか?」
そこには白髪の、黒羽が生えたハーピィのような少女が映っていた。
『 雑談配信:もう今年もあと半年ぐらいになりましたとさ』というタイトルらしい配信のアーカイブ、そこには少女の右横に砂時計の砂のような勢いでコメントが流れている。
『スライムが干からびてるとこ見てみたいんよねぇ。アタシは噂でしか聞いたことないけど、なんかそういう料理出すお店があるらしいんよねぇ。あ、ポテチの時間なのでポテチ食べるねぇ』
●そんなのあるんだ
●水の国あたりにあるらしいね!
●ポテチタイム突入!
●ラーちゃん急に食べ始めるじゃん
●ポテチの時間って何?
●干からびたスライム食べたけど美味しかったよ。
●ポテチタイム!!
「……この流れてる言葉は、配信の反応でござるか」
「そうだよ、コメント。配信して、人が見にきて、コメントとをしていって……って感じ」
「となると、人気になるほどコメントが来る?」
「まあ基本は」
「ふむ……」
ヨミチは考えこむように配信画面を見つめていた。
初めてのものを警戒する犬や猫のようにじっとしていた。
(本当に初めて見た感じなのかな……。配信自体、一部の魔術師から普及しているものだから、どんどん全体の規模が拡大している今だって、知らない事自体は別に珍しくはないが……)
ヨミチが初めて触る世界なんだろうと、セーヴは推測した。
初めての世界というのは、仕組みが分からず、勝手が分からず、どんな人間が居て、どういう風に回っているのか分からない。
今のヨミチには、疑問符がたくさん浮かんでいるものだろう、と考えていた。
何か疑問が出たら答えてあげよう。セーヴはそう考えながらメニューを見て1番高い小型ドラゴンのフトモモを頼んだ。
「何か聞きたい事はあるか?それなりに昔から配信はやってたから、何かあればそれなりに応えられるかもしれない」
「助かる。……しばし待たれよ。……ふむ」
広告が流れ、配信中の少女の話が進み、配信が終わりに差し掛かった。
セーヴが三つ目のドラゴンのフトモモを食べ終わったあたりで、ヨミチは口を開いた。
「この配信、日付けが昔のものでござるが、一度やった配信はいつでも見れるのか?」
「うん、アーカイブ化……つまりあんたの言う通りいつでも見れるようになるよ」
「ふむ……何故この方の配信を見せた?他にも見れる……あーかいぶ?はあるのであろう?」
「……うん、昔、配信活動してる時にコラボ……一緒に仕事している時があって、その辺りから偶に追ってるの」
「なるほど」
しばらく配信が終わって画面が止まった魔導書を見つめていたヨミチは、少し微笑んだ後、魔導書を見るために前屈みになっていた体をゆっくりと起こした。
「ありがとう、大雑把であるだろうが配信については理解した。感謝するでござる」
小さく頭を下げたヨミチを見て、セーヴはおいしく食べていたドラゴンが突然喋ったかのような顔をした。
その顔を見てヨミチは眉をひそめた。
「さては拙者が分かってないと思ったであろう?」
「……まあ、1つ見ただけで、私が説明だってしてないないのに」
「こう見えて物覚えはいいのだ。剣の師匠にも、『吸収が早く覚えがいい、教え甲斐がある』との評価をもらっているでござる」
「剣と配信は違うでしょう」
「見て学び、教えを乞うて、やって見る。これの繰り返しなのは何も変わらぬよ。」
そう言って剣士は口に水を運んで半分ほど飲んだ。
ヨミチがさっきまで一度も水を飲んでいかった事に、セーヴは気づいた。
「見てもらい、人を集め、楽しませて名が広まる。広まった名がまた人を呼ぶ……きっと配信には、人に見つけて欲しい者がたくさん居るのだろう。魔王の作った配信は、きっと、そういう人を見つけてもらう為に作ったものだ」
水を見ていたヨミチの目がセーヴに向けられた。
遠くを見るような目で、黒い目。
はるか先の、夜空。そのさらに先を見るような目を向けられたセーヴは、思い出す。
「魔王は『配信』を作って、人に何を見せたかったのであろうな」
「……さあ」
向けられた目から、背くようにメニューを見た。
唯一の
「見つけて欲しいって心とか、魔王なんかにあるのかな?」
兄が見せたいものを見つけるために、少女は遺産を追うと決めたのを決めたのを、そっと思い出した。