ダンジョン配信者「これは拙者が転生する前の話でござる……」「おーまずいね」 作:もちごはぼたん
『ダンジョンタイムアタック』
攻略済みの仕組み、通路が開明されているダンジョンで何人もの冒険者の技量、判断力、幸運などを測るある種の試験でもあり、配信され、エンターテインメントとして人の注目を集めているもの。
「人が死なないなら試験とかにはうってつけなんだよね」
「開拓済みの、地形がある程度把握できているダンジョンならなおさら、という訳でござるな」
タイムアタックに参加する為に、セーヴとヨミチは既知の情報を擦り合わせながら、タイムアタックの会場となるダンジョンの近くにギルドと水の国が設営した受付会場に辿り着く。
水の国の近隣にある、キッチ山。その麓に作られたダンジョン。
いくつかのテントに数人の冒険者がたむろっていた。
魔王が作ったとされるダンジョンには様々な物があるが、全てのダンジョンで共通する事が2つあると言われている。
1つは、魔物が生息、配置されている事。
ダンジョンにのみ生息している種類が多く、ある研究者によれば、外界に生息する魔物とは生態系が根本から異なる可能性すらあるという特異な環境。
そして、2つ目は『人が死なない』、正確には『死んでも失うものが少ない』ことだった。
例え何かに襲われようと、死んでも蘇生魔法がかかるから命が失われない。
例え壁が迫り罠にかかった者を押しつぶす、という罠にかかろうと、死んだ直後に転移と蘇生、二つの魔術がかかり、ダンジョンから出られないという事態はほぼ無い、と言っても良い。
迷宮の名を持ちながら、さながらいつでも出れるアトラクションのような場所、それが魔王の作るダンジョンと言われている。
「セーヴ、確かダンジョンに入るのは初めて……と言っていたな?」
「ああ、そうだよ。攻略前のダンジョンの周りで攻略隊を護る仕事ならした事はあるけど、中に入った事まではないね」
「ふむ……」
手を顎に当ててヨミチは考えこむ。
攻略済みのダンジョンは危険が少ない。だが、決して危険が無いわけではないとヨミチは知っている。
だろうに、ギルドは彼女を指名している、その事実への少しの違和感があった。
やはり、何か魔王とセーヴには深い関係があるのかもしれない。そんな疑念が、ヨミチの頭をよぎった。
「……まあいい、受付はすぐそこなのでござろう。恐らく拙者は気付かれぬ、すまぬが行ってきてくれぬか? 拙者は……この辺りで待つでござる」
「え?……あー、分かった。ちょっと待っててくれ」
そう言ってセーヴはヨミチから離れ、近くにあったタイムアタックの参加受付所となっている白いテントを訪れる。
テントの中に入り、ちょうど空いていた受付の前に立つ。
受付をやっていたギルドの制服を着た女性が、にこやかな顔をしながらセーヴに語りかけた。
「ダンジョンタイムアタックのご参加ですか?」
「はい、こちらの書類を確認ください」
鎧を着たセーヴの声は、女性のハスキーな声から、男性に寄ったハスキーな声に変化してから、鎧の外へ出力される。
魔術師が数十秒以上の詠唱を行う魔術を使う際に、魔術的妨害を受けない為の、鎧に発音させる装備。それを使い、セーヴは自らの声を隠していた。
書類を見た受付の女性は、あぁ、と声を漏らしながらじっくりと内容を噛み砕くように書類を見ていた。
「お話は聞いています。確かにギルドからの推薦でのお参加ですね、新しい事業の宣伝のためとか……はい、確認しました。時間になったら指定の場所へと移動してください。そこで一斉に参加者がダンジョンに入る予定となっています。頑張ってくださいね!」
「はい、ありがとうございます」
鎧の中でにこりと微笑んだセーヴ。見えないはずのその微笑みが通じたのか、受付の女性もにこりと笑みを返した。
「あと、ここにあるダンジョンは魔王が近くにある町や建物が巻き込んで作ったものらしいので、ゴーレムやスケルトンの類似種が多いみたいです。何か参考になれば」
「いいんですか? 私だけにそんな事を言って」
「もちろん皆さんに言ってます。ダンジョンは必ず生きて帰れるらしいですけど、痛くない訳じゃないみたいなので、一応ね」
「……はい、ありがとうございます」
ふたたび頭を下げた後、セーヴは受付を後にした。
受付用のテントを後にしながら、セーヴはヨミチのもとへ戻っていく。
(これで、タイムアタックに参加できる。注目が集まるこの場所で活躍して、アピールできれば、『新人配信者』としてデビューする時に人が集まってくれるはず)
「あ、……セーヴちゃん?」
「おお、セーヴ、戻ったでござるか」
「……え?」
セーヴがヨミチのもとに戻ると、そこにはヨミチの他にもう一人、小柄な少女が居た。
セーヴは覚えている。
雪のような肌に雲のような髪、かわいい寄りの顔、そして赤い花のような、華やかなあかいろの目。
どれもが滑らかな輝きを持ち、どれもがセーヴが見た事があるものだった。
「む? セーヴと知り合いだったのでござるか?」
「あ、はい……! セーヴちゃんは、昔何度かコラボしてくれた事があって……」
「コラボ……確か一緒に配信する事だったな。そうでござったか、知り合いなら話が早い……セーヴ?」
ヨミチが様子を伺うように顔を覗く。
しばらく固まっていたセーヴはまるで驚いたように見えた。
「……あっ、もしかして忘れちゃった? 私、リズ! リズ・メテウサ……覚えてる?」
「……もちろんだよ。仲良かったじゃん、私達さ」
「……へへっ、そうだよね」
安心するリズを見ながら、セーヴも安心し、落ち着きはじめる。
セーヴ今鎧を着ていて、顔が見られなかったからだ。
セーヴがリズを見て固まったのは忘れていたのでは無く、心の準備ができていなかったのだなんて、目の前のリズには知られたくなかった。
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