ダンジョン配信者「これは拙者が転生する前の話でござる……」「おーまずいね」 作:もちごはぼたん
運営に呼ばれてダンジョンの入り口へと向かう間の砂利道で、リズはセーヴの事を話し、ヨミチはそれをうむうむと聞いていた。
「ほう……先輩とな?」
「はい……!私、セーヴちゃんに憧れて配信者を始めて、セーヴちゃんが居た事務所に入ったんです。セーヴちゃんは事務所から居なくなっちゃったけど、私は今もそこにお世話になってて……!」
こそこそと、大切な宝物をこっそり見せる時のように、あまり見せたくないけれど、誰かに知ってほしい時のナイショ話のように小さな声でリズは語る。
セーヴに直接言うのがこそばゆいのだと考えたヨミチは、少し屈みながら小さな声に耳を傾けて、ヨミチ自身も声を小さくして反応していた。
「セーヴちゃんは、配信者の中でも古株……いわゆる古参ってやつなんです。セーヴちゃんの配信を見てから配信始めた人って、私以外にもいっっぱい居るんですよ……!」
「そうであったか……いや、拙者は配信には疎いので今初めて知ったでござる。こんな拙者だが、配信の勝手を知る古参?なるセーヴが協力してくれれば百人力だな」
「はい……!もう5秒で有名人ですよ!」
(コソコソしてるけど全部聞こえてるんだよ……!なんか……なんか恥ずかしい……!)
鎧の中で少し顔を赤くしながら無言でセーヴは2人の前を歩く。
5秒は無理だとか、自分が彼女の憧れの存在だったのは知らなかったとか、色々な言いたい事を飲み込んで、話題を逸らす為にヨミチとリズの会話に加わる事にした。
「2人とも私が少し離れてる間にずいぶん仲良くなったようだけど、何があったんだ?」
話題に出したのはちょうどセーヴが気になってる事だった。
これまでのヨミチを見るに、人に感知されにくいようなところがヨミチにはあるとセーヴは考えていた。
先ほど受付にヨミチは自分自身で行かず、セーヴに行かせたのもそれが理由だろう、とも。
だがリズには見えている。何故か、それを知るためにも、セーヴは2人が話したきっかけを知ろうとしていた。
「ああ……私がヨミチさんにぶつかっちゃったんだよ。ぼんやりしてたのかな?ぜんぜん気づかなくって」
恥ずかしそうに手を合わせながら、悪いことを白状するみたいにリズは答えた。
「最初はあれ?って思ってたんだけど、目をよ〜〜く凝らしてみたらヨミチさんが居て、びっくりしたぁ」
「拙者は影が薄いでござるからな。気づかぬのも無理はないであろう」
「薄いなんてレベルじゃなかったですよ!ぶつかるまで誰もいないと思ってたんです。あ、でも、そんなに影が薄いならダンジョンでも魔物に見つからないかもですね?」
「こっそり背後を取る程度なら可能かもしれんな」
「こっそり摘み食いもできちゃいますねぇ……」
「む、考えた事もなかったな。そうか、いつもお金を置いて食べ物を持っていってたのだがそれは……いや、ダメだぞ、勝手に盗むのはやはり良くない……」
「結構真面目さんなんですねぇ」
この2人、ずっと話すな、とセーヴは思った。
「……とりあえず何で2人が話してたのかは分かった」
他にも聞きたいことがあった気がするセーヴは、止まらず溢れるようなヨミチとリズの会話に入らずに、そのまま道を歩き続けた。
ヨミチが心なしかいつもより笑ってる。
リズは昔と変わらない笑顔を浮かべている。
2人の間にある空気が、セーヴにはまるで仲のいい兄妹のように、暖かい雰囲気に見えていた。
ダンジョンの入り口は地上にぽっかり空いた穴のようになっている。
覗けば階段があり、それは地下に繋がっている。
地下の暗闇は誰かがつけたロウソクの炎で照らされている。
地下へと続く暗闇が、誰かを招いている。そんな雰囲気があった。
「お二人ともお待ちしておりました」
セーヴ、ヨミチ、リズがダンジョンの入り口に着くとすぐに、先程セーヴが話した受付の女性がセーヴ達を待ち構えていた。
「運営視点はそろそろ配信始めます。配信を行う方は個人視点の準備をお願いしますね」
そう言い残すと受付に居た女性はそそくさとテントのある方へと走り出していった。
「いそがしいのかな」
「みたいだね、運営のテントに居たの、たった10人くらいだったし、一人ひとりの作業量が多いのかも」
忙しない様子の彼女を見てリズがつぶやいた。
セーヴは反応しつつ小さな魔導書のページをめくっている。
一枚、また一枚とめくっていき、配信の魔術が記されたページで手を止めた。
それを見たリズも自分の懐から魔導書を取り出して、同じく配信用のページを開く。
セーヴは配信の魔法陣を起動させようとした時、ヨミチが2人の事を木にとまる小鳥のように見ていたのに気がついた。
「どうした?早く配信をつけないと、それとも何かトラブルが?」
「……もしかすると、配信もそれで行うのでござるか?」
「え……───あっ!?えっ!?」
「え?ん?セーヴちゃん、どうしたの?」
焦るセーヴを見て、ヨミチはやはり……とでも言いたげな、申し訳なさそうな顔をした。
「まさかとは思うけどヨミチ……持ってないのか?魔導書」
「……うむ」
「えっ、ヨミチさん持ってないんですか?」
「……………うむ、すまぬ」
部屋を散らかして飼い主にしかられたしおれた仔犬のようになっているヨミチを見て、セーヴとリズは目を見合わせる。
「……珍しいね、今どき魔導書を持ってないなんて、もしかしてお家に忘れてきちゃった?」
「いや、昔は持っていたのだが壊してしまった……訳あって、今は高価な物は買えぬのだ……すまぬ……いや、そもそも配信をしたとして拙者は……」
「………あー!もう!!!ちょっと待ってろ!」
突然セーヴは設営された運営のテントへと走り出し、しばらくしてがちゃごちゃと鎧を揺らしながらセーヴが戻ってきた。
「確認取ってきた!とりあえず配信しなくても大丈夫、私の配信に映る形で出る!時間無いしとりあえずこれでいい?」
「……!セーヴ、かたじけない!」
「謝罪とかは後で聞く!よし、2人とも行くよ」
3人はそのままダンジョンに続く階段を降りていった。
階段の先、暗い地面に囲まれた道の奥底には、地中には場違いな木製の扉があった。
「……あのドア」
「うむ、あれがダンジョンの入り口でござる」
「何というか、ずいぶん質素というか……こんな場所に木で出来たドアなんて、ちょっと変だよね」
ドアの違和感がそのまま存在感となり、異質さが3人の視線を集めていた。
「……時間だけど、セーヴちゃんとヨミチさんは準備、いい?」
「うむ、問題ない」
「……大丈夫」
セーヴが深く呼吸をするのを、リズは見ていた。
緊張しているのか、どこか硬い雰囲気のセーヴに、何か出来ることはないかとリズは考える。
リズは前にもこの深呼吸を見た事がある気がしたが、いつだったか思い出せなかった。
セーヴがダンジョンの入り口の木製のドアを開けようと、銀のドアノブを握った。
何となく、昔住んでいた実家のドアに、まだ兄が家にいた頃のドアに手触りが似ている気がした。
「よし、じゃあ行こうか」
「うむ、いざ」
「……ねえ、セーヴちゃん、その」
何か言いたげなリズにセーヴが目を向ける。リズがダンジョンに入るのが不安なのだろうと考えたセーヴは──自分の心配をしているのなんて気づかないまま───元気づけるような言葉を探した。
「……行こう、リズ。大丈夫……ダンジョンには入った事ないけど魔物となら戦った事あるし、何かあればヨミチと私が助けるよ」
「……うん、そう、だね」
セーヴの答えに納得こそしていなかったが、時間が迫っていることもいり、リズは頷いた。
そして、リズはセーヴを守ろうと、いつもなら誰かが不安そうなら理由を聞いているが今は聞かなかった、心理的に余裕が無いであろうセーヴを自分が助けようと、そう決意した。
がちゃり、ドアの開く音が地下に響いた。
ドアの先にあるのは極彩色の幕のような空間のゆがみ、ここに飛び込んだらその先がダンジョンの中。
「ヨミチさん、何かあったらよろしくお願いします」
「ああリズ殿、しかと」
リズはヨミチに目配せをして、ヨミチもそれに頷いた。
何かあったらセーヴを助けて欲しいというリズの気持ちを、ヨミチはしっかりと受け取った。
そうして3人は、ダンジョンへと足を踏み入れた。