例えばこんなドリームジャーニー。

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はい、よーいスタート。


ドリームジャーニーの黄金RTA

 思うに、ハードボイルドなどというものは虚勢なのだ。

 大切なものを守るためだったり、途方もない夢を叶えるためだったり。そうした事を成す過程で、素直さを重荷と思ってしまう者の言い訳なのだ。

 もちろん、中にはそれを重荷と思わずに成し遂げられる者もいるのだろう。だけど、実際には残酷な現実に折れて捨ててしまう者が大半のはずだ。

 インクが白紙を染めるが如きその過程で、そうせざるを得なかった意味すら忘れ、屈折してしまう者もいるのだろう。

 それほど素直さというのは価値あるモノなのだ。それこそ、染まってしまった者から見れば殊更に。

 それを愛しいと思うべきか、懐かしいと思うべきか。

 だからこそ、なのか。

 見知らぬウマ娘に場所を譲り渡してくれたその優しさが。

 共通の話題があるだけで身の上を話してくれた素直さが。

 とても眩しくて暖かくて、『いい子だな』だなんて、思ってしまって―――。

 

 

***

 

 

 あれはただの偶然だった。

 だけど、その偶然が続くだなんて思っていなかった。

 彼の素直さと優しさはそのままで、あの日に感じた眩しさと温かさはそのままで。

 私の夢を叶えるには、彼は必須と言ってもいい人材だ。

 素直で、優しくて、誠実で。……旅の準備をさせるにはうってつけだ。

 是が非でも確保したい。

 状況を理解してからの根回しの算段は、今まで通り素早く組み立てることが出来た。

 このプランであれば彼ならば絶対に断らない。いや、断れない。

 

 

***

 

 

 予想外の遭遇に、コバエの駆除。

 いくらプランを練ったとしても想定外の事態は起こるものだ。

 だが、まさか彼に露見するとは思わなかった。しかもその彼が私にカマをかけてくるとは。

 とは言え、全て許容範囲内。この程度の誤差であれば軌道修正は容易い。

 そう、貴方は素直で、優しくて、誠実で。

 だからこそ貴方は断れない。私の張り巡らせたプランを断ることが出来ない。

 そして貴方は、私と鉄の契約を自ら交わすことになる。

 これで貴方は逃れられない。

 全て許容範囲内。多少のリスクを孕みはしたが、全ては当初の想定通り。

 なのに。

 何故、契約書を返した時に鼓動が激しくなったのか。

 何故、彼の言葉が心に重くのしかかってしまうのか。

 

 

***

 

 

 旅の準備は万端だった。

 ここからアネゴが執った航路を辿り、果てへと至る。

 アネゴのフォロワーとして、同じ志を持つ彼と一緒に。あの日感じた畏れと憧れの本質を確かめに。

 しかしながら、その彼の言葉は想定外だった。

 マスコミがアネゴの本質を理解していないのは私も同意見だった。

 だが、もっと私を見てほしかった、とは……想定外だった。

 いや、旅とは元来そういうモノなのだろう。百聞は一見に如かずとは正しくこれだ。

 オープンレースでのパドックも、ゴールを駆け抜けた後に感じた風も、私の想像以上だったのだから。

 結局、彼の言葉に乗ることにした。

 この旅路が良いものになることを確信したからだ。

 

 

***

 

 

 二度目の新年。私達の旅路はまだ続いている。

 クラシックでは数多の嵐に打ち勝ちも、阻まれもした。

 想定外の事態も多々あった。例えば、私の心境の変化も、このお茶の味も。

 もっとも、オルの質問は想定内だった。オルならば恐らくはそうしてくれるだろうと。

 だけど、それに対する彼の返答は……、どちらなのだろうか。

 想定内でもあり、想定外でもあり……。

 ただ、彼の言葉は心強くて嬉しかった。

 だから、その後に私の口が滑ってしまうのも仕方ないのだ。

 

 

***

 

 

 私を理解しようとする彼の姿勢が好ましい。

 素直で、優しくて、誠実で、勤勉で、努力家で……。

 あの日のまま変わらない、いつもの彼なのだが、最近は特に顕著だ。

 だから、きちんと想いを込めてチョコレートを渡してもいいだろう。

 もっとも、貴方はそれに―――それらに気づかない。

 だから『一緒に食べよう』だなんて言えるのだ。

 とは言え、それも想定内。

 それは、とてもとても甘いチョコレート。私には不向きな、優しい貴方にぴったりの甘いチョコレート。

 なのに、それを私が飲む苦いエスプレッソとあわせてみようだなんて。当然、無意識の言葉なのだろうが。

 ―――本当に、貴方はかわいい人ですね。

 

 

***

 

 

 我ながら随分と心境が変化したものだと実感する。

 そこに『旅って、そういうものじゃないか?』などと発言する彼。

 確かにその通りだろう。

 今まで私は旅路の嵐とアネゴの航路を意識していた。

 だが、旅の景色、出会った人々、実感を伴う経験……。

 様々なものが影響し、積み重なったものが旅路の足跡。

 それを作ったのが私というのなら、一番影響したモノは彼は何だと思っているのだろう。

 その癖、ここぞという時には私の心境を見透かしてくる。『満足していないように、見える』だなんて。

 やはり、貴方は素晴らしい。貴方は変わらず、あの日のまま―――。

 

 

***

 

 

 まったく。

 前言撤回をしなくてはならない。

 あえて言うなら、後ろめたさになるのだろうか。そう感じていたからこそ―――。

 貴方は変わらずにそのままでいて欲しいからこそ、コバエがたからないようにしていたのに。

 私の匂いが染み付かないように、大事にしていたのに。

 なのに『分からせてやろう、君の実力』などと。全く貴方らしくない、穏やかではない物言い。

 

 「誰に影響を受けたのやら―――」

 

 苦笑しながら踵を返した。貴方には、そう見せた。

 苦笑のそれではない上がる口角を、貴方から隠したかったら。

 

 

***

 

 

 そこには私の全てがあった。私が愛する全てがあった。

 用意したのは彼だ。

 そんな事をされたら、忘れてしまう。白紙をインクで染めたことを。

 (香り)を身にまとい、気を引き締める。なのに彼はその(香り)ですら『ああ、好きだな』だなんて。

 彼に眼を瞑り手を出すように伝えて、反応を凝視する。勘違いではないことを確認するために。

 そこには私の望むものがあった。揺るがない絶対の信頼があった。

 これ以上の我慢はできなかった。

 

 「……いい子だ」

 

 私の香りを貴方に移す。

 これで、貴方は―――。

 

 

***

 

 

 今日で私の旅は区切りを迎える。

 だが、終わりではない。ここからが本当の旅と言っても良い。

 私は彼を―――。いや、彼はどうするのか。

 確信はないが、予感がある。その予感は何よりも信じられる。

 しかし、やはり私は私だ。

 

 「―――貴方はどうしますか?」

 「どこまでもついていくよ」

 

 ああ、やっぱり。

 今ここに、決して破棄できない、誰にも侵せない契約が成った。

 他でもない彼自身が、自ら望んで。

 

 

***

 

 

 レース場に割れんばかりの歓声が響いている。

 その全てが私の名を呼んでいる。

 

 「……夢のような景色だ」

 「ええ。……本当に。皆さんの夢が……とても眩しく……愛おしく感じる……」

 

 アネゴ。

 これが黄金なのですね。

 この勝利と歓声だけではない。今まで見てきた全ての変化が、一筋の黄金なのですね。

 そう、彼と共に歩んできたこの旅路こそが―――。

 

 「君も眩しいよ」

 「貴方のそういうところだけは、変わらない―――」

 

 まったく。

 素直で単純というのも困りモノかも知れない。

 でも。

 そんな貴方だからこそ、私は貴方と共にこの旅路を歩むことが出来た。

 そんな貴方だからこそ、私は貴方を愛おしく感じる。

 

 「そうでもないさ」

 「……と、言いますと?」

 「ジャーニーってさ、かわいい所あるよね」

 「なっ―――」

 

 突然何を!?

 

 「これからは問われる前に伝えていくつもりだよ」

 「―――」

 

 ……なるほど。

 気づく程度には分析力をあげたと言いたいようだ。

 確かに、私を理解しようとするその姿勢は好ましいと思っていた。

 ですが、そういう所は別に気づかなくてもいいんですよ。

 

 「……ナマイキな子だ」

 

 まったく。

 誰に影響を受けたのやら―――。




完走した感想ですが……多少のガバはありましたが、多分これが一番早いと思います。

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