Vtuberの俺たちは他人同士になったけど、兄妹設定はやめられない。元義妹が今もお兄ちゃんと呼んでくれる件。   作:羽黒楓

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第47話 ちゃぷちゃぷー

 

 次の休日。

 武士郎たちは、水族館にきていた。

 この地方で一番大きい水族館で、絶好のデートスポットでもある。

 

「水族館って、思ったより体力使うよな……」

 

 武士郎が言うと、舞亜瑠(まある)が頷いて、

 

「ほんとほんと。ここは広いから、夢中でお魚さん見てるうちとさ、知らないうちにめっちゃ歩き回ることになるから、気が付いたら足が痛くなってるよね。あ、ほら、すごーい! クラゲ、綺麗だねー!」

 

 その言葉通り、ライトアップされた水槽の中で、たくさんのクラゲたちが光に照らされて水中を自由に浮遊している。

 幽玄さを感じさせる光景だった。

 しばらくクラゲたちの遊泳を眺める。

 ふと横を見ると、遅れてやってきた小南江(さなえ)と星子も水槽の前で立ち止まった。

 

 二人、手をつないでいる。

 小南江(さなえ)は黒のカットソーにベージュのパンツ、星子はボーイッシュなアメカジにキャップをかぶっている。

 

 星子の方がだいぶ背が高いし、見た目は男女のカップルに見えなくもないけど、ええと、この二人、攻めるのは小南江(さなえ)の方なんだよなー。

 話しかけようと思ったところに、舞亜瑠(まある)が武士郎の袖を軽く引いた。

 人差し指を唇にあてて、「しー」といたずらっぽく笑う。

 そしてちょいちょいと小南江(さなえ)たちを指さした。

 武士郎たちが小南江(さなえ)たちを後ろから見ているような位置関係。

 小南江(さなえ)と星子は無言でクラゲたちのダンスを眺め……。

 いや、でもつないでいる手をぎゅっぎゅっと握りあったり、指を絡めたり、離したと思ったらまた握りあう。

 無言で会話しているかのようにも思えた。

 女の子同士でこんなコミュニケーションを取っているのを見ると、こっちがなんだか恥ずかしくなってしまう。

 

 と。

 

 突然、小南江(さなえ)が叫んだ。

 

「決めた!」

「ん? なにを?」

 

 星子が聞くと、小南江(さなえ)は星子のすらりとした身体にガバッと抱き着く。

 

「いいよ、ポチ、私を抱いてよ! 星子にあげるよ、私の……」

 

 そして星子の顔をまっすぐ見つめると、周りにも聞こえるくらいの大声で、

 

「バージン!」

 

 と叫んだ。

 隣にいた家族連れがびくっとした。凍り付いた表情で小南江(さなえ)を見る夫婦、五歳くらいの男の子はなんだかわからない様子で小南江たちを見ている、腕を組んで歩いていたカップルにも聞こえたみたいで、女性の方がぎょっとした顔で抱き合っている小南江(さなえ)たちを見ていた。

 もちろん驚いたのは武士郎たちも一緒だった。

 

「……こんなとこでなにを大声で叫んでいるんだ、こいつ……」

 

 と、そこに小南江(さなえ)が満面の笑みで武士郎と舞亜瑠(まある)の方を振り向いて言った。

 

「こないだ、先輩、言ってくれたじゃないすか、言葉にしなきゃわかんないことがいっぱいあるって。その通りだと思うんすけど、だからずっと私たち話し合ってみたんすよ。で、思ったんす。言葉じゃないと伝わらない思いもたくさんあるけど、スキンシップじゃないと伝わらない思いもあるなーって。いや、違うすね、これも言葉なんすよ。先輩の言う通り、やっぱり話し合わないとわかんない。で、こうやって――」

 

 ほっぺたを星子の身体にすりすりして小南江(さなえ)は言う、

 

「身体を触れ合って体温を感じあうのも言葉だなーって。これもコミュニケーションだなって思うんすよ。だから。もっと。ポチと話し合おうって思ったんす、身体で」

 

 小南江(さなえ)はぎゅうぎゅうと星子に抱き着きながらそう言った。

 言われてる星子の方は顔を真っ赤にしていて、言葉もでないらしい。よほど突然のバージンあげる宣言に戸惑っているのだろう。

 そうか、スキンシップね。

 たしかに、お互いの体温を感じあわないとわからないこともあるのかもしれないな。

 

「まあ、お前がそういう結論に達したなら俺はなにも言わんけどさー」

 

 と、そこに舞亜瑠(まある)も武士郎に抱き着いてきた。

 

「なんだよ突然」

「えへへ、お兄ちゃん、私もお兄ちゃんと語り合いたいな、身体で。……あげよっか、お兄ちゃん、私の……その……」

 

「ばーか、それを守るのがお兄ちゃんとしての俺の務めだぞ、なにいってんだ目を醒ませ」

「あはは、目は醒まさないよ、ほらサッカー部の寮でさー、私を助けてくれたとき、夢かと思った。あの時の気持ちはまだ続いてるんだよ、まだ私は夢の中にいるの」

 

「なに言ってんだか」

 

 これから妹、じゃない元義妹との関係もじっくりと変わっていくのかもしれない、と武士郎は思った。

 自分に抱き着いている舞亜瑠(まある)の笑顔を見て武士郎は、

 

「夢はネット上だけでいいよ、Vtuberの活動の時だけは夢の存在でいてもいいけど」

 

 舞亜瑠(まある)はそれを言われてなにかを思い出したように、

 

「そうそう、副会長、よく私たちがVtuberやってるの、わかりましたね? あのコメント、副会長だったんですよね?」

 

 ところが星子はポカンとした顔をして、

 

「ん? なにそれ、私知らない」

「ええ~!?」

 

「え、なに、君たちVtuberやってたの?」

「まじですか、あれ副会長じゃないんだ……」

 

「私は知らないよ」

 

 ストーカーは星子だったけど、あのコメントの主は星子ではなかったらしい。

 ということは……。

 武士郎がVtuberをやっていることを知っている人間がほかにいる?

 舞亜瑠(まある)と一緒に顔を見合わせる。

 またなにか、事件が起こる予感がした。

 

     ★

 

「はい、それではATMを操作してお金をふりこんでください」

 

 彼は誰かも知らない高齢者と電話をしていた。

 いわゆるオレオレ詐欺、特殊詐欺と呼ばれる犯罪のかけ子、つまり電話で高齢者を騙す仕事をしているのだ。

 

「二百万円振り込めば示談が成立してお孫さんは逮捕されずにすみますので。そうです、口座番号は……」

 

 彼には野望があった。

 今は下っ端のかけ子だが、いつかは自分で組織を編成して特殊詐欺グループのトップとなり、金を儲けまくってやる。

 今日はすでに三人の高齢者を騙した。

 人を騙す才能ってものが自分にはあるようだった。

 休憩時間、自分のスマホでVtuberの配信を眺めながら、彼は呟いた。

 

「いつか殺してやるぞお前ら……」

 

 そしてスマホで配信に書き込みをする。

『ちゃぷちゃぷー』

 彼――宗助は、にやりと暗い笑みを浮かべた。

 

 

――第一部完――

 

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