Vtuberの俺たちは他人同士になったけど、兄妹設定はやめられない。元義妹が今もお兄ちゃんと呼んでくれる件。   作:羽黒楓

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第49話 おまけSS②

 武士郎の部屋。

 そこにはローテーブルが置いてあり、配信用のパソコンモニターがある。

 舞亜瑠(まある)小南江(さなえ)が並んで座り、武士郎と星子はそれを隣から見ていた。

 

 今日も舞亜瑠はふわふわ天然パーマをツインテールにまとめている。

 オーバーサイズのパーカーを着て、リラックスした雰囲気。ニコニコとパソコンを操作している。

 

 小南江(さなえ)はいつもの黒髪サラサラショートカット。

 クロップド丈と言われるらしい、裾の短いタイプのトップスに、カーゴパンツをあわせている。

 

 舞亜瑠もなんだけど、小南江(さなえ)は顔がちっちぇえなあ、と武士郎は思った。

 ボリュームのある髪型の舞亜瑠とは違って、ショートカットの小南江(さなえ)はよりいっそう小顔に見える。

 まさに美少女コンビだな、と思った。

 

 ちなみに星子はデニム生地のミニスカートにスタジャンをあわせたファッション。中に着ているシャツにはネクタイをして、スクールガール風だ。ま、実際女子高生だけど。

 さらに言うと武士郎は着古した普通のジャージだった。

 ……ここは俺の家で、俺の部屋なんだから普段の部屋着で文句をいわれる筋合いはないぞ、と武士郎は思うのであった。

 

 さて画面の中には二人の美少女アバターが並んでいる。

 一人はもちろん、舞亜瑠(まある)が演じるピンク髪の女の子、水面(みなも)みずほ。

 そしてもうひとりは、紫髪の女の子だ。

 この子が、小南江(さなえ)のアバターとなる。

 ちなみに値段は一万円ちょうど。

 安いのにはワケがあって、量産品なのだ。同じアバターを使っている人は他に少なくとも十人はいる。

 

「まあ、そうは言っても中身で勝負すから!」

 

 小南江(さなえ)は自信満々だ。

 

「でも小南江(さなえ)ちゃん、ほんとにその名前でいいの……?」

 

 

 

 舞亜瑠(まある)が不安そうに聞く。

 

「え、なにが?」

「だって、センスがなんか……ちょっと」

「3日もかけてポチと相談して、かっこいい名前考えたんだよ! 絶対人気出るって!」

 

 星子もうんうん、と頷いている。

 そうかなあ、と武士郎も疑問に思うが、まあ女子高生のセンスに文句をつけると死刑というのが日本の法律なので黙っておく。

 

「……まあいいか、駄目だったら転生すればいいし……」

 

 武士郎はそう呟いて、

 

「じゃ、スタートするぞ」

 

 と言ってマウスのボタンをクリックした。

 

 いつも通り、舞亜瑠(まある)が元気な声で挨拶する。

 

「ちゃぷちゃぷー! みんな、元気にしてたー?」

 

〈ちゃぷちゃぷ〉

〈ちゃぷちゃぷー!〉

〈きょうもみずほちゃんはかわいいなあ〉

〈今日はコラボだって?〉

 

「そーでーす! 私のお友達がVtuberデビューすることになりましたー!」

 

〈おおおおお〉

〈楽しみ!〉

 

「さあ登場してもらいましょう! どうぞー!」

 

 そして颯爽と画面に映し出される紫髪少女。

 

 小南江(さなえ)は第一声を、

 

「……………………」

 

 あげなかった。

 

「あれ、どうしたの、ほら、挨拶挨拶」

 

 舞亜瑠(まある)が促すが、その隣の小南江(さなえ)は身体を硬直させて石像みたいになってる。

 

「あのー、もしもし? ……もしかして、緊張しちゃってる?」

 

 コクンコクンと頷く小南江(さなえ)

 こいつ、カメラの前ではあんなに生き生きと踊っていたくせに、リアルタイム配信になるとめちゃくちゃ緊張するタイプじゃねえか。

 武士郎はむしろおもしろくなってきたと思って、ニヤニヤと黙って見ている。

 

「もー! ほらほら、しゃべってしゃべって!」

 

「……りゅ……ん……え……です」

「え、なに、聞こえない」

「……りゅー、ん……えなです」

「きっこえなーい! ほら、もっと大きな声で!」

 

 小南江(さなえ)の顔は真っ赤になってる。

 フェラーリなみの赤さだ。

 身体も顔もガチコチに強張らせたまま、やっと小南江(さなえ)が喋り始めた。

 

「臥竜院!! エナエナ!! です!!」

 

 知っていた武士郎もぶほっと吹き出してしまった。

 なにをどうするとそういう名前になるんだよ。

 

「はい、エナエナちゃんでーす! ええと、年はいくつ?」

 

「十……六……」

 

「ちがうでしょー! リアルの年齢言ってどうすんの! 7歳って設定で行くってあんなにはりきってたのに!」

 

 星子まで吹き出してしまっている。

 

「え、ど、どうしよ、マル……」

 

 肩でぐいっと小南江(さなえ)の肩を押す舞亜瑠(まある)

 

「あっぶなー!!!! この人、今私のリアルネーム言いそうになってたよ! やばい」

「あ、ごめ、あ、う、あ」

 

 いやこれ配信として成り立ってるのか?

 でもおもしろいからこのまま続けさせよう。

 

〈けっこうかわいい〉

〈緊張してる女の子かわいい〉

〈初回ならではのこの不慣れ感。いい〉

〈がんばれー〉

 

 コメント欄はわりと好評だしな。

 

     ★

 

「もーいやっす。あんなに緊張するとは思ってなかったす。やっぱり私には向いてなかったす」

 

 小南江(さなえ)はクメタコーヒーの特大ミックスサンドにぱくつきながら言う。

 

「いやいや案外よかったぞ? 今度俺の配信にも出てみるか?」

「やめておくっす。私はTAKTOK一本で行きます!」

 

 そんなわけで、小南江(さなえ)の配信はあれが最初で最後になったのであった。

 一万円ですんでよかったなあ、と武士郎はしみじみ思うのであった。

 

「一万円あったらホテルに行けたのに……」

 

 星子がぽつりと漏らした。

 

「高校生でホテルはやめておきなさい。で、お兄ちゃん」

「なんだよ」

「私たちもそろそろ、ホテル、行く? くふふ。ね、山本セーンパイ」

 

 馬鹿なことを言っている元義妹にため息をつく武士郎。

 こいつ、いつまで義妹と彼女の一人二役やるつもりなんだろうな。

 外を眺めると、街路樹の葉っぱが黄色くなっているのが見えた。

 ああ、もうじき秋だなあ。

 いつまでもこんな時間が続けばいいのに、と武士郎は思うのであった。

 

 




お読みいただきありがとうございます!


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