幸せに満ちたキヴォトスを作り上げた転生先生と、取り零された1人の罪人   作:ムクロウ

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そういえばここのキヴォトスにおけるヘイローの見え方は原作と同じです。
…矛盾があるって?それはまた追々…


罪の始まり/懲罰の天使

 

ネオンの看板に身を隠す。

 

「…異常なし」

 

気配が立ち去った後に目視でも確認し、

いなくなったことを確認する。

 

「…ここもダメか」

 

ガスマスク共の巡回をやり過ごした後、

手早くその場を離脱する。

 

あの一件以降こういった俺狙いと思われる兵隊が

ブラックマーケット中で見られるようになった。

しかも軒並み高校生くらいの身長で、

装備もガチガチに固めている。

ぶっちゃけた話勝てる勝てない以前に

関わりたくもない。

 

「アイツらは逃げ切れたらしいが…

 そっちはそっちで面倒事になってる」

 

何しろ俺という人間はトリニティにおいて

所属しているだけでアドバンテージになる存在だ。

無所属で放っておくわけがないだろう。

 

「…政治の道具はゴメンだね」

 

つまりは頼みの綱なんてもんは最初からない。

初めから孤立してる俺は、

独りでどうにかするしかないのだ。

 

「さて…」

 

神秘をリロードする。

今回は爆発ではなく純粋な神秘属性。

純粋な攻撃力では劣る、が

 

「舞踏会といこうか」

 

トリガー

緑色の残光はガスマスクの少女に命中し

 

「グッ!?何が…ア゛ァ゛ッ!?」

 

その瞬間ソイツは頭を抱えてのたうち回る。

俺の神秘の弾丸を受けたやつには

脳髄を掻き回されるような激痛が与えられる。

 

「敵襲!奴だ!」

 

「撤収撤収っと」

 

騒ぎ始めたのを確認してから、

足元のマンホールに飛び込み蓋を閉める。

やはり下水道はステルスにおいて最強だと思う。

俺の実家とさえ言える。

現実の実家ともそっくりだ。

特に薄汚くて掃き溜めみたいなところが。

 

「っとそろそろ通るな」

 

地上に向けて銃口を向ける。

 

「踊れ」

 

トリガー

弾丸はマンホールの蓋を()()()()()進み

 

「ギャァッ!?」

 

マンホール上を通った1人に激痛を配達する。

 

「何!?」

 

「どこからだ!?」

 

どこからだろうね〜

さて、ちょっかいは終わりにしておこう。

こうしておけばしばらくはアイツらは動かない。

ここらに敵も集合するだろう。

そうすれば逆説的に他は安全だ。

さっさと帰らせてもらおう。

 

「…チッ」

 

気分悪い。気持ち悪い。反吐が出る。

アイツらに打ち込んだ銃弾()が伝えてくる。

アイツらの恐怖を、痛みを、虚しさを

 

これだから神秘属性は使いたくない。

こっちに相手の情緒を流し込んできやがるせいで

使い勝手か悪いことこの上ない。

 

「ハァ…吐き気がする」

 

込み上げる嫌悪を下水道の匂いのせいにして、

家に向かう道を辿って行った。

 

 

………………

 

 

「ただいま」

 

「…」

 

弱ってんなぁ…

まぁ最近は物騒過ぎて稼げてないし、

その影響で酒もタバコもやれやしない。

唯一の当たり先の俺も神秘の影響で

常時神経が逆立ってる状態で手出し出来ない。

これで元気になれってほうが難しいか。

 

母親(クズ)は虚な目でボーッとしている。

何をするでもなく、何がしたいでもない。

酒で誤魔化してただけで、

多分結構前からこんな状態だったんだろう。

 

「…」

 

きっともうコイツを養う意味なんてない。

その辺に捨て置けば

そう時間も掛からずに朽ち果てるだろう。

それでも…

 

…それでも俺は捨てられなかった。

 愛されたかったという感情を

 その残骸であろうとも、捨てられない

 何故ならそれが、俺の原点だから

 

さて、んなことよりそろそろ金が尽きる。

というかその前に食料がもう無い。

そろそろ調達しなきゃマズイが、

アイツらがそこら中にいるせいで

まともに動くこともままならない。

 

「…やるしかないか」

 

それでもまぁ空腹に勝てるわけもなく。

結局俺は補給の為に再び外へと向かった。

 

「………」

 

その背中を母親(アイツ)が見つめていたことには

この時の俺は気づくことも無かった。

 

 

………………

 

 

「…んで、結局見つかるっていうな」

 

下水道内を疾走しつつ愚痴る

頑張って隠密してはいたのだが、

結局数には勝てずに見つかってしまった。

その部隊は全員頭痛送りにしてやったが、

増援の気配があった為マンホールに逃げた。

が、蓋を閉める時間が無かった為、

とうとう俺のやり方がバレてしまっただろう。

そろそろ出ないとマズそうだ。

 

「まぁどうせ待ち伏せされてるだろうし…」

 

どうせなら思いっきり出てやろう。

少し体を縮めて

 

「シャァッ!」

 

思いっきり地上に向けて跳ね、

マンホールの蓋を蹴り飛ばして出る。

 

「なっ!?」

 

人数は…13人か、なら

 

全弾掃射(フルショット)

装填された5発の実弾を使い切り

一部を気絶させて包囲を破壊し駆け抜ける。

 

神秘のみの弾よりも神秘を纏わせた実弾のほうが

威力は当然高くなる。

それ以上に神秘弾の無限連射が魅力的なだけで。

 

「逃すか!」

 

「ッ!」

 

リロードする暇もなく、

残った8人からの一斉掃射を受ける。

それを運良く側にあった車両を盾にして受けつつ、

再び逃走経路を探し…

 

「っクソが!」

 

その途中で増援がやってきた。

人数は不明、少なくとも30は超えている。

これは…詰んだか?

 

「いやまだどうにかなるか…?」

 

少し顔を出して偵察する。

司令塔らしき人物の元に

ワラワラと部隊が集まっていく。

マンホールの方にも部隊が配置され、

ここら一体は完全に包囲されたらしい。

 

「…まぁ、足掻くだけ足掻こうじゃねぇか!」

 

諦めるなんざ俺らしくもねぇしな!

 

司令塔らしき人物まで走り出す。

距離は約300m、周囲の兵士は50を超えてる。

あれに弾丸を撃ち込んでも

複数の強力な神秘が重なってるせいで

簡単に弾かれてしまう。

アイツら肉体は脆いくせに

神秘だけは無駄に高いからな。

 

「撃て」

 

「ッ!ガァァァッ!?」

 

体中に弾丸が刺さる。

まるでシュレッダーにかけられた紙のように

全方位から粉々にされそうになる。

それでも…

 

「それ、でも…!」

 

「っ!?」

 

一歩、前に!

 

「ギィッ!?…ッガァッ!」

 

「ヒッ…ブッ!?」

 

左腕が折れた瞬間に隊列の先頭に辿り着き、

ソイツの顔面を掴んで壁に叩きつける。

 

「コイツッ…!?」

 

「このっ…止まれ!?」

 

そのまま足を振り上げ

 

「ッァ゛ア゛!」

 

「ェグッ!?」

 

もう1人の脳天に踵をぶち込み、

地面に顔面から突っ込ませる。

 

痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!

 

「痛ぇんだよクソッタレがぁあぁぁあぁ!」

 

「ッ…!?」

 

常に掃射を受け続けながら攻撃を続ける。

 

ラリアットで1人撃破

 

左回し蹴りで3人巻き込み

 

左脚骨折

 

「ガッ!?」

 

「終わr」

 

「ッヴォォオッ!!」

 

アイアンクローからの地面叩きつけで1人撃破

 

「はぁっ!?コイツ何なんd」

 

飛び膝蹴りで1人吹き飛ばし4人撃破

 

額出血

 

「攻撃を緩めるな!コイツはヤb」

 

肘打ちで2人撃破

 

足払いからのアッパーで1人撃破

 

右脚骨折

 

「これで動けないだr」

 

「グルァッ!!」

 

右手を地面に叩きつけて跳躍

 

右手で脳天を掴んだ1人を支点に回転して6人撃破

 

「化けもn」

 

支点をそのまま埋めて1人撃破

 

右腕骨折

 

「ガハッ…!?」

 

着地が出来ずに地面に伏せる

 

「ハァ…ハァ…」

 

「よ、ようやく止まったか…」

 

「な、なんて奴…」

 

クソッ!クソクソクソクソクソクソクソッ!

まだやれんだよ!動けよ体!まだ…

 

心臓が鼓動する

 

「俺はアイツにまた会うまでは…」

 

「っこれは…」

 

流した血から銀色の粒子が舞う。

 

「止まるわけにはいかねぇんだよ!」

 

銀色の粒子が収束し、ワイヤーを形成する。

 

「何っ!?」

 

周囲を薙ぎ払い、5人撃破

 

「っ総員!さっさとアイツを撃て!」

 

ワイヤーで肉体を()()

地面と水平にかっ飛び

1人の顔面を掴み壁に叩きつけてブレーキ

1人撃破

 

「ハッ!?」

 

「次はテメェだ…」

 

ワイヤーが司令塔に巻き付く

 

「くたばりやがれぇぇぇぇっ!!」

 

「ウワァッ!?ギュピッ!?…ブェッ!?」

 

そのままぶん回し、

建物に叩きつけた後地面に落下させた。

1人撃破

 

「ゼェ…ゼェ…」

 

「ッ…!」

 

激痛を感じながらゆっくりと立ち上がると

怯えた様子で残りの部隊が後退りする。

 

「ゼェ…さぁ…ゼェ…次は…ゼェ…どいつだぁ!」

 

「ヒッ…て、撤退!撤退しろ!」

 

部隊が離れていく。

その最後の1人が視界から消えた後、

ゆっくりと体が傾ぎ、倒れる。

 

「ゼェ…ゼェ…ゴッホゴッホ!グゥ…」

 

ボロボロにも程がある。

傷がないところを探す方が難しいくらいだ。

痣と出血の痛みだけで意識が掻き消えそうになる。

骨折の痛みで意識を叩き起こしつつ

よく分からないそれに触れる。

 

「ただのワイヤー…なわけねぇよな」

 

皆が血液からワイヤーを錬成してるなら

これはただのワイヤーだが、んな馬鹿な話は無い。

 

「神秘…か?」

 

いや

 

()()

 

コイツは空虚だ。

俺の神秘とは全くの別物。

そう考えた方が自然だろう。

何故なら俺の神秘はコイツに()()()()

なんとなくだが、コイツは吸った神秘に応じて

性質を変化させてる気がする。

つまり…

 

「コイツは…()()()か?」

 

正確に言えば体の一部に近い。

髪の毛や爪…いや、それよりもむしろ()に近い。

 

「いつまでも生えてこねぇと思ったら…

 何勝手に姿を変えてんだよお前…」

 

少し笑ってしまう。

これまで悪い知らせしかなかったせいか、

こんな些細なものだけど、

初めて良い知らせは救われた気分になれた。

 

「…よしっ、帰るか!」

 

体はかつてない程にボロボロだが、

心は今までにない程に軽やかだ。

体をワイヤーで補強しつつ、家に向かう。

 

部隊は今は()()()撤退している。

 

…おかしいと思うべきだったんだ。

 軍隊が被害を受けた程度で引いたことを。

 まぁ、そんなこと関係無しに…

 

「ただいま」

 

…俺の物語はここで一度終わるんだがな

 

「…ぇ」

 

目に

 

入ったのは

 

天井から吊り下がったロープと

 

それにぶら下がる人影で

 

落ちた紙に書かれた文字は

 

 

ごめんなさい

 

 

「………」

 

分かっては、いた

この生活は長くは続かないと

いつかどこかで()()が来ると

ただ、それでも

どんな形で()()を迎えるかは分からなかった

こんな…こんな形で…

 

「………なんで」

 

ぶら下がったソイツは、

妙に綺麗な顔をしていて

 

「…なんで」

 

それが、どうしようもなく、辛かった

 

「なんで置いていくんだよ、俺を」

 

愛されたいと願うのは、

そんなにも間違っているのだろうか

 

少しの幸せを享受したいと思うのは

そんなにも罪深いことだろうか

 

ほんの些細な幸福に笑みを浮かべることは

そんなにも許されないことだろうか

 

頭上から何かに罅が入る音がする。

 

あぁ、なるほど

 

つまり世界は

 

 

俺に不幸を望んでいるのか

 

 

次の瞬間、視界の全てが爆発に包まれた。

 

 

…………………

 

 

「…直撃しました」

 

「そうですか」

 

ミサイルの着弾を確認した生徒が私に報告する。

 

あの忌々しいガキも流石に効いただろう。

不気味な子供

どれだけズタボロにされようと

何度叩き伏せようとも起き上がり、

その度に飛躍的に強くなる異端の中の異端

 

本来なら放置しておくところだったが、

その在り方は危険だ。

全ては虚しいと知らしめたはずのアリウス兵が

希望を見出しかねない。

私の積み上げたものを、

たった1人の子供が破壊する?

ふざけるな

だからこうして確実に仕留められる方法を取った。

まぁ多少の()()()()()()はありましたが

 

「あの化け物もようやく死にましたか」

 

これでやっと計画が進められる

とはいえ当初の実行場所である

ブラックマーケットは騒ぎを起こし過ぎたので、

どこか別の…

 

起動承認(アクセプト)

 

「っ!?!?!?」

 

気づけばそこにいた。

あの子供だ。

ミサイルの直撃を受けて無傷だと!?

それどころか先程の戦闘の傷さえ治っている。

この化け物め…!

 

「お前!何故ここにいる!」

 

全知(プロビデンス)

 

答えない?聞こえていないのか?

プロビデンス?訳の分からないことを

まぁいい

 

「総員!コイツを叩き出せ!」

 

「は、はい!」

 

銃口が向けられる。

あの子供の耐久力は低い。

ワイヤーらしき攻撃も予備動作が大きい。

油断せずに囲んでしまえばそれで終わりだ。

 

審判(ロック)

 

…そういえばこの子供

 

懲罰(パニシュメント)

 

こんなに(くす)んだ髪色だっただろうか?

 

執行(エグゼキュート)

 

翠眼(エメラルド)の奥で薄紅(ロゼ)が瞬く

肉体に銀色の粒子が舞い始める

その右手が黄金の光を宿した瞬間

 

「…は?」

 

その子供が掻き消え

 

「…ぁ」

 

囲んでいたアリウス兵の上半身が()()した。

 

「ヒッ…ヒィッ!?」

 

血の雨が降る中、

いつの間にか後ろにいた子供から距離を取ろうと

足が後退する。

 

稼働承認(アクセプト)

 

「ま、待て!」

 

全知(プロビデンス)

 

意思がないのか!?マズイ…!

 

審判(ロック)

 

このままでは

 

懲罰(パニシュメント)

 

 

執行(エグゼキュート)

 

 

………………

 

 

「…失敗(エラー)対象消失(ロスト)

 

髪色が純白に、翠眼(エメラルド)から薄紅(ロゼ)は消え、

銀色の粒子も鳴りを潜める。

 

稼働停止(リジェクト)休眠状態(シャットダウン)

 

少し目が閉じられ、開かれる。

 

「…………は?」

 

意味が分からない

俺はさっき絶望してたはずだ

それが、なんで

 

「血塗れになって…?」

 

下を見れば、何かの死体が…

 

「ッ…オ゛ェ゛…」

 

思わず吐瀉物をぶち撒ける。

死体は全て下半身だけで、

上半身は吹き飛んでいる。

そして手に残る感触は教えてくる。

 

「これ…を…俺が…?」

 

嘘だ

 

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だなんでこんな目に嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ俺が何をした嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ呪われてる嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だふざけるな嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ苦しい嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だハルナ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ夢であってくれ嘘だ嘘だ嘘だ助けて嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ辛い嘘だ嘘だ嘘だ許して嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ人殺し嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 

こめかみに銃口を当てる

 

トリガー

 

トリガー

トリガー

トリガー

トリガー

 

頭に衝撃が奔る

 

「…落ち着いた」

 

頭から血が垂れているし手は震えっぱなしだが

んなことはどうでもいい。

問題はこれからどうするかだ。

殺人罪なんざしたやつはいない。

だが間違いなく終身刑になるだろう。

それは困る。

もはや穢れ切った身の俺ではあるが

それでもまだ俺は

どうしようもなく幸せを求めている。

ならば身を隠す必要があるだろう。

 

「…どうするかな」

 

あぁクソが!

さっきまでのアレで

とっくに心はボロボロなんだよ!

立て続けにこんなことさせやがって…!

あ゛ぁ゛イ゛ラ゛イ゛ラ゛す゛る゛

 

「クソッタレが!」

 

右手を薙ぎ払えばワイヤーが飛び出し

建物の外壁を輪切りにする。

 

ちょっち威力高くなーい?

 

「やっちまった…」

 

思わず頭を抱える。

早速目立ってしまった。

どうすんだよ。まだ何も対策してないぞ。

 

「ハァ…まぁいい、とりあえず出よう」

 

下をなるべく見ないようにしながら

建物から外に出る。

 

もう一度見てしまったら、

今度こそ俺は動けなくなる。

 

「…悪い。弔いは出世払いで頼む」

 

お前達に俺を襲わせた奴を、

俺は絶対に許さないから

そして何より、俺は俺を許さないから

 

「どうか、安らかに」

 

そうして俺は神に祈る

こんな目にあったのだから、

きっと俺は神を恨むべきだろう。

だが、そんなどうでもいいことよりも、

俺が殺した人達が、どうか安寧を得られますように

 

…これが、俺の信仰の始まりだ。

 どうしようもなく血生臭くて、

 途方もないくらいに穢れきってる

 だから、俺は聖職者に敬意を払おう

 清らかなその身に、幸せな明日がありますように

 

「ヒュゥ♪派手にやったね〜」

 

「…誰だ?」

 

背後の気配が声を掛けてきたので

振り向かずに答える

 

「ありゃ、驚かないの?」

 

「そこは射程範囲内だ」

 

そいつの周囲一帯は

既にワイヤー網を張ってある。

俺の一部だけあって、何をするも思うがままだ。

 

「ひゃ〜…大丈夫だって、

 アレ見て危害を加えようとする馬鹿は

 ブラックマーケットには居ないから」

 

「それはそうだがな」

 

ブラックマーケットのルールはただ一つ

生き残ることこそ全て

つまり殺人犯なんざ誰も関わりたがらない

だから、怪しい

 

「じゃあなんで関わった?

 つーかテメェは何者だよ」

 

「口調が崩れてるよ。

 イラついてるのかい?」

 

「あ゛?」

 

「ごめんごめん。じゃあ本題に入ろう」

 

コイツからは悪意が感じられない。

殺意も敵意も、害意すら無い。

その代わりに善意があるが、どこか薄ら寒い。

 

「僕は『夜鷹』、君を勧誘しに来たのさ」

 

ーなるほど。全部繋がった。

 

「ようは取引か。

 お前は客を引き寄せる俺という存在が欲しい。

 俺は何かの庇護下に避難する必要がある。

 win-winってやつだ」

 

「話が早くて助かるよ」

 

コイツの庇護はまず間違いなく安全だ。

ブラックマーケットの中でも指折りの規模に

圧倒的な支援者の数

まず間違いなく俺が受けられる中で

最大の支援を受けることが出来るだろう。

まぁ、その代償は本来なら高くつくが、

今の俺にとってそれはデメリット足り得ない。

 

「それで?受けてくれるかい?」

 

「…受けるしかないからな」

 

ここからはゴミのような世界だ。

それでも俺はそちらに進む。

もう、後戻りなんて出来ないから。

 

そうして俺は歓楽街の奥深く、

高貴な雰囲気の店へと連れて来られた。

 

「ようこそ、ここは僕が経営する店の中で

 最上級の場所さ」

 

「俺は経験は皆無なんだが、

 そんな奴を最上に連れてきていいのかよ?」

 

「君の価値は他を見ても圧倒的だ。

 唯一のヘイローを持つ男性

 ここまでの希少価値はそうそうないよ」

 

「ハッ…まるで客寄せパンダだな」

 

「言い当て妙だね」

 

雑談をしつつも建物を昇り、

最上階の一室へとやってくる。

 

「さぁ、初めてのお客様だよ。

 君に合わせて、特別なゲストを呼んでおいた」

 

客の情報を見る

 

「…なぁ、『夜鷹』」

 

「…なんだい、キトリ君」

 

「…年齢、おかしくね?」

 

「…ハッハッハ!大丈夫!君も14歳だからね!」

 

「何も大丈夫じゃねぇよこのボケナスゥ…!」

 

そこに表示されていた年齢は、

13歳、であった。

 

「俺初めてって言ったよな!?

 間違いなくお客様の方も

 初めてなんだが!?!?」

 

「いいじゃないか!

 店で働くと考えたら中々得難い初体験だよ!」

 

「喧しいわ!ったく…素性は?」

 

「ミレニアムで天才って呼ばれてる人だよ」

 

「…読めた。これ立場上仕方なくとかその辺だな?

 だからこそ最も希少価値が高い

 俺をセッティングしやがったな?」

 

そう言いつつ、左手の薬指から指輪を外す。

 

…少しだけ躊躇したのは内緒の話だ

 

「もちろんそれもあるけれど、

 同じくらいの年で初めて同士なら、

 きっと彼女もあまり傷つかないと思ってね」

 

「気遣いの方向性がおかしいな」

 

そういいつつ指輪をケースに納めて、

ワイヤーで固定する。

 

「随分と上等な指輪だね。婚約指輪かい?」

 

「…言っとくがこの指輪に触れてみろ。

 お前の持つ全てを灰燼と化すからな」

 

「初恋かい?」

 

「現在進行形のな」

 

「誰かに恋した状態で他の誰かに体を許す…

 ブラックマーケットしてるね」

 

「あぁ、最高にな」

 

そういいつつ着替え終わる。

 

「それじゃあ、いい夜を」

 

「余計なお世話だ」

 

扉を開ける

 

「ようこそ、お客様。

 今夜限りではありますが、良き夢を…

 いやまぁ」

 

ガチガチに緊張してるお客に苦笑する。

 

「そっちも家の事情とかだろうし、

 俺も必要に駆られてだ。

 さらに言えばお互い初めて。

 境遇が似てるもの同士、仲良くしよう」

 

…初めての味は、酷く甘くて、濃厚で、

 そしてほんのりと苦かった。

 殺人の感覚が、薄れるくらいには

 

 

…………………

 

 

「グッ…ハァ…!ハァ…!」

 

「危ないところでしたね」

 

キヴォトスのどこかで、

2人の大人が会話している。

 

「クッ…!何者ですかあの子供は!」

 

「ふむ…」

 

片方が思案する。

 

「推測にはなりますが、

 彼の特徴に付合するテクスチャーは存在します」

 

「…是非とも私にも聞かせて欲しい」

 

「そういうこったぁ!」

 

さらに大人が1人…いや、2人増える。

 

「いくつかのテクスチャーが混ざっている為、

 それら全てを解き明かすのは未だ難しいですが、

 メインとなっている神性だけなら

 先程の出来事で特定出来ました」

 

「して、それは?」

 

いつの間にか増えた1人の大人に

解説役の大人は楽しそうに続ける。

 

「彼の名前からも明らかではあるのですがね。

 今回で確信を得ました。

 彼の主となる神性は()()()()()

 懲罰の天使が一柱

『神の答』の名を持つ審判者

 神罰の執行者ですよ」

 

「キトリエル…」

 

「ええ、つまりは…」

 

ククク…と大人は笑う。

 

「悪い大人であるゲマトリア(私達)にとって、

 まさに天敵と言える存在です。実に興味深い」

 

「まさかとは思いますが…」

 

殺されかけた大人が苦言を呈する。

 

「あの子供に接触しようと考えていませんよね?」

 

「あれ程にまで複雑で純粋な神秘を扱える人物が、

 他にいるのなら考え直しますよ」

 

それが大人たちの総意となるのに

そう時間は掛からなかった。





殺人者

ただ愛されたいと願った子供

彼にとって親からの愛情を受け取った期間と比べれば受け取れなかった時間はあまりにも短く、故に彼は希望を捨てられなかった。

いつかまた愛してくれるのではないか

いつかまたあの頃の様に戻れるのではないか

思春期特有の万能感も相まって、彼は暗がりに突き落とされた後も過去浴びていた光を求め続けていた。

結果あのような結末を迎えた訳だが、15歳の子供が親に構われたいと願うことの何を責めることが出来ようか

少なくともここキヴォトスにおいて、彼を罪人だと認識するのはベアトリーチェのみである。


審判者

無慈悲なる処刑人

彼の用いるワイヤーはかつて彼の背にあった翼と完全に同一のものである。
またワイヤーは彼の神秘ではなく、彼自身の一部である。

今回発現した現象の中で神秘と呼べるものは、黄金の光と緑色の弾丸のみとなっている。


生存者

それでもなお、明日を求める

彼の心はこの程度では折りきれない

ヘイローは罅が入っているが、周囲はヘイローを認識出来ておらず、彼自身はヘイローをぼんやりとしか把握していない為今は何の問題もない

彼はまだ、幸せを求めるだけの心を保っている

最愛《ハルナ》がいる、その限り
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