幸せに満ちたキヴォトスを作り上げた転生先生と、取り零された1人の罪人 作:ムクロウ
もう一方の小説にしばらく集中しておりました
「…さて、マダムも行ったし自己紹介といこうか」
あの後キレ散らかすマダムを散々煽りまくり、
ストレスの限界に達したマダムは帰った
ざまぁねぇ
「瑠歌唐キトリだ。年齢は15歳。
見ての通りの男だ。よろしく」
「「「「…」」」」
警戒されてるなぁ…当然だが
「まぁ信頼しろとは言わん。
だがこれから嫌でも一緒に生活するんだ、
自己紹介くらいはした方が良くないか?」
四人はそれぞれの顔を見合わせた後、
やがて口を開いた
「…錠前サオリだ」
「…戒野ミサキ」
「秤アツコ。よろしく」
「つ、槌永ヒヨリです〜…」
前途多難だなこりゃ
「…サオリ、ミサキ、アツコ、ヒヨリな。
年齢は13、12、11、12で合ってるか?」
「…マダムから聞いたのか?」
「ただの経験に基づく推測だが、
その反応からして合ってそうだな」
あの店で働いてると、
このくらいの技術は簡単に身につく
「指南役として俺を招いたらしいが、
ぶっちゃけ俺は教えるのは下手だ。
学びとるなら実戦の中で頼む。
後ハニトラ関連はそもそも教える気はない。
そこんところは安心してくれ」
「ちょっと興味あったのに」
「遊びで手を出す世界じゃねぇの」
残念がるアツコにため息を吐く
「とりあえず飯にするか。
もう昼過ぎだけど、腹減ったろ」
「…食料は配給制だ」
「ん?そうだな。だから行くんだよ」
「どこにだ?」
「だ〜か〜ら〜」
弾丸を装填する
「食糧庫への強襲、行くぞ」
「「「「は?」」」」
「キトリ教官の最初のレッスンだ。
きっちり動きを見て学ぶようにな?」
唖然とする四人をワイヤーで纏めて背負う
「ちょっ!?何これっ…硬っ!?」
「おいっ!本気なのか…!?
マダムが黙ってないぞ…!」
「今更アレが喚いたところで
既にここは俺のテリトリーだ。
好きにやらせてもらう」
嘲笑して見せれば、目を見開く四人組
「さぁ、行くぞ!」
全力で踏み込み、食糧庫の方角に跳躍!
「「「「キャァァァァァッ!?」」」」
………………
「〜♪」
「ひ、酷い目に遭った…」
「コイツなんなの…?」
「…強かった」
「圧倒的でしたねぇ…」
いやぁ大量大量、野菜にパンに調味料
こんだけあればしばらくは暮らせるな!
「このワイヤー、異様に頑丈だ」
「しかもあり得ない動き方する…
おかしいよコイツ」
「…弾を空中で弾いてた」
「リボルバー1発で人が気絶してましたぁ。
お終いですぅ!私達もサンドバッグ代わりに
憂さ晴らしに使われるんですぅ!」
「喧しい!腹が減っては訓練は不可能!
よってこれは正当な権利による略奪だ!」
「いやそれは…」
「ハッハッハーッ!」
高笑いをしているとマダムから鬼電が掛かる。
「もしもし〜?」
「貴様ァ!!一体何のつもりだァ!!」
「楽しんでるかいマダム?w」
「ふざけr」
「あ〜、面倒な話は後でなぁ!」
電話をブチ切り、電源を落とす。
「め、めちゃくちゃだコイツ…」
「いいんだよあんな奴。
このくらいの扱いが丁度良いんだ」
そうしてアリウスの敷地内を歩いていく
「…こりゃヒデェな」
アリウスの生徒達がこちらを見つめる
生気の無い目、痩せこけた体、ボロ布のような服
武装さえもないが、
その目には確かな殺意が揺れている。
「兵隊、ね」
確かにこれは学校などとは言えないな
ただの軍事施設でしかない
生徒会長なぞ、笑い話にもほどがある
どこをどう見ればここを学び舎とほざけるのか
「vanitas vanitatum et omnia vanitas
…だったか?」
くだらねぇ教えだ。反吐が出る
「はぁ〜」
…この食糧は今日で無くなるな
明日からは地上から確保してこなきゃダメか
「…ここで止まるぞ」
「は?何を…」
ワイヤーを操り、巨大な鍋型を作る
「粘土質のもの…C4を寄越せ」
「…何に使うつもり?」
ミサキが持っているのか、
警戒した様子でこちらを見る
「鍋を作る」
「…はい?」
「聞こえなかったか?鍋を作る」
「…もう好きにして」
渡されたC4を分解し、
プラスチック爆薬に砂利を混ぜ、
さらに水を含ませる。
「ここをこうして…」
鍋型にそれを敷き詰め、神秘で最低限保護する
「俺の神秘は炎に弱いんだけど…
まぁやらないよりはマシだろう」
ナパーム弾を焚き火がわりに起動して
そこに鍋型ごとぶち込み、
土器モドキとして神秘で強引に成り立たせる
「よし、鍋になった」
「「「えぇ…」」」
「…本当に鍋になっちゃった」
さて、これに材料をドーン!
さらにパンを刻んでドーン!
大量のパン入りシチューの完成!
「さて…」
空に向かって神秘の弾丸を撃ち上げる
「アリウス諸君!飯だぁ!
腹が減ってるんだったらこっちに来い!
シチューを全員に食わせてやる!」
…戸惑ってるな。ならダメ押しだ!
「マダムの心配はするな!
俺は指南役で、これは演習だ!
兵站管理は重要だからな!」
恐る恐るという感じで
こちらに寄ってくるアリウス生徒達
「ほ、本当にいいのか?」
「無論だ。訓練相手が飢餓状態じゃ
ロクな訓練も出来やしないからな」
そう言いながらシチューを手渡せば
震えながらも受け取る生徒
それを皮切りにドンドンと集まり、
長蛇の列が出来ていく
「…いいの?
元々はアンタが奪ってきたものでしょ?」
「良いんだよ。景気が悪いとこっちも気分が悪い」
「そういうじゃなくて、
本当に正当性があるのかってこと」
「あるさ。戦闘訓練なんて俺単体でやっても
パターンが限られてて実戦じゃ役に立たん。
必然的にアリウスの合同訓練になるんだよ。
ならお互いに万全の状態の方が
より良い訓練になるに決まってる。
ちゃんと合理的思考に基づいた行動だから
マダムが口を出す理由付けにはちと弱いのさ」
そう言いながら四人にもシチューを渡す
「お前らも食え。
お前らが食わないと行動の正当性が無くなる」
「ぐっ…」
「おいひぃですぅ…」
不服そうに受け取るサオリと
秒で食い始めるヒヨリ
…ヒヨリのトレーニングメニューは
それなりに絞らないとな
「さてさて、そろそろかな」
エンジン音が聞こえてくる
どうやらようやくご到着らしい
装甲車が凄まじい勢いで突っ込んでくる
「ほいっ」
それをワイヤーで巻き取り、
頭上を越えていくよう放り投げる
「っ!?クソッ…!」
墜落寸前の車体から5人の人影が飛び出す
着地した瞬間全員がこちらに銃口を向け
「撃て!」
一斉に掃射してくる
「食事中だ。邪魔すんな」
弾道予測完了
全鋼系状制御端末展開
全自動防衛開始
全ての弾丸を到達前にか空中で迎撃する
左手の糸で弾丸に付与された神秘と威力を剥ぎ取り
右手の糸でただの鈍い弾丸となったそれを切り落とす
それを全ての弾丸に対して繰り返すだけの単純作業
その結果として…
「ふ、ふざけるな…こ、こんなことが…!?」
俺の周囲にバラバラの金属片が転がる結果となる
「…で?」
「ッ…!」
恐怖でカタカタと震える銃口を向けながらも、
もう誰一人として撃ってくることは無い
そりゃそうだ。意味がないからな
それでも銃を下さないのは
このキヴォトスにおいて一番の自衛手段だからだ
「お前らはマダム直属の親衛隊…
いや、特殊部隊ってとこか?
悪いんだが今は取り込み中でね。後にしてくれ」
「…マダム曰く、戦地で敵襲など当たり前、
軍事演習ならば組み込みなさい。だそうだ」
なるほど確かに正論だ
「オッケー、ならさ…」
ミサキ達に合図を送る
流石はアリウス生、即座に戦闘体制に移る
「少数で多数を相手にすることの危険性を
お前らに叩き込んでやるよ」
後ろのアリウス生達に向き直る
銃弾が背後から飛んでくるが、見ずに弾く
武器庫から掻っ払った銃を投げる
「お前ら!俺はこれからも飯を作ってやる!
食いたいやつは銃を取れ!
銃が無ければ礫を構えろ!
お前達の幸せはお前達自身で守れ!」
…一人、また一人とアリウス生が立ち上がる
無論この程度でトラウマ払拭とはならない
俺が居なくなればすぐに瓦解する理想だ
だが今この瞬間だけの
コイツらが戦う理由にはそれで充分だろ!
怯えた目でマダム側のアリウス生がこちらを見る
俺は正義の味方でも善人でもない
俺に一度敵対した以上、ケジメは必要
マダムに逆らいたくないと思うよりも
2度と関わりたくないと思うまで徹底的に叩き潰す!
「総員!撃てぇ!」
夥しい銃弾と礫が放たれ、装甲車ごと部隊を一掃する
「撃ち方止めぇ!」
ピタッと銃声が止む
指揮官の言動は絶対、軍隊式訓練の賜物か
「うっ…ぐぅ…」
ボロ雑巾のようになったマダムの私兵に近づき
しゃがみ込んで目を合わせる
「マダム、聞こえてんだろ?
お前がどんな妨害をしようが構わないが…」
「…ヒッ」
キトリの暗がりの瞳にボンヤリと
「それ相応の対応はさせてもらう」
「っ…!」
キトリの瞳に射抜かれ、息を呑む
「…さて、まだやるか?」
「い、いや、我々に戦意はない」
…嘘じゃ無いな。そういう目じゃない
「お前らも飯食うか?」
「…え?」
「いやほら、マダムからの引き抜きってやつだよ。
命令放棄して一緒に飯食おうぜ?って提案」
もちろんこれはただの詭弁
ちょっとやり過ぎた感は否めないので、
お詫び代わりという側面が強い
「…お前はなんなんだ。
どうして私達にここまでする」
怪しんでるなぁ…
「強いて言えば…環境作り?
これから俺はどうしてもここに住まなきゃいけない
なら住みやすいようにここを変えようと思ってな」
それを聞いたアリウス生達は呆気に取られる
「そ、そんな理由でマダムに楯突いたのか!?
馬鹿なのかお前は!?」
まさかのサオリからの追撃、耳が痛い
「逆に聞くがよ。
じゃあなんで楯突く為の理由充分なテメェらは
マダムに下剋上かましてやろうとしねぇんだ?」
「それは…」
「…ここに来たばかりのアンタに何が分かるの?」
サオリは口篭るが、今度はミサキが睨みをくれる
「何も分からんが、
ここがこのままじゃ破滅するのは俺でも分かる」
「…」
アリウス生の間に静寂が訪れる
「薄々分かってる癖に結局為されるがまま、
教義ぃ?全ては虚しいぃ?
全部トリニティが悪いんだぁ?
な訳あるかよ馬鹿らしい。
確かに最後は全部無くなるだろうさ
だがそこに至る道のりは自分のものだ
選択肢を手放した人間は既に死体も同然
そりゃ虚しくもなるだろうよ
とっくの昔に
生きようとしない限り虚無であり続ける
俺はそんなもんお断りだね」
黙り込んだアリウス生達を見回した後、
ため息を吐く
(こりゃ相当根深いな…)
適当な方向を向いて、歩き出す
「どこ行くの?」
アツコが聞いてくる
「気分転換、飯は食っていいが奪い合いは無しな」
そう言いながら背中越しに手を振る
「…空気悪りぃ」
この参っちまうような空気もいつかは変わるのかね?
………………
廃墟だらけの街を眺めながら、
適当な家の屋根上でタバコに火をつける
「スゥ……フゥ…」
吐き出した煙が空に上り、霧散する
「…どうした黒服。契約更新にはまだ早いぞ」
「クククッ…随分と暴れていらっしゃるようで」
闇から滲み出るように姿を現す黒服
「別に契約的な違反は何もしてねぇんだし、
別にいいだろ?」
「マダムへの攻撃と見なされるのでは?」
「あくまでこれは演習。
自身のコンディションを最適に保つ為に
敵地からの略奪も視野に入れるべきという
俺からのありがたぁいご指導だよ」
「クククッ…中々の詭弁ですね」
「だろ?俺も気に入ってる」
もう一本タバコを取り出し、火をつける
「…一本いるかい?」
「いえ、私は吸わないので」
「そうかい、健康的なことだな」
煙を吐きながらボンヤリと街並みを見つめる
「お前はどう思う?」
「悪趣味ではありますね。
我々は確かに悪の大人の集団ではありますが
ここまで露悪的である必要は無い。
効率的な面を考えても、
人材不足等の面から言って欠陥かと」
「まぁ、そうなるわな」
俺が好き勝手出来ている一番の理由は
主の契約主たる黒服が俺の活動を黙認してるからだ
黒服としても現状には思う所があるらしい
「かと言っていきなり崩壊させても意味はない。
アイツらの根底にはベアトリーチェの恐怖が
ヘドロの様にこびりついてるし、
例えそれをどうにかしても
この人数を問題なく受け止められるだけの
受け皿というものがキヴォトスに存在しない」
せめてアイツらを教え導いてくれるような…
「そう、教師みたいな奴が必要だ」
間違いを正し、将来を見据えて
アイツらを支援してくれるような奴がいる
「まぁ、夢物語か」
とりあえずはここの態勢を少しでもマシにする
それが俺に出来る精一杯だな
爆発音が鳴り響く
「は?」
見れば、遠方で煙が上がっている
あの方角は…
「おいおい…」
額に血管が浮き出るのを感じる
「やってくれるじゃねぇか、ベアトリーチェェ…!」
俺が見つめるその先では、
食糧庫のあった建物が炎に包まれていた
キトリ → 黒服
まぁ、嫌いじゃない
黒服 → キトリ
愉快な方ですね
キトリ → ベアトリーチェ
クソババア
ベアトリーチェ → キトリ
クソガキ
キトリ → アリウス
憐れな奴ら
アリウス → キトリ
理不尽の権化