幸せに満ちたキヴォトスを作り上げた転生先生と、取り零された1人の罪人 作:ムクロウ
「…ということがあって」
「うーん…」
私はヒナから昨日あった襲撃の顛末を聞いていた。
「最近はゲヘナの治安も安定したきて、
風紀委員会の仕事も減ってきていたのだけど…」
「いや、ヒナは悪くないよ。
治安の向上にあんまり貢献できてない
私が言うのもアレだけど」
「っ…そんなことないわ。
先生は色々と頑張ってくれてる。
温泉開発部だって、
先生が説得したから無差別な破壊は
控えるようになってきたし、
美食研究会も
先生が美味しい店を紹介したりして
テロ活動を抑制してるんでしょう?」
「それくらい当然だよ。
今回の襲撃には温泉開発部もいたんでしょ?
つまりは部員へのケアが
行き届いていない証拠だよ。
生徒1人1人に向き合えなきゃ先生失格だからね」
そうだ。私は先生失格だ。
結局ミカの暴走は止められなかったし、
アリウス生は悲劇の前に救えなかったし、
マコトのミサイルも防止することは出来なかった。
未来を知っていたとしても、
それに体が追いついてくれるとは限らない。
原作で先生がやったことをなぞるので精一杯で、
それ以外に出来たことなんて数えられる程度。
自分の凡才が嫌になる。
「先生…」
「…それはそれとして、
"ブリキ人形"って人はどんな人だったのか
聞かせてくれない?」
原作にはいなかった生徒
話を聞くに、
おそらく私が気づかずに取り零したんだろう。
本当に嫌になる。
きっと今私の笑顔は引き攣っている。
生徒に心配を掛けてしまうなんて、
やっぱり私は先生失格だ。
未来を知っているのが原作の『先生』ならば
もっと上手くやれただろう。
「あの人は…色々とあったけど
一つ言えるのは出鱈目な人だったってことね」
「例えば?」
「その人、右腕と両脚が義手なのは
話したと思うのだけど、その出力が凄くて。
装甲車を投げ飛ばしたり、
マンホールの蓋を蹴って飛ばしてきたり
やりたい放題だったのよ」
「とんでもないね…」
「戦法もマンホールからの奇襲に始まり、
敵のグレネードを利用した多数箇所の爆破。
ワイヤーを使った建物の倒壊みたいな
かなり突飛な行動が多かったわね」
私はそれを聞いて考える。
特殊な戦術、となれば
真っ先に思い浮かぶのはアリウスだ。
だがそれにしてはかなり力技な部分も大きい。
「その子の所属とか分かる?」
「ダメね。経歴もないし、顔は隠してる。
風紀委員会で調べても個人情報は不明。
もしかしたら住民登録がないのかもしれないわ」
「それは…かなり悲惨だね…」
住民登録が無いということは、
それだけ過酷な環境で生まれたということだ。
どれだけ辛い思いをしてきたのだろうか。
考えるだけで胸が締め付けられる。
「その子のヘイローの形は?」
「えっと、十字架みたいな剣が8本あって…」
この世界のヘイローにはある程度法則性がある。
形を聞けば、
どこの所属か割り出せるかと思ったが…
(聞く限りはアリウス。
だけどトリニティやゲヘナの特徴もある)
「多分アリウスの子だと思うから、
今度サオリ達に聞いてみるよ」
「お願いするわ」
結論が出たので少し脱線した話をする。
「それにしても珍しいね?
ヒナがゲヘナ以外の生徒、
しかも傭兵に興味を持つなんて」
「気になるのもそうだけど、
どうやら美食研究会に
何かしら因縁があるみたいで、
露骨に避けてるのよね…」
「あぁ〜…」
最近は大人しくしているとはいえ、
キヴォトス全土でも悪名高きテロリスト。
どこで何をしててもおかしくはない。
「一応これから
美食研究会に探りを入れる予定よ」
「何か成果があったら伝えて欲しいな」
そうして私とヒナはシャーレから出て、
それぞれの方向に向かう。
"ブリキ人形"
果たしてどんな生徒なんだろう?
………………
白い息を吐く。
スコープから見える標的も同様だ。
トリガー
「ガッ!?」
ヒット
インカムを起動する。
「こちら"ブリキ人形"
ターゲットの狙撃に成功。
依頼達成により撤収する」
さて、さっさと離れないと
今俺はミレニアムに不法侵入している。
今の発砲音でヴェリタスやC&Cに勘づかれた。
撤収を急ごう。
「…っ!」
咄嗟に飛び退き、狙撃を躱わす。
…カリンか。相変わらずいい腕してやがる。
この感じはまだ見つかっただけだな。
メンバーか結集する前に逃げよう。
義脚のギミックを起動する。
太もも当たりが展開し、ブースターとなる。
「take off」
点火
ブースターが駆動音を響かせ、離陸。
「なっ!?」
驚いた顔のカリンを他所に進路を決め、
高速で飛行し離脱する。
『逃がすとでも?』
エンジニア部の誰かの仕業か
対空攻撃が飛んでくるが、
方向を調整しながら出力を切り替えることで
変速軌道をとり全て回避する。
段々と精度が良くなってる辺り、
ヴェリタスが演算プログラムを組んでるらしい。
さっさと逃走に限るな。
ブースターの出力を上げ、
一気にミレニアムの空域から離脱する。
「危なかったな…」
これからは空路も警戒されるだろう。
ミレニアムの依頼はしばらく無しだな。
………………
しばらく飛んでから、
ブラックマーケットの付近で着陸する。
割と燃料を食ったし、補充が面倒だな。
「…てください!離して!」
「ん?」
最近はブラックマーケットも
平和になってきたと聞いていたが、
どうもそんな連中ばかりではないらしい。
声の方向を覗くと、
シスターフッドの服装をした生徒が
ヘルメットを被った不良に絡まれていた。
「お前を人質に身代金を得るんだよ!
大人しくしろ!」
「いやぁ!」
普通の生徒なら見なかったことにしていただろう。
俺は別に善人じゃないし、
ある程度の悪事は社会に必要だと思ってる。
だが
「シスターに手を出してんじゃねぇよ」
俺は教会に手を出すやつは許さない。
「ゴフッ!?」
右の義腕による腹パンを不良にかます。
腹を抑えて気絶する不良。
「あ、ありがとうございます!」
「…どうしてこんなところに?」
シスターが彷徨くには危険すぎる。
「じ、実は道に迷ってしまいまして…」
「…トリニティだろ?送っていく」
また絡まれないとも限らない。
「で、ですが私、
お礼なんて何も出来ませんよ!?」
「気にしなくていい。
信者がシスターを敬うのは当たり前だ」
「信者…ということは貴方も神様にお祈りを?」
「あぁ、自己流だから不恰好だろうが」
本職から見たらさぞ滑稽だろう。
「いえ、祈りには信じる心こそが重要です。
形式なんて関係ありません!」
「…そう言って貰えると助かる」
そのシスターは花のように笑う。
「私は伊落マリーと言います!
トリニティまでの道中、
どうぞよろしくお願いします!」
…聡い子だ。
俺の見た目から名乗りたくないのを察して
自分が名乗るに留めている。
「…行こう」
「はい!」
本来ならトリニティには近づきたくないんだが、
シスターの為だ。リスクは度外視すべきだろう。
………………
「マリー、無事で何よりです」
「サクラコ様、ご迷惑をお掛けしました…」
「いいのです。貴方が無事ならば」
トリニティの門前にて、
シスターの長らしき人に会うことが出来た。
これでいいだろう。
聖職者の前に俺のような奴がいるべきではない。
そう思い立ち去ろうとするが
「待ってください」
「…何か用でも?」
サクラコ様とやらに呼び止められた。
「この子を守ってくださりありがとうございます。
何かお礼をさせては貰えませんか?」
…すげぇ裏がありそうなんだけど、
俺の勘は100大丈夫と言っている。
聖職者でもあることだし、信じてみよう。
それにタダでは帰してくれなさそうだ。
それなりに上の立場の人だからな。
メンツとかもある。
「では、
聖堂への立ち入りを許して頂けませんか?」
「…何故でしょう?」
流石に急過ぎたのか、少し警戒されてるな。
「信者として、祈りを捧げる。
ただそれを行いたいだけです。
私はこの通り真っ当な人間ではないので」
「…許可します。
ただ、付き添い人が付くことをお許しください」
「大丈夫です。それくらい承知の上です」
断られることも考えていたので、
監視役を付けられようが気にしない。
祈れればそれでいい。
………………
「…ここが、聖堂」
「はい、
そして私達シスターフッドの本拠地になります」
荘厳で神聖な空間だ。罪人の俺でも
少しは浄化されているような感覚がする。
シスター達からの視線が刺さる。
やはり歓迎はされていないようだ。
「付き添い人としてシスター・マリーを付けます。
どうか、良い時を」
「感謝します。シスター・サクラコ」
そう言って立ち去るシスター・サクラコに
深く頭を下げる。
ここに来ることは叶わないと思っていた。
それ故に、深い感謝を
「引き続きよろしくお願いします。
シスター・マリー」
「敬語なんて使わないでください。
貴方は私の恩人なんですから」
「いえ、こればかりはお許しを。
穢れた身ながら
シスターにお会いしているのだから、
せめて言葉使いは正しく有りたいのです」
「そんな、穢れた身なんて…」
「…お気遣いありがとうございます」
思わず苦笑する。
このシスターは優しすぎる。
…俺にはそれが、とても眩しい。
「早速ですが、礼拝に入らせて頂いても?」
「は、はい。ご自由に」
「ありがとうございます」
ローブを脱ぎ、マスクを外す。
神に礼拝するのならば、
これらを着けるのは失礼にあたる。
ウルフカットの真っ白な癖毛が揺れる。
露わになった瞳は、
澄んだエメラルドグリーンをしている。
瞳の奥には十字架をずらしたような記号が
浮かんでおり、見る人が見れば
『欠乏・束縛』のルーン文字だと分かるだろう。
「…綺麗」
シスターの中の誰かがそう呟く。
その姿は天使を思わせ、
吸い込まれるような美しさを纏っていた
目を瞑る。
そのまま膝を着き、両手を重ねる。
金属の重低音が鳴る。
「偽りの体で祈ることをお許しください。
私の右腕と両脚は、
既に貴方の元へと旅立ちました」
そのまま、続ける。
「主のみに賛美します。
私はこれまで多くの罪を犯してきました。
その罪を罰してください。
穢れたこの身を、貴方のお力で清めてください。
そして、この世界を見守っていてください。
あの人の頑張りに、救いを
尊い主の真名によって、血潮で清めて
感謝してお祈りします。アーメン」
祈りを終える。
酷く静かになった聖堂を、
俺の歩く音だけが木霊している。
マスクとローブを拾い、持ったまま外へ向かう。
「またいつでもいらしてください。
シスターフッドは、貴方を歓迎します」
その言葉に振り返ると、
その場にいるシスター全員が
こちらに祈りを捧げていた。
「「主の導きが在らんことを」」
「…ありがとうございます」
頭を下げて、外に出る。
ここに来れて良かった。心の底からそう思える。
さて、切り替えて行こう。
「おっと、ちゃんと顔を隠さないとな。
誰が見てるか分かったもんじゃ…」
「…嘘」
「…え?」
聞き覚えのある声に鳥肌が立つ。
油断した。顔を見られた。
「…キトリ?」
「…キトリさん?」
…名前まで覚えてやがる。
一緒にいた期間なんざそう長く無かったろ。
なんで覚えてんだよ。
「ねぇ…ねぇってば!
キトリ、キトリなんでしょ!?
なんで返事してくれないの!
こっち向いてよ!」
「本当にキトリさんなんですか!?
こちらを向いてください!
生きていたんですか!?
何故連絡してくれなかったんですか!?
その腕と脚はどうしたんですか!?」
2人はこちらに近づき、
こちらに必死に呼び掛けてくる。
無理もない。
前回の別れ方的にも
死んだと思ってただろうからな。
「…返事…してよぉ…!」
「…話しては…くれないんですか…?」
…泣くなよ。俺程度の為に。
「…………とりあえず、場所を移すぞ」
「「!」」
そう言って、歩き出す。
「ま、待って!」
「待ってください!」
………………
「…ここでいいか」
来たのは、2人がよくお茶会をしている庭園。
この辺りならまぁ、
誰かに聞かれはしないだろう。
「ね、ねぇ!そろそろ話してよ!」
「説明もなしに連れて来たんです!
少しは話してください!」
「…せっかちだな」
「当たり前!何年振りだと思ってるの!」
「…とりあえず、
本当にキトリさんなんですよね?」
…ここまで来たら話すしかない、か。
振り返り、2人と向き合う。
「ハァ…そうだよ。俺が瑠璃唐キトリだ。
満足か?ミカ、ナギサ」
泣きそうな2人と目が合う。
「本当に、キトリだ…!」
「生きて…!」
泣き出す2人に苦笑する。
「泣くなよ。こんな奴の為に」
「こんな奴なんかじゃないもん!
私の大切な幼馴染だもん!」
「幼馴染って…
一緒にいたのは精々1ヶ月だろ?」
「だとしても!ナギちゃんもそう思うでしょ?」
「もちろんです!
過ごした期間が短かろうと、
貴方は私達の大切な人なんです!
もっと自覚を持ってください!」
コイツらホント…
「お前ら偉くなったんじゃなかったのか…
あの頃から何も変わってない…」
「むぅっ!失礼な!
あの頃からちゃんと成長しました!」
「はいはい…」
「ムキィ!ナギちゃんもなんとか言って!」
怒るミカをナギサが宥める。
「ミカさん、そうムキにならなくても
キトリさんも成長してることは
しっかりと分かってくれてますよ」
「そのいい感じの言葉で
締めようとする癖、直ってないのな」
「…ロールケーキぶち込みますよ!?」
「ナギちゃん!?」
今度はキレたナギサをミカが羽交締めにする。
それを眺めながら、茶をしばく。
「…うん、いい味だ。
茶葉を選ぶ趣味も変わってないな」
「このっ…!呑気に紅茶を嗜むな!」
「ナギちゃん抑えて!」
…ナキサが落ち着くまでに、
それなりの時間を要した。
というわけで、主人公の名前は瑠璃唐キトリでした。