幸せに満ちたキヴォトスを作り上げた転生先生と、取り零された1人の罪人 作:ムクロウ
「そういえばセイアはどうした?
てっきりアイツもいると思ったんだが」
「セイアちゃんは今ゲヘナと会談中。
警備は正義実現委員会に頼んでるよ」
なるほど、エデン条約周りの仕事をやってたのか。
「それにしても本当に生きてて良かった…
私達キトリは
あの時死んじゃったと思ってたよ…」
少し胸が痛む。
わざとそう思わせたのは俺だからな。
「今でもキトリさんはアリウスに?」
「いや、かなり前に辞めた」
あれは辞めたというより
辞めさせられたんだが、まぁいいだろう。
「…じゃあ今はどこにいるの?」
「無所属で傭兵やってる。
"ブリキ人形"って聞いたことないか?」
「あれキトリなの!?」
「…各学園を度々襲撃してますよね?」
「依頼だからな」
ナギサがテーブルを叩きながら立ち上がる。
「貴方だったんですね!
通りで各校の構造に詳しい訳です!」
「ハッハッハッ、まぁ落ち着け」
「落ち着いていられますか!
こちら側にどれだけの損害が出たと…!」
「ま、まぁまぁナギちゃん。
お茶でも飲んで落ち着こ?」
「くっ…」
ナギサは勢いよく紅茶を飲み干す。
「カフェイン中毒になりそうだな」
「誰のせいだと…!」
さて、俺について少し話そう。
俺は一時期、各校に留学生として
アリウスから派遣されていた時期がある。
今の三年生が一年生の時期なので、
まだまだ未熟だったコイツらとも俺は面識がある。
他にもゲヘナ、ミレニアムなど様々な学園に
俺の知り合いは点在している。
…まぁマダム曰く各校にパイプのある
万能の諜報員を作ろうとしたらしいが、
結果として俺の見識を広げて
アリウスを見限るキッカケになったのは
ザマァとしか思わん。
「なんで連絡してくれなかったんですか?」
「…俺に関わる資格はない」
「そんなこと」
「あるんだよ。
この辺は語りたくないからパスな」
「…は〜い」
胸糞悪い話なんて、
旧友との再会時にするもんじゃない。
「今の俺は傭兵だ
報酬さえ貰えれば大抵のことは卒無くこなすが
俺の売り文句だよ」
「…例えば私達が依頼をしたとしても?」
「無論傭兵として請け負うが?」
あくまでも傭兵としてというのがミソだ。
瑠璃唐キトリとしては何も関わらない。
「…ねぇ、トリニティに来る気はない?
前に言ってた陰湿な空気も、
派閥の険悪な関係も改善してきたし
ゲヘナとだってもうすぐ条約が結ばれるよ?」
上目遣いで話すミカ。
…コイツ本当に顔面だけは100点だな。
「…悪いな。今はどこかに所属するつもりはない」
「…そっか」
あの1ヶ月で俺が頑固なのはよく知っているからか
すぐに納得するミカ。
「…ではキトリさん。
私からも一ついいでしょうか?」
「どうした?ナギサ」
「…腕と脚はどうしたんですか?
あの頃にはまだ有りましたよね?」
「あぁ〜」
…まぁいいか。教えても。
「詳しいことは言えないが、
まず両脚は消し飛んだ。
次に右腕だが、使い物にならなくなったから
切り落として付け替えたって感じだ」
「それは傭兵活動中に?」
「いや、キトリとして動いてる時にだ」
俺の右腕と両脚は
俺専用で生身より性能が良いくらいだが、
やはり出来るなら本来の肉体の方がいい。
俺の神秘は生身じゃなきゃ使えないしな。
「一体何があったらそんなことに…」
「それは言えない」
俺はただ約束を守っただけだ。
だがそれを言うと
トリニティとゲヘナの関係がさらに拗れるだろう。
だから言えないし、そもそも言いたくない。
約束は秘密にするのが当たり前だろう?
「…まぁいいでしょう。
そういえばキトリさん。
貴方今どこに住んでるんですか?」
「廃ビルとか路地裏とか屋上とか…
まぁ場所を転々としてるな。
アリウスでの暮らしと比べたら
天国みたいなもんだ」
「今すぐにトリニティに入学させます。
ミカさん」
「うん。派閥のみんなにも声を掛けとく」
「いや待」
「私も派閥の他、
シスターフッドや救護騎士団に声を掛けます。
キトリさんがいた場所からして
サクラコさんは知っていらっしゃるでしょうし、
ミネさんもキトリさんの現状を知れば
反対はしないでしょう」
「セイアちゃんにも電話しよう。
正実の委員長もいるだろうし」
…ヤバい、失言だった。
まさかこのレベルで心配されると思ってなかった。
昔の俺ここまでされることしたか?
精々思春期の悩みの相談に乗ったくらいだろ。
「もしもしセイアちゃん?
会談中?そんなことよりこっちが重要。
キトリが今ここにいるんだけど。
え?幻覚?疲れてる?
…そんなに言うなら見せてあげる!」
「おまっ!?ミカァ!」
俺が顔隠してるの知ってるのになんて暴挙を!
『…だからミカ、キトリはあの日死ん…』
ビデオ通話に切り替わったセイアが、
こちらを見た瞬間目を見開き硬直する。
「ね!いるでしょ?」
『…あぁ、いるね』
そう言ってセイアは静かに涙を…!?
「待て待て待てセイアまで泣くな!
大丈夫だから!な!?」
『グスッ…あぁ大丈夫だ。少し動揺してしまったね』
涙を袖で拭いつつセイアが続ける。
『それで、何の用だい?』
「実はキトリが路上で生活してて」
『トリニティへの入学手続きだね?任せたまえ』
「話が早過ぎるんだよちょっと待て!」
本格的にマズい!
このままじゃマジでトリニティにぶち込まれる!
『会談中に一体誰と話して…』
あっ
『…キトリ?』
画面越しにイロハと目が合う。
「…ひ、久しぶり、元気にしてるか?」
『…』
無表情だぁ〜…すっごい真顔だぁ〜…
怒ってるな〜これは〜
『…お前達何を…』
スゥ…ツルギだぁ…
『…キトリ…か?』
「はーい、キトリ君でーす」
『…』
無言やめようぜ?心にくる。
『…今どこですか?』
「え?」
『今どこにいるのかと聞いているんです!』
「と、トリニティだけど…」
『すぐに迎えに行きます。
その場から動かないでください』
「えっ」
通信が切られる。
「…ミカァ…お前さぁ…」
「ご、ごめんなさい。
こんなことになると思ってなくて…」
…責めるのは流石に可哀想か
「ハァ…まぁ気にするな。
ミカが謝らなきゃいけないほどの事じゃない」
「キトリ…」
さて…
「逃げるわ」
「「え」」
スモークグレネードを叩きつけ、
全力疾走で逃走する。
「キトリーッ!?」
「ゲホッ、ゲホッ!
コレは、小麦粉…!?」
本来ならただのスモグレに見せかけて
射撃したところで爆発するトラップだが、
普通に行動制限としても使える。
「take off」
足のブースターを起動し高速飛行に移る。
「あんなとこに居たら
どんな目に合うか分かったもんじゃない」
こりゃしばらくは傭兵稼業はお休みだな。
久しぶりに拠点に帰って、
しばらく身を潜めるとしよう。
ふと、背筋に寒気が奔る。
「…なんだ?」
何かとても嫌な予感がする。
…まさか他にもバレてないよな?
………………
私は今、美食研究会の部室の前にいる。
ノックをする
「はい、どうぞ」
「失礼するわ」
ドアを開けると、
そこには美食研究会のメンバーがいた。
「ふ、風紀委員長!?」
「あら、珍しいお客様ですわね」
「私達まだ何もしてないよ〜?」
「どうしたんですか?」
メンバー達が各々の反応を示す。
「…貴方達に聞きたいことがあってきた」
「聞きたいこと、と言われますと?」
ハルナを見据えて話を続ける。
「"ブリキ人形"という傭兵に心当たりは?」
「ぶりき…」
「人形?」
「…聞いたことがありませんね。
どの様な方なのですか?」
「最近出てきた傭兵。
つい先日戦った後共闘したんだけど、
どうやら貴方達を避けているようだったから」
「うーん…」
悩むメンバー達を見るに、
最近の出来事というわけでも無さそうだ。
「その方の特徴などはありますか?」
「えっと…」
それから服装、特徴的な義肢の話をしたが、
ピンと来てはいないようだ。
「後は…武器が珍しい銃だったわね」
「というと?」
「調べてみたんだけど、
Rsh-12っていう大型リボルバーで…」
音を立ててハルナが立ち上がる。
「…その方のヘイローは、
8本の十字剣の王冠でよろしいですか?」
「…知り合い?」
「風紀委員長もよく知る方かと」
…私もよく知る?
「瑠璃唐キトリ」
「っ!?」
「あの人が生きているなら、
確かに私は避けるでしょうね。
一目見れば分かりますから」
苦笑するハルナに反応できない。
あの人がキトリ?
確かにそう言われればそうだ。
戦い方からヘイローまで一致する。
死んだと思っていたから
無意識のうちに選択肢から除外していた。
「…貴方達って親しかったの?」
彼の交友関係はよく知らない。
「親しいも何も…」
ハルナは初めてみる頬を染めた笑顔を浮かべて
「唯一の幼馴染ですわ」
そう言った。
「部長の幼馴染!?」
「…大変そう」
「彼なら避けられて当然ですね…」
面識のあるアカリ以外のメンバーが驚く。
「…そう。とにかくキトリと思っていいのね?」
「えぇ、それは間違いないかと」
「どこにいるか予想できる?」
「…おそらくどこかでボロを出して
尋問でもされているかと。
私にまで話が来るということは
そういうことです」
呆れた顔で首を振るハルナ。
「じゃあ探しに行きましょう。
他の学校も彼を入れようとするでしょうから」
「あら?風紀委員長も彼を?」
ハルナの問い掛けに
「キトリは風紀に入ってもらうわ」
そう宣言する。
「ではライバル、
ということでよろしいですか?」
「…彼に避けられてるのに余裕なのね」
「彼と私は過ごした年数が違いますので」
目線を突きつけ合う。
「…とりあえず彼を見つけましょう。
話はそれからよ」
「…そうですわね。皆さん、行きましょう」
「はーい」
「頑張るぞ〜!」
「キトリさんの料理は美味しいですからね〜」
…少しだけ彼に悪い気がするが、
正体を隠したままの彼が悪い。
それに…
「…あの義肢」
もし私の予想通りなら、アレは私のせいだ。
義理堅い彼のことだから、
きっとあの約束をどこかで守ってくれたんだろう。
そのせいであんなことになってるのなら…
「待っててキトリ。責任取るから」
私の全てを持って、償おう。
………………
「やぁ、久しぶりみんな」
「お久しぶりです。先生」
「…何しに来たの?」
「ミッちゃん、メッ」
「お、お久しぶりですぅ…」
私はヴァルキューレにて
アリウススクワッドの4人と会っていた。
「実は君達に聞きたいことがあってきたんだ」
「聞きたいこと?」
「あぁ、実はね…」
私は"ブリキ人形"についての話を4人にした。
「マンホールからの奇襲…
建物の倒壊…
ワイヤーとグレネード…」
「…」
「ねぇ、これって…」
「はい…あの人かと…」
「何か知ってるの?」
どうやら心当たりがあるらしい。
「おそらくだが、アリウスの「違う」」
「…ミサキ?」
拒絶の言葉に目を向けると、
ミサキは不機嫌そうな顔をしている。
「あの人じゃない」
「で、でもこんな戦法…」
「黙って」
「…ミサキ」
「…あの人は死んだの。それでいいでしょ」
…どうやら、私が救えなかった生徒のようだ。
また、私は取り零した。
何度繰り返せば学ぶのだろうか。
この愚かな先生モドキは
「…先生。ヘイローを教えてくれないか?
絵でも構わない」
「えっと、ちょっと待ってね」
ヒナの話から再現したイラストは
既に描いてあった。
「これなんだけど…」
「「「「…」」」」
…この反応は、どうやらそうらしい。
「…キー兄ぃだ」
ミサキがポツリと呟く。
「…あぁ、間違いない」
「うん、そうだね」
「い、生きてたんですねぇ…!」
他の3人は驚きながらも
どこか安堵したような顔を浮かべる。
私もこっそり息を吐く。
どうやら最悪の状況ではないらしい。
…待てよ?
「…その人、何か障がいを持ってる子だった?」
「…いや?先生、一体何を…ハッ!?」
サオリの顔色がサッと青くなる。
そう、彼は義肢を付けている。
そして聞く限り元々は普通の人らしい。
つまり…
「…キー兄ぃ!」
「ミサキ!?」
部屋を飛び出していくミサキ。
「私達はミサキを追う!」
「ヴァルキューレには私から言っておくよ」
「ありがとう先生!」
「待ってミッちゃん!」
「ま、待ってください〜…!」
3人が出て行くのを見てから、
カンナに電話を掛ける。
「もしもしカンナ?
今アリウスの子達が
出て行ったと思うんだけど…
うん、ちょっと色々あってね。
どうやら死んだと思ってた仲間が
生きてたらしいんだ。
うん…だから少しの間でいいから
あの子達を自由にさせてあげて?
うん…ありがとう」
電話を切る。
「…キー兄、か」
心当たりが一つだけある。
私がベアトリーチェと戦った時、
彼女は何かに酷く怯えていた。
彼女の言葉が思い浮かぶ。
『お前も!アレも!
取るに足らない連中が私の邪魔ばかり!』
あの時はサオリのことかと思ったが、
今となればその子に対して言っていたのだろう。
もしかしたら彼はベアトリーチェと戦い、
その結果として手足を失ったのかもしれない。
だとしたら…
「彼の方が、きっと相応しい」
やっと不相応な席から
降りる日が来たのかもしれない。
その子ならきっと相応しいだろう。
超法規的機関・シャーレ
その顧問兼管理人たる『先生』に
瑠璃唐キトリ
本作の主人公 年齢は19歳
元アリウス生であるが、
今は無所属の傭兵"ブリキ人形"を名乗っている。
2年ほど前に様々な学校に留学しており、
それにより多数の友人がある他、
一部の生徒と深い繋がりがある。
死亡したと思われていたものの、
信仰への真摯さが仇となり発見された。
何か思うところがあって
関わりを絶ったようだが、詳細は不明。
彼の神秘は、
この物語において非常に重要な立ち位置にある。
先生
苦悩する凡人モドキ
先生として相応しくないと自身を責め続け、
先生という肩書きを神聖視している。
実際はただでさえ激務のシャーレで
ストーリー通りの動きをするだけでも難しく、
それをこなしながら他の事にも
手を回していた超人。
決して彼は劣っていないのだが
本人はそのことに気づいていない。
キトリに先生としての立場を譲ろうとしているが、
キトリからすれば迷惑極まりない話である。
聖園ミカ
キトリ発見の第一人者
本編とは違い早めに先生側に加わった為、
ギリギリホストの枠を保てている。
先生の頑張りと謎の傭兵の活躍で
イジメはなくなってきている。
桐藤ナギサ
キトリの好き勝手の被害者
最近の悩みは部屋に帰ると好きな洋菓子が
紅茶付きで置いてあること
百合園セイア
後悔者
未来を見れたはずなのに
キトリを助けられなかったことを
ずっと悔いている。
棗イロハ
絶望者
キトリの死を聞き、何も出来ない自分に絶望した。
故に彼女は、何事にも無気力となった。
剣先ツルギ
邁進者
キトリがいなくなったことで、
より頑なに正義を目指すようになった。
もう二度と、繰り返さない為に
空崎ヒナ
選択者
彼女は選択した。
そして、彼が実行した。
これはただ、それだけのお話だ。
アリウス・スクワッド
家族
キトリをキー兄等と呼び、慕っている。
過去に関わりがあったと見られる。
黒館ハルナ
帰れ