幸せに満ちたキヴォトスを作り上げた転生先生と、取り零された1人の罪人   作:ムクロウ

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実は昔、肩の骨を折ったことがあったのですが
その時の無力感とか不自由さが凄くて、
その体験を元に書いてみました。


零れ落ちた本音

 

俺は今、旧アリウス分校敷地内の

とある路地裏に来ている。

 

「…誰もいないな。よし」

 

ワイヤーを使って辺りを探知し、

誰もいないことを確認してから

路地裏のゴミ箱を開ける。

 

その蓋にはナンバーパネルがついており、

暗証番号を入力する。

 

路地裏の壁の一部が大きく開き、

地下への階段が出てくる。

 

「ただいま」

 

そう言いながら入る。

後ろでギミックが作動し、閉まる。

 

ここは俺がアリウスに

入る前からから使ってる拠点だ。

マダムの目を盗んでは点検に来ていたが、

途中でバレた時にはヒヤヒヤした。

壊されそうになってちょっとガチギレした結果、

マダムすら近づかなくなった

まさに俺の秘密基地である。

 

『戻りましたか、キトリ』

 

「…まだいたのか、key」

 

お前はとっくに自由だってのに

 

「久々だが問題なさそうだな。

 掃除ロボットもしっかり動いてるし」

 

『当然でしょう。私が管理していますから』

 

「そりゃどうも」

 

様々な部品や機械で溢れた部屋を抜け、

いくつかあるドアを開けて状態を確かめる。

 

「寝室と浴室は問題なし。

 図書室は微妙に劣化してきてるな。

 栽培室の野菜はなかなかいい出来だ、

 調理室も問題ないし明日にでも食おう」

 

『私の分もお願いします』

 

「アリスに頼んでこい。

 ここに来ることは許さんが」

 

この空間がここまで発展してるのは

ここが俺が作った場所ではなく、

連邦生徒会長が作った場所だからだ。

 

こういった施設は各地に点在していたが、

今ではここしか残っていない。

 

大体は彼女が業務から逃げる為の

避難所として作られた場所である。

だが、ここは少し毛色が違い

実験や開発がメインの場所となっている。

 

「…さて、風呂入ろ」

 

浴室に向かう。

 

「っと、久しぶりに外さないとな」

 

『手伝います』

 

「あぁ、頼んだ」

 

システムが起動する。

ロボットアームが動き、俺の義肢を外していく。

 

「ッ…!」

 

外す瞬間神経回路の誤作動で痛みが奔るが、

もう慣れたものだ。

 

「…外れたな」

 

『相変わらず、人間とは思えない生命力です』

 

「言ってろ」

 

こう見ると俺よく生きてるな。

太ももから先は何もなく、

右腕も肩から先は失われている。

左腕と胴体、頭は生身だが、

半分くらいはなくなってると言えるだろう。

 

もちろん体は動かせない為、

ロボットに介護してもらって体を洗う。

この体では車椅子さえ満足に使えないからな。

 

「不便なのか便利なのか…」

 

『少なくとも私がいるので

 便利ではあるのでは?』

 

「テメェに体を見られることを除けばな」

 

この部屋とkeyが無ければ

俺は介護生活待ったなしの体だ。

そう考えるとミカ達の不安も頷ける。

義肢を外した姿なんて見られたら

大変なことになりそうだ。

 

ふと傷口を見ると綺麗に塞がっており、

まるで最初から何も無かったかようだ。

神秘とオーバーテクノロジー様々である。

 

体が洗い終わったので、そのまま風呂に浸かる。

そのままでは溺れる為、

この時でさえ介護が必要だ。

 

「情けねぇなぁ…」

 

『キトリ…』

 

ここまでの代償を支払っても、

世界はちっともいい方向に行かない。

理不尽な世の中だよ。ホントに

 

風呂を上がり、体を拭いてもらって、

そのまま寝室へ運ばれる。

ベットに寝転がることすら自分で出来ない。

 

今義肢はメンテナンス兼補給中だ。

燃料などは買ってくる必要があるが、

全自動でやってくれるのはありがたい。

 

「key、ここまででいい」

 

『ですが…』

 

「…分かるだろ?」

 

『…分かりました』

 

「ありがとう」

 

ベットの上で、天井に左手を伸ばす。

俺に残された最後の自由。

唯一の生身の腕を見つめる。

 

別に後悔はしていない。

例え時が戻ったとしても、

俺は同じ選択をするだろう。

 

ただ、それでも…

 

「…辛いなぁ」

 

視界が歪み、涙が溢れる

誰も見ていないからこそ、漏れた本音

 

「俺も、自分の力で動きたい…」

 

顔を歪ませる

 

地面を蹴って駆けた感触が

利き手で愛銃を握って戦った高揚が

…皆と同じように暮らせた思い出が

 

酷く眩しくて

いつまでも忘れられなくて

痛くて痛くてたまらない

 

「もう一度だけ、皆と」

 

一緒に居られたら、どれだけ幸せだろう。

 

でも、ダメなんだ。

ただでさえ汚れきった俺が、

皆に頼り切って生きるなんて

到底俺自身が耐えきれなかった。

 

「俺のことなんて、

 いっそ忘れてくれていたら…」

 

俺はただ、皆に笑って欲しかった。

それだけだったのに

 

「結局、泣かせただけだ」

 

俺がいなかったら、

この物語は幸せな方向に向かっていた。

 

俺という存在が入ってその後欠落したせいで、

埋められない穴が出来てしまった。

 

俺はヒーローになれなかった。

"超人"に届かず、"先生"のように導けない。

 

それでも不相応な結末に

手を伸ばした結果残ったのは

ボロボロで何も無い、空っぽなブリキの人形だ。

 

「…誰でもいい…俺を救ってくれ…」

 

手を伸ばして誰かの手を取ることはあっても、

伸ばした手を誰かが取ってくれる事はない。

そんなことはよく分かってる。

 

助けてなんて、他の誰にも言えやしない。

 

皆自分の人生で精一杯なんだ。

俺の我儘なんて、言っていいわけがない。

 

だから、これはただの独り言だ。

独りだから言える言葉だ。

 

バカな子供が夢を語り、

独りは怖いと泣いている。

ただ、それだけだ。

 

「Vanitas vanitatum, et omnia vanitas」

 

虚しい人生なんて思うのは、

俺だけでいい。

 

いつしか縋るようになった言葉を呟く。

俺が虚しくある限り、

他の皆が虚しくなることは無いと信じて

そこに救いを見い出す。

 

そうして、いつの間にか眠りにつく。

投げ出された左手は、

きっと誰かの温もりを求めているのだろう。

 

寂しがりの少年は今日も、誰かの救いを夢に見る。

現実では諦めたつもりの、ハッピーエンドの夢を

 

 

………………

 

 

私と姫、ヒヨリは

ヴァルキューレを抜け出したミサキを追って、

旧アリウス分校まで来ていた。

 

「ミサキ!」

 

ミサキはそのまま裏路地に入る。

 

「どこ…どこにあるの…!」

 

「どうしたんだミサキ!

 そこに何かあるのか!?」

 

必死に辺りを探すミサキに問いかける。

 

「昔キー兄ぃは言ってた。

 この辺りに隠し通路を作ってあるって!」

 

「「「っ!」」」

 

「多分、そこにいる…!」

 

ミサキの言葉を受け、4人で捜索する。

 

「…サッちゃん!これ!」

 

振り返るとアツコがゴミ箱の蓋を見せており、

そこにはナンバーパネルがあった。

間違いない。あれが鍵だ。

 

「ミサキ!番号は!」

 

「分からない…そこまでは教えてくれなかった」

 

「くっ….」

 

「ど、どうしましょう…?」

 

出てくるのを待つという手もある。

だが…

 

「キー兄ぃ…」

 

ミサキが限界だ。

特にあの人懐いていたからな。

 

「…キー兄ぃの誕生日は?」

 

「ダメだった」

 

「クソッ…!ここまで来て詰みか…!?」

 

『0301です』

 

突然、私の携帯から声が聞こえる。

 

「誰だ!?」

 

『私はkey

 キトリの世話をしているAIです』

 

「何故私達に番号を教える…!」

 

あまりにも怪しい。

 

『…あの人が、苦しんでいるので』

 

「どういうことっ!?」

 

『あの人はもう限界です。

 肉体の半分を失い健全な精神をしていられるほど

 異常でも狂っても無いんですよ』

 

…道理ではある。

昔会った時はまだ四肢は無事だった。

今より状況は悪かったが

キー兄ぃはいつも私達によくしてくれた。

 

「…信じてみよう」

 

アツコの言葉に全員が頷く。

例え罠だとしても、

あの人の為ならリスクはいくらでも背負うべきだ。

暗号を入力する。

 

「…開いた」

 

路地裏の一部が開き、階段が出てくる。

 

「こんなものがあったのか…」

 

「…キー兄ぃはこの中に?」

 

『はい。就寝中ですので、どうかお静かに』

 

どうやらキトリは寝ているらしい。

もう23時だ。疲れているのだろう。

 

なるべく音を立てないように階段を降っていく。

明るいところに出るとそこは…

 

「…凄い」

 

「ここが、キー兄ぃの家…」

 

そこはまるで秘密基地のような空間。

様々な部品が区分けして並べられ

用途の分からない機械達が立ち並ぶ。

 

『キトリは奥です』

 

声に促され前へと進む。

 

いくつかのドアから見えた

図書館や畑、果樹園など。

とてもじゃないが、

個人の所有する場所には見えない。

 

「…あっ」

 

ミサキの声にそちらを向くと

忙しなくドローンが動いてる場所がある。

 

「ミサキ?何を…」

 

見ると、そこには

 

「…あれは」

 

義肢と思われるものが吊るされ、

メンテナンスを受けているようだった。

…多分、キー兄ぃのものだ。

 

『ご察しの通り、アレはキトリの義肢です』

 

やはりそうらしい。

 

「…兄さんはいつからアレを?」

 

アツコが質問する。

 

『およそ半年ほど前から』

 

「半年前…ですか?」

 

半年前…まさかっ!?

 

「エデン条約…!」

 

全員が同時に同じ結論に至る。

私達の罪、償わなくてはいけない損失。

それにもしキー兄ぃが居たとしたら…

 

「…私達の、せい?」

 

…重苦しい空気が流れる。

 

「…とりあえず、キー兄ぃに会おう。

 話はそれからだ」

 

「うん」

 

『キトリはこの奥です』

 

最奥のドアだけが閉められている。

そこを音を立てないように開ける。

そこには…

 

「…キー兄ぃ」

 

スヤスヤと眠る、私達の長兄がいた。

本当に、生きてる。

 

「…やっぱり、ないんだね」

 

アツコの言う通り、キー兄の右腕と両脚はない。

唯一残った左腕だけが、真横に投げ出されている。

 

「…でも、良かった…生きててくれた…!」

 

ボロボロと涙を溢すミサキ。

私達の目にも大粒の涙が浮かぶ。

あの日以来揃わないと思っていた私達家族は

もう一度集まることが出来た。

 

「!何か言ってます…」

 

ヒヨリの言葉に聞き耳を立てると

 

「…サオ…リ、ミサキを…止め…て。

 アツコも…笑って…ないで、

 ヒヨリの拷も…んは…妥当…だけど…

 流石に…可哀…想…」

 

「私どんな目にあってるんですか…?」

 

思わず声を抑えて笑ってしまう。

キー兄ぃはあの頃から変わっていない。

面倒見がいいところ、優しいところ、

そして…

 

「…涙の跡」

 

意地っ張りなところも。

キー兄の頬や目頭には、

泣いていた痕跡が残っている。

 

『触れてあげてください』

 

言葉を失っていると、声が掛かる。

 

『あの人は、左手を伸ばしていました。

 きっと、手を取ってくれる誰かを

 ずっと待っているんだと思います』

 

4人で目線を交わし、頷き合う。

例え酷いことをしてしまったかもしれなくても、

今はこの人に寄り添ってあげたい。

 

「…でもどうする?キー兄ぃって…」

 

「…あぁ、そこも昔から変わらない」

 

空中に目を凝らせば、光るものがある。

ワイヤーだ。それが無数に張り巡らされている。

キー兄ぃはこうやって、

例え寝る時であっても警戒を怠らなかった。

 

キー兄ぃのワイヤーは凶悪だ。

自由自在に操られたそれは、

捕縛、罠、索敵等なんでも出来て、

本人曰くその気になれば戦車くらいなら

輪切りにできる攻撃性もあるらしい。

 

原料は不明で、どこから出してるのかも不明。

補充やメンテナンスをしているところは

一度も見たことがない。

もしかしたらキー兄ぃ自身の神秘に

関連してるのかもしれない。

 

とにかくこれに触れてはダメだ。

キー兄ぃが起きてしまう。

 

『申し訳ありません。

 私にはどうすることも…』

 

「大丈夫だ」

 

私達は一緒に暮らしていたんだ。

対処方法は私達がよく知ってる。

 

キー兄ぃは約束だけは絶対に守る。

例え遠く離れていても、

守ると言ったのなら必ずそれをする人だ。

 

「キー兄ぃ」

 

4人で同時に言葉を告げる。

大昔にした約束。

寂しくなったら一緒に寝たいという

ワガママを言った私達に対して、

約束してくれたあの言葉。

キー兄ぃなら、きっと覚えてる。

 

「「「「一緒に寝よ?」」」」

 

…シュルシュルとワイヤーが無くなっていく。

それはキー兄の左手に収束して、

いつの間にか無くなっていた。

 

「…位置はどうする?」

 

「…ミっちゃんが手を握ってあげて」

 

「じゃ、じゃあ私は下側に…」

 

「…私は外側でいい」

 

「じゃあサッちゃんは頭撫でてあげてね。

 私は右側から抱きついてるから」

 

そう言いながら布団に潜り込む。

あの頃から少し変化した、

でも名残のある匂いがする。

 

「…キー兄ぃ」

 

「キー兄ぃ」

 

「兄さん」

 

「にーさん」

 

酷く安心する。

やっぱり家族が一緒にいるのは

とても嬉しいことだ。

 

「えへへ…にーさんの下側。

 無くなっちゃってますけど、

 やっぱり安心します…」

 

「うん、私も右腕は無いけど

 やっぱり兄さんに抱きつくのが一番落ち着く」

 

「…」

 

ミサキは無言で左手を握っている。

もう離さないとでも言いたそうな表情だ。

 

「あまり弄ったりするな。起きてしまうぞ」

 

「サッちゃんも頬を撫でてるけどね」

 

…仕方ない。久しぶりなのだから。

 

段々と瞼が落ちてくる。

ここまで安心しきって眠れるのはいつぶりだろう。

 

「…おやすみキー兄ぃ」

 

「「「「大好き」」」」

 

そう言って、眠りにつく。

 

どうか明日がキー兄にとって

幸せに溢れた日になりますようにと、

柄にもなく神に祈りながら。




瑠璃唐キトリ
お労しい人

体の半分を失ったことに後悔はしていないが、
ショックを受けていないわけではない。

家族や仲間が大好きであり、
実は寂しがり屋な性格をしている。

義肢を外した夜は、
その無力感と喪失感に押し潰されそうになる。

まだ彼は19歳の少年である。


錠前サオリ
アリウスの長女

クールに見えるポンコツであり、
実はキー兄ぃ大好き人間でもある

ミサキが飛び出していなければ
サオリが飛び出していた


戒野ミサキ
アリウスの次女

リスカ癖をよくキトリに叱られていた
激重感情持ちの危ない子

キトリがいなくなったことで
リスカ癖が再発していた


秤アツコ
アリウスの三女

イタズラ好きの女の子
恋愛的な目でキトリを見始めた時期は
メンバーの中で一番早い

別に一夫多妻でも全然いいと思っている


槌永ヒヨリ
アリウスの末女

なんか厚かましい末っ子
よく浪費してはキトリにキレられていた

一番親愛とか兄妹の絆とかしてる子
(恋愛感情が無いとは言わない)
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