主人公探してます   作:エドモンド橋本

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度重なる強敵

 

 

 

 「ふむ、全員揃っていますね」

 

 グラウンドに整列した私達を確認してチャルロス先生がニヤニヤと笑みを浮かべる。今日は雲ひとつ無い晴天。これなら問題なく走れるだろう。

 

 「それではこれから課題の説明を行う」

 

 チャルロスの合図で別の教師が私たちの前に立って小さな箱を見せる。

 

 「これは中間地点に設置されたバッジケースです。出席番号と同じ数字の書かれたバッジを胸につけて帰って来てください」

 

 森の中に置くには小さすぎる様に思うが、まさか。

 

 「さて、それでは制限時間は1時間。優秀な君達なら心配は要らないと思ってるよ」

 

 チャルロスの言葉に誰も何も言わず、スタートラインに向かう。

 

 「さあ! 配置について……開始!」

 

 チャルロス先生が手を振り上げると同時に私達は一斉に走り出した。

 

---

 

 

 スタート地点から直線距離で走ること十分程度。鬱蒼とした木々が視界を塞ぐ森の中に入ると足元は一変し、ぬかるんだ地面や鋭利な枝などが行く手を阻む。それでも私たちは息を切らせながら前に進む。

 

 「なあ、ここ、こんなに道悪かったか?この天気でこのぬかるみも変じゃねえか?」

 

 ニールの疑問は皆が思ったことだった。この森は定期的に管理されていてこんな状態になることは滅多にないはずなのに。不安は募るが今は先に進むしかない。

 

 「レイン、大丈夫かい?」

 

 「おわっ!?レオハルト、だ、大丈夫だよ」

 

 ぬるっと私の隣に現れたのは、四大公爵家ゴールデン家の嫡男レオハルト・ゴールデン。仕草一つ一つが煌びやかで、自身もそれを理解している。いわゆるナルシスト。

 

 「もし辛かったら言うといい。僕が抱き抱えて」

 

 「レオハルト様、お気遣いは入りません。レインは私がサポートしますので」

 

 レオハルトと私の間に割り込んできたのは、先程まで辛そうにしていたリミネスだった。リミネスは私とレオハルトを交互に見ると、安心させるように微笑む。

 

 「ごめんねリミネス。ありがと」

 

 「いえいえ、レインのためですから。あ、それとレオハルト様。この場には多くの淑女がおりますゆえ、発言には充分お気をつけ下さい」

 

 「……ふむ、そうだね。だが、リミネス。嫉妬せずに君も僕に」

 

 「結構です」

 

 リミネスが厳しい視線を送るが、レオハルトは多分分かってない。彼の態度が気に入らないようだが、そんなことを考えてる余裕はない。早く進まないと。

 

 「少し坂になって来たな、後ろの連中気を付けろよ!!」

 

 ナックルのデカい声が聞こえて来た。少し声を落とせと言いたいが、体力を使いたく無い。実際助かる情報だし。森に入って20分程度経っただろうか、段々と足取りが重くなってくる。流石に疲れて来た。でも、やっぱりおかしい。私達は騎士学校に入学して一年経っていないが、それでも訓練は積んで来た。リーガスやナックル程ではないが、それでも体力はついて来てる。なのにこの疲労感。

 

 「レイン殿、大丈夫ですか?」

 

 「アレン、ありがとっ、ふう」

 

 坂に足を取られていると、手を差し伸べて来た黒髪の美少女。王国騎士団団長の娘、アレン・ルナ・ウォーリア。仲間思いで騎士としての礼節に厳しい彼女は、よくナックルやヨイチと揉めている。まあ彼女が一方的に怒っていて相手は大抵聞いてないのだが。

 

 「それにしても、この森」

 

 「ええ、なんて言うか、荒らされてますね」

 

 「やはりお二人もそう思われますか」

 

 確かに道の起伏が激しいが、それにしても土が剥き出しになっている所が多すぎる気がする。まるで何か大きいものが通ったかの様に抉られた跡がいくつもあるし。この状態の原因を考えていると突如としてけたたましい唸り声が響き渡る。

 

 「グアアアアアア!!!!!」

 

 轟音に皆混乱しているのがわかる。何だ?この声は。明らかに動物とかじゃない。もっと異質な何か。その答え合わせをするかのように大きな影が私達を覆い尽くし、次の瞬間強烈な風圧とともに巨大な生物が目の前に降りてきた。その衝撃だけで木々は吹き飛ばされ砂埃が舞い上がる。

 

 「おい!?何だよこいつ!?」

 

 「獅子?いや、翼がある、それに尾に蛇が!」

 

 ファンタジーでは有名なモンスター。しかし、この世界では存在しないのか?そんな悠長は考えはモンスターの振り上げた前足に掻き消される。

 

 「みんな下がって!!」

 

 咄嗟に飛び退くも体制を崩してしまい転倒してしまう私とリミネス。そこに駆け寄ってくれたルメアとアラン。2人は私達の肩を抱いて支えてくれる。

 

 「ありがとう。アラン。リミネス大丈夫?」

 

 「ええ!問題ありません!」

 

 全員一旦後方へ退く。大きな唸り声を上げながら、ゆっくりと近付いてくるモンスター。弱者を痛ぶるのが好きなのか、まるで笑っている様だ。

 

「何なんだよこいつ!?ままか!?」

 

 「あれはキマイラ」

 

 2つの獅子の頭に鷲の翼、山羊の胴体、蛇の尾を持つモンスター。

 

 「よくご存知ですねレインさん。そう、あれはキマイラという、人工的に生み出された魔物です」

 

 「ヨイチ、お前あれ知ってんのか?」

 

 スタッと私達の前に飛び降りて来たヨイチ。ナックルからの疑問に頷きながら答える。

 

 「知り合いの情報屋から聞いたことがあるんです」

 

 ヨイチが語るには、王国はかつて帝国を滅ぼす為に、魔物を兵器として利用しようとした。しかし、強力な魔物は高いプライドを有している為指揮下には置けない。故に強力な魔物の遺伝子を使い人工的に魔物を生み出そうとした。結果、このキマイラが誕生。だが、強力な魔物達の遺伝子を継いだキマイラは、どんな魔物よりも高いプライドを有していた。当然指揮下には置けなかった。大きな被害を出し、当時の王国騎士団長により、封印された。

 

 「なるほど、あれが何なのかは分かりました。ですが、次の疑問です。何故ここに?」

 

 宰相家の嫡男ジャック・オル・ティモシーの付き人をしているリューロン。翡翠色の髪を靡かせ、中世的な顔立ちの美少男である彼は、寡黙な主人ジャックの前に立ち、ヨイチに向けて声を発する。

 

 「さあ?そこまでは流石に私も」

 

 「化け物みてえなのが何故か分からんがここに居る。こんなの前にもなかったか?」

 

 ナックルの言葉に、私を含めて数人が反応する。ナックルはそのままキマイラを睨みつけながら続けていう。

 

 「ああ、オークキングか」

 

 「確かに状況は似てるがそれどころじゃねえぞ!俺達今武器一つ持ってねえ!」

 

 ロイドが慌てて叫ぶがキマイラは遂に咆哮を上げ襲いかかってくる。

 

「来るぞ!!」

 

 リーガスが皆に警告するが遅い。突進してきたキマイラはその巨体からは想像できない速さで迫ってきており避ける暇がない。武器もない私達になす術は。

 

 「伏せろ!!」

 

 「ッ!」

 

 「がぎゃあああ!!」

 

 後方から飛んで来た3本の矢がキマイラの足に突き刺さる。痛みからかキマイラは一瞬動きを止めた。

 

 「皆さん!今武器を生成しますのでお使い下さい!」

 

 「ベル!」

 

 どうやら飛んで来た矢の正体は、ベルに弓矢を生成してもらったニールのものだった。なるほど、ベルなら武器を生成出来る。でも、流石にこの辺のものでは対価として弱い。恐らく彼女は自身の魔力をいつもより多く消費している。

 

 「すみません、ニールさん。今はそんな弓矢しか」

 

 「黙って自分のやることやれビビりチビ!俺様はどんな環境も、どんなものでも、言い訳にはしねえ!!」

 

 ニールの放った矢はキマイラの反対の足に刺さる。苦悶の表情を浮かべるキマイラ。やるなら今しか。

 

 「よし!魔法を使える者はニールに続きキマイラの動きを止めてくれ!その隙に他の者はベルから武器を受け取って構えろ!マリアとカトリーナは負傷者を治療する準備を!!」

 

 リーガスの号令を合図に、皆一斉に動き出した。

 

 「氷の精霊よ、集いなさい!」

 

 「雷の精霊よ、集いたまえ!」

 

 ルメアとリミネスが一斉に魔法を唱える。ルメアの魔法でキマイラの右前足が氷漬けになり動きが止まり、リミネスの魔法によって身体中に電流が走り痺れているようだ。そこにすかさずニールが矢を放つ。

 

 「今だ!」

 

 武器を構えた面々が攻撃を開始する。いつもの様に、先ずリーガスとナックル、ラミスが前衛として仕掛ける。ロイドとジャック、アレン、リューロンが、少し離れた場所で遊撃を仕掛ける。モモカ、リン、アンナ、ベアマンはベルを中心に四方を固めベルとマリアとカトリーナを護衛をしている。そして私とヨイチは後方支援兼伝令役。

 

 「リーガス!尾の蛇が来る!」

 

 「ッ!すまないレイン!助かった!」

 

 「剣が折れた!ベル!補充を!!」

 

 キマイラとの戦闘が始まってから、時間が長く感じる。まだ10分も経っていないのにずっと戦っているような錯覚に陥る程長い時間だ。キマイラは傷つきながらも倒れる気配は全くない。寧ろこちらの方が追い込まれているくらいだ。

 

 「ッ!!?」

 

 「ジャック様!!」

 

 キマイラの前足に振り払われたジャック。リューロンが直ぐに駆けつけ、肩を支える。

 

 「くそ!まただ!なんで急に動きが変わりやがる!?」

 

 ロイドが悪態をつく。確かに最初の動きから変わっていない。寧ろどんどん酷くなっている気がする。

 

 「あのキマイラ、何かするつもりです。気を付けてください」

 

 「はあ!?どういう意味だ?」

 

 ニールの矢を避けるキマイラを見ていたヨイチが言った。するとキマイラは先程まで以上の大きな声を上げる。まるで、何かを呼ぶ様に。

 

 「おい!なんか地面が揺れてるぞ!」

 

 「あ?なんだんだ?おわっ!?」

 

 突如地面から湧いて出た土で出来た数体の獅子。大きさは大型犬くらいだが。

 

 「チッ!あのキマイラだけでもキツいってのに!!」

 

 「全員空にも気を付けろ!何かいるぞ!」

 

 リーガスな声に視線を上げると鳥型の魔物が数十体。キマイラの咆哮に呼ばれて来たとでもいうのか。

 

 「キマイラを倒せば収まるかも知れない!集中しろ!」

 

 リーガスの指示に全員が応える。しかし敵が増えすぎて徐々に連携が崩れ始める。オークキングもベイカーも強敵だが1人だったのに対して、今回は強敵に加えて複数の魔物。今までの戦い方が通用しない。

 

 「ッ!?皆様下がって!!」

 

 突如として上がった悲鳴のようなリミネスの声。反射的に後方に飛ぶ。次の瞬間目の前で爆発音が鳴り響き、煙が辺りを覆う。爆発が起きた中心には、焼け焦げた羽が散らばっていた。

 

 「まさか、爆撃鳥」

 

 ヨイチの言葉にみんなは顔を青くする。爆撃鳥。その名の通り的に突っ込み自爆する鳥の魔物。

 

 「グアアア!!」

 

 「くそっ!あの自爆鳥に注意する余裕なんかねえぞ!泥猫共をどうにかしねえと!!」

 

 ナックルの言う通りだ。爆撃鳥は危険だが、空に注意してばかりでは、地面の獅子、何よりキマイラを無視出来ない。今の所特に動く気配はないが。そう思った瞬間。キマイラはまた高らかに吠えた。その声に呼応するかのように爆撃鳥が一斉に此方に向かってくる。

 

 「ま、マズイですわ!」

 

 ルメアが叫ぶがどうしようも出来ない。さっきの爆破で数人が負傷を負った。恐らくあれが一度に爆破したらどれほど下がっても巻き込まれる。

 

 「全員前だけ向いてろ!!」

 

 そう叫んだニールは空中へ矢を射る。するとそれは光を纏い分裂しながら飛び散って行き自爆鳥を貫いた。

 

 「ニール!今のは!?」

 

 驚いた様子で尋ねるリーガス。それに対して膝をついてニールは答えた。

 

 「レオハルトから光魔法について教わった。だからそれを俺の弓に融合させて新しい技を開発したんだが、ちょっと気力と集中力持ってかれるから、まだ実用的ではないがな」

 

 声はハッキリしているが、辛そうな顔のニール。態度が大きく、俺様俺様とうるさいが、それ以上に高い実力と頼もしさがある。オークキングの時も、ベイカーの時も、そして今も苦しい時こそ彼は私達を助けてくれる。

 

 「俺様が優秀なのは知ってんだろ?それよりお前は周りを鼓舞してやれ」

 

 ニールの言葉にハッとするリーガス。私もすぐに剣を構え直す。

 

 「総員!各自敵を殲滅するんだ!決して油断せず確実に対処してくれ!!」

 

 リーガスの掛け声に応じて皆各々行動を開始する。

 

 「レオハルト、悪いが少し休む。俺様の代わりに援護してくれ」

 

 「任せてくれ我が友ニール。君はベルちゃんの側で休むといい」

 

 「別に、ビビりチビの側じゃなくても良いんだけどよ」

 

 後ろに下がったニールはリン達に囲まれて守られている。それを見届けた私も、土の獅子達に剣を振るう。

 

 「このっ!」

 

 剣は獅子の身体に入るが、斬り裂く事が出来ない。この獅子達、ただ硬いだけじゃなくて魔力を使って防御力を高めているみたいだ。ただの雑兵かと思ったけど、結構厄介だ。

 

「……ッ水刃の舞!」

 

 詠唱を終えると同時に水流が舞い、剣に収束する。そして水を纏った一振りで獅子は真っ二つになり、泥の様に溶けていった。

 

「やった!」

 

 しかし喜ぶのも束の間。剣が粉々に砕け散った。

 

 「そんな!」

 

 「ベルさんの生成魔法で作られた武具では、魔力を込めると耐えられず砕けてしまいます。耐久度もCランク程度でしょう」

 

 「す、すみません」

 

 ヨイチから説明されて納得したが、何もベルが悪いわけじゃない。

 

 「ベル!気にしなくて良い!君の武器が無かったら私達は一気に劣勢になってたから!ありがとね!」

 

 今にも泣き出しそうなベルに声を飛ばす。そしてヨイチを少し強めに睨む。

 

 「ヨイチ、状況があれだからって言い方考えてよ」

 

 「これは失礼。しかし、あの敵には魔力を込めた一撃が有効的なのは事実」

 

 反省してる様には見えないヨイチは、煙管のような杖を構え、数発炎の弾丸を獅子に放つ。怯んだ隙に、杖を引くと、刃特有のきらりとした光が見えた。そして、一瞬にして獅子は斬り裂かれる。

 

 「それ、仕込み刀だったんだ」

 

 「魔法の杖としても使えますし、便利ですよ。これが私が神来の儀にて与えられた武器《煙杖》」

 

 「……ん?てか何で自分の武器持ってんの?さっきまでなかったよね?」

 

 マラソンの時は普通に走ってたし、あんな武器隠せるとは思えない。何故?

 

 「おや?知らないのですか?神から与えられた武器《神器》であれば魔力をこめて祈れば、常に所持していなくとも召喚出来ますよ」

 

 何それ知らないんだけど!!

 

 

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