主人公探してます   作:エドモンド橋本

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いつもの日常へ

 

 オークキングを倒した事を確認した私達はそのまま倒れ込むようにして地面に転がった。洞窟の中は静まり返り、私たちの荒い呼吸だけが響いていた。

 

 「みんな……大丈夫?」

 

 掠れた声で尋ねると、皆無言でうなずいたり、呻き声を漏らしたりしていた。直接一撃を貰ったナックルや、攻撃を喰らいながらも洞窟を走り回ったラミスは、最早気絶寸前だ。その時ようやく気が付く。

 

 「今更だけど、何で洞窟にオークキングがいたんだろ?」

 

 「確かに。オークって、広い森林地帯に生息してるんじゃなかったっけ?」

 

 「オークの群れを束ねるオークキングが一体だけでこの洞窟にいたのも謎だ。逸れのオークならまだしも」

 

 「とにかく一旦落ち着きましょう。負傷者の治療が先ですわ」

 

 リミネスが立ち上がろうとするが、すぐにまた座り込む。彼女も相当な魔力を消耗している。まだ気力のあるリリィはゆっくりと立ち上がり、緊張が解けたからか泣きそうな顔で私たちを見渡していた。

 

 「早く学校に帰らなきゃ。私、動けるから教官や先生達を呼んでくるね」

 

 「待って下さい」

 

 ベルが弱々しい声で制止した。彼女の視線は洞窟の入口の方に向けられていた。

 

 「魔力を感じます……何かが来る」

 

 全員が緊張して顔を上げる。洞窟の入り口から微かな光が見える。松明の光?

 

 「生徒たち!無事か!?」

 

 聞き覚えのある声。魔法使いと騎士を連れた教官がいた。安堵のため息が漏れる。

 

 「教官……!」

 

 「急に高度な魔力反応があって来てみたが、何があったんだ?この洞窟には危険はないと報告が……」

 

 教官の言葉は途中で途切れた。彼の視線の先には、巨大なオークキングの屍体と首が転がっていた。教官だけでなく、他の騎士や魔法使いの顔からも血の気が引いた。

 

 「まさか……これを学生が?」

 

 「はい」

 

 リミネスが疲れた表情で答えた。彼女が簡潔に状況を説明すると、教官たちは信じられないという表情で互いの顔を見合わせた。

 

 「信じられない……オークキングがこんな場所に……しかも学生だけで討伐を……」

 

 魔法使いの一人が呟く。

 

 「とにかく生存確認だ。負傷者は?」

 

 教官の指示で騎士たちが私たちの様子を確認し始める。医療魔術師も呼ばれ、重傷のナックルとラミスの治療が始まった。

 

 「……レイン」

 

 オークキングの血を浴びた私も一度診てもらっていると、リミネスが声をかけてきた。

 

 「ありがとう……助けてくれて」

 

 「いや……みんなで協力したからでしょ」

 

 そう言いながらも、オークキングの首を刎ねた時の感触はまだ手に残っていた。あの瞬間の記憶は鮮明で、目を閉じれば生々しい映像が蘇る。忘れてしまいたい。でも、きっと忘れてはいけない。

 

 「レイン。俺からも礼を言わせてくれ。班長でありながら、君の判断に従っているだけだった。本当にありがとう」

 

 リーガスが疲労の色を濃くしながらも頭を下げた。

 

 「確かに判断したのは私だけどさ。ベルのゴーレム、ニールの弓。この2人がいたからってのは大きいよ。それにラミスとナックルの献身的な動きもそうだし。あの時リーガスの一喝が無ければ、きっと皆んな恐怖で思考が鈍ってたからね」

 

 私の言葉はみんなにも届いていたようだ。ベルとニールは俯いたまま。特にニールは相変わらずぶっきらぼうな態度だが、その頬は少しだけ赤い。

 

 「おう!感謝しろよな!!俺様の弓が無ければテメェら全員しんでたんだぞ!!」

 

 「ニ、ニールさん!そんな怖いこと言わないでください!!」

 

 ベルの抗議にニールが目を逸らす。こんな緊迫した状況でも彼らは普段のスタイルを崩さない。

 

 「まあ、確かにニールくんの命中率は学年トップなのは事実なんだし」

 

 「直前まで狼狽えてたけどな」

 

 リリィとロイドがニールを揶揄うと、周囲から笑い声が漏れる。緊張が緩和されていくのを感じた。

 

 「それにしても、こんな危険な任務を学生に任せた事、教官達が怒られるんじゃない?」

 

 ロイドが冗談混じりに言ったその言葉に教官は暗い顔を見せた。

 

「……調査不足により君達には本当に申し訳ない事をした。すまなかった」

 

 まさかの謝罪に発言した張本人のロイドは少し驚いていたが、教官の表情からは本当に申し訳ないと思っている気持ちが読み取れた。そんな教官を励ますようにナックルは満面の笑みを浮かべた。

 

 「気にすんな!!俺達は勝って、生きてる!!謝罪は要らねえよ」

 

 「その通りです。我々への謝罪よりも、何故調査が行き届かなかったか、何故この洞窟にオークキングが居たのか、それを調べるのが優先でしょう」

 

 「……ありがとう。生徒諸君。今日は本当にお疲れ様だった。とりあえず学園に戻ろう」

 

 教官に促され、私たちは立ち上がった。洞窟を出ると夕日が沈みかけており、橙色に染まった空が美しかった。しかし私の視界に映ったのは、オークキングの首を載せた台車。手に残るあの感覚。

 

   

 翌日、私たちの班は怪我や心労を考慮されて一日休みを貰った。とはいえ、あの恐怖を思い出してしまい、結局休めたとは言えなかった。

 

 「おはよう。レイン」

 

 リミネスはいつもと同じように迎えに来てくれた。彼女の顔には疲れの色が残っているが、明るい笑顔を浮かべている。

 

 「おはようリミネス。身体は大丈夫?」

 

 「はい、貴女が守ってくださったから」

 

 「おーーい!!レイン!リミネス!」

 

 大きく手を振って近づいて来たのは、包帯まみれのナックル。彼の側には、リーガス、ラミス、ベル、ニール、ロイド、リリィ、あの班のみんなだった。

 

 「2人ともおはよう。体の調子はどうかな?」

 

 リーガスの言葉に苦笑いしながら私は答える。

 

 「そこのミイラよりマシかな」

 

 「あっはは!そりゃそうじゃんね?」

 

 「むしろ何で歩けてんだよお前」

 

 リリィが楽しそうに笑い、ロイドはナックルに対して若干引いてる。私達は軽く談笑しながら教室に入ると、教室はいつも以上に騒がしかった。

 

 「おお!来たぞ!オークキングを討伐した3班の奴らだ!」

 

 「すげえな!お前ら!」

 

 教室に入るなりクラスメイトたちが驚いた表情で私たちに近寄って来る。しかし事件が事件の為か、好奇の目ではなく心配や尊敬が混じった視線だった。

 

 「リーガス様!ご無事で何よりですわ!」

 

 「怪我の方は大丈夫なの?」

 

 女子生徒が群がるようにリーガスの元へ行く。彼は疲れた表情ながらも紳士的に対応していた。ニールは壇上に立って自分が倒したのだとあの戦いを再現するかのように寸劇を始めた。それに待ったをかけるようにナックルが参加。そんな騒ぎの中、教官が入室してきた。全員席に着き、教室は静まり返る。

 

 「先日の一件について……まずは改めて謝罪する。調査不足により危険な目に遭わせてしまい申し訳なかった」

 

 教官の謝罪に一部の生徒がざわめく。

 

 「それで?オークキングが何故あそこにいたか判明したの?」

 

 ラミスが質問すると、教官は厳しい表情を浮かべた。

 

 「それについてはまだ調査中だ。すまない」

 

 「今回の件で被害に遭った生徒には特別措置がとられるとの決定が出た」

 

 教官の言葉に教室中がざわめく。

 

 「3班全員にS判定を出し、各自希望の宮廷魔導士の授業を受ける機会を与えたいと考えている」

 

 私達がオークキング討伐という功績を上げた事が評価されたらしい。これは通常の学年の評価ではあり得ない待遇だ。それに国王お抱えの魔導士から授業受けられるとか、まじか。

 

 「あ?魔法だけかよ」 

 

 「いや、希望があれば魔導学科のみならず、剣術や格闘術など最高峰の指導者が授業を行ってくれる」

 

 教官の言葉に再び教室が湧いた。これはつまり、国王陛下が私たちの働きを認めたって事だ。私の隣でリミネスも「本当に?」と小さく呟く。オークキングと対峙した時の恐怖はまだ消えていないのに、それが今となっては称賛されている。複雑な心境だ。

 

 「何度も言うが、3班諸君は本当によくやってくれた」

 

 教官がそう言って頭を下げると、リリィが手を挙げた。

 

 「教官、私、その評価辞退します」

 

 リリィの発言にクラス中が驚愕した。教官も目を丸くしている。

 

 「理由は?」

 

 「……私、怖くて何も出来なかった。ラミスちゃんや、ナックル君が必死に戦ってる時、見てるだけだった」

 

 リリィの声は震えていた。彼女の瞳には涙が溜まっている。

 

 「そうだな。俺も辞退します」

 

 リリィに同調するようにロイドも手を挙げた。

 

 「俺もみているだけだった。皆んなでオークキングを倒したっていっても、その皆んなに俺は含まれない」

 

 教官は2人の言葉に頷き、ゆっくりと口を開く。

 

 「分かった。君達が自身を認められないと言うのなら、評価は改めよう。だが君達は最後まで間違った選択を取らなかった。自分だけは助かろうと逃げ出さなかった。無闇矢鱈に攻撃をしなかった。その行動が全員の生存に繋がったとも言える。君達もまた立派に戦った。それだけは覚えておくといい」 

 

 教官の言葉にリリィは涙を溢れさせた。ロイドもまた目を顔を手で覆った。

 

 「私も、2人がいて下さって良かったと思います」

 

 リミネスがそう言うと、リリィは立ち上がって彼女に抱きついた。その光景を見て胸が暖かくなる。

 

 「俺は欲しいがな!S判定!!」

 

 「はっきり言うなあ」

 

 「まあ実際、ナックルは体張ってたし」

 

 ナックルの言葉に思わず笑い出すロイド。リーガスの言う通り、ナックルの言葉は否定出来ない。しかし意外だったのは、今回かなりの功労者であるラミスの発言だった。

 

 「そうね。でも教官、私も辞退したい。どれだけ動けても、結局オークキングは私で遊んでいたも同然。頑張ったとは思う。けど評価を得るにはまだ遠い。精進あるのみ。私はもっと努力して上にいく」 

 

 「わ、私もです。私、ゴーレム生成しただけですし、生成後は魔力尽きてお荷物でしたから。レインさんの指示あってのものですし、ナックルさんやラミスさんが引き付けてくれたお陰ですし」

 

 ラミスが辞退の旨を伝えると、その後に続き、ベルも辞退を決めた。

 

 「しょうがねえ。2人の分は俺が貰ってやる」

 

 「お前が貰ってどうするんだよ」

 

 ナックルが堂々と宣言し、ロイドが呆れたようにツッコミを入れる。しかし、さっきまで2人の会話に挟まっていた筈のリーガスは少し暗い顔をして手を挙げた。

 

 「それなら俺も辞退しようかな」

 

 「俺様は正当な評価だからな。辞退などしない」

 

 リーガスは辞退し、ニールは貰う事を決める。この流れ的に、私も辞退した方が良いな。実際、指示出して首切っただけだ。あの指示も思い付きだし、本当はもっと簡単に何か出来たかもしれない。

 

 「ああ〜、なら私も辞退します」

 

 私が手を挙げると、その手をそっとリミネスが掴んだ。驚き、思わず彼女の顔を見ると笑顔を浮かべていた。

 

 「貰っておきましょう。貴女が一番頑張ったんですもの」

 

 「ああ、君は受け取ってくれ、レイン」

 

 「レインちゃん居なかったら私らまじヤバかったし!レインちゃんは貰うべき!」

 

 リミネス、リーガス、リリィの言葉に他のクラスメイトからも次々と賛同の声が上がる。みんなが私の手柄を称えてくれている。正直実感はわかない。

 

 「流石にお前が受け取らなきゃ、俺も辞退する羽目になる。俺の為にも受け取っとけ」

 

 ぽんっとナックルに背中を叩かれると私は小さく頷いた。教官は静かに微笑み、頷いた。

 

 「了解した。評価はそれぞれ希望に沿って決定する。今回の件はこれで終わりにする」

 

 

 教官が話を終えて退室すると、クラスメイトたちが私たちを取り囲んだ。羨望や尊敬の眼差しを向けられるたびに気恥ずかしさで一杯になる。

 

 「ふん!オークキングを運良く討伐出来た位で、調子に乗らないでくれます?」

 

 教室の隅で大きな声を出したのは、ルメアだった。彼女は見下すような表情で私を睨みつけた。

 

 「何が気に食わねえんだよカレーパン」

 

 「んな!?私はルメア・フォラアルド・カリーペンでしてよ!!庶民は頭の出来も悪いようですわね!!」

 

 ナックルの言い間違いに激高するルメア。私も思ってたけど流石はナックル、言っちゃうんだ。

 

 「そもそも、オークキングの討伐なんて、リーガスさんやリミネスさんが評価を貰う為の嘘ではなくて?実際オークキングが居たなんて教官の方々しか仰ってませんわ。洞窟に単騎のオークキング、それを学生が討伐?どう考えても嘘くさいですわ」

 

 ルメアの言葉に、取り巻きの女子生徒達も「確かに」と小さく頷く。私は無言で彼女を見つめた。彼女の言う事には一理ある。でも嘘じゃない。確かに私たちはオークキングと戦った。

 

 「俺は恐怖で動けなかった。その情けなさが、お前わかんのか!?」

 

 怒りのあまり立ち上がったロイドを、ナックルとリーガスが止める。しかし、2人の目は鋭くルメアを捕らえている。

 

 「そうだよ、オークキングは、確かに居た。だか、ら、私は、怖くて」

 

 下を向いて涙を流すリリィをリミネスとベルが優しく抱き寄せる。いつもならうるさいニールも、静かにルメアを睨み付けている。ラミスは何も言わないが、殺気が迸ってる。

 

 

 「な、何ですのその目は!私、何かおかしな事を言っているかしら?皆さんがオークキングを倒した証拠があるのなら、私は謝罪致しますわ!」

 

 無理だ。オークキングの死体自体稀少なものだし、今回の事件わからない事だらけで調査中。国の調査団によって内密に保管されている。

 

 「やっぱり、何も出来ませんわよね?最近私の成績が良いからって、自作自演は流石に貴族として恥ずべき事ですわよ。おーほっほっほ!」

 

 ルメアは高笑いし、取り巻きの女子生徒と共に教室を出て行った。クラスメイト達も複雑な表情で自席へと戻っていった。

 

-----

 

 「くそ!!あいつ気に入らねえからって適当な事言いやがって!」

 

 「落ち着いて下さいロイドさん!」

 

 昼休憩、私達3班は中庭に集まっていた。

ロイドが怒りに任せて叫び、それをリミネスが宥める。

 

 「しかしまあ、確かに証拠もないしな」

 

 ラミスは冷静に状況を分析する。

 

 「あんなに怖かったのに、何で責められなきゃいけないんだろ」

 

 「リリィさん!大丈夫です!私達は責められるような事なんてしてません!」

 

 落ち込むリリィをベルが慰めている。私も何も言えない。ルメアの言葉が胸に刺さる。嘘じゃないのに、証明できない。

 

 「もう構うな!あんな高飛車女にケチつけられても俺様達は確かに戦った!お互いがお互いを認め合えれば、そ、それで良いだろ」

 

 だんだん声が小さくなっていくニール。照れてそっぽをむいてしまったが、彼の言う通りだ。私たちが経験した恐怖も、絆も、本物だ。

 

 「それにしてもルメアさんは何故そこまで疑うのだろうか。彼女は貴族の令嬢として誇り高い方だが……」

 

 リーガスが首を傾げる。

 

 「カリーペン家は最近調子がいいからな、名高いスパーダ家にアリシア家が合わせて手柄を上げるのが気に入らねえだけだろ。とことん小せえ奴だ」

 

 ニールは吐き捨てるようにそう言った。傲慢、では無くなったものの口は悪いな。

 

 「取り敢えず切り替えましょう。私達にはまだ学期末実習が残ってますし」

 

 リミネスの言葉に皆んな頷き、その場は解散となった。

 

 

 ———-

 

 王国暦296年10月15日

 

 担任を殺した犯人が獄中の尋問にて、ルメアの兄を殺害し逃亡した。その後、高位貴族の一族が立て続けに殺害された。

 

 犯人の名前はベイカー・リッキー。通称、殺戮道化師。

 

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