主人公探してます   作:エドモンド橋本

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走り出す僅かな正義感

 

 ベイカーの事件以降、ルメアは孤立した。取り巻き連中はもう無関係とばかりに、リミネスへと擦り寄った。当然そんな奴らをリミネスが信用するはずがない。あんなにうるさかったルメアも流石にショックが大きいのか、今ではしずかに席に座ったまま。

 

 「ベイカー・リッキー。殺戮道化師とは、何とも大層な呼び名ですね」

 

 そう言いながら私の席に来たのは、黒い髪に目張りのようなメイクをした日本人顔の少年。ヨイチ。

 

 「ベイカー・リッキーはルメアさんのお兄様を殺害して逃亡。ですが、ルメアさんのお兄様は若きエリート。そんな簡単に殺されるとは思えません。しかもベイカー・リッキーは当時拘束されていた。何故、どうやって殺されたんですかね?」

 

 「普段から飄々としてるとは思ってたけど、何でそんななぞなぞを私に?」

 

 ヨイチ。このクラスメイトには注意はしていた。明らかに日本人だし、この世界的に言動がイレギュラー過ぎる。雰囲気は怪しさ全開で、主人公とは言えないような見た目だった。

 

 「レインさんは、何やら常にクラスメイトを観察している様子でしたので、こんなお話は如何かなと思いまして」

 

 「ふぅん、ごめんけど興味ないかな。人が死んだ事を面白いとは思えないからさ」

 

 私はわざと興味が無さそうな返事をした。この少年の意図が分からない。

 

 「それは失礼しました。私は気になっているのですがね。レインさんは、一体何を、いや、誰を探しているのでしょうね?」

 

 ヨイチは薄ら笑いを浮かべて去っていった。彼の言葉は気になったが、今は自分の事で一杯だった。

 

——

 

 その後暫くしてからルメアは教室に来なくなった。病欠らしい。

 

 「クラスでデカい顔出来なくなったからですわね」

 

 「本当良いザマですわ」

 

 冷たい言葉が聞こえて来る。ああ、どこの世界でも変わらないな。

 

 「レイン、少し良いかしら」

 

 放課後、帰り支度をしているとリミネスが声をかけてきた。

 

 「勿論だよ。どうしたの?」

 

 「ルメアさんの事……少し気になるのです。様子を見に行きませんか?」

 

 「え……行くって、良いけど、私達じゃ出て来てくれないと思うよ?」

 

 「そうかもしれませんが、やはり心配です」

 

 「はあ、まあ行くだけ行ってみよっか」

 

 「ありがとうございます」

 

 私の言葉に満面の笑みを浮かべるリミネス。2人で並んでルメアの寮へと向かう。彼女やリミネスの寮は私とは違い、侯爵家の生徒達の寮は学校の直ぐ側にある屋敷。最早寮とは?となるレベル。門番数十人の間を進み、寮へと歩く。

 

 「レイン、緊張していますか?」

 

 「そりゃね、私みたいな偽物貴族なんて、こんな大貴族の屋敷緊張するよ。まあ、寮だけど」

 

 「偽物貴族?レイン、貴女のお父上、エレジー男爵は国の」

 

 「生徒証の提示をお願いします」

 

 リミネスは何か言い掛けたが、寮の入り口に立つ門番に止められた。2人で生徒証を提示する。

 

 「ルメア様の友人のアリシアと申します」

 

 「存じております。そちらは?」

 

 門番は私の姿を見て怪訝そうに眉をひそめた。かなり警戒されている。

 

 「私の友人ですわ」

 

 リミネスは丁寧にしかしどこか不機嫌そうに答える。

 

 「では、こちらへ」

 

 案内人に促されるまま、私達は屋敷の中に入った。大理石の床に壁には幾つもの絵画。階段を上り廊下を歩き突き当たりの部屋。その前に立つメイドに案内人はルメアの客人と紹介した。

 

 「お嬢様のご友人ですか?」

 

 「はい。彼女のクラスメイトです」

 

 「ではご案内いたします」

 

 メイドは扉を開いて私達を部屋の中に入れた。部屋付きのメイドはルメアの家から連れて来ているのか。

 

 「お嬢様、お客様です」

 

 「ここがルメアの部屋」

 

 流石と言うべきか、豪華絢爛丸出しの部屋。何の意味があんの?って装飾まみれ。てか広い。

 

 「お嬢様?」

 

 首を傾げるメイドさん。視線の先には大きなテーブルに置かれたティーカップ。いつ淹れたものかは分からないが、中身は一切減っていない。

 

 「寝室、でしょうか」

 

 メイドさんは寝室の方へと歩いていった。ノック音とメイドさんの声が聞こえる。

 

 「え?お嬢様?」

 

 明らかに異変が起きている。そう考えた私とリミネスは寝室へと向かう。躊躇わず中に入ると、開け放たれた窓、立ちすくむメイドさん。

 

 「ど、どうして、お嬢様」

 

 「窓から、自殺ではない。逃げた?何の為に?」

 

 ルメアは例の事件以降明らかに暗くなった。兄弟の死、当然だろう。考えたくは無いがまさか。

 

 「レイン、これ」

 

 リミネスが見せて来たのは机に散乱していた書物。その中でもリミネスは新聞と地図に手を伸ばした。

 

 「マークされている地図の位置。新聞に書かれている場所です。記事の内容は」

 

 「ベイカー・リッキーが事件を起こした場所」

 

 ルメアは殺人鬼の事件現場を細かく地図に記していた。彼女がそんな事をする理由は、1つしかない。

 

 「ルメア、ベイカーを」

 

 「可能性が高いです」

 

 「そ、そんな、お嬢様」

 

 「メイドさん!急いで学校に報告を!」

 

 私はそれだけ伝えて部屋を飛び出す。ルメアはベイカーへ復讐しようとしている。彼女は高飛車で傲慢、正直にいうと嫌な奴。そんな彼女の復讐。こんなの作中そこそこ大きなイベントだろ。何せ先生を殺害した犯人が一度捕まってからの脱走。その後も何人もの貴族を殺している。正直関わりたくは無い。でも、嫌な奴でもルメアは助けなきゃ。

 

 「レイン!」

 

 私の後を追って走って来たリミネスは、息を切らしながら私の腕を掴んだ。

 

 「はあ、は、は、ルメアさんは、恐らく、西部チャルス街に向かったと、思います」

 

 そう言ってリミネスは彼女の部屋から持って来たであろう地図と新聞を見せて来た。

 

 「ベイカーは脱走後、西に向かいながら事件を起こしています。西に行く道すがらの殺害なのか、意図しての事かは分かりませんが、事件の時期と逆算すると、遅くても明日の夜には、西部チャルス街に現れる。恐らくルメアさんはそう推測しています」

 

 西部チャルス街。移動するのに2時間はかかる。既に日は沈んでいるし、門限を破れば説教だけでは済まない。それでも。

 

 「私はこのまま追いかける。リミネスは、もう寮に」

 

 「私も行きます」 

 

 力強い瞳で私を見つめるリミネス。きっと、何を言っても無駄だな。

 

 「反省文で済むかな?」

 

 「ふふ、どうでしょうか?」

 

 「リミネス、分かっていると思うけど、私達はルメアを連れ戻すだけ」

 

 「はい、理解しています」

 

 「じゃ、迎えに行こうか。高飛車お嬢様を」

 

 私達は暗くなり始めた道を歩き出した。

 

 

 

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