「大通りに押し出すぞ!」
「リーガス!ラミス!下がれ!!俺がやる!!」
「ッ邪魔くさい子供達だ」
リミネス、ルメア、レインからベイカーを引き剥がしたのは、クラスメイト達だった。
「リミネス様、ルメア様、ご無事ですか?」
「お怪我はありませんか?」
「マリア様!カトリーナ様!レインが!レインが刺されて!!」
リミネス達の元へ駆け付けてきたのは、クラスで最も回復魔法を得意とする2人。侯爵令嬢のマリア・アドマン・ロールと、修道服に身を包んだ少女カトリーナだった。2人に縋り付く様にレインの治療を依頼するリミネス。
「腹部はそこまで深くはありませんが、傷口が広いですね」
「背中の方はかなり深くまで刺さっています。腹部の傷を塞いでから、背中の短剣を抜き取りましょう」
冷静にレインの症状を確認するマリアのカトリーナの姿に安心するリミネス。
「腹部の方は傷口を消毒してから塞ぎます。カトリーナさん!お願いします」
「了解です。ではまず傷口に水をかけて綺麗にしましょう。水の精霊よ。汚れを洗い流す清らかな水を。浄化の雨」
カトリーナが治癒の呪文を唱えると、小さな魔法陣がレインの傷の上に現れ、温かい雨が降り注ぎレインの傷口を洗っていく。その後傷口の周りを布でしっかりと拭き取り乾かす。
「薬草を調合した軟膏を塗ります。傷口の消毒効果があり、化膿を防ぎます」
「あれ?それって」
マリアが取り出した軟膏は、ルメアの足の応急処置に使ったものと同じであった。その事にルメアは反応するが今は治療に集中するために口を噤む。
「では今から傷口を塞ぎます。皆さん一旦離れてくれますか?」
マリアの指示に従い少し離れる2人。マリアは深呼吸をして集中力を高める。
「生命の根源よ。大地に芽吹く植物たちの力を借りて、この傷を癒してください。緑の祝福を」
マリアが呪文を唱えるとレインの腹部に小さな魔法陣が現れ淡い緑色の光が漏れ出し傷口を覆う。すると傷口が徐々に塞がり出血が止まった。そして数秒程経過した後完全に傷が塞がった。
「よし!これで腹部は完璧です。今度は背中の方ですね」
マリアの治療は続くが、背中にある短剣が原因で思うように動けない。その間にも他のクラスメイト達は協力し合いながらベイカーとの戦いを続けている。
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レイン達が西部チャルス街へ向かった数分後。
「はあ、はあ、お嬢様、お嬢様!」
ルメアのメイドが下級貴族や庶民生徒達が使用する寮へと走っていた。
「あら?ルメア様の、メイドさん?どうかされたのですか?」
カトリーナと談笑する為に来ていたマリアは、この辺では見慣れないルメアのメイドへと声をかけた。
「マ、マリア様!ルメア様が危ないんです!!」
ルメアのメイドから事情を聞いた2人は直ぐにクラスメイト達を集めた。ルメアが危険だと言う事と、ルメアを追ってリミネスとレインが西部チャルス街へ向かったと言う事を。
「皆さん!私達も行きましょう!先生達に報告はしましたが、騎士団が動くまで時間がかかります。その前に私達だけでも」
「放っておけば良いのでは?」
マリアの必死の提案は、ルメアの元取り巻きに一蹴された。ルメアがクラスで孤立し始めてから、今までずっとそばにいた彼ら彼女らは、ルメアの孤独を見て楽しんでいた。そのためルメアを助けに行くことに賛成しなかった。
「私達の使命は、国に仕え民を守る事。たとえ仲違いしているクラスメイトでもそれは変わりません。皆さんの気持ちは充分に理解しています。ですがここは協力して頂けませんか?」
マリアは真っ直ぐに全員の顔を見た。
「ああ、当然だ。直ぐに向かおう。準備をしてくる」
力強い声色で前に出たのは、リーガス。彼は剣と荷物を取りに部屋に向かった。
「リーガス様」
「俺も行くぞ!」
「当然、私も」
「レインちゃんも、リミネスちゃんも、見捨てられない。色々言われたけど、ルメアちゃんもクラスメイトだもん!」
「謝罪なら後で貰おうぜ。俺も行くぜ」
ナックル、ラミス、リリィ、ロイド、レインと共にオークキングを討伐したメンバーが続々と協力すると言って準備をしに行った。
「俺様は行かない」
「い、行きましょうよ〜、ニールさん。レインさん達の為にも」
「……まあ、そこまで俺様の力が必要というのなら、仕方がない」
誰もそこまで行ってはいないが、ニールは偉そうにふんぞり帰って部屋へ準備へ向かった。ベルも慌てた様子で部屋へ向かう。その後も、
宰相家の嫡男 ジャック・オル・ティモシー、その付き人リューロン
四大公爵家ヴァーミリオン家の次男 クロード・ルイ・ヴァーミリオン
同じく四大公爵家ゴールデン家の嫡男 レオハルト・ゴールデン
王国騎士団団長の娘 アレン・ルナ・ウォーリア
イーサン男爵家の令嬢 ロゼ・トール・イーサン
鬼人の姫 モモカ
王国初の獣人貴族ラッカー子爵家の令嬢 リン・ラッカー、その付き人のベアゴンとアンナ
王国会計士の1人息子 アーロン・カルトリス
宮廷お抱え大工の長男 ヴァン・オータル
出自不明行動理解不能 ラギ・モンドルト
出自不明睡眠不足 カイ・サモン
個性の強いクラスメイト達が次々準備に向かった。元取り巻き達は、名家の人間や、有名なクラスメイト達がルメア救出に名乗りをあげる事に信じられない様子だった。
「カトリーナさん」
「ええ、皆さんやっぱり優しいですね」
「本当ですよね〜」
「きゃあ!ヨイチ様、驚かさないでくださいよ」
「これは失敬」
マリアとカトリーナの間に割り込む様に顔を覗かせたのは、日本人顔のクラスメイト、ヨイチ。
「私も同行します」
「それは助かります。ですが、その、何か言いた気ですね」
「出発後、皆さんにお話しします」
そう言ってヨイチも準備に向かった。既にリーガスやナックル達は荷物を纏めて門へと向かっている。元取り巻き以外全員が揃って出発したのは、レイン達が出発した1時間後だった。そして道中ヨイチが話した内容に、皆息を呑んだ。この先自分達が戦う可能性のある存在が、どれほどイレギュラーな存在なのか。
「ベイカー・リッキー。20年前、王国南部の町で毎日1人ずつ子供を殺害し、100人目には自身の息子を殺した。その日の内に、その街の人間全てを殺し、建物全てを破壊。一晩の内に国から町一つ消した。その後、各地で事件を繰り返し、国が内密に追い続け、都市伝説の様な存在になった。それが殺戮道化師の誕生だ」
クラスメイトの名前はまだ覚える必要ないです。