恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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虫、処により蟹が降るでしょう

 

 

「いッ……イヤァァァァァ!!!」

 

 絹を裂くような、とでも言うべきか? のっけからプレイヤーにとってはなかなか剣呑な展開だ。

 

 耳的にも。あと、視覚的にも。

 

『……えーい、やかましい! ユイ! 操縦桿から手を離すな!! 樹の幹にでもぶつかって、ゲンゴロウが墜落したらどうする!!』

 

「だって、だって、だって、何よあれぇ……!」

 

『アレは[プロトファスマ]だ。昆虫類の半分近くを含む[多新翅類]の中でもかなり初期の部類、バッタ目と、ゴキブリやカマキリを含む網翅目との共通先祖に近いところに居るひとつにすぎん。ゴキブリ亜目が現れるのは数千万年後のペルム紀で、この時代にはまだ存在自体してないんだから、いちいち騒ぐこたあない』

 

「そ、んなの、ほとんどゴキブリだってことじゃない……!!」

 

 ポップアップの不意打ちに仰け反っていたユイは、辛うじてゲンゴロウの赤いボール状の操縦桿を握り直したものの。顎を斜め後ろに引きっぱなしで、正面モニターから必死に目を逸らそうとしているのが丸わかりである。

 

 ……まぁ実際、コレ、無理な人には相当無理めな絵面ではあるかと思う。グロ注意。かわいそーに。

 

「1メートルくらいあるゴキブリの群れなんて聞いてないわよう……もうやだぁ」

 

 

 

 バーチャル世界の作用で拡大されてバカでかくなった、低木性シダ植物の草むらのそば。長く伸びた二本の触覚を動かしつつ。何かの巨大な抜け殻の内部や、その周りをカサカサと這い回っている。

 

 ややのっぽというくらいで、ほぼほぼ見た目がGの、茶色い集団。エラー発症済み。

 

 

 

『今のお前たちが相対的に縮んでるってだけで、本来は15センチ程度の生き物だ。石炭紀は昆虫類などの陸上性無脊椎動物が大型化を極めた時代だが、メートル単位に至ったのはせいぜいが半陸生のウミサソリと、それからヤスデの親戚くらいだから安心しとけ』

 

 虎哲は虎哲で、相変わらずといった感じだなあ。解説してくれてる内容自体は、たいへん有り難いんだけど。

 

『ほれ、とっとと局所性エラーの凝集地点に近づいて、新入りを降ろすんだ。グズついてたらそれだけ状況は悪くなる。バーチャル世界側は、そう長いこと待っちゃくれんぞ!』

 

「それで、何が、どう安心なのよ……。虎哲の意地悪!」

 

 

 

 彼が『ジーンダイバー』劇中で、スパイ疑惑を掛けられた折に。一旦疑われだした途端に雪だるま式に不信を買いまくって、またたく間にドツボにハマりかけた理由が良くわかるシーンでもあるかと思う。

 

 感情豊かでありながら、人工知能らしい怜悧さをも備わっている。そう言えば聞こえは良いものの。実態としては感情的な部分についても、判断の合理性についても。どちらもどことなく「設えたような感じ」が見え隠れする。

 

 

 

 これもまた、いわゆる不気味の谷現象の一形態だと見るべきなのかねえ。いかにも過渡期の、顧客満足度低めなAIってふうで……他山の石、とでも言っとくべきか。

 

 

 

 現実世界(リアル)の機械学習プログラムが「ヒトらしさ」を高めるにあたり、過去、似通ったコミュニケーション・エラーが頻発するフェイズがあったってことは、皆さまご承知おきのとおりである。

 

 ホント、このバーチャル三部作。20世紀末のフィクションとしては、先見の明ってやつが有り余ってる気がするぞ。

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、全力で腰が引けつつも。ユイがなんとか左手を伸ばし、操縦席の正面にある、逆三角形のコントロール・パネルをポチポチといじる。

 

 すると、モニター正面に出ていた拡大ポップアップが一転非表示となりまして。さっきまで画面のバックヤード部分に下がっていた映像。主に初期の維管束植物である[リンボク]の巨木で構成される、石炭紀中期、凡そ3億3000万年前の原生林の姿が大映しとなった。

 

 

 

 樹海の合間で滞空しているゲンゴロウの高度は、実測値で地上から15メートル少々。それでもようやく平均的な一本の、幹の半ばあたりに達するかどうかだ。

 

 ただでさえリンボクは、現代の針葉樹に引けを取らない太さと樹高を併せ持つ。それに加えて7倍近くにまでサイズが拡大されているせいで、もはや山か何かのような圧倒感が押し寄せてくる。

 

 

 

 根を除いた全体に光合成を司る葉緑素が分布しているため、葉だけでなく、幹までもがくすんだ緑色を帯びている。

 

 また、幹半ばに枝分かれした側枝などは見られず。小葉植物らしい細い葉が、てっぺんだけで複雑に絡み合っており、遠目には苔色の巨大なキノコか。もしくはこんもりとした傘のように見えているかと思われる。

 

 

 

 

 

 

 その異様なサイズ。風変わりなシルエット。加えて葉の群れが陽光を遮る薄暗さや、飛び交う胞子で淀んだ空気も相まって。

 

 さながらダークファンタジー世界のコンセプト・アートを思わせる、そんな光景。

 

 パンゲアの前身たる、[ユーラメリカ大陸]の北部大森林。実に壮観だ。

 

 

 

 ……もっとも、目的地=ステージ開始地点の近くが、右上のサブウィンドウ画面に引き続き表示されている。そこには先程よりもやや遠景ではあるものの、エラー発症プロトファスマの群れが、バッチリ映されていたりもするんだが。

 

 ゴソゴソ、もぞもぞ。

 

「うぅッ……ごめんなさい、リックさん。出来るだけ近づくけど、前までよりはちょっと、遠くなっちゃうと思う。出来るだけ、頑張るけど……」

 

 

 

 

 

 

 お馴染みのジェスチャーでの応答の後に。コックピットから出て、ゲンゴロウの後部ハッチに向かうリックくん。

 

 苦笑いこそ浮かべていたけれど、彼自身としては、そこまで生理的嫌悪を覚えているってふうではなさそうだった。

 

 

 

 リックくんのキャラクター上の性別は♂だが、もしこれが仮に♀プグラだったとしても、VWO主人公としてのリアクションは何ら変わらないはずである。

 

 『ジーンダイバー』劇中のティルも、三畳紀で[エオラプトル]――「夜明けの泥棒」の名前を持ち、『恐竜惑星』『ジーンダイバー』双方に出演しているこの恐竜。20世紀末には獣脚類の祖先だという説が大勢だったのだけど、どうも最近の研究だと、原始的な[竜脚形類]じゃないかと言われているらしい――にボリボリ食われているゴキブリを前に、平然とバンパイアーをぶっ放してDNAの採取を済ませていた。

 

 

 

 おそらく祖先の土中生活が長かったであろうプグラシュティク。ヒト種に比べると、モゾモゾ系への抵抗感が薄い傾向があるんじゃないかねえ。

 

 もちろん個人差もあるだろうが。ていうか、プレイヤーキャラクターが他種族、つまり仮にユイと同じヒト種の女性であろうと、このシーンではリックくん同様の反応のはずだから。そこまで細かく対応が分かれてないってだけかとは思うけれど。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 このワールド4の第4ステージ。難易度は比較的低めだし、マップのギミックもしっかり練られている方だ。

 

 理不尽さも薄い。メリハリもある。作り手の配慮が行き届いた、良ステージ足りうるだけの基礎力を秘めているわけだった。

 

 

 

 が、しかし。そのポテンシャルに反して、プレイヤー側の評判はわりと悪かったりする。理由はー……まぁ、うん。

 

 

 

 

 

 

 冒頭で虎哲が述べていたように。石炭紀は虫の時代とも呼ばれ、様々に分化した陸上無脊椎動物たちが、後世とは一味違った独特の生態系を築いていた。

 

 当時すでに両生類は陸上に進出を果たしていたし、もう一千万年と少しもすれば、後の爬虫類や哺乳類につながる[有羊膜類]――羊膜というのは卵の殻の下で胚を覆っている半透明の膜のことで、卵の内部と、外気との間のフィルターの役割を果たすもの。これが備わったことで初めて、脊椎動物は陸上での繁殖行為が可能となった――も現れ始める。

 

 

 

 それでもこの時期。まだまだ彼らは、陸上食物連鎖における端役のひとつに過ぎなかった。

 

 石炭紀中期のメイン・キャストたる、節足動物や初期の昆虫たち。早くも現生のものに見劣りしない小型化された機能美を身に付けていた一方で、彼らは、今となっては思いも寄らない大型化の道をも歩んでいたんだな。

 

 

 

 実際にステージ中にも敵としてアレコレ登場するけれど、当時最大のトンボである[メガネウラ]は翼開長で60cmを超えるものがおり、日本最大種のオニヤンマと比べると十倍以上。

 

 さっきから画面上で食欲の減退に多大な貢献を果たしている、ゴキブリもどきの多新翅類プロトファスマにしても。南米に生息する現生ゴキブリ最大種のよっぽど上を行っている。

 

 

 

 また、ヤスデの仲間である[アースロプレウラ]に至っては、最大体長が2メートルオーバーという驚きの巨体を誇っていた。

 

 これは陸生の無脊椎動物にしては史上最大のもので……ちょっとネタバレになってしまうが、先ほどプロトファスマがタカっていたバカでかい灰色の抜け殻も。実はこのアースロプレウラが脱皮して、脱ぎ捨てた残骸だったりするのだった。

 

 

 

 

 

 

 節足動物や昆虫が、これほどまでに巨大化できた理由については、主に二つの説が挙げられている。

 

 まず、彼らを捕食する外敵が少なかったおかげだというもの。ある程度大きく育っているが性成熟は済んでいない、中途半端な成長段階でパックリいかれて死亡、というケースをさほど考慮せずに済んだこと。

 

 それからもう一つは、往年の地球における空気中の酸素濃度が、現代と比べて倍近く高かったことである。

 

 

 

 シルル紀の初頭に地上世界への上陸を果たした植物は、年代を下るごとに徐々に多様性を獲得していった。

 

 始まりは淡水を淀ませる藻類に毛も生えない程度に過ぎなかったものが、次のデボン紀の半ばごろには、複雑な階層構造を持つ森林地帯を形成するほどにまでなっている。

 

 そこからさらに年月を重ね。ここ石炭紀中期に至って、植物は、ご覧の通りの大森林を築き上げられるだけの下地を、とうとう手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ただし。この時期はまだ、大森林の循環サイクルには、密かに大穴が空いていたんだな。

 

 その穴底へと継続的に落っこちていったのは、主に炭素である。

 

 植物の細胞壁を構成する木質素(リグニン)を分解可能な、キノコなどの菌類が未発達だったために。当時の木々が寿命を迎えて単なる炭素化合物の塊と化したとして、きちんと分解されることなく、大半がそのまま土中に埋没してしまう。

 

 

 

 地下深くで長年を経るうちに変成作用を起こし、炭素成分が凝集する。そうして木々の屍は、いつしか真っ黒な石炭へとその姿を変える。

 

 

 

 石炭紀という名前に相応しく。近現代に産出する石炭の多くは、この時代に埋没した木々が大本になっているってわけだ。

 

 リグニン分解酵素を持つ[木材腐朽菌]が登場する石炭紀末期まで、この傾向は長らく続いた。

 

 

 

 良く良く知られていることだが、植物は成長ないし体組織維持のための炭素化合物を手に入れるにあたり、光合成の過程で、大気中から二酸化炭素を都度ごと取り除いている。

 

 現代におけるスタンダードな循環サイクルの中だと、死んだ植物が枯れゆくなかで、植物体を構成していた炭素化合物の大半が菌類によって速やかに分解(生物風化)され。元通り二酸化炭素として、大気中に戻されることになっている。

 

 

 

 ところが、当時は温度変化や水などによる非生物的な風化によって分解しきれなかった炭素化合物は、どんどん土中に埋没していったため、大気中の二酸化炭素は減る一方。

 

 そしてその裏で、光合成の副産物たる酸素はひたすら増えていくばかりだった。

 

 

 

 事実上、サイクルがサイクルとしての体を成していなかった。

 

 石炭紀初期からペルム紀後期にかけて、実に一億年に渡って続いた[カルー氷河時代]は、この循環の綻びによって引き起こされた結果であると考えられている。

 

 大気中の二酸化炭素が減りすぎて、温室効果がたいへん弱まってしまっていたんだな。

 

 

 

 

 

 

 現代の大気中の酸素濃度が21%前後なのと比べて、石炭紀の末期は、実に35%近くにまで達していたそうだ。

 

 この酸素高濃度な大気組成のおかげで。スケールアップさせると性能が今ひとつになる昆虫類の酸素供給システムでも、巨大化した身体に必要物資を十分行き渡らせることが出来ていた。そういった見積もりが上がっている。

 

 

 

 ……ただまぁ、このあたりについても諸説あって、まだまだ断定は出来ないんだよなあ。

 

 前述の分解菌が登場し、だんだん酸素濃度が下がっていた前期ペルム紀以降にも、メガネウラを含む大トンボ目はかなりの期間に渡って残存していただとか。反論、反証、なくもなしだ。

 

 

 

 なんだかんだ、比較的大型の(つまり超大型の昆虫等と直接的に競合する)脊椎動物が台頭したことによる、淘汰圧が大きかったってだけなのかもしれない。

 

 そのへん、今後のさらなる議論の進展が待たれるところかと思われる。

 

 

 

 

 

 

 ステージ開始地点からやや歩き。さっさとプロトファスマの群れを片付けたら、次は幹に巻き付いている寄生植物のツルを足がかりにして、近場のリンボクの樹を登ってゆくことになる。

 

 よじ登った先に、樹の樹洞(うろ)――基本的に樹洞って、もげた枝なんかが起点となって出来ることが多いから、リンボクみたいに側枝のない初期の維管束植物に在るのかっていうとかなりアヤシイ感じはあるな。内部に人工物まがいの不自然な足場が設けられていることも含め、このあたりはマップデザイン上の都合ってやつだろう――がぽっかりと開けているのが目に入る。

 

 

 

 うろの入り口を潜ると。そこからは木造りの洞窟めいた薄暗い空間がしばらく続く。

 

 材木から荒く削り出したようなオブジェクトがあちこちにあって、その物陰には、初期のムカデや、大サソリ、[ワレイタムシ]というクモ類の近縁などが潜んでいる。

 

 一定のポイントまで進むごとに、身を潜めていた連中が矢継ぎ早に襲ってくるってわけである。

 

 逐次撃退しつつ、螺旋状に続いている内部の足場を、だんだん上へと進んでいく。足場はやがて別のうろの出口へと行き着き……その先は、またもや外伝いのツタの上を往くことになるのだった。

 

 

 

 ツタを伝っているときも、安全とは言えない。

 

 前述のメガネウラが、白亜紀の大型翼竜もかくやなサイズになって何度も襲撃してくるのをやり過ごしたり。

 

 P-T境界で目レベルで消滅してしまい、後世までその血脈を残せなかったために、現代目線だと非常に風変わりな見た目をした[ムカシアミバネムシ]の編隊に応戦したりする必要が出てくる。

 

 

 

 

 

 

 そうやって、逃げたり戦ったりを場面場面で繰り返しながら。ツタを伝い、また別のウロの中を行き。やがて、リンボクの葉っぱが密集している樹冠部にまで辿り着く。

 

 てっぺんで絡み合った細い葉は、外縁部から中央にかけて盛り上がったシートのようだ。普通に土足でその上にあがり込んで、あっちへこっちへと歩き回れるようになっている。

 

 

 

 現実的に考えると、たとえ自分が1/7サイズになっていようが、樹木の絡み合い部分を歩こうとしたら下半身が枝や葉っぱの隙間にめり込んで身動き取れないか、もしくは足場を丸ごとブチ抜いて真っ逆さまが関の山だろうが。

 

 まぁ、この点もまたゲーム的な演出ってことでスルーしておこう。

 

 

 

 広々と開けた緑一面の上にて。登り道中に散々嫌がらせを重ねてくれた、にっくきメガネウラと雌雄を決する。

 

 道中と同じく、ヤツは上空から突っ込んで来ては離脱する、ヒット・アンド・アウェイ戦法を仕掛けてくる。

 

 どうしてもカウンター気味に戦っていかざるを得ないはずだ。対空方面に強いスキルが無いとしんどいだろうから、事前のセッティングには要注意である。

 

 

 

 

 

 

 中ボス扱いの巨大トンボを撃墜すると、めでたく次エリアが開放される。

 

 樹冠のふち。別個体の樹冠同士が互いに絡み合い、半ば一体化している部位を伝ってゆくことで、隣の樹に歩いて渡れるようになっている。

 

 

 

 登りとは異なり、滑り台みたいになったツタを使うことで下り道は一瞬だ。結局、大樹が二本でコの字を立てたような形のルートを踏破して、再び苔むす地上へと降り立つ。

 

 そして、いよいよステージの最後には、史上最大の節足動物と言われる巨大ヤスデ。拡大されて全長20メートルと見紛う巨体となって伸し歩く、一頭のアースロプレウラとの対峙に至る――

 

 

 

 

 

 

 ……うん。まぁ、なんだ。

 

 

 

 虫、虫、虫。もー、目白押し。

 

 

 

 こんなもん、評判が良くなろうはずがないんだよなあ。ゴッキー、大サソリ、クモもどき。植物食の空飛ぶヤゴに、ムカデに、ヤスデぇ?

 

 マシなのはトンボくらいだろうけど。サイズがサイズだし、メガネウラって原生種のトンボと比べて顔面も胴体も異様にぶっといから、マァ見た目からしてバケモンだ。

 

 

 

 えっちらおっちら巨大樹を登り、頂上で周辺を見晴らかす。その後、一気に地上まで下ったところで、行きがけに抜け殻を見かけたアースロプレウラ本体と邂逅する。

 

 そんな一連の流れ自体は、なかなか良く出来たステージ構成ではあろうかと思う。

 

 

 

 石炭紀の森の、木々や草の胞子にまみれた斑色の視界の悪さが不気味さとメリハリを作り出し、マップ全体の特色ともなっている。

 

 道中のアスレチックも程よい難易度。足を滑らせても別のツタや張り出しに引っかかるので、そうそう即死しないようになっているのは加点要素と見るべきだろう。

 

 相手取る敵のバラエティも豊かだ。場面場面でプレイヤーをびっくりさせてくれつつも、理不尽さを感じさせない出現タイミングがしっかりと考え抜かれていた。

 

 

 

 が。これまでにない視覚への暴力っぷりに、多少の良マップ要素なんぞ、焼け石に水というのもまた事実。

 

 

 

 ユイみたく、虫系がダメな方には鬼門かと思う。ていうかそこまでダメじゃなかろうといい気分はしない。グロいっつうのな。

 

 幸い、総合的な難易度は低めなので、心を無にして走り抜け、サクッとクリアしてしまうが吉なんじゃないかね。

 

 

 

 ぎゃーてーぎゃーてー、はーらーぎゃーてー。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 ……てなわけで、ステージボスのアースロプレウラ撃破であるよ。お疲れ様でしたっと。

 

 やっぱりそこまで強くはなかったなあ。動きはワンパ、火力ほどほど。目算でジュラ紀の竜脚類並の巨体に反して、HPも言うほど高くない。

 

 全力でわさわさしている見た目以外は、癒やし系ボスだと言ってしまってもいいかもしれない。残念ながら、その見た目だけでマイナス二百万点の不快ボスだけども。おのれー。

 

 

 

『やっと、終わり……?』

 

 ゲンナリ顔のユイのポートレートが、緑色のウィンドウ脇に表示されている。

 

 本ステージの道中、彼女もゲンゴロウの武装を用いて援護行動をしてくれていた。暴力沙汰に消極的な彼女なりに、あくまでレーザーの牽制射撃で敵の接近を阻んだり、道を塞ぐオブジェクトをミサイルで破壊してくれたりといった間接支援に留まっていたが。

 

 

 

 だと良いんだけど、とでも言わんばかりに。リックくんがゲンゴロウの正面部に向かって、ドリル付きの片手を半端な角度で掲げてみせる。

 

 と、そのとき。背後の頭上、木々並ぶ樹海のど真ん中に、ピンク色にきらめくタイム・ホールがいきなり開けた。

 

 

 

 ホール独特の開放音に、リックくんが鋭い動きで振り返る。

 

 円形のサイズはせいぜい直径数メートル。基本的に大質量に用いられることの多いタイム・ホールにしては、かなり小さめの規模だと言える。

 

『まだ何かあるの……。あっ!』

 

 一転、パッとした表情になって声を上げるユイ。ホールの奥から現れたのは、半球状に膨らんだ、濃い赤茶色のゴムのような物体だ。

 

 

 

 なんか、縁のところにひし形の顔と、四隅にそれぞれ手足っぽいものが付いている。パラシュートみたいに空気抵抗で落下の勢いを殺しつつ、そこそこのスピードで降ってくる。

 

『ドライさん!』

 

 謎の物体も良いところだけど、あれ、ちゃんとした味方なのでご心配なく。

 

 

 

 

 

 

 ドライ・シックス(6)。バーチャル世界内部での『ジーンダイバー』レギュラー陣、最後のひとりだな。

 

 エウロパ人の「統率者」と呼ばれるリーダー格。劇中で正式に仲間入りしてくれたのは、ストーリーも終盤近くになってからだが、その身体的な特徴を活かして数多くの場面で大活躍……ていうか、体の良い壁役にされていた。

 

 

 

 彼らエウロパ人は、カニのような基本形をベースに、今使っているゲル状のムササビモードや、防護膜代わりに何かしらを包み込む球体。ついでにコミュニケーション用のヒト型など、様々な形態を臨機応変に使い分けることが出来る。

 

 おまけに、海中だろうが、真空状態だろうが。強度紫外線だろうが放射性物質だろうがお構いなしだ。

 

 

 

 驚きの頑健性。非常識と言ってもいい。設定上の身体機能の水準に限れば、彼らは他種族と比べて、何歩も先を行っている高次生命体だと言えるだろう。

 

 もちろん、ゲーム中では順当にバランス調整で弱体化(ナーフ)食らってるため、そこまで隔絶した能力は持たされていないんだけども。それでも彼、ストーリー目線だとバッチリ頼りになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 場面一転、ゲンゴロウ内部。ユイが操縦席の右側から身体を乗り出し、後部出入り口に向かって明るい笑顔を見せた。

 

「ドライさん、無事で良かったわ!」

 

「ええ、ユイさんも。……こちらの方は?」

 

 リトル・グレイまがいのヒト型を取り、後部出入り口から入ってきたドライ・シックス。彼が視線を向けた先には、片手を半ばまで上げ、笑顔で友好の意を示す、武装解除済みのリックくんがいる。

 

「えっと。今はフォロル族の基地に所属してる人で、リックさんっていうのよ。プグラシュティクの軍隊の、中尉さん」

 

 

 

 そういえば、メインシナリオでリックくんの階級が出たのって初めてかもしれないな。

 

 正確には「中尉相当特任操縦士」であるらしい。ロビーでのNPCとの会話イベントをちゃんと拾っておけば、ワールド3の前半時点で明らかにできる情報だったりする。

 

 本実況だとそこらへん、ほとんど丸ごとすっ飛ばしちゃってるが。

 

「ここ最近、あたしや虎哲と一緒に活動するようになってて……んー、そう、ティルと同じくらい頼りになるわ!」

 

「なるほど、それは心強いですね」

 

 

 

 コックピットの床を数歩進み、ドライ・シックスとリックくんが互いに向かい合う。

 

「よろしくお願いします、リックさん」

 

 目は瞳がなく黒一色。顔全体も濃い赤茶色でマスクめいている。

 

 エウロパ人は総じて紳士的な種族だけど、表情が読みづらいため、彼(彼女?)に限らず、少々取り付く島のない印象がないではない。

 

 

 

「私はドライ・シックス。バーチャル世界内には同郷のものも稀におり、その者も同所属名を名乗るため少々不便があるかもしれませんが、慣例により、ここではドライとお呼びください」

 

 彼らは本来高圧の深海に住んでおり、出身地近くの海底から吹き出す熱水噴出孔の「味」を名字代わりにしているらしい。ドライさんの故郷の水はサワヤカな味わいなんだろうか?

 

 間違いなく硫化水素や重金属まみれの超高熱湯だから、生身の人間が飲んだら味以前にまず死ぬと思うけども。

 

「エウロパ本国では統率者の位にありました。……もっとも、今では名ばかりの立場ではあります。先行き定かならぬ状況ですが、互いに務めを果たしましょう」

 

 

 

 

 

 

 ……にしても。リックくんが原作主要メンバーたるティルと「同じくらい頼りになる」ってのは、ちょっとフカシ入ってるというか、お世辞?

 

 今の発言を事もあろうに原作主人公のユイにさせているあたり、後発の二次創作にしては、少々不遜な感じを覚えなくもないなあ。分際を弁えてないっていうかさ。

 

 

 

 とはいえVWOシナリオの展開だと、たぶんティルよりやや格上のはずのフラウ姉さんに、リックくんはタイマンで勝ってるわけだから。VWO主人公の戦士としての設定上の腕前(ポテンシャル)は、ワールド3クリア時点で、既にティルをいくらか上回ってはいるのかな。

 

 それに今回、虫退治にあたって正面で身体を張ったのが彼だったというのも、ユイ視点だとそこそこ評価ポイントか。

 

 

 

 プレイヤーの手によって果たされたゲームプレイ中の実績と、プレイヤー・キャラクターに対するシナリオ上の評価との結びつき。

 

 今、自分の操作キャラクターは、客観的に見てどの程度のポジションに在るのか?

 

 

 

 断言まではされず。ほんのり匂わせる程度に抑えて示されているってあたりかね。

 

 ちまちま強化を重ねたり、操作に習熟してきたプレイヤーの側として。これはこれで、わりかし溜飲の下がるやり取りなのかもしれないな。

 

 

 

 実際、ワールド1序盤のフォロル基地でのNPC会話から推測する限り、当時はせいぜい一山いくらの一般兵よりはマシ、くらいだったのが。

 

 ここに来るまで、リックくんもずいぶんと強くなったもんだ。佳きかな佳きかな。

 

 

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