恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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アンクル・ドンを前にして

 

 

 白亜紀前期のフォロル基地。中心部からやや西側、面積にして全体の半分ほどを占めているエア・ポートの一角。

 

「ピラル・キラ・ピロム。我らがフォロルの誇る天才科学者、シロク博士の筆頭弟子さ。よろしくね」

 

 ワールド1冒頭に引き続き、フォロル族からの握手を受けているのは他ならぬリックくんだな。相変わらず彼ってか、彼らプグラシュティク文化のローカルっぷりが顕になっている。

 

 

 

 直立二足歩行の結果として、友好を示すにあたって空いた両手を用いるというのは実際大へん合理的だ。

 

 固有文化ってものにも意外と根強さがあるとはいえ。ロジカルな不利と、多勢に無勢。こうも悪条件が重なってしまえば、流石にプグラ側の劣勢は否めないような気がするぞ。

 

たぶんこのまま多種族間交流が続いていくと、プグラ文化における「握手への忌避感」は、若者層を中心として急ピッチで薄れていくんじゃないだろうか。

 

 

 

 ……ともあれ、フォロル軍正規品よりもフレームの頑健さが増している、黄緑色の一品物ヘルメットに。目周りを覆っている勾玉みたいな形の紫毛並みが印象的。

 

 ピラルの体格は『恐竜惑星』レギュラーのフォロル三人衆の中では一等華奢である。その点、純粋な戦士階級のフィラやナオーとは異なり、彼の本職は研究者、ないしエンジニアだってことかと思う。

 

 

 

「リックさんね。フィラから話は聞いてるよ、こないだあった白亜紀末期の大掛かりな作戦のときに、切り込み役を務めたのが君だったんだって?」

 

 と、変にはにかんだような笑みを浮かべる。奥ゆかしさと馴れ馴れしさとのアマルガム。少なくともまぁ、軍人っぽくはない。

 

「その次の、ギラグールとの共同戦線でも華々しい戦果をあげている。あの頃僕は他所に出向いていたり、裏方に回っていたりで、後になって詳細を知ったクチだけれど。バーチャル世界がこんな異常事態に陥っていなかったら、ウチの本国で、報道メディアの引っ張りだこが間違いのない人材ってわけだ。バッチリ頼りにさせていただくよ」

 

 

 

 

 

 

 面通しをこなす彼ら二人のバックには、停泊している一隻の大型航宙艇が映っている。

 

 原作で萌たち主人公チームの母艦として活躍した「ティモシー」よりも二回りほど大型のタイプで、左右に伸びている逆V字型の支え部分が目につく。

 

 

 

 分類としてはフォロル軍の輸送艦だけど、正面下部分の左右に備わった砲門や機銃付きオートマトンなど。一定水準の武装化が図られているのが覗える。

 

 危険地域における、単艦での運用が想定されているってことだろう。

 

 また、高度オートメーション技術が隅々まで張り巡らされており、極論言えば乗員一名だけでも、だいたい75%程度の性能が発揮できるよう設計されているんだそうだ。

 

「カーン総司令から、事前に編成についての大まかな通達があったと思う。今回の遊撃チームの作戦行動にあたり、コイツの運用は僕がメインで行くことになってる。大型機械の扱いに関しては自信があるからお任せあれ。快適な船旅を約束するよ。……もっとも、僕たちのチームリーダーは、ギラグールのお偉いさんのあの女性(ひと)だけどね」

 

 

 

 精鋭部隊の総員は現在8名。『恐竜惑星』、『ジーンダイバー』両作品のネームドキャラクターの多くが並び、その中で一番身分というか階級の高いユキちゃんがトップに立つ。

 

 彼女はジュラ紀のギラグール基地の総司令、つまり最高責任者であり、おまけに次期第一疾走者の有力候補にも挙がっている。そんな女性がこんなに腰が軽くていいのだろうかという気もするが、まぁ、どこまで上り詰めようと彼女は現場の人間だってことなのかねえ。

 

 

 

 現場主義自体はギラグール文化的に尊ばれてそうな感じはする。ただし、事務方がそのぶん死んでる気配も大いにあるな。

 

 

 

「フィラとナオーは、さっきから積み込みの力仕事にかかずらってる。ギラグールのハルは基地の資材エリアで搬入機材の調整中。サブリーダー格のオフィサー・ドライと、プグラシュティクの女騎士どのは既にもう中にいるよ。各人に個室の割り当てがあるから、持ち込み予定の私物も含めて、君のぶんは自分でチェックしておいてね。それから、霊長人類の女の子と、探査メカの……ええっと、なんだったっけな。カンタロウだっけ?」

 

 なんか、北風が吹きすさびそうな名前が出てきた。苦笑いを浮かべるリックくん。いつものリアクションで訂正らしき意思表示。

 

 

 

 ちなみに、霊長人類ってのはヒトのことだな。フォロルやギラグールが、状況によっては便宜的にそう呼ぶこともあるみたいだ。

 

 『恐竜惑星』劇中で用いられる哺乳人類呼びだと、他種族との兼ね合いで、ゲーム内だと紛らわしいこともあるからな。

 

 命名法則に従って推測するなら、プグラシュティクは齧歯人類、エウロパ人はケイ素生命人類。ギガントは霊長亜人類、もしくは大霊長人類ってとこだろうが、ヒト以外は正規の呼称があるから、そんなふうに呼ばれることはまぁ無い。VWO公式サイトや、ゲーム内の用語辞典にも確か記載はなかったと思う。

 

 

 

「ああ、そう、それそれ。ゲンゴロウだ。そっちはこの後、後部格納庫に積み込みの手はずになってるよ。いざってときには機体ごと即応ジーン・ダイブが可能っていう融通性を活かして、積載機として頑張ってもらう予定なんだが、ちょっとスケジュールが遅れ気味。ちょっと前に向こうさんのオペレーターがオーバーヒート起こしたのを引きずってて、まだいくらか、調子が悪い状態みたいだね。……しっかし、どうも彼女たち霊長人類のメカや機材は、名前を覚えづらくって困るなあ」

 

 不満げな顔つきをしつつ。他方、「そうした事実関係」につき、しっかり興味を抱いているふうをも匂わせてくる。

 

「おたくらプグラシュティクとか、エウロパ人とか、そっちは言語の基礎構造自体が、我々フォロルとは根本から異なっている。そのぶん一種の記号として扱ってしまえるおかげで、単語レベルだと、あんがい間違いは起こりづらいんだけど。そのへんと比べると、霊長人類、その中でもとりわけ萌たちの言葉は、ところどころ僕たちの普段遣いの言葉と相通じるところがあって。しかし、互いに相違がたくさん見られるのもまた確かな事実でもあって」

 

 などと、語り始めるピラルだった。メカ関係だけじゃなく、なんていうか、人文学じみた話題ついても一家言あるんだろうかな。

 

「とにかく、意外と取り扱いが難しいんだよねえ。近いがゆえの遠さっていうかさ? ……もちろん、メリットだっていっぱいありはする。例えば、ウチのマシンで霊長人類語をコンピュータ解析する上でのイージーさは明白だし、機械翻訳を噛ませたときに、ニュアンスのすれ違いを大幅意訳でゴリ押しせざるを得ない箇所も少なくて済む。おかげで、異種族にも関わらず意思疎通が極めてスムーズ。相互理解にあたってのトラブル発生率は、他所よりも格段に下がるってわけだ」

 

 

 

 

 

 

 リックくんがまたもや身振り手振りを返す。

 

 彼がピラルの好奇心にどのほどのリスペクトを抱いているかはさておいて。とりあえず、初対面の人間に対する社交能力にソツがない方であることは、ここに来るまでのシナリオ全般からして明らかではある。

 

「うん、おっしゃるとおり。……いやあ、打てば響いてくれるのは嬉しいな」

 

 そんなふうに、前のめりになって食いついてくる。

 

 おそらくピラルは、上役兼師匠筋のシロク博士も含めて、大学か、半官半民の研究機関(ラボ)あたりからの出向組なんだろう。基本的に軍隊においては場違いな人間なわけだった。この手のおしゃべりにいちいち応えてくれるお相手が、現状近くに居ないんだろうかねえ。

 

 

 

 フィラか、ファルンくらい? でも、どっちもこの基地だとわりと忙しい部類だし、二人ともスルースキルが高そうだからなあ。

 

 無理やり話題に巻き込んでみても。ある程度の閾値を越えた時点で、それ以上はまた別の機会にとでも、キッパリお断りを食らわされるイメージがある。

 

「実はね、本国における最近の研究だと、我らフォロル族の独自言語と、萌たちの言葉、要するに霊長人類の特定言語体系との間には、深いところで類縁関係があるんじゃないかって説が、かなりの熱を帯びているんだ。僕たちフォロルの民は、普段遣いの共通フォロル語の他にも、原フォロル語とでも言うべき『神聖語』という言語を持っているんだが。より古い言葉であるはずなのに、発話に用いられる[母音]の数が5つしかないのが特異な点だった。共通フォロル語の母音数が、概ね6つであるにも関わらず」

 

 

 

 リックくんから軽く相槌が入る。引き続き、相手のうんちく語りに、彼自身しっかりついて行っているようだ。

 

 リックくんも設定的には軍属である。その立場から素直に考えると、ピラルに対する扱いはフォロル基地の他の面々と似た感じになるはず。画面上でここまで律儀に付き合われると、微妙に違和感を覚えなくもない。

 

 

 

 ただまぁ……VWO主人公各人って。ただの軍人だと言い切ると些かならず語弊のある、かなり毛色の異なった立場に身を置いている人間なのだった。

 

 そうした固有のポジションに基づく必然性の一環として、ある種のインテリ属性の持ち主でもあったりする。別にリックくんがピラルのことをヨイショしたいってんじゃなく。純粋に、彼個人としても、この度の話題に興味津々でいるんだろう。

 

 

 

「……そう。そうなんだ。普通なら古い言葉の方が、母音の数が多くなりがちなんだよね。書き言葉の普及などの諸事情により、時代を下るごとに、システムが整理されて次第に音の幅が狭くなっていく。他のフォロルのローカル言語や、ギラグールの言語は事実そうした道のりを辿ったようだし、聞くところによると、他種族の言葉も、プグラシュティク(そちら)も含めて、過去においては似たような系譜を経てきたらしい。しかし神聖語、そしてそれに連なる共通フォロル語だけは話が異なり、逆に母音の数が6、ことによっては7つに増えていた時代区分すらあったりする。この逆転現象は、僕たちフォロル族の言語学における、最大の謎のひとつとされてきたんだ」

 

 

 

「そこに来て、突如としてハイパー・バーチャル・システム経由で浮上してきたのが、我々恐竜人類とは異なる分岐世界で高度文明化を遂げた異人種たち。その中でもとりわけ霊長人類の存在さ。フェリロ……レイって名前の、僕たちの遠いご先祖様がいてね? そのレイと、霊長人類の女の子たる萌との間に、一定期間にわたって深い交流が持たれたという古フォロル学的事実がある。なかなかタイム・パラドックスめいた話ではあるものの、この件については、僕やフィラなんかも、現場に居合わせた当事者のひとりだったりするんだな。つまり、古フォロル学的でありながら、リアルタイムなファクトでもあって、事実関係としてはビックリするくらいに堅固なんだよ」

 

 

 

 内容的には、そのまんま『恐竜惑星』のメインストーリーのことだねえ。主人公の萌と、フォロル族の先祖たるレイとの出会いは初めも初めの第二話だった。

 

 バーチャル世界におけるフォロルとギラグールの種族間戦争に巻き込まれ、タイムホールでジュラ紀の北アメリカに飛ばされたレイ。

 

 彼がたまたま――というのは幾ら何でも偶然すぎるから、おそらくヒトと恐竜人類が同時並行的にバーチャル世界へアクセスしたことによる何らかの影響があったんだと思うが――その場に居合わせた萌に拾われ、シナリオのほぼ全編を通して、長らく行動を共にした。

 

 

 

 はっきりとした時系列はボカされているけれど。彼女との交流がレイの人格形成に多大な影響を与え、結果として、フォロルという種族全体に対する根源的な変化をもたらしたことはまず間違いない。

 

 

 

「霊長人類は、現状、彼らの現実世界においてかなり退っ引きならない状況下に置かれているらしい。そのせいで未だに、両文明間における本格的な文化交流を持つ機会が設けられていないのは残念なところ」

 

 テレゾンビがどうたら。フレーバー上、只今ヒト文明は瀕死のたぬき。アポカリプスなう。

 

「ともあれ、彼らの言語の中でも、萌とその一族が用いている言葉の母音数は5つ。音素パターン(a-i-u-e-o)も神聖語とほぼ同一。それ以外にも、(モーラ)単位の分割が容易な[アクセント言語]であることなど、様々神聖語や共通フォロル語との相似点が見られ、両言語の何らかの関連性につき、存在の疑いがいよいよ強まってきている、というわけ」

 

 

 

「今ではこの話は、言語学的な研究に留まらず、宗教分野にも飛び火していてね? 我らフォロル族に知恵と言葉を授けたとされる異形の女性神、マエ神と、霊長人類の女の子、すなわち萌とのダイレクトな関連性が仮説として提起され、おまけに、神祇会――ウチの宗教組織の元締めにあたる――の連中が口伝として受け継ぎ秘匿しているより古いタイプの言語体系、いわば『古代神聖語』は、通常の神聖語よりも更に萌たちの言葉に近いらしいという、実しやかな噂があるんだ。宗教的権威の例に漏れず、秘密主義なきらいのある彼らはまだ実態を公にしていないけれど……古代神聖語と、萌たちの言葉は、せいぜい方言程度の差異しかなく、ちょっと無理をすれば会話が通じるレベルにあるとも言われてる」

 

 文化ミステリーの種明かし。ピラルの語り口もだんだん勢いを増している。

 

「霊長人類の存在が公になったときの宗教界隈はまさしく大わらわといったふうで、信心の薄い外野の人間としては、なかなかあれはケッサクだった。驚天動地、周章狼狽、右往左往。その挙げ句、神祇会関係者のなかには、『古き神の末裔たる霊長人類の苦境を前に、我々フォロル族からも援軍を派遣し、積極的に助勢するべきだ』みたいな血気盛んな意見をブチあげ、軍の防人巣に精力的に働きかける愉快な行動派まで現れる始末で――」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「――おっと、時間が押してるね。ちょっと盛り上がりすぎちゃったかな? ゴメンね、この手のことを話せる相手って、あんまり、この基地には居なくってさ。それじゃ遅まきながら、ティモシーⅡこと、我らが母艦たる『アンクル・ドン』の内部をご案内させていただくとしよう……ん?」

 

 今のタイミングで、おそらくインカムを経由して何がしか通信が入ったんだろう。

 

 ピラルは首をかしげると。自前のヘルメットのイヤーマフ部分に、注意を向けた。

 

 

 

「……そうだった、そうだった。そっちとも繋ぎを取っといてもらわないといけないんだ、すっかり忘れてた」

 

 突っ立ったままでのおしゃべりタイムを切り上げ、いきなりどこぞへの応答を呟く。

 

 続いて、右サイドのイヤーマフに手のひらを添え、ボタンらしき複数の小さなでっぱりを、一定のリズムと順序で操作する。すると途端に、ノイズのような音が微かに周囲へと漏れだす。

 

「拡声モードにしたから、これで目の前の彼にも聞こえるはずだよ。ただし、僕の耳元が起点なんで、あんまりがなり立てるようなことはしないでくれよ?」

 

 

 

『……オッケー。ありがとう』

 

 ピラルのヘルメットの側面から、ちょっとしゃがれたような、独特の声が聞こえてくる。

 

『オホン。あー、あー、只今マイクのテスト中。……はじめまして、リックさん。こちら、バーチャル・ステーションのアッケラ缶です』

 

 

 

 画面右上にいつもの遠隔セリフ用ウィンドウが開き。同じくその横には、話し手の胸から上のポートレートが表示される。

 

 肖像としての風体は、空き缶のような灰色の円形から飛び出している、ディフォルメされたビビッドグリーンの亀の頭、といったところか。

 

 

 

 缶切りで雑に開けたようなフタ状の八角形を後ろに背負い、顔の右側にはシンプルな赤色のインカムを装備。二つの目玉は飛び出すどころか、顔から離れて微妙に宙に浮かび上がっている。

 

 目玉と同じく、空き缶部分の周りには分離気味の両手、両足。それから足下には、隅に小さなトゲの生えた八角形の台座がある(実は彼の本体はこの薄黄色い台座で、身体全体は単なる投影されたホログラムに過ぎないという設定があるそうだ)んだが、ポートレートの枠からハミ出しているため、そこまでは画面上に描画されていない。

 

 

 

 表示ネーム、アッケラ缶。『恐竜惑星』におけるヒト文明の現実側、バーチャル・ステーションのAIオペレーターだな。

 

 

 

 アッケラ缶の挨拶に、リックくんからもレスポンス。いつもの動作で手短にだ。

 

『はァい、こちらこそよろしく。ボク、本来は哺乳人類……じゃないや、さっきピラルが言ってた霊長人類の拠点のひとつで、オペレーターをやらせて貰ってる人工知能でね』

 

 人の良さそうな笑顔がポートレートに映っている。例によってCGはひどく荒いが、総じて親しみを持てるタイプのビジュアルかと思う。

 

『今は処理能力に制限があるから使えない機能も多いんだケド、外部オペレートのスキルを活かして、遊撃チームのサポートを受け持つことになってるんだ。任務の際には、一緒させてもらうことも多いと思うな。あとでこっちと直接つながる超時空通信の周波数を送っておくから、リンクしといてねェ~』

 

 頷くリックくん。……お察しのとおり、今後の解説役は当面アッケラ缶が務めるというわけだった。

 

 

 

 虎哲同様、彼の身分はバーチャル・システムの正規オペレーターである。古生物についての要所要所の解説や、道中のナビゲートをこなしてくれるのもこれまでと変わらない。このゲームお馴染みのプレイアビリティが、ワールド5でも同じように続いていくってことになる。

 

 

 

 

 

 

 ただまー、正直なところ。VWOにおける案内役として、アッケラ缶は虎哲に比べて、イマイチ頼りなく見える場面が目立つ。

 

 恐竜以外の古生物への説明内容がアヤフヤだったり。切羽詰まったシーンで慌てるばかりで、マトモな助言をほとんど寄越してくれなかったり。

 

 ヘタすると、オペレーターとしてのお役立ち度合いは、職員見習いのはずのアキラ以下かもしれない。

 

 

 

 メディア・タワー所属、バーチャル・ステーションの正規職員にあるまじき描写だ。ゲーム内で不当に貶められていると言われても、仕方のないレベルにある気がする。

 

 もうちょっと優秀なところを見せてくれても良いんじゃないかって、自分としても思わんでもない。

 

 

 

 とはいえ……それこそが原作再現なんだと力説されると、まぁそうなっちゃうよねと納得せざるを得なくもあるんだが。

 

 

 

 

 

 

 『恐竜惑星』全60話のストーリーを通して。アッケラ缶の口から、「ボクにも分からないよ」ってセリフを、いったい何回聞かされたことか?

 

 正直は美徳ではあるだろう。それに、マザー・コンピューターの暴走――実態としてはバーチャル世界が『多元宇宙の交差点』と化したことによる、ステーション側からのコントロール能力の実質的喪失――という不慮の事態で、変に誤魔化されるよりはマシだったという見方もあろう。

 

 

 

 しかしだねえ。バーチャル世界という人の手の及ばない大自然に放り込まれる側に立ってみると、業務上分からんことだらけのAIオペレーターに命を預けるってのは、相当ヤバいギャンブルだというのは異論を待たない。ってか、施設の安全基準はどーなってんだ?

 

 

 

 マザーの暴走云々を忘れたとしても、安全性への配慮不足は否が応でも見て取れる。

 

 当時のヒト種の自衛用装備は、はっきり言って恐ろしいレベルで貧弱だったのだ。

 

 タイム・ブースターが導入され、萌がマトモな戦闘能力を備えたのは原作後半である第二部に入ってから。それまでは現地調達で有りモノ(ギラグールの『接触式球形スタンガン』とか、フォロルの『ブラスター・ガン』とか)を振り回して、何とかかんとか頑張っていた。

 

 

 

 『ジーンダイバー』のメディア・ステーションの人員には標準搭載されている緊急時用のバリアがない。護身用のバンパイアーもない。

 

 タイム・ホールもイマイチ即応性が弱く、ジーン・ダイブと比べると明白に取り回しで劣っている。

 

 近隣半径5km圏内に別のタイム・ホールの発生履歴があった場合、三時間のクールタイムを設けないと、危なくて使えたもんじゃないというオマケ付きである。

 

 

 

 つまり、そこら中に恐竜が闊歩する野生全開の中生代を、ほとんど丸腰のまま彷徨いていたという驚愕の事実。10歳そこそこの女の子がだ。

 

 良くぞアレで最後まで生きていられたもんだよなあ。ストーリー前半の第一部に限っても、100人が彼女と同じことやったら97~8人くらいは道中で恐竜のエサになってたんじゃないか? 誰か止めろよマジで。

 

 

 

 

 

 

 ……一応、フォローも入れておくか。設定上、バーチャル・ステーションって、『ジーンダイバー』のメディア・ステーションより10年くらい前の施設なわけだ。

 

 手を変え、品を変えながら。[ムーアの法則]は今なお死ぬ死ぬ詐欺をやっている。この界隈でのワン・ジェネレーションがあまりにもデカいのは、もはや常識。

 

 

 

 したがって、アッケラ缶というソフト面での問題というよりか。純粋に、ハードウェア部分でのボトルネックが、彼の足をすこぶる引っ張っていたんじゃないか? と思う。

 

 

 

 もちろん「それだけがすべて」ってわけじゃあないんだけれど。中枢プロセッサーやメモリのスペック差が、機械学習プログラムの性能を定義する傾向性は相当に大きい。

 

 また、アッケラ缶の上役にあたる大人連中。バーチャル・ステーションにおける実体持ち(・・・・)正規職員が丸ごと全滅していて、本来あるべきバックアップが皆無という組織事情も絡んでくる。

 

 

 

 悪条件が重なり、それを覆せる裁量権もなかった。まさしく悲惨の一言と言うべき状況下においても。劇中の彼は、ベストとは言えないまでも、恐らくベターを尽くしていた。

 

 そうした意味で、一AIソフトたるアッケラ缶の名誉は、しっかり守られるべきだろう。

 

 

 

 ……いやまぁ、だからって、後方支援なしでアッケラ缶オンリーのオペレートを受けたいかっていうと、謹んでご遠慮願いたいところではあるけども。あんなもん、残機が幾つ在っても絶対足らんぞ。

 

 

 

 

 

 

『ところでね、リックさん。ちょぉッと話が変わるんだけど……』

 

 などと、当のアッケラ缶が話題を露骨に切り替える。

 

 業務連絡もそこそこにシフトさせてくるあたり。向こうさんの心情的には、むしろこっちが本命だった感じがあるな?

 

『各時代で活躍しているっていうあなたに、改めて聞いておきたいんだ。二十歳くらいの霊長人類の女性を、バーチャル世界内のどこかで見かけたことって、なかったかな? 背丈やや高めで、茶色がかった髪の毛を編み込んだハーフアップにしてて、肌の色は薄めの、黄色人種系。わりとハキハキ話すタイプの、魅力的な女の子なんだケド』

 

 ちょっと考えるそぶりをして見せた後、左右に首を振るリックくん。このゲームのプレイヤーとしても、ここに来るまで見覚えはない。

 

 プレイヤー目線じゃなくメタ的に考えると、余裕でアタリが付くお相手だろう。原作主人公のひとりは今現在行方知れず、だそうだ。

 

『そっかァ……。ありがとう。いったいどの時代の何処に飛ばされちゃったんだろうなあ、萌ちゃん……』

 

 

 

バーチャル・ステーション(そっち)でもまだ捕捉できてないのかい? 萌」

 

 ピラルも会話に割り込んでくる。彼にとっても種族違いの友人のことだからねえ。心配そうな様子が見て取れる。

 

『うん、そうなんだよ』

 

 ポートレートのア缶顔が、不安そうな表情を作る。

 

『どうも、相当厄介な局所性エラーにハマりこんじゃってるみたいなんだ。バーチャル世界側の現地時間でもう半月近く経ってる。バイタル管理はギラグールの基地で引き続き行われているし、萌ちゃんはツトムのやつと違って機転が利くタイプだから、そこまで危険な状況にはなってないとは思うんだけど……』

 

「転送先で起こってたフラクタライズ・エラーが変わり種で、現在進行系で通信能力が遮断されちゃってるから、時代と場所の特定ができてないって状況だっけ。相変わらず?」

 

 アッケラ缶が、うんうんって感じに、にょっきり伸びた首を縦に振ってみせる。

 

『ハルから貰った萌ちゃんのバイタル・データの推移を見ると、定期的に休息と、おそらく戦闘行動とを繰り返してるって感じでね。こんなパターン、これまでボクは見たことないよ。エラー発生期間の長さも、秘匿性の高さも。今、萌ちゃんのいるモニターの先がどうなってるのか、具体的なところが全然分かんないんだ』

 

 

 

「心配だし、厄介だなあ」

 

 ピラルの言葉を受けて、さっきから向かい合ったままのリックくんも頷いて同意する。ピラルは続ける。

 

「バーチャル世界内で起きているこの現象が何なのかっていうと、未だに仮説以上のものは挙がっていない。それでも、これまで繰り返し形成されているパターンのそれぞれが、かなり硬直的なものだったのは確かだと思う。各時代で局所性フラクタライズ・エラーが発生、時間線上の近場にいる誰かしらが発生地点に飛ばされ、その場で解決を見るとともに元の座標へと戻される。そんな感じに現象がルーチン化しているおかげで、こっちも仕事をマニュアル化できたからこそ。各地における拠点での現状維持を、対処療法的に続けることができていたわけだ」

 

『うん……。だけど、そもそもの前提条件が崩れ始めているのかもしれない、ってことだよね』

 

「ああ。萌の件もそうだし、進化への介入者(スネーカー)の戦闘メカ出現にしても、これまでとは明らかに一線を画する変化だからね。しっかり警戒しておくのに、越したことはないって気がするなあ」

 

『……』

 

「闇の中の手探りってところで。次に突き当たるのが何かだなんて知れたもんじゃない。もしかすると、思いも寄らないようなことが、あるときワッと起こり始めるのかもしれないよ」

 

 

 

 ……なんか、ピラルがやけに不穏なことを言ってるけども。実はこの伏線って、回収されないまま宙ぶらりんになっている気がするんだよなあ。

 

 このゲーム、シナリオ部分に関しては元々がけっこう平坦だ。バーチャル世界の状況は、今後もストーリーの進展とともにだんだん移り変わってゆくわけだけれど、別キャラで一通りクリア済みの自分が記憶する限り、今回ピラルが言う「思いも寄らないこと」とか、「一線を画する変化」に該当するそれっぽいイベントは、これといって思い当たるものがなかったように思う。

 

 AIライターが単なる雰囲気付けとしてこんなことを言わせているのか。それとも、脚本上の帳尻合わせが断念されたせいで、彼の発言がポッカリ浮いてしまうことになったのか?

 

 

 

 自動生成品ってしばしばそういうことをやらかしがちで、おまけに「そう」なのかどうかを識別するためのフックが見つけられないことも多い。

 

 たぶん今回もそのケースだな。従いまして、真相は深き藪の中でありまするよ。

 

 

 

「もちろん、萌の捜索も並行して、率先して行っていくよ。遊撃チームとして、これからあちこちの時代を回ることになるわけだ。『アンクル・ドン』に積まれてる時空間センサーの検知能力も一級品だし、バーチャル世界内で人探しをするにあたって、僕たちのチームがもっとも適任なのは、疑問の余地がないだろうからね」

 

『ありがとう、ピラル。リックさんもありがとう。他所様の施設と比べると、バーチャル・ステーションの処理能力ってそこまで高いほうじゃないから、ボクの側だと、正直手詰まりだったんだ』

 

 そう言うアッケラ缶に対し、ピラルとリックくんがそれぞれ微笑み、片手を軽く挙げて応えてみせる。

 

『公私混同気味で申し訳ないけど……萌ちゃんのこと、よろしくお願いします。ボクの方でサポートできることがあれば、何だってさせてもらうから』

 

 

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